Shelter


2010年3月28日(日)「シェルター」

SHELTER・2009(IMDbでは2010年)・米・1時間52分(IMDbでは独版112分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(マスク、Arri)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米R指定、日PG12指定)

公式サイト
http://www.shelter-movie.jp/index.html
(音に注意、全国の劇場案内もあり)

精神分析医のカーラ(ジュリアンロ・ムーア)は多重人格症否定派。夫を殺され幼い娘、サミー(ブルックリン・ブルー)を時々ミュージシャンの弟ステファン(ネイト・コードリー)に預けながら育ててきた。ある日、同じ精神科医で多重人格肯定派の父ハーディング(ジェフリー・デマン)から、珍しい患者が来たので、診察してみろという。その患者の男は3日前、倒れているところを発見され、その症状から専門家である父のもとへ送られてきたという。男(ジョナサン・リス・マイヤーズ)は車いすで診察室にやって来てアダムと名乗った。ところが、父が電話をかけてデヴィッドと話したいというと、突然首を後ろへ折りのけ反ると、顔つきも話しかたも完全に変わり、しかも赤色が見えない人にしか見えないように書かれた文字を易々と読んでしまう。多重人格を装った嘘だとにらんだカーラは、デヴィッドの過去を調べるため、卒業した高校のアルバムを調べると、まったく別人であることが判明する。そこでアダムのことを調べると、奇妙なことが判明する。

75点

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 恐い。じわじわと恐さが込み上げてきて、ラストのバトルはもうドキドキ。久々に謎解きの物語の面白さにのめり込んだ。初めは多重人格症否定派の精神科医vs多重人格の犯罪者という構図。この犯罪者は本当の多重人格なのか、それとも天才的に頭の良い犯罪者で多重人格を装っているだけなのか。まずそこを見せる。ここも興味深くて面白い。

 ところが、調べていくうち、どうも事情が変わってくる。もっと深い秘密が隠されているらしいことがわかり、とんでもない展開に。こう来たか。前半がリアルで、理論的に科学的に丁寧に描かれているだけに、後半が信じられないようなことになっても、付いて行ける。

 前半の細かなエピソードが後半で効いてくる。殺された者に共通することとは何か、そして過去に何があったのか。うまい。脚本もうまいし、演出もうまい。いつも曇りのようなどんよりとした空気感もいいし、父を失った娘と母親、同じ精神分析医なのに立場の違う父と娘、そして人格が次々と変わる謎の男、といったキャラクター設定もみごとで、それぞれの演技も素晴らしい。

 おそらくキリスト教徒はもっと恐いだろう。幽霊とは違う悪魔の恐ろしさ。この恐さはアメリカなら日本人の比ではないだろう。そして、この衝撃的エンディング。恐ろしい。ここだけは賛否両論あると思う。普通だったら、愛に免じて能力者がからくも助けてくれたりするものだが、きっぱり「助けられない」と言い放ってしまうのだ。驚いた。両手を上げて降参するとは。

 精神分析医のカーラを演じたのはジュリアン・ムーア。1960年生まれというからもう50歳。さすが女優、とてもそんなには見えない。確かに医師っぽく見える人で、過去にも何回か医師を演じている。多くの話題作に出ているが、強く印象に残っている作品だと「ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク」(The lost World: Jurassic Park・1997・米)や、シリーズ2作目の「ハンニバル」(Hannibal・2001・英/米)のFBI捜査官クラリス役、憂鬱なSF「ブラインドネス」(Blindness・2008・加/伯/日)の主役など。ドラマからアクション、何でもこなす人。どちらかというと強い女の役が多いだろうか。

 完全に人が変わってしまう男を演じたのはジョナサン・リス・マイヤーズ。時間軸バラバラのアクション・ミステリー「テッセラクト」(The Tesseract・2003・日/タイ/英)で主役のイギリス青年を演じていた人。最近では「奇跡のシンフォニー」(August Rush・2007・米)でフレディ・ハイモアの別れたお父さんを演じていた。とにかく、うまい。渾身の演技。全く別人に見える。

 カーラの父ハーディングを演じたのはジェフリー・デマン。脇役に欠かせない感じの人で、傑作「ショーシャンクの空に」(The Shawshank Redemption・1994・米)や同じスティーヴン・キング原作の感動作「グリーンマイル」(The Green Mile・1999・米)、最近では実話に基づいたミステリー「ハリウッドランド」(Hollywoodland・2006・米)や、残念だったスティーヴン・キング原作SFホラー「ミスト」(The Mist・2007・米)に出ていた。

 かわいい娘、サミーを演じたのはブルックリン・ブルー。「きみがぼくを見つけた日」(The Time Traveler's Wife・2009・米)でヒロインの6〜8歳を演じた美少女。

 絶妙な脚本を仕上げたのは、マイケル・クルーニー。なんと、あの傑作「“アイデンティティー”」(Identity・2003・米)の緻密な脚本を書いた人。なるほど、納得。この人の次作も期待できるかもしれない。

 監督はともにスウェーデン出身のマンス・マーリンドとビヨルン・ステインの2人。TVで成功を収め、2人で共同監督した日本劇場未公開のSFサスペンス・アクション「ジェネシス」(Storm・2005・スウェーデン)が高く評価され、本作に至ったらしい。これは新作も期待していいかも。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に座席を確保。20分前くらいに着いて、ロビーで待っていると12〜13分前に開場。15人くらいいたなか、女性は5人ほどで、若い人も5人くらい。あとは中高年のオヤジ。最終的には149席に3〜3.5割りくらいの入り。出来が良いのに、この入りは少ないのでは。もっと入っても良いと思うけどなあ。

 気になった予告は……うーん、ないなあ。日本映画なんか予告だけで憂鬱になるものだったし、うんざりの感じ。やれやれ。こんなのを本編の前に見るとテンションが落ちる。


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