Inglourious Busterds


2009年11月21日(土)「イングロリアス・バスターズ」

INGLOURIOUS BASTERDS・2009・米/独・2時間32分(IMDbでは153分)

日本語字幕:手書き書体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(レンズ、in Panavision)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米R指定、日R15+指定)

公式サイト
http://www.i-basterds.com/
(音に注意。入ると画面極大化。全国の劇場案内もあり)

1941年、ナチス占領下のフランスの農家で、ユダヤ人ハンターとあだ名されるSSのハンス・ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)によって家族を惨殺されたショシャナ(メラニー・ロラン)は、1人からくも脱出に成功する。そのころ、アメリカ軍のアルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)を指揮官とする8名からなる特攻部隊「イングロリアス・バスターズ」が組織された。彼らの使命は民間人に化けてナチを狩り、自分たちがやったという証拠を残すため頭の皮をはぐこと。1944年6月、身元を偽り映画館主となったショシャナは、1人で300人の連合軍兵士を狙撃した戦争の英雄、フレデリック(ダニエル・ブリュール)の眼に止まり、しつこくつきまとわれる。やがて宣伝相ゲッベルス(シルヴェスター・グロート)の企画でフレデリック主演の映画を上映するプレミアム上映を行うことになり、フレデリックはショシャナの劇場を推薦、認められる。それを知ったイギリス軍は、二重スパイのドイツ人女優のハマーシュマルク(ダイアン・クルーガー)と連携を取って劇場を爆破するため、ドイツ映画の研究家ヒコックス中尉(ミヒャエル・ファスベンダー)を潜入させる。「イングロリアス・バスターズ」も協力することになるが……。

74点

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 予告とは違って、「特攻大作戦」(The Dirty Dozen・1967・英/米)系の戦争アクションかと思ったら、むしろスパイ活劇だった。しかも「イングロリアス・バスターズ」というタイトルながら、その部隊がメインというより、プレミアム上映会に関わる人々の群像劇という感じにまとまっている。たぶんわざと予告でミスリーディングをやったのだろう。

 ただ、やはりレトロ志向はあるようで、冒頭のユニバーサルのトレードマークも、地球がバン・アレン帯のようなもので包まれている古いタイプ。クレジットの書体も古い感じで、エンディングのクレジットもロールも使っているが、1枚画面を次々と見せる手法も使っていて、古い。たぶんクエンティン・タランティーノ監督がそんな時代の映画が好きだったということなのだろう。しかも、なぜかマカロニ・ウエスタン調の音楽で始まるし、中盤くらいまでずっとそれを使う。クライマックスのみ昔のハリウッド映画のちょっと大げさな感じのオーケストラの曲という使い方。

 日本でもR15+指定というだけあって、ナイフで切るシーンがリアルで残酷。ちょっと気分が悪くなりそうなギリギリのところ。もちろん銃声は大きくまがまがしい。それもあってかなりハラハラ、ドキドキ。緊張が続くように作られている。この薄氷を踏むような感じが実にうまい。まさに「レザボア・ドッグス」(Reservoir Dogs・1992・米)を彷彿とさせる。笑いもちりばめられているが、ちょっとスパイ・サスペンスから浮いている感じもした。この辺は微妙。グロだけでなく、ちゃんとエロも入れている。

 歴史的事実は無視。おかげで犠牲者も大勢でている割りにスッキリ爽快な後味で終わっている。「ワルキューレ」(Valkyrie・2008・米/独)のように史実に基づき、失敗した話をリアルに語るのもいいが、そればかりでは気が滅入る。たまにはこんな荒唐無稽の、それでいてリアルな話を堪能したい、そういう映画。「ワルキューレ」のカウンターパートか。

 イタリア映画の日本劇場未公開作品「地獄のバスターズ」(The Inglourious Bastareds・1978・伊)などが参考になっているように思わせ、実のところ007のようなスパイ映画を撮りたかったのではないだろうか。そんな気もした。

 クールで強烈な印象を残すSSのハンス・ランダ大佐を演じたのはクリストフ・ヴァルツ。オーストリア生まれの53歳。1970年代からTVを中心に活躍してきたらしく、最近ではケヴィン・スペイシーの「私が愛したギャングスター」(Ordinary Decent Criminal・2000・英ほか)に出ていたらしい。残念ながら日本公開作品は少ない。いい味を出していると思う。もちろん使っていたのはワルサーP38。

 ユダヤ人女性ショシャナを演じた美女はメラニー・ロラン。フランス生まれの26歳。やはり日本公開作品は少ない。使っていたのはワルサーのポケット・ピストルかと思ったら、コルト・ポケットらしい。

 アメリカ軍のアルド・レイン中尉はブラッド・ピット。つい最近「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」(The Curious Case of Benjamine Button・2008・米)に出ていたが、新作も4本以上控えているというからスゴイ。本作ではかなりベタなイヤらしいキャラクターを演じている。腰に大きなボウイ・ナイフを下げていた。

 二重スパイのドイツ人女優、ハマーシュマルクはダイアン・クルーガー。「トロイ」(Troy・2004・米ほか)でブラッド・ピットと共演している。使っていたのはPPK。

 アクセントがおかしいとゲシュタポに指摘されるドイツ映画の研究家ヒコックス中尉はミヒャエル・ファスベンダー。なんとドイツ生まれだそうで、皮肉な役柄。TVの出演が多いようだが、映画では「300〈スリーハンドレッド〉」(300・2006・米)に出ていたらしい。テーブルの下でゲシュタポとハンマーの起きたP38とPPKを向け合い、撃ち合いになるシーンは壮絶だった。あの緊張感と迫力。かなり怖かった。

 そのヒコックス中尉に指令を与える上司はマイク・マイヤーズ。なんだか歳のいった同性愛のオッさんのような印象の役。最新作「The Love Guru」では2008年度のゴールデン・ラズベリー賞を2つ獲得している。本作では笑いを一切排して、真面目な役柄をちょっと曰くありげに演じていた。

 「イングロリアス・バスターズ」のメンバーで、ドイツ人でありながら13人のドイツ人将校を殺したヒューゴ・スティーグリッツはティル・シュヴァイガー。シルベスター・スタローンのカー・レース映画「ドリヴン」(Driven・2001・米ほか)に出ていた。なかなかパンチの効いた面構え。途中MG42を持っていた。

 撃ち合いになる酒場のシーンで、店のマスター、エリックを演じていたのは「ワルキューレ」(Valkyrie・2008・米/独)のクリスチャン・ベルケル。セリフはほとんどないが、カウンターの裏に水平二連ショットガンを持っていて、強い存在感を漂わせていた。この人、いるだけで怖い。

 広告相ゲッベルスの妻を演じたのはフランス生まれで日本在住のジュリー・ドレフュス。タランティーノ作品へは「キル・ビル」(Kill Bill: Vol.1・2003・米)についで2作目。前作では腕を切り落とされたりマゾヒスティックにやられていたが、本作でも唯一のエロ・シーンを担当していて、マゾヒスティックにやられていた。たぶんタランティーノの趣味なんだろう、美女をいたぶりたいという。

 ドイツの英雄スナイパーを演じていたのは、ダニエル・ブリュール。ドイツ人の父を持つスペイン生まれの21歳。ドイツで育ち、現在もドイツに住んでいるらしい。第一次世界大戦感動作「戦場のアリア」(Joyeux Noel・2005・仏/独/英)ではドイツ軍の若き指揮官ホルストマイヤー中尉役でダイアン・クルーガーと共演している。「グッバイ、レーニン!」(Good Bye Lenin!・2003・米)で主役を演じ、「ボーン・アルティメイタム」(Bourne Ultimatum・2007・米)にも出ていたらしい。気弱そうな感じが抜群にうまかった。使っていたピストルはルガーP08。

 「イングロリアス・バスターズ」のメンバーの1人、ドニーを演じていたのはアメリカ生まれのイーライ・ロス。あの酷い超低予算ホラー「キャビン・フィーバー」(Cabin Fever・2002・米)を撮った監督で、それがきっかけで次作の「ホステル」(Hostel・2005・米)シリーズの製作総指揮をタランティーノが手がけることになったというラッキーな人。ただし、どちらも日本ではマイクロ・シアターでの限定公開。役者としては普通の感じだった。 ラストに使ったのは、OSSの秘密兵器、グローブ・ピストル。ヒトラー暗殺のため衛兵を倒すのに使われる。これは珍しい。

 酒場にいた怖いゲシュタポ、ヘルストロムをこわーく演じていたのはアウグスト・ディール。ドイツ生まれで、ベルンハルト作戦を描いた傑作「ヒトラーの贋札」(Die Flscher・2006・墺/独)ではユダヤ人役で出ていた。ねちっこい感じが良かった。P38をハンマーを起こしてテーブルの下で構えているところは恐ろしかった。

 監督・脚本・製作はクエンティン・タランティーノ。「レザボア・ドッグス」、「キル・ビル」、最近では「シン・シティ」(Sin City・2005・米)が面白かったか。どうも金髪美人がお好きなようで、黒髪の美女はいたぶる傾向があるような……。

 ちなみに、ナレーションはクレジットなしのサミュエル・L・ジャクソン。「パルプ・フィクション」(Pulp Fiction・1994・米)や「ジャッキー・ブラウン」(Jackie Brown・1997・米)で一緒に仕事をしている。イギリス首相ウインストン・チャーチルはジョージ・バルの「タイム・マシン」(The Time Machine・1960・米)やヒッチコックの「鳥」(The Birds・1963・米)、「戦争プロフェッショナル」(The Mercenaries・1968・英)のロッド・テイラー。とても同一人物には見えなかった。電話でハンス・ランダ大佐と取り引きをするアメリカ軍のOSSの上官の声は、これまたクレジットなしのハーヴェイ・カイテル。「レザボア・ドッグス」の主演だ。そしてアメリカ軍将校の1人を、スウェーデン生まれで、ハリウッドのB級映画がよく出ていて、「地獄のバスターズ」にも出ていたボー・スヴェンソンが、プレミアム上映会のドイツ軍将校の1人を「地獄のバスターズ」の監督、エンツォ・G・カステラッリが演じていたらしい。クレジットにゲスト出演があったが、どうもそういう意味らしい。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定なので前日に席を確保しておいて、20分くらい前に到着。15分前くらいに開場となって場内へ。7対3くらいで若い人が意外に多くてビックリ。戦争映画なのに。男女比は6対4くらいで男性が多かったものの、戦争映画にしては女性も多かった。見て後悔したかもしれない。

 上映が始まってもまだ入ってくる人がいたので、正確なところはわからなかったが、最終的に287席に6割くらいの入りか。まあまあというところ。面白くなかったら、全額返金なんていうのはやらなくてもいのではないだろうか。作品をバカにしている気がする。

 予告編の前にDIESELの万華鏡のようなビデオクリップが流れたが、あれってファッション・ブランドのDIESELのCMだったのね。お金がかかっている。長いし。気になった予告編は、絵がスゴイ、ダニエル・デイ=ルイスのミュージカル上下マスクの「NINE」。絵に圧倒される。

 イーストウッドの新作は南アフリカのネルソン・マンデラを描いた上下マスクの「インビクタス」。モーガン・フリーマン、マット・デイモンという顔合わせ。ラグビーのワールド・カップが中心となるらしい。予告だけでも感動的。公式サイトはないがアップルのサイトで予告が見られる。

 スクリーンが左右に広がってシネスコ・サイズになり、「パブリック・エネミーズ」の新予告。絵がキレイ。BARやトンプソン、撃ちまくり。たしか木のピストルで脱獄するんだったような。一瞬チラリと見えたライフルはウインチェスターのM1895かレミントンのM8かM81か。


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