Nordwand


2010年3月20日(土)「アイガー北壁」

NORDWAND・2008・独/墺/スイス・2時間07分(IMDbでは126分)

日本語字幕:手書き書体下、吉川美奈子/シネスコ・サイズ(マスク、Arriflex、Super 35)/ドルビー・デジタル(新マーク)

(スイス12指定)

公式サイト
http://www.hokuheki.com/
(全国の劇場案内もあり)

1935年、誰も成功していないアルプスのアイガー北壁に挑戦したドイツ隊が遭難して隊員が死亡。スイス政府は登頂禁止した。しかし翌1936年、ベルリン・オリンピック開催直前、ナチス政府はアイガー北壁から登頂したものに、金メダルを授与すると公表。イタリア、フランス、オーストリア、など世界各国の登山チームが集まる中、ドイツは山岳猟兵だったトニー・クルツ(ベンノ・フュルマン)とアンディ・ヒンターシュトイサー(フロリアン・ルーカス)の2人が、上官の許可が出なかったため兵士を辞め、個人として2人で挑むことにする。ベルリン新聞社の女性新人記者ルイーゼ・フェルナー(ヨハンナ・ヴォカレク)は、上司のヘンリー・アーラウ(ウルリッヒ・トゥクール)と共に取材のため、アイガー北壁が見えるホテルへ向かう。7月18日土曜の深夜2時、ドイツ隊は登攀を開始する。すると、共に熱心なナチス党員というオーストリア隊の2人、ヴィリー・アンゲラー(ジーモン・シュヴァルツ)とエディ・ライナー(ゲオルク・フリードリヒ)も少し遅れて後を追う。

75点

1つ前へ一覧へ次へ
 良い映画だと思うが、いかんせん、成功しなかった挑戦談は気持ちが落ち込み、暗くなってしまう。わずかのちょっとした判断ミスというか、誤差のようなものが、結果に大きな影響をもたらしてしまうという恐ろしさ。実話であるからこそ、重い。この事件があってこその後の成功があるのだろうし、この悲劇的苦闘を描くこともとても重要なことだと思うが、エンターテインメントとしては、この事件にも触れつつ、後の成功談の方にして欲しかった。

 映画を見る限りは、非常に無謀な登山のように思える。ベテランということだが、シロートのボクから見ても登山の計画はずさんというかノー・プランに近く、装備のチェックが甘い印象。しかも当時の装備は非常に粗末な感じ。手袋なんて短くて、しかも毛糸編みのミトンのような感じだし、複葉機のパイロットがしていたような金属フレームのゴーグルで、ザイル(ロープ)は麻縄をよったような頼りないものだし、寝袋なんかもキャンバス地みたいな感じだったし……。夏とは言えこれで3,970mの高山に挑むなんて。しかも、これは映画の演出なのだろうが、ゴーグルは頭の上で顔がほとんど露出されたままなんて。マフラーのようなもので顔を覆うとかあっても良さそうに思ってしまった。

 この映画を見ていると、なぜそこまでして山に登るのかと思ってしまう。誰もやっていないことをやりたいとか、国のためとか名誉とか、いろいろあるのだろうが、まさにそこに山が有るからというのがもっともふさわしいような印象。そして、この無謀な挑戦を率先して行うのがドイツ人であり、登山用語にドイツ語が多いのもうなずける気がした。ザイル(ロープ)、ハーケン(くさび)、カラビナ、アイゼン(スパイク状のすべり止め)、ピッケル、リュックサック、ヤッケ、シュラフ(ザック、寝袋)、ビバーク(野営)……などなど。あらためて多いことに感心した。

 標高2,060mのアイガー北壁が一望できるところにホテルがあり、金持ち達がユングフラウ鉄道でここにやってきて、クライネシャイデック展望台から望遠鏡で登山者達を見物する。新聞記者たちもそこにおり、優雅な高見の見物客たちと、現場で苦闘する登山者達を対比して見せていく。この鉄道は1912年に開通したらしい。

 どうもヨーロッパというたくさんの国が集まる土地柄、吹替版を作ることが多いからか、音声は吹替のようで、どうにもリアリティがない。どこか不自然で臨場感がない。ドイツ語はわからないのだが、それものめり込む障害になっていたかもしれない。

 トニー・クルツを演じたのはベンノ・フュルマン。ドイツ生まれで、ハリウッド作品にも出ている。どこかで見た顔だなあと思ったら、ウォシャウスキーのガッカリ映画「スピード・レーサー」(Speed Racer・2008・米/豪/独)に出ていたらしい。ちょっと前だとヒース・レジャーが出た残念なホラー「悪霊喰」(The Order・2003・米/独)や、ダイアン・クルーガーが出た感動戦争秘話「戦場のアリア」(Joyeux Noel・2005・仏/独/英ほか)でドイツ軍人の徴兵されたテノール歌手を演じていた。つい最近、小劇場で公開された「ミュータント・クロニクルズ」(Mutant Chronicles・2008・米)にも出ていたのだとか。

 相棒のアンディ・ヒンターシュトイサー役はフロリアン・ルーカス。ドイツで大ヒットしたという東西ドイツ統一を描く「グッバイ、レーニン」(Good Bye Lenin!・2003・独)に出ていたそう。日本ではあまり知られていない。1人で勝手に後先良く考えずに突っ走るタイプを好演。いかにもいそうな感じ゛良く出ていた。

 2人の幼なじみで新人記者ルイーゼ・フェルナーを演じたのは、ヨハンナ・ヴォカレク。やっぱりどこかで見た印象があるなあと思ったら、ドイツ赤軍の誕生から崩壊を描いた「バーダー・マインホフ 理想の果てに」(Der Baader Meinhof Komlex・2008・独/仏/チェコ)で活動家の1人を演じいていた。まったく感じが違って、「バーダー……」では過激派の活動家でキツイ感じだったが、本作ではむしろおっとりしたお嬢様といった感じ。まるで別人のよう。さすが女優。

 新聞社の上司ヘンリー・アーラウを演じたのはウルリッヒ・トゥクール。スティーヴン・ソダバーグのガッカリの名作リメイクSF「ソラリス」(Solaris・2002・米)に出ていたらしい。その後、アカデミー賞外国語映画賞を受賞した「善き人のためのソナタ」(Das Leben der Anderen・2006・独)に出て、本作に至るらしい。男と上司という立場を利用して新人を翻弄する感じがなんとも嫌らしくてうまかった。

 脚本も手掛けた監督はフィリップ・シュテルツェル。舞台美術からデザイナーを経てミュージック・ビデオやCMの演出を手掛け、TVそしてビデオから映画に至ったらしい。日本劇場公開はないもよう。

 それにしても、時代を反映して、とにかくよく煙草を吸う。そう言えばオープニングも灰皿からだった。山へ行ってまで吸うかねと。煙草を吸うとニコチンによって血管が収縮するので血行が悪くなり、結果として体温が下がる。それでも寒い山で吸いたいのだから、やっぱり中毒ということだろう。ただ、火が近くにあることで、心理的に暖まったような気になることは確か。気持ちも落ち着く気がするし。それほど煙草の害が取りざたされない時代だったのが良くわかる。タバコは○に凹のようなマークのものだったが、銘柄は何だったろうか。ドイツというとゲルベゾルテかダビドフくらいしか知らない。

 冒頭、スイスのガイドたちが言う、「また命知らずが鉄道でやってきて、棺で帰る」と。これがこの映画を象徴している。この2年後の1938年、本作とは反対にオーストリア隊とそれを追ったドイツ隊が途中から一緒に協力してアイガー北壁を制覇、頂上に立ったという。本作の事件の犠牲者のことも忘れてはならないが、この直前にも失敗しているわけだし、映画としては成功話の方を見たかった。

 公開初日の初回、新宿の劇場は全席指定なので、時間を割き電車賃をかけて前日に座席を確保。当日は20分前くらいに到着。15分前になっても案内がないので、エスカレーターで劇場のある階へ行ったらすでに開場していた。関係者らしい4〜5人が気になったが、とりあえず客層は中高年というより高齢者寄りで、若い人たちも少々。女性は3割りほどいたろうか。最終的には253席に3.5割りくらいの入り。このエンディングではこんな感じではないだろうか。ドッと増えるとも思えない。

 気になった予告は……まあ、とにかくタイトルが最後の最後に1回しか出ないんで、覚えられない……邦画はどれも興味を惹かなかった。上下少しマスクの「アーマード」は、装甲トラックのようなもので現金1,200万ドルを運ぶ話で、それを強奪すると。くせ者がたくさん出ているし、「クラッシュ」(Crash・2004・米/独)以来、久々にマット・ディロンを見た気がする。


1つ前へ一覧へ次へ