The Last Message Umizaru


2010年9月18日(土)「ザ・ラストメッセージ 海猿」

THE LAST MESSAGE UMIZARU・2010・フジテレビジョン/ROBOT/ポニーキャニオン/小学館/東宝/エー・チーム/FNS27社・2時間09分

日本語字幕:手書き風書体下/シネスコ・サイズ(Panavision、デジタル)/ドルビー・デジタル

(3D上映、字幕上映もあり)
公式サイト
http://www.umizaru.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

日韓の排他水域にある天然ガス・プラント施設「レガリア」は、1,500億円もの予算が掛けられた日韓の共同施設で、ロシアからの技術援助も受けている国際的なもの。しかし台風の接近によって近くで作業していたドリル・シップが激突し、火災が発生する。台風が迫っているため消火作業は困難と判断され従業員の救出が優先される。しかし、乗り合わせいてたレガリアの設計者が危険を感じ、防火シャッターを作動させたため、海保の潜水士・仙崎大輔(伊藤英明)と新米潜水士・服部(三浦翔平)、レガリアの設計主任・桜木(加藤雅也)、船医の西沢(吹石一恵)、作業員の木嶋(濱田岳)が閉じこめられてしまう。そこへ台風が接近、海保の巡視艇は一端退避せざるを得なくなる。そんなとき、ぶつかったままだったドリル・シップから原油が吹き出し鎮火していたレガリアに大規模火災が発生。仙崎と服部はドリル・シップに移ってバルブを閉めなければならなくなる。

73点

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 おもしろかった。快晴の秋の日のように爽やかで、スカッと楽しめる映画。熱い気持ちが伝わってきて感動した。ストーリーは、どう考えてもありきたりの定番で、こうなるだろうと思うとそのとおりに進展するのだが、なぜこうものめり込んでしまうのか。観客を泣かせようとか、あざといほどの構成なのに、ついついそれで感動してしまう。盛り上げ方が実にうまい。それはもう劇場作3作にすべて通じるもので、監督の技、そして演者たちの技なのかもしれない。登場人物もそれぞれ爽やかで、嫌らしさがないし、超リアルではないにしてもレガリアの施設や船舶などに嘘臭さはない。お金もかかっていて、劇場で見るに値する迫力の音響と映像。

 ただ、3D映画として見た場合、3D映画でやってはいけないことをすべてやっている。そのため見ていて疲れるし、3Dの効果も余り出ていない。はっきり言ってボクは2,000円の価値はないと思う。だからだろう、上映前に注意書きが出る。とても疲れたり、軽い船酔い状態になる可能性があるのだ。

 すなわち、3Dではカメラを動かしまくってはいけない。3Dになると情報量が増えるので、観客が1つのカットを理解するのにちょっと時間が掛る。ところがカメラが動いてどんどカットが変化すると脳がそれに付いていけない。また3Dだと揺れも強調されて酔う。なのに手持ちカメラ撮影が多い。2Dでもじゃまなことが多いのに、3Dでは手持ちカメラは基本的にNG。パンやクレーンなども、できるだけ少なくし、動かす時はゆっくり動かさなければならない。

 さらに、手前から奥にピントを移したりもしているが、3Dはほとんど効果がない。2Dでは効果的な手法だが3Dでは効果がでない。むしろ3Dでは全体にピントを合わせるパンフォーカスの方がいい。合っていないのなら、奥の方(スクリーンの中央の方)がぼけていた方が効果が出やすいのだが、ほとんど手前の方(スクリーンの周辺の方)がボケている。逆に言うと俯瞰はとても効果的。高さが出る。

 液晶シャッターの眼鏡を通して見るのでスクリーンは暗くなる。だからできるだけ画面は明るい方が良いし、暗くても「アバター」(Avator・2009・米/英)のようにコントラストは高くないと3Dの効果が出にくい。なのに、日本映画にありがちなコントラストの低い絵で、しかも夜や船内というくらい状況ばかりで、これまた効果が出にくい。ラスト近くで朝が来ると立体感が急に出るし(一部2D撮影のカットもあったようだが)、途中の明るいシーンでも立体感が出ていた。

 ということは、よく3Dのことを研究せずに3Dで撮ってしまったのではないか。効果も余り出ていないのだから、2Dで見た方が疲れないし、もっとドラマに集中できて、もっと感動できるに違いない。ただボクが見た劇場ではスクリーン・サイズに違いがありすぎて、ついつい差額700円にもめげず3Dの方を選んでしまった……。

 それにしても、レガリア内などにパイプがあり過ぎ。何用のパイプなのか、また建造中なのか工事中なのか、とにかくパイプが落ちてくる。危機感を煽るためだろうが、落ち過ぎ。

 レガリアに閉じこめられる4人のキャラクターは興味深いが、それも設定があざとい感じがするし、自分から進んでどんどん身の上話をするのが不自然。せめて「252生存者あり」(2008・日)地下鉄内に閉じこめられた乗客たちくらい自然にしてくれないとなあ。設定にしか見えてこなくなる。

 主人公の仙崎大輔には、2004年の劇場版第1作からTV版も通して引き続き伊藤英明。この人の爽やかさがあってこその「海猿」シリーズだろう。「252生存者あり」(2008・日)では似たような役柄だったし、「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」(2007・日)は普通じゃない映画なので、主演とはいえ、何というか……ガンマン姿にそれほど違和感はなかったというか。フジTVの「踊る大捜査線 歳末特別警戒スペシャル」(1997)で恩田すみれをスキーに誘いに来る好青年を演じて印象に残った。その後、強烈だったのはオタクを演じた「ブリスター!」(2000・日)で、ドニー・イェンがアクション監督として参加したことでクォリティが上がった「修羅雪姫」(2001・日)が良かった。

 仙崎と同じ第十区海保の潜水士、吉岡哲也も引き続き佐藤隆太。たぶん世間的には「ROOKIES」(2008・日)シリーズなんだろう。あまり真剣な役よりちょっとコミカルな方が合っている気がする。「木更津キャッツアイ」(2002・日)シリーズや、「池袋ウエストゲートパーク」(2000・日)で人気を浮動のものに。この前に劇場で見たのは「憑神」(2007・日)だったか。

 レガリアで仙崎とバディを組む新人潜水士、服部には三浦翔平。ジュノン・スーパー・ボーイ出身で、日テレの「ごくせん」(2008・日)シリーズでデビュー。本作の前に「リアル鬼ごっこ2」(2010・日)で主人公の幼なじみの不良を演じていた。本作ではあまり不良っぽくなく、悩める青年らしく良かった。

 レガリアの設計主任・桜木は加藤雅也。一時期活動拠点をハリウッドに置いたようだが、もどってきた。ボク的には「帝都大戦」(1989・日)や「NOBODY」(1994・日)が良かったが、ちょっとヤクザ系に偏ってVシネの帝王の道かと思ったが、これももどってきた。この前に見たのはヤクザ役の「新宿インシデント」(新宿事件・2009・香)だが、これは良かった。今回はどなってもヤクザっぽくなく、サラリーマンっぽくて良かった。

 一緒に閉じこめられる紅一点の船医、西沢は吹石一恵。独特の色っぽさと明るさを兼ね備えている感じ。存在感があるが、本作では自分から身の上を語る不自然な設定でちょっと損をしている。「ROOKIES」にも出ているが、とにかく良かったのは大林宣彦監督の「あの、夏の日 〜とんでろ じいちゃん〜」(1999・日)だなあ。

 独特の存在感を持っているのが、作業員の木嶋を演じた濱田岳。本作でも、どこかコミカルなのだが、とにかくいそうな存在感がある。22歳だが、若いのかベテランなのかわからなくなることがある。「ミッドナイトイーグル」(2007・日)は小さな役だったが記憶に残ったし、「鴨川ホルモー」(2009・日)では殿様になりきっちゃうエキセントリックな役だったのに説得力があったし、傑作逃走劇「ゴールデンスランバー」(2009・日)でも、ちょっとコミカルで変質者チックな切り裂き魔という難しい役を実に自然に演じていた。最近はインテルのCMでも、井上遥と共演しているが、やっぱり不思議な存在感。良い! 今後も注目だ。

 脚本は福田靖。今話題のNHK大河ドラマ「龍馬伝」を書いている人だ。「陰陽師」(2001・日)も書いているので、伊藤英明とはすでに仕事をしている。本シリーズはTVシリーズも含めすべて手掛け、古くはサイコ・ホラーの「催眠」(1999・日)も書いている。フジTVの「HERO」(2001・日)シリーズも手掛け、最新劇場作は残念なシリーズの中では面白かった第1章「20世紀少年」(2008・日)も手掛けている。その後に感動作「容疑者Xの献身」(2008・日)。

 監督は本シリーズをすべて手掛ける羽住英一郎。「踊る大捜査線The Movie」(1998・日)や「スペーストラベラーズ」(2000・日)、「サトラレ」(2000・日)で助監督をやっているので、本広克行監督の弟子か。映画ではほかにスキー映画の「銀色のシーズン」(2007・日)や、変なタイトルの「おっぱいバレー」(2008・日)も手掛けていて、いろんなジャンルがいけるらしい。

 公開初日の3D版初回、新宿の劇場は全席指定で、前日に確保しておいて、30分前くらいに到着してコーヒーを飲みながら待つと、12〜13分前に開場。20代〜中高年という感じだが、2/3は若い人。TVか漫画が検索だからか。男女比は4対6くらいで女性の方が多かった。暗くなってからも入ってくるヤツがいたので良くはわからないが、最終的には301席の7割くらいが埋まったと思う。

 気になった予告編は……これから公開される時代劇の数々は「サムライシネマ」とかいうシリーズの位置づけになるらしい。逆にサムライとカタカナで言ってしまうところが悲しい。上下マスクの「十三人の刺客」は新予告。なかなか面白そう。期待が持てる。

 不思議なのは上下マスクの「エクスペンダブルズ」が、2Fのロビーでは長い新バージョンをモニターで流していたのに、劇場予告はほとんど内容のない初期のティーザーをまだ上映していたこと。なぜ? 劇場予告を重視していないということか。「SP」は
 3DのCMの後、本編の上映。それにしても、遅れて入ってきて暗くて見えないもんだから、携帯をライト代わりに煌々と照らして入ってくるとは、いったいどんな心臓してんだ?あのばか女。


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