The Hurt Locker


2010年3月7日(日)「ハート・ロッカー」

THE HURT LOCKER・2008・米・2時間11分

日本語字幕:丸ゴシック体下、菊地浩司/ビスタ・サイズ(16mm、HDTV、1.78)/ドルビー・デジタル

(米R指定、日PG12指定)

公式サイト
http://hurtlocker.jp/
(音に注意、全国の劇場案内もあり)

2004年、イラク。アメリカ軍のブラボー中隊の爆発物処理班(EOD)に、爆弾処理中に亡くなったマット・トンプソン二等軍曹(ガイ・ピアース)に替わって新しいリーダーのウィリアム・ジェームズ二等軍曹(ジェレミー・レナー)赴任してくる。チームはほかに、補佐役のJ.T.サンボーン三等軍曹(アンソニー・マッキー)、オーウェン・エルドリッジ特技兵(ブライアン・ジェラティ)がいた。ジェームズは基本的な安全対策や手順を無視して、自ら強引に危険に飛び込んでいくため、ほかのメンバーたちとの間に溝ができて行く。

75点

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 恐い映画。あまりはっきりした起承転結はなく、クリアな主張や、結末があるわけでもない。ただ、イラクに派遣された兵士(基本的に徴兵ではなく、みな志願らしい)の日常をありのままに入れ込み過ぎずに割りと淡々と描いていったという感じ。街の中では誰が敵かもわからず、ほとんど毎日爆弾騒ぎが発生し、敵はもちろん地元の人間や、米軍の仲間たちが傷つき死んでいく。誰が善良な市民で、誰が敵で、誰が自爆犯なのか。命を張ってこの国を守ろうとしているのに、感謝もされず、むしろ憎まれている。自分たちが殺されないためにやることで、意図せず地元民から嫌われることになり、まったく立つ瀬がない状態。観客は爆弾処理班の最前線に立ち合い、こんなやりきれない気持ちに避けられることになる。兵士たちの多くはこんな思いをしているのだろう。いつ自分も敵に撃たれるか、自爆テロに巻き込まれて死ぬかわからない状態。これでは精神を病んでもしようがない。

 映画の最初に出るのは「危険やスリルは麻薬と同じで、戦争も麻薬だ」というような内容の文字。この緊張感。そして臨場感。とても力強い感じで、女性の演出という感じは全くしない、というか男性的な演出。実にうまい。ニュースで自爆テロ事件が良く報道されるから、ますます本当らしく感じられる。みな志願兵とはいえ、必ずしも自分の意思だけで行っている人ばかりではないだろう。家名のためとか、市民権を得るためとか、事情はそれぞれあるだろう。「ストップ・ロス/戦火の逃亡者」(未)(Syop-Loss・2008・米)や「告発のとき」(In the Valley of Elah・2007・米)、「ジャーヘッド」(Jarhead・2005・独/米)、アフガニスタンだが「大いなる陰謀」(Lions for Lambs・2007・米)、そして予告にあった「マイ・ブラザー」など、多くの映画で対テロ戦争が描かれているが、みな悲惨だ。

 ただ、今流行りの手持ちカメラが多過ぎ。見ていて疲れる。それでなくてもずっと緊張を強いられる疲れる設定、演出なのに、カメラが動き過ぎて余計に疲れる。ドキュメンタリー・タッチを出したかったのだろうが、もうPOVは見飽きた。シネスコではなかったので、いくらかは緩和されているものの、使い過ぎ。この手法はうんざり。ここぞというところでのみ、限定的に使って欲しい。

 冒頭、爆弾が爆発して、チーム・リーダーが戦死するが、そのシーンが恐ろしい。カメラに向かって逃げる途中で背後で爆発が起こる。するとスロー・モーションで吹き飛ばされるのだが、一瞬ヘルメットのシールドに血飛沫が飛ぶ(ここだけ通常の速度)。それだけ。後は遺体も、駆け寄るチーム・メイトも写さない。恐い!!

 EODのメンバーが使っていたのはレール付きのM4A1カービン。ドット・サイトを載せ、フラッシュライトと、バーチカル・フォア・グリップも取り付けられていた。ほとんどホコリまみれ。セカンダリーはベレッタM9のはずだが、なぜかジェームズ二等軍曹は丸トリガー・ガードでセフティがスライドにない最初のM92。

 イラク警察が使っていたのは、独特の折りたたみストックを持つ東ドイツのAKM、MPi-KMS-72。そして民間軍事会社(PMC、PMSCs)のオペレーターが使っていたのが、折りたたみストックのレール付きAKMS。

 スナイパー戦では、EODが「ザ・シューター/極大射程」(Shooter・2007・米)でも登場したレオポルドのゴールデン・リング12-40×60mmらしいスポッティング・スコープと、.50口径(12.7mm×99)のバレットM82(映画の中ではバレットと聞こえたが、ベレットという説も。実際にEODの装備品で、アメリカ軍ではM107と呼ぶ)。テロリスト・グループがルーマニアでドラグノフを参考に開発したという7.62mm×54RのFPKスナイパー・ライフル。距離は850mという設定。弾着が非常にリアルで、威力の差も出している。M107は初速850m/秒ほどなので、撃ってから1秒ほどしてから弾着する。グローブはすべて指先だけカットされたもの。撃たれたヤツが予備マガジンを持っていて、血でくっついてジャムするところもゾッとした。

 彼らはカービンに付けたフラッシュライトのことをトーチと呼んでいた。トーチを点けろ、トーチを使うな、トーチを消せ、と言っている。トーチっていわゆる松明(たいまつ)のこと。シャレが効いている。

 帰国すると、妻から朝食のコーン・フレークを選んでくれといわれる。棚には膨大な種類のフレークが並んでいるが、どれを選ぼうと大した違いはない。しかし自分が戦場で選択しなければならなかったことは、命が懸かっていた。1つ間違えば爆発して、自分ばかりか多くの人が死んでしまう。このギャップ。これも恐い。

 有名俳優はゲスト的にちょっと出ているだけ。ドキュメンタリー・タッチを活かしたかったのだろう。前任のチーム・リーダー、マット・トンプソン二等軍曹はガイ・ピアース。最近あまり見かけない気がしたが、「ベッドタイム・ストーリー」(Bedtime Stories・2008・米)で悪役を演じていた。PMCのリーダーを演じていたのは「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」(Harry Potter and the Order of the Phoenix・2007・英/米)レイフ・ファインズ。ウィリアム・ジェームズを誉める上官のリード大佐は悪役が多い「パッセンジャーズ」(Passengers・2008・米/加)のデヴィッド・モース。ウィリアム・ジェームズ二等軍曹の妻コーニーは人気TV「LOST」(LOST・2004〜2010・米)のケイトを演じているエヴァンジェリン・リリー。みんな、ちょっとだけ顔を出したという感じ。友情出演的な。

 主役のウィリアム・ジェームズ二等軍曹を演じたのはジェレミー・レナー。「S.W.A.T.」(S.W.A.T.・2003・米)でS.W.A.T.をクビになって悪に走る男を演じていた人。ゾンビ系ホラー「28週後...」(28 Weeks Later・2007・英/西)でもM4A1カービンを持って兵士を演じていた。「ジェシー・ジェームズの暗殺」(The Assassination of Jesse James by the Coward Robert Ford・2007・米/加)では仲間割れする若い強盗団のメンバーを演じていた。

 補佐役のJ.T.サンボーン三等軍曹を演じたのはアンソニー・マッキー。つい最近「イーグル・アイ」(Eagle Eye・2008・)に出ていたんだとか。ほかにも「ミリオン・ダラー・ベイビー」(Million Dollar Baby・2004・米)や大ヒット作「8 Mile」(8 Mile・2002・米/独)に出ていたらしい。

 オーウェン・エルドリッジ特技兵(スペシャリスト)を演じたのはブライアン・ジェラティ。湾岸戦争の海兵隊の日常を描いた「ジャーヘッド」や、がっかりのレスキュー映画「守護神」(The Guardian・2006・米)に出ていたらしい。

 脚本は製作も兼ねたマーク・ボール。ノンフィクション作家で、「告発のとき」の原案も書いているのだとか。本作は実際にイラクでEODの取材をして書いたらしいが、あれは俺の話だと言っている兵士がいるらしい。

 監督はキャスリン・ビグロー。前はビゲローと言っていた気がするが……。吸血鬼を描いたアクション「ニア・ダーク/月夜の出来事」(Near Dark・1987・米)、女性警官が主役のアクション「ブルースチール」(Blue Steel・1989・米)、銀行強盗を描いたアクション「ハートブルー」(Point Break・1991・日/米)、世紀末を描いたSFアクション「ストレンジ・デイズ」(Strange Days・1995・米)、ソ連の原潜事故の実話を描いた「K-19」(K-19: The Widowmaker・2002・英/独ほか)などを手掛けてきた。だいたいアクションが多い人で、男性のように力強い演出をする人。しばらく新作がなかったが、低予算で復活か。本作でアカデミー賞監督賞を受賞した。

 ちなみに、ハート・ロッカーとは「棺おけ」とか「行きたくない場所」という意味なんだとか。久々にプログラムを買った。

 公開2日目の初回、銀座の劇場は初回のみ全席自由で、60分前くらいに着いたら中高年が2人。55分前に8人ほどになり、50分前で20人ほどになった。ほとんどが中高年で、ほぼ男性。35分前くらいに50人くらいになった。この時点では女性は3〜4人。まあリアルな戦争映画だからなあ。

 50人くらいになったところで窓口が開き、前売り券を当日券と公開して階段下へ。すでに前日に交換した人が10人ほど並んでいた。30分前くらいに開場して場内へ。最終的には30代くらいも増えたが多かったのは中高年。女性は3割りいたかどうか。それでもアカデミー賞ノミネートで小劇場ながら183席はほぼ満席。それにしても、2週間後には新しい作品が掛かるというのは……。

 気になった予告編は……名作50本を選んで上映するという「午前十時の映画祭」は、うーむ六本木ヒルズか……。

 日本映画「フラワーズ」の6大女優って何? 教師が生徒の中から娘を殺した犯人を捜すという「告白」は設定を聞いただけで萎えた。香取慎吾の「座頭市」は、もういいんじゃない? 監督の阪本順治と、豪華配役は気になるけど。「劇場版TRICK霊能者バトルロイヤル」はもうやったネタだし、ちょっと残念な感じも漂い……。リストラの宣告で1年のほとんどを出張し、マイレージをものすごくためている男の「マイレージ、マイライフ」は、面白いんだかよくわからなかった。

 戦争で死んだはずの兄が戻ってくるという上下マスクの「マイ・ブラザー」は予告だけで充分重かった。キャストからも笑顔は予想できないし。がらりと変わってヒット作の続編、上下マスクの「アイアンマン2」は、とにかく絵がカッコいい。スカーレット・ヨハンセンにミッキー・ローク、サミュエル・L・ジャクソンかあ。6/11公開とか。ただ公式サイトには何も情報無し。

 上下マスク、ポール・グリーングラス監督とマット・デイモンの戦争アクション「グリーン・ゾーン」はすごそうな感じ。大量破壊兵器を探すらしい。5/14公開。上下マスク「ダレン・シャン」はハーフ・バンパイアの話だとかで、すでにたくさん描かれてきたので食傷気味だが、原作は640万部の小説だそうで、渡辺謙も出ているしなあ。3/19からなのにやっと予告を見たが……。

 ドルビー・デジタルの都市のデモがあって、本編へ。


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