Higanjima


2010年1月10日(日)「彼岸島」

2009・日/韓(ミコット・エンド・バサラ/ミシガン・ベンチャー・キャピタル/キングレコード/プロダクション尾木/Yahoo JAPAN/クラゼピクチャーズ)・2時間02分

シネスコ・サイズ(マスク、Super 35)/ドルビー・デジタル

(日PG12指定)

公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/higanjima/
(音に注意、全国の劇場案内もあり)

優等生の兄アツシ(渡辺大)が失踪して2年、弟の高校生アキラ(石黒英雄)は、ツッパリのケン(弓削智久)、弓道部のユキ(瀧本美織)、科学が得意な西山(足立理)、ムードメーカーの巨漢加藤(半田昌也)、いじめられっ子のポン(森脇史登)らとつるんで学生生活を楽しんでいた。ところがある日、アキラは不良グループから言いがかりをつけられて追われる羽目に。それを助けたのは謎の女青山レイ(水川あさみ)。レイはアツシが生きてある所にいるという。詳しい話を聞くため、翌日、仲間たちとレイに会いに行くと、吸血鬼ライキが襲いかかってくる。

71点

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 アクション満載で、スピード感あふれるスケールの大きな吸血鬼映画。この点ではずば抜けて良い。ただ、ストーリーの展開が強引過ぎて、感情移入も出来ないまま、映画が進むに連れて気持ちが離れて行き、見終わってもほとんど何も心に残らない。ジェットコースター・ムービーといえばまさにその通りだろう。原作は300回を超える連載漫画だそうだから、緻密に描いて行けるところをわずか122分にまとめたため、こういう納得のいかない展開になったのだろう。どうにも腑に堕ちないというか、付いて行けない。ここが残念。あとはかなり良いのに……。

 それと、恐くない。吸血鬼の恐さはほとんど皆無。ただモンスターと高校生たちが闘うだけ。それがスゴイのだけれど。しかも、原作を読んでいないボクには展開が想像を超え、ヴァンパイヤーものとは思えない「エイリアン2」(Aliens・1986・米)のエイリアン・クィーンようなモンスターまで! まさにハリウッド的な展開。これは面白い。原作から切り取る部分をもっと少なくして、じっくり描いていたらスゴイ作品になっていたのでは。最初はホラー調で恐く、それからハラハラドキドキの吸血鬼映画になって、ラストはモンスターが登場してハリウッド調モンスター・スペクタクルになってくれれば……。本作や「マッハ!弐」(ONG BAK 2・2008・タイ)を見ると、アクションでストーリーを語るにはいかに難しいかが良くわかる。

 前振りとして、グループのリーダー的存在の斉藤ケンは金属バットを持って行くし、紅一点のユキは弓道部で弓を持って行くし、科学の得意な西山は手投げ弾を披露しているのにもかかわらず、彼岸島に行ってからはただあたふたと逃げ回るばかり。主人公のアキラとケンとユキの三角関係も振りはあるのに、そのままほったらかし。そして観客がすでにわかっていることを、セリフでくどくどと説明される。うーむ。人間サイドの兄が「詮索はするな」って、まったく理解できない会話。すでに行くとこまで行ってるのに。

 帰りがけ、「バイオハザード」(Resident Evil・2002・英/独/米)みたいだったよねという女子の声も。ボクにはエイリアン・クィーン的だったし、また「グエムル 漢江の怪物」(The Host・2006・韓)のようでもあり、最近公開されたチャンバラ吸血鬼映画「ラスト・ブラッド」(Blood: The Last Vampire・2009・香/日/仏/アルゼンチン)のようでもあった。そしてもちろん「ヴァン・ヘルシング」(Van Helsing・2004・米/チェコ)の影響も濃く見られた。空飛ぶ婆さまのコウモリの雰囲気はそっくり。日本映画では「バトル・ロワイアル」(2000・日)的でもあった。

 原作は「週刊ヤングマガジン」(講談社)に連載中の松本光司の同名人気漫画。原作を読んでいないのでわからないが、たぶん漫画はもっと恐いのではないかという気がした。本作は映画としてアクションにフォーカスしたらしい。

 主役のアキラを演じたのはジュノン・スーパーボーイ・コンテスト、グランプリの石黒英雄。ちょっとトンがった感じが役にピッタリ。TVの「仮面ライダー電王」や「ごくせん」に出ていたらしい。映画では「ごくせんTHE MOVIE」(2009・日)や「携帯彼氏」(2009・日)ということだが、見ていない。

 謎の女、青山レイは水川あさみ。ラブ・シーンも演じているが、さすがにきわどくなる手前まで。ちょっとタカビーな感じが役に合っていた。いまやTVには欠かせない女優だが、映画ではかなり残念な「西遊記」(2007・日)や、「まだまだあぶない刑事」(2005・日)とあまり恵まれていない感じ。大ヒットらしい「のだめカンタービレ最終楽章 前編」(2009・日)もTVの流れだし……。そんな中で本作は映画らしい作品。

 吸血鬼のボス、みやび(雅)は山本耕史。もうちょっと丸顔で、お坊ちゃま風の風貌だった気がしたが、本作では吸血鬼らしくストイックな感じで、美形な顔が冷酷そうに見えてなかなか良かった。どうしてもNHKの大河ドラマ「新撰組」の土方歳三役の印象が強く、正義感あふれる好青年のイメージ。それが吸血鬼のボスとは。

 ちょっと不良っぽいケンを演じたのは弓削智久。あまり見た記憶がないのだが、本作では良い感じ。TV、映画と良く出ているようだ。「サクゴエ」(2007・日)では脚本も書いているらしい。つい最近「今日からヒットマン」(2009・日)にも出ていた。

 原作通りのようだけれど、師匠の能面みたいなお面が素晴らしい。ミステリアスで不気味で恐い感じが何とも言えない。軍医もなかなか不気味だったが、ちょっと行き過ぎの感も。

 ほかはあまり印象に残らなかった。ただ、アキラの兄があまり強そうに見えなかったのは残念。もう少しマッチョというか、格闘技系のイメージのある方が説得力があったような……。なんだか兄というより同い年の優等生という感じだった。

 脚本は、ちょっと残念だった「MW―ムウ―」(2009・日)の大石哲也。ほかに音で脅かすアクション・ホラー「エクスクロス 魔境伝説」(2007・日)、「DEATH NOTEデスノート」(2006・日)、ケイン・コスギの「マッスルヒート」(2002・日)などを手がけている。どうも、ホラーよりはアクションに向いている人のような気がする。

 監督は韓国のキム・テギュン。ボクは「火山高」(Volcano High・2001・韓)しか見ていないが、テンポ良くぐいぐいと引っ張って行くようなアクションの演出は健在。「火山高」でもチャンバラをやっていた。それでホラーというよりアクション作品に仕上がっているのだろう。日本人監督だったら、恐いものになったかもしれないが、アクションはここまでいかなかったかもしれない。

 やはりロケ・シーンの色の浅さが気になった。スタジオ撮影らしい部分は色が濃く、コントラストもしっかりとして力のある絵なのに残念。

 エンドロールで流れる曲は9mm Parabellum Bulletの「命ノゼンマイ」というそうで、なかなか作品に合っていて、いい感じだった。そして、雅の右腕らしいライキの、青山レイにやられた傷の特殊メイクもなかなかで、説得力があった。

 旧日本軍の基地跡から出てくるのは軍刀、手榴弾、三八式歩兵銃などだが、弾薬がないため銃は使えない。そこでチャンバラになるわけだが、使えた方がもっと面白くなったのではないかという気はする。ますます「バトル・ロワイアル」チックになるが……。

 オープニングとエンディングのクレジットとも韓国語、日本語、英語で表示。オープニングは煙のように現れる赤い文字が白になる演出で、雰囲気充分。担当したのEDPというところらしい。

 アクション監督は齋藤應典。これまでに手がけたのは「フリージア」(2007・日)、「M」(2007・日)、「子猫の涙」(2008・日)、「グーグーだって猫である」(2008・日)などがあるが、どれも見ていないのでわからない。本作でブレイクなのではないだろうか。

 ラスト・シーンからすると、場合によっては続編が作られそう。

 公開2日目の2回め、新宿の劇場は全席指定で、金曜日に確保。20分前くらいに着いて、コーヒーを買って15分前くらいにエスカレーターで移動。10分前くらいに開場。最終的には253席に、予告が始まってからも入ってきていたのでハッキリとはわからないが、たぶん4割りくらいの入り。20代くらいから中高年まで。男女比は8対2くらいで男性の方が多く、老若比は7対3くらいで意外と中高年が多かった。

 明るいまま始まった予告で気になったのは……ナイナイの岡村隆史主演映画「てぃだかんかん」はどうも普通のドラマのようだったが、なぜ岡村なんだろう。公式サイトはまだない模様。

 ほぼ暗くなって3D-CGアニメの、ポップコーンのキャラメル味がどうしたこうしたは、なんだったのだろう。あの解剖人体模型のダンスのように、正体不明の映像か。

 市原隼人の「猿ロック」は、またTVドラマの映画版らしい。結構面白そうだが、絵の感じが色が浅くTVっぽいのが残念。

 上下マスクの「バレンタインデー」は、ジェシカ・アルバ、アシュトン・カッチャー、ジュリア・ロバーツ、アン・ハサウェイ、ジェシカ・ビールらが出演する「ラブ・アクチュアリー」(Love Actually・2003・英/米)のような群像劇らしい。柳の下かなあ。


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