Push


2009年11月8日(日)「PUSH 光と闇の能力者」

PUSH・2009・加/英/米・1時間51分

日本語字幕:丸ゴシック体下、種市穣二/シネスコ・サイズ(マスク、Super 35、with Panavision)/ドルビーデジタル、dts

(英12A指定)

公式サイト
http://www.push-movie.jp/
(音に注意。入ると画面極大化。全国の劇場案内もあり)

10年前、念動力を持つ超能力者「ムーバー」の父(ジョエル・グレッチ)は命をかけて、息子のニック(コリン・フォード)を政府の組織ディビジョンから逃がす。追い詰めたのはディビジョンの心を操る超能力者「プッシャー」ヘンリー・カーバー(ジャイモン・フンスー)。父の最後の言葉は「将来、花を持った少女が訪ねてきたら、彼女を助けろ」というものだった。10年後、ディビジョンから強力な「プッシャー」の娘キラ(カミーラ・ベル)が、超能力の能力を高める薬の入ったスーツ・ケースを持って脱走する。その頃、香港に逃れていたニック(クリス・エヴァンス)は、「ムーバー」としての力をうまく使えないまま、ギャンブルで6,000ドルの借金を抱えて暮らしていた。ある日、ディビジョンの匂いから過去を読み取ることができる「スニファー」が現れ、あやうく連れ去られそうになる。からくも逃れたニックの目の前に、13歳の未来予知能力者「ウォッチャー」の少女、キャシー(ダコタ・ファニング)が現れ、600万ドル稼がないかという。ディビジョンからスーツ・ケースを持って逃げたキラを探し出して欲しいと言うのだ。

73点

1つ前へ一覧へ次へ
 一言で言えば、これは映画版「HEROES/ヒーローズ」。サブ・タイトルが「光と闇の能力者」となっているが、善と悪の戦いというのとは違い、やはり「HEROES/ヒーローズ」の組織側と彼らから逃れようとする側という関係。同じ超能力ものでも「ナイト・ウォッチ/Nochnoi Dozor」(Nochnoi Dozor・2004・露)系とは違う。ちょっとTVドラマの「4400」と似ているところもある。

 話は良くできていて、能力者同士が、いかにより優れた相手の裏をかくか、そして能力者同士がいかに能力を駆使して戦うかを、スリリングに描いている。しかも、未来を読める者「ウォッチャー」や、匂いから過去を読み取る者「スニファー」がいるため、すぐに自分たちの場所や考えが読まれてしまう。どう包囲網を逃れるのか。

 おかげで話はかなり複雑だ。しかも心に偽情報を送り込んで操ってしまう「プッシャー」もいるため、重要人物の話すことが真実なのか偽情報なのかわからなくなってしまう。ここが面白いのだが、ちょっとわかりにくい部分でもある。

 舞台が「ブレードランナー」(Blade Runner・1982・米/香)を地でいくような、混沌を極める香港、しかも裕福ではない地区というのが面白い味を出している。中国語と英語が飛び交う。この世界観も実に良い。超音波か何かを発して物を壊したり人を殺す中国人兄弟が恐ろしかった。大声で絶叫し、目がハ虫類のようになる。

 ただ、感情部分がいまひとつ伝わってこない。だいたい追いつ追われつのアクションがメインで、復讐とか怨念とかのタネは織り込まれているのだが、ほとんど掘り下げていない。主人公とヒロインの恋愛もほとんど描かれていない。そのためラストで主人公を信じるかどうかの部分で感情が動かされない。まあ、それがうまくどんでん返しで効いてくるのだが……。

 それと、カメラを動かしすぎ。シネスコ・サイズだから、動きが何倍にも強調される。酔うじゃないか。

 主演はちょっとダメな二枚目という感じの、クリス・エヴァンス。タフさをだすためか無精ヒゲを伸ばしている。注目されたのは香港でリメイクもされた「セルラー」(Cellular・2004・米/独)だろう。チャラチャラした若者が、女性を助けようと奮闘する姿がなんとも良かった。その後、残念だったSFアクション「ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]」(Fantastic Four・2005・米/独)を経て、スカーレット・ヨハンソンの「私がクマにキレた理由」(The Nanny Diaries・2007・)でハーバード大生を好演。キアヌー・リーヴスのポリス・アクション「フェイクシティ ある男のルール」(Street Kings・2008・米)ではハード・アクションもいけることを証明した。着実にキャリアを重ねてきているのがわかる。今後も期待だろう。本作ではP228を隠し持っていて、グロックと共に使うが、念力で銃を浮かすシーンでは、どうにもCGに見えて違和感があった(薬莢は出ていたがハンマーがちょっと変な動きも……)。

 ヒロインというか主人公を引っ張っていくウォッチャーの少女キャシーをダコタ・ファニングが演じている。現在15歳らしいが、さすがに大人になった。しかし美しさというかかわいらしさというか、愛らしさはちっとも失われていない。ただあどけなさがなくなった感じ。色気も出てきた。長いむき出しの足を組むときなどハッとさせられる。ときにクールな表情も見せるが、美女ゆえだろう。今後、悪役も演じるようになったら、かなり怖い女も演じられそうだ。美女こそ幽霊になると怖いと言うし。天才子役は途中で壊れてしまうことが多いが、そんなことにならなければいいが。これから公開されるバンパイア映画の続編「ニュー・ムーン/トワイライト・サーガ」にも出ているらしい。

 もう1人のヒロインはキラを演じたカミーラ・ベル。ちょっと垂れ目で、悲しみを内に秘めたような美女だ。母はブラジル人なんだとか。「ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク」(The Lost World: Jurassic Park・1997・米)で、海岸で遊んでいてトカゲのような小さな恐竜に襲われるお金持ちの娘を演じていた少女だ(と思う)。当時11歳。その後、スティーヴン・セガールの「沈黙の陰謀」(The Patriot・1998・米)でセガールの娘役を演じたりしていたが、出来はともかくローランド・エメリッヒの大作「紀元前1万年」(10,000 BC・2008・米)で美しい原始人役で登場したときには、大人になっていて驚いた。当時22歳なんだから当然だが。これまではあまり作品に恵まれなかったから、本作がブレイクのきっかけになるかも。敵の銃を拾って、グロックやウージーをぶっ放している。

 一方、追う側の非情なリーダー、ヘンリー・カーバーを演じたのはジャイモン・フンスー。アフリカ出身の俳優で、「ザ・グリード」(Deep Rising・1998・米)、「グラディエーター」(Gradiator・2000・英/米)などのほか、作品はともかくフンスーが印象的だった「サハラに舞う羽根」(The Four Feathers・2002・米/英)、「アイランド」(The Island・2005・米)、「コンスタンティン」(Constantine・2005・米/独)など大作・有名作に相継いで出演。最も印象に残ったのはレオナルド・ディカプリオの社会派アクション「ブラッド・ダイヤモンド」(Blood Diamond・2006・米/独)。良い役でも悪い役でも、さすがにうまい。使っていたのはハイパワーのフレーム・シルバー・カスタム。

 中華なウォッチャーの娘を演じていたのは、リー・シャオルー。「ラストエンペラー」(The Last Emperor・1987・伊ほか)のジョアン・チェンが初監督した「シュウシュウの季節」(天浴・1998・米)や「about love アバウト・ラブ/関於愛」(About Love・2004・台/中/日)に出ていたらしい。なかなかかわいい顔なのに憎たらしくて、うまい。使っていたのは、PPKのニッケルかと思ったら、もの凄くマイナーでチープなデイビスP380。これは珍しい。

 中華な父は、日本人の山口はるひこ(漢字不明)。主にイタリアのTVで中国人役で活躍していたようだが、最近映画の仕事が多くなり、本作でハリウッド・デビューを果たしたらしい。その息子で超音波のようなものを発する中華な兄弟は、M92シルバーとUSPを使っていた。手下のギャングたちはウージーやマイクロ・ウージー、スコーピオンVz61などを使用。

 組織の特殊部隊はドット・サイト付きのMP5を使用していた。

 難しい脚本をまとめたのは製作総指揮も兼ねるデヴッド・ボーラ。SF系の作品が多いようだが、ほとんど日本劇場公開されていない。TVやマイナーな作品が主で、大作は本作が初めての模様。原作があるのかと思ったらオリジナルのようだ。続編が作られそうな壮大な構成とエンディング。客の入り次第か。

 監督はホール・マクギガン。スコットランド出身で、TVのドキュメンタリーのカメラマンだったらしい。「ギャングスター・ナンバー1」(Gangster No.1・2000・英/独/アイルランド)や「ホワイト・ライズ」(Wicker Park・2004・米)などを手がけたあと、傑作「ラッキーナンバー7」(Lucky Number Slevin・2006・独/米)を監督、実力を世界に知らしめた。新作が2本控えている。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定なので前日に座席を確保。20分前くらいに着いたらまだ開いておらず、ドリンクが持ち込み禁止なのでしようがなくここでコーヒーを買って待っていたら、10分前くらいになって開場。

 最終的に157席の3.5割くらいが埋まった。ほとんどが男性で女性は数人。老若比は6対4くらいで中高年が多かったが、意外と若い人も多い。

 やや暗くなって始まった予告編は……2000年に撮影された実際の記録映像と再現映像で作ったという設定の、ミラ・ジョヴォヴィッチ主演のホラー、上下マスクの「フォース・カインド」は、エクソシストのような印象だったが、どういう話なのかはよくわからなかった。アラスカのノームで起こった事件らしい。怖い。フォース・カインドとは第三種接近遭遇の次の段階らしい。

 近作「幸せのレシピ」(No Reservations・2007・米/豪)がパッとしなかったキャサリン・ゼタ=ジョーンズの最新作、上下マスクの「理想の彼氏」は男のナニーのラブ・コメらしい。どうなんだろう。40歳バツイチ女vs24歳フリーター男。うむむ。

 タランティーノの上下マスク「イングロリアス・バスターズ」は長いージョン。リアル路線なのか、コメディ路線なのか、判然としない。「キル・ビル」(Kill Bill: Vol.1・2003・米)みたいならいいが、「デス・プルーフinグラインドハウス」(Death Proof・2007・米)みたいだと……。

 上下マスクの3Dアニメ「クリスマス・キャロル」は新予告に。写実的にしたければ実写でやればいいし、アニメにしたいのだったらもっと漫画的な絵にすればいいし、とても中途半端な印象。前売り買っちゃったけど、ちょっと不安。


1つ前へ一覧へ次へ