Nine


2010年3月21日(日)「NINE」

NINE・2009・米/伊・1時間52分(IMDbでは118分)

日本語字幕:手書き書体下、石田泰子/シネスコ・サイズ(マスク、Arri、 Panavison、Super 35)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS(IMDbではドルビーSRも)

(米PG-13指定)

公式サイト
http://nine-9.jp/
(音に注意、全国の劇場案内もあり)

1965年イタリア、チネチッタ撮影所で、マエスロと呼ばれる映画監督のグイド・コンティーニ(ダニエル・デイ=ルイス)は、9作目の作品の原稿が1行も書けずに悩んでいた。すでに製作は進行しており、記者会見も予定されていた。すっかり自信を失ったグイドは、ベテラン衣装デザイナーのリリー(ジュディ・ディンチ)におだてられ、ウソをついてこいと送り出される。しかし、記者会見から抜け出したグイドは、田舎町のホテルに部屋を取ると、すでに周知となっている愛人のカルラ(ペネロペ・クルス)を呼ぶ。ところが、プロデューサーのダンテ(リッキー・トニャッツィ)に居所を知られ、映画の進行を心配したリリーによって妻のルイザ(マリオン・コティヤール)が呼ばれ鉢合わせすることに。

71点

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 ミュージカルは悲惨なストーリーを明るい曲やダンスで彩ったりすることが多いものだが、本作は、実にありふれた卑近な話題をテーマにしている。映画の製作というバック・ステージものの味付けはしてあるものの、自分で解決するしかないのに、まったく解決しようとせず逃げ回るだけの話。最後にテーブルをひっくり返すと。これはかなり退屈で、しかもうんざりする。豪華な外見だが、タダのスケベな男の不倫しまくり話じゃないか。これがマエストロと呼ばれるような映画監督でなかったら、実にちんけな話。つまり一般的なイタリア人のイメージ、マザー・コンプレックスで女好き。1人で歩いている女性を見かけたら絶対に声をかける、という男のお話。

 主人公のグイドはフェデリコ・フェリーニの自伝的作品「8 1/2」(8 1/2・1963・伊/仏)の主人公の名前で、本作のモデルになってるのはフェデリコ・フェリーニ監督らしいが、それを良く知っていれば、もう少しストーリーを楽しめるのかもしれない。同じような手法、現実と空想の世界が交錯するのも似ている。ただストーリーは納得できないし面白くもなく退屈。

 とは言え、配役は豪華だし、ダンスや曲は抜群の素晴らしさ。見せかたもうまい。カラーとモノクロの使い方、想像の世界と現実の世界、思い出と現実、そんな対比がみごと。美しい女優の方々も、意外なほどうまい。プロの歌手のよう。感情の伝えかたがうまいということだろうか。

 1982年にトニー賞5部門を受賞したブロードウェイ・ミュージカルの映画化だそうだが、映画には向かなかったのかもしれない。舞台なら、豪華な歌と踊りがメインでストーリーはそれのつなぎという感じでも成立するが、映画だとリアリティが重要になってくるため、いきなりミュージカル・シーンでは違和感があり過ぎる。むしろつなぎのストーリーの方がメインになるというか。このストーリーだと楽しめない。

 曲はみな素晴らしい。このCDは買いかもしれない。特に良かったのは、ケイト・ハドソンが歌う「シネマ・イタリアーノ」、ファーギー(ステイシー・ファーガソン)が子供たちに向かって歌う「ビー・イタリアン」の2曲。しかしイタリア人になれって! やっぱりスケベってこと(浅い)?ただ、イタリアが舞台で、イタリアの話で、

 主役の映画監督のグイド・コンティーニを演じたのはダニエル・デイ=ルイス。確かに自分が原因で悩みそうな感じがした。イギリス生まれなのに、イタリア訛りの英語でイタリア人っぽく見えた。さすがオスカー2度受賞の常連俳優。主演男優賞を受賞した「マイ・レフトフット」(My Left Foot: The Story of Christy Brown・1989・アイルランド/英)や、同じく主演男優賞「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(There Will Be Blood・2007・米)は有名だが、いずれもアート系小劇場でしか掛からないような作品。ボク的には「ラスト・オブ・モヒカン」(The Last of the Mohicans・1992・米)が抜群に良かったなあ。歌う曲は「グイドズ・ソング」「アイ・キャント・メイク・ジス・ムービー」。

 母的存在の衣装デザイナー、リリーはジュディ・デンチ。「恋に落ちたシェイクスピア」(Shakespeare in Love・1998・米/英)でアカデミー助演女優賞を取ったが、やっぱり「007」シリーズのMの役のイメージが強い。1934年生まれというから76歳。でも本作でも「フォーリー・ベルジェール」を歌っている。

 グイドの正妻ルイザはマリオン・コティヤール。とても美人で、本作でもとても魅力的に撮られていた。フランス生まれで、「TAXi」(Taxi・1998・仏)で注目された人。「エディット・ピアフ〜愛の賛歌〜」(La mome・2007・仏/英/チェコ)でアカデミー主演女優賞受賞。つい最近「パブリック・エネミーズ」(Public Enemies・2009・米)でおしっこを漏らす役を熱演していた。歌っているのは「テイク・イット・オール」。

 愛人のカルラはペネロペ・クルス。かなり色っぽくてかなりヤバい役だが、実に妖艶に演じていた。「ハモンハモン」(Jamon, Jamon・1992・西)のデビューから活躍を続けている女優さんで、つい最近「抱擁のかけら」(Los abrazos rotos・2009・西)に出ていたようだが見ていない。おとなしそうで、実は凄いという感じがピッタリの人。「ア・コール・フロム・ザ・バチカン」を歌っている。

 ママ役はイタリアを代表するような大女優、ソフィア・ローレン。1934年生まれというから76歳。とてもそうは見えなかった。ただ、首のところに年齢が出ているのか、スカーフを巻いて隠していたようだが。それ以外は往年のイメージを失っていない。ハリウッド作品にもよく出ていて、「エル・シド」(El Cid・1961・伊/米/英)、「ローマ帝国の滅亡」(Tha Fall of the Roman Empire・1964・米)などアンソニー・マン作品が多い感じも。一番有名なのは「ひまわり」(I girasoli・1970・伊/仏/ソ)かもしれない。ボクの年代だと「カサンドラ・クロス」(The Cassandra Crossing・1976・米/独/伊)や「ブラス・ターゲット」(Brass Target・1978・米)あたり。特別出演というわけではなく、バリバリの現役。歌っているのは「グアルダ・ラ・ルーナ」。

 スター女優クラウディアを演じたのはニコール・キッドマン。じわーっと恐いホラー「アザーズ」(The Others・2001・米/西ほか)もよかったが、B級的巻き込まれ映画「バースデイ・ガール」(Berthday Girl・2001・英/米)、傑作「コールド・マウンテン」(Cold Mountain・2003・米)、最近では大作「オーストラリア」(Australia・2008・豪/米/英)が良かった。歌う曲は「アンユージュアル・ウェイ」。

 ヴォーグ誌の記者カテファニーを演じたのはケイト・ハドソン。女優ゴールディ・ホーンの娘で、「あの頃ペニー・レインと」(Almost Famous・2000・米)でブレイク。母親のようにラブ・コメが似合う人で、「10日間で男を上手にフル方法」(How to Lose a Guy in 10 Days・2003・米/独)なんか良かったが、最近は日本劇場未公開が多く、久々の作品でちょっと期待した「フールズ・ゴールド/カリブ海に沈んだ恋の宝石」(Fool's Gold・2008・米)は小劇場での限定公開。久々の作品で見たら、太ったかと思ったら、ヘア・スタイルのせいか顔が太って見えただけで、スタイルは抜群。なにしろまだ31歳。歌がうまいのに驚いた。「シネマ・イタリアーノ」を歌っている。

 映画版の脚本はアンソニー・ミンゲラとマイケル・トルキン。アンソニー・ミンゲラは映画監督でもアあり「イングリッシュ・ペイシェント」(The English Patient・1996・米/英)や「コールド・マウンテン」を手掛けている。ちょっとねじれた愛は得意ジャンル。しかし2008年、54歳で急逝。本作はアンソニー・ミンゲラに捧げられている。マイケル・トルキンはハリウッドの内幕を描いた「ザ・プレーヤー」(The Player・1992・米)や彗星が地球に衝突する?なパニック・ムービー「ディープ・インバクト」(Deep Impact・1998・米)、バカな男たちの物語「チェンジング・レーン」(Changing Lanes・2002・米)などを手掛けている。うーん……。

 監督はロブ・マーシャル。TVミュージカルの振付師から監督になり、デビュー作はミュージカル「シカゴ」(Chicago・2002・米/独)で、傑作「SAYURI」(Memories of a Geisha・2005・米)を経て本作へ。どれも愛がテーマなのかもしれない。

 公開3日目の2回目、新宿の劇場は全席指定で、金曜日に確保。20分前くらいに着いたら、15分前くらいに開場。客層は20代くらいから中高年まで幅広かったが、メインは若い女性。しかも2/3は女性だった。予告が始まっても続々と入ってきていたが、最終的には1番大きな607席の劇場がほぼ満席となった。時間的なものもあるだろうが、これはすごい。驚いた。確かに曲と踊りは凄い。劇場で見る価値がある。

 気になった予告は……小栗旬が監督したという「ジュアリー・サムデイ」は、バカで最強だったオレたちを取り戻すという青春映画らしい。銃まで出てきて、一体どんな作品になるのか、興味が湧く。夏公開とか。「BECK」は予告では内容不明で、上下マスクの「レイルウェイズ」は「ALWAYS三丁目の夕日」(2005・日)みたいでどうなんだろう。

 どうにも美女に見えないサラ・ジェシカ・パーカー主演の人気TVドラマ映画化第2弾「セックス・アンド・ザ・シティ2」が6/4に公開されるらしい。オジサンにはどこが良いのか良くわからない。

 それほどヒットしたとは思えないのにシリーズ第2作「アーサーと魔王マルタザールの逆襲」が公開されるのだとか。日本語吹替版での予告。4/29公開。今度はほとんど3D-CGがメインになっていて、実写はあまりない感じ。完全に子供向けならいいのかも。

 スクリーンが左右に広がってシネスコ・サイズになってからリュック・ベッソンの「アデル」の予告。怪鳥と勇敢な女性が戦うらしい。内容は良くわからなかったが、7/3公開。でもリュック・ベッソンってもう監督しないんじゃなかったっけ?

 世界滅亡後、ショットガンを背負ったデンゼン・ワシントンが世界最後の本を運ぶという「ザ・ウォーカー」は、「マッドマックス」みたいだが、なかなかのアクションで見たい気がした。


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