The Wolfman


2010年4月24日(土)「ウルフマン」

THE WOLFMAN・2010・英/米・1時間42分(IMDbでは103分、ディレクターズ・カット版119分)

日本語字幕:手書き書体下、林 完治/ビスタ・サイズ(with Panavision、Super 35)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米R指定、日R15+指定)

公式サイト
http://wolfman-movie.jp/
(音に注意、全国の劇場案内もあり)

1891年、イギリスの片田舎ブラックムーアでベン・タルボット(サイモン・メレルズ)が惨殺される。ベンのフィアンセ、グエン・コンリフ(エミリー・ブラント)は家を出てロンドンで役者をやっている兄のローレンス・タルボット(ベニチオ・デル・トロ)に調べて欲しいと手紙を書く。地元でタルボット城と呼ばれるお屋敷に戻ったローレンスは、久しぶりに父のジョン・タルボット(アンソニー・ホプキンス)と再会するが、屋敷は荒れ放題となり凋落は明らかだった。さっそく独自の調査に乗り出すローレンスに、父は満月の夜は出歩くなと忠告する。しかし弟を殺されたローレンスは先を焦り、夜ジプシーたちのキャンプへ聞き込みに行ってしまう。そこに大型の獣が現れ、キャンプは修羅場と化す。そしてローレンスは肩口を噛まれ重傷を負う。

73点

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 ユニバーサル・ピクチャーズの「フランケイシュタイン(Frankenstein・1931・米)や「魔人ドラキュラ」(Dracula・1931・米)などの往年の恐怖モンスター・シリーズを彷彿とさせる作品。実際、ユニバーサルの人気シリーズ「狼男」(The Wolf Man・1941・米)のリメイクらしい。つまり現代の最新技術でリアルに蘇らせたということ。

 だから、冒頭のユニバーサルのロゴからしてちょっとモノトーン調。クラシカルな雰囲気ぷんぷん。全体のカラーのトーンも抑え気味になっている。音楽も重厚で、ちょっと大げさな感じがするほど。ただ、音きっかけで鳥が飛んだりぬっと顔が出たり、音で脅す傾向があるのは、王道とは言えいただけない。全体としては、リアル描写というか、腕が飛んだり臓物がこぼれたりしてグロテスクさはかなりアップしている。そして、変身シークエンスは説得力があり、圧倒的で恐い。

 ただ、変身シークエンスはリアルで高度になったが、伝統的スタイルも守ろうとしているため、変身途中は4つ足のけもの系になるのに、変身終りが往年の2足歩行系の「狼男」なため、つじつまが合わない。ちぐはぐ。しかも2足歩行系はどこか顔に愛嬌があって、狸系の顔でコミカル。特に鼻がカワイイ。緊張感なし。恐くない。誰かわからなくなるが、おなじリック・ベイカーが手掛けたマイケル・ジャクソンの「スリラー」(1983)のミュージック・クリップの方が恐かった。おそらく監督の方針だったのだろう。本作の方が演じている俳優の顔もわかりやすいし。しかし、結果的にその選択は間違っていた気がする。4つ足で走っている時と、2足で立ち上がった時とで体形が違うんだもんなあ……。

 配役も素晴らしいし、技術的にも優れているが、どちらが面白いかといえば、やっぱりオリジナル版の「狼男」の方ということになる。「狼男」の方が制約が多い分、それをカバーする工夫が多く凝らされていて。それが恐さや面白さにつながっている。やたら手が飛んだり、頭が飛んだり、腸がはみ出たりすると、恐いよりも気持ち悪いが立ってくる。言い古されたことだが、結局本作でもそれが繰り返されている。ホラーがスプラッターになっている。

 犠牲者であるローレンス・タルボットを演じたのはベニチオ・デル・トロ。なんと製作も兼ねている。ということは作品の出来はこの人の責任でもある。2部作のチェ・ゲバラの伝記的映画でも製作をやっていたが、どうなんだろう。ボク的にはアクション作「誘拐犯」(The Way of Gun・2000・米)がよかったなあ。ちなみに狼男は普通の弾丸では殺せない。銀の弾を使うしかない。劇中で何度もシルバー・ブレットが出てくる。

 父のジョン・タルボットはアンソニー・ホプキンス。1960年代から活躍している大ベテランだが、「羊たちの沈黙」(The Silence of the Lambs・1991・米)のハンニバル・レクターは強烈だった。古い作品でも面白いものが多いが、比較的最近で言うとアラスカでのサバイバルを描いたアクション「ザ・ワイルド」(The Edge・1997・米)、悪魔のラブ・ロマンス「ジョー・ブラックをよろしく」(Meet Joe Black・1998・米)、心温まるドラマ「アトランティスのこころ」(Hearts in Atlantis・2001・米/豪)、実話の映画化「世界最速のインディアン」(The World's Fstest Indian・2005・ニュージーランドほか)などが良かった。さすが名優、うまいなあ。使っていた銃は貴族らしく高そうな水平二連の有鶏頭ショットガン、そしてレバー・アクションのウィンチェスターM1895。

 ヒロインのグエン・コンリフはエミリー・ブラント。美人だし、うまいけれど存在感がちょっと薄かった。注目されたのは「プラダを着た悪魔」(The Devil Wears Prada・2006・米)の秘書役で、TVドラマのような小作品「サンシャイン・クリーニング」(Sunshine Cleaning・2008・米)でもいい味を出していた。「ヴィクトリア女王 世紀の愛」(The Young Victoria・2009・英/米)が良かったらしいが、見ていない。これからアクションやSFなどにもでて欲しい。どこまでできるか。

 悪役かと思ったら、ちょっと冷血だがイイモンだったアバライン警部はヒューゴ・ウィーヴィング。「マトリックス」(The Matrix・1999・米/豪)シリーズのエイジェント・スミスは強烈で、あとは「ロード・オブ・ザ・リング」(The Lord of the Rings: The Fellowship of the Ring・2001・ニュージーランド/米)も有名だが、出演者が多すぎて印象は薄い。エイジェント・スミスを超えられるかが課題かも。使っていた銃はウェブリー・リボルバー。

 ジプシーの占い師マレーバを演じたのはジェラルディン・チャップリン。あのチャーリー・チャップリンの娘で、さすがに今年67歳で老けたなあという感じ。なので役にピッタリ。不気味な感じも出ていた。最近では「ブラッドレイン」(BloodRayne・2005・米/独)で見たが、作品が酷すぎてかわいそうなほど。

 ジプシー役で、特殊メイクの大御所、リック・ベイカーが出演もしている。猿にこだわっていた人で、「グレイストーク」(Greystoke: The Legend of Tarzan, Lord of the Apes・1984・英)なんか凄かった。変身シークエンスにも力を入れていて、それが話題になった「ハウリング」(The Howling・1981・米)、「狼男アメリカン」(An American Wearwolf in London・1981・英/米)、マイケル・ジャクソンの「スリラー」(Thriller・1983・米)などを手掛けている。本作はそれらの集大成か。ただ、二足歩行版と四足歩行版のギャップは、本人としては納得できていないのではないだろうか。

 脚本はアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーとデヴィッド・セルフの2人。アンドリューは恐ろしいものが得意のようで、プラッド・ピットの後味の悪い「セブン」(Se7en・1995・米)やニコラス・ケイジの「8mm」(8MM・1999・米/独)、「スリーピー・ホロー」(Sleepy Hollw・1999・米/独)を手掛けている。デヴィッドは残念なホラー「ホーンティング」(The Haunting・1999・米)、キューバ危機を描いた傑作「13デイズ」(Thirteen Days・2000・米)、トム・ハンクスのギャング映画「ロード・トゥ・パーディション」(Road to Perdition・2002・米)などを手掛けている。

 監督はジョー・ジョンストン。特殊効果マンから監督になった人で、監督初期はいまひとつだったが、「遠い空の向こうに」(October Sky・1999・米)からブレイク。「ジュラシック・パークIII」(Jurassic Park III・2001・米)、「オーシャン・オブ・ファイヤー」(Hidalgo・2004・米)となかなか良い作品が続いていたが、ここまでか。期待していたのに。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、前日に確保しておいて30分前くらいにコーヒーを買って行ってロビーで待つ。10分前くらいに開場になって場内へ。20代くらいから中高年までいたが、メインは中高年。女性はおばさんが目立っていた。1/3くらいいただろうか。

 本編が始まってからも入って来ていたのでよくわからないが、最終的には157席の1/3くらいだったような気がする。ちょっと話題性が低かったかも。

 気になった予告篇は……リュック・ベッソン監督の新作、上下マスクの「アデル」は新予告。主演の女優が監督のお気に入りの女性ということらしく、入浴シーンなんかあって、ちょっと引いてしまう。内容的には「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」(The Mummy・1999・米)という感じ。どうだろう。

 上下マスクの「アイアンマン2」は新予告。とにかく絵がカッコ良くてきれい。見たい気になる。スーツを政府に渡せと迫られるらしい。びっくりしたのはリドリー・スコットの新作。上下マスクの「ロビン・フッド」なんだとか。ラッセル・クロウで、雰囲気は同じコンビによる「グラディエーター」(Gladiator・2000・英/米)みたいだった。


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