The Men Who Stare at Goats


2010年9月19日(日)「ヤギと男と男と壁と」

THE MEN WHO STARE AT GOATS・2009・米/英・1時間34分

日本語字幕:手書き風書体下、佐藤恵子/シネスコ・サイズ(レンズ、in Panavision)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米R指定、日PG12指定)

公式サイト
http://www.yagi-otoko.jp/
(全国の劇場案内もあり)

2002年、アーチバー日報の記者、ボブ・ウィルトン(ユアン・マクレガー)は元軍人の自称超能力者ガス・レイシー(ステファン・ルート)を取材し、かつてアメリカ軍には超能力者ばかりを集めた特殊部隊があったという話を聞く。翌2003年、同僚の記者が突然死したことで、ボブの妻デボラ(レベッカ・メイダー)は人はいつ死ぬかわからないということに気付き、欲望のまま編集長と逐電。打ちひしがれたボブはデボラを見返すため、また半ば自棄になり、イラクの戦場を取材するため隣国のクウェートに入る。そしてホテルでたまたま知りあった男が、ガスが部隊で指揮官のビル・ジャンゴ(ジェフ・ブリッジス)の次に優秀な超能力者だったというリン・キャシディ(ジョージ・クルーニー)だった。驚いたボブは事情を説明し、イラクへビジネスで行くと言うリンに同行することにする。

73点

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 信じられないような話だが、実話だという文字が最初に出る。原作は「実録・アメリカ超能力部隊」。疑心暗鬼がソ連にもアメリカにもこんな現象を巻き起こしたというファンタジーのような実話のコメディ。かなり笑えるが、誰も笑わなかったので我慢していた。おもしろい。こんなことを真剣にやっていたなんて。ただ話題になった日本語タイトルは感心しない。あまり内容を表していない。

 まずソ連が、フランスが超能力の実験を始めたというウソの情報を信じて、研究を始める。するとアメリカも遅れてはならないと超能力に興味を示し、超能力者を集めたノンリーサル部隊を作ることにしたと。疑心暗鬼の冷戦時代の落とし子。

 ただ日本人的には、ボクも含め超能力とか超常現象を信じる人が多いので、笑いにくいのだろう。それに、映画も完全否定してシリアスに、ただシニカルに、おちょくって描いているわけではない。もちろんちょっと皮肉っている部分はあるだろうけれど。

 時代を反映して、映画「スター・ウォーズ」(Star Wars・1977・米)が大きな影響を及ぼしていて、確かに通称「スターウォーズ計画」というのもあった。「ジェダイ計画」があってもっとも不思議じゃない。しかもそれを探るのが「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」(Star Wars: Episode I - The Phantom Menace・1999・米)シリーズでジェダイを演じたユアン・マクレガーなのだから配役でも笑える。ヒッピー・カルチャーも今見るとおかしい。長髪、フリー・セックス、ドラッグ、ジークンドー……。でも、それほど過激な内容じゃないのに、アメリカのR指定はわかるが、ゆるいはずの日本でなぜPG12指定なのか、よくわからなかった。薬物関係か。

 PMC(民間警備会社)同士が撃ち合いになる、実話に基づいたエピソードがあるが、実に説得力があった。誰がテロリストかわからない常に緊張した状況で、何かがきっかけで微妙なバランスを保つ糸が切れると、ろくに相手を確かめもせずに雪崩を打ったように撃ち合いが始まってしまう。実にリアル。仲間が撃ち出したら、応じて一緒に撃つのがチーム行動の大原則。最初の判断が間違っていると大変なことになる。

 主要キャストは4人。記者のボブ・ウィルトンを演じたのはユアン・マクレガー。まじめで押しが強くなさそうで、ナイブーな感じが実に良い。大作も出ているが、こういったインデペンデントな作品にも良く出ている。「天使と悪魔」(Angels & Demons・2009・米)は大作だが、「フィリップ、きみを愛してる!」(I Love You Phillip Morris・2009・仏/米)や面白かった「彼が二度愛したS」(Deception・2008・米)などは小作品だった。

 とぼけた超能力者リン・キャシディを演じたのはジョージ・クルーニー。もう白髪が多いのに、昔のロン毛でヒゲのヒッピー・スタイルはびっくり。最近は製作に回ることも多く、本作もその1本。やはり小作品が増えてきた感じ。十分もうけたから、やりたいものをやりたいということなのか。「オーシャンズ13」(Ocean's Thirteen・2007・米)以外、評価の高かった「マイレージ、マイライフ」(Up in the Air・2009・米)、監督も兼ねた「かけひきは、恋のはじまり」(Leatherheads・2008・米/独)など、みな小劇場での公開。誘拐犯から奪って使うのはトカレフ。

 超能力者部隊の創設者ビル・ジャンゴはジェフ・ブリッジス。デジタルの力なのだろうが、ヒッピー時代の若い感じは、ジョージ・クルーニー以上の驚き。ボクの好きな「スターマン/愛・宇宙はるかに」(Starman・1984・米)の頃なんか、確かにこんな感じだったなあというイメージのまま。痩せてるし。SFファンタジー・ドラマ「光の旅人K-PAX」(K-Pax・2001・米/独)でケヴィン・スペイシーと共演している。年末には往年の名作の続編「トロン:レガシー」が3D公開される。

 超能力者部隊を壊してしまうラリー・フーバーはケヴィン・スペイシー。ジョージ・クルーニー同様、最近は製作や監督も手掛ける。やはり小作品が多い。衝撃的だったのは「ユージュアル・サスペクツ」(The Usual Suspects・1995・米/独)で、最近見たのはギャンブルと数学をくっつけた「ラスベガスをぶっつぶせ」(21・2008・米)。優しそうな顔をしているので、悪役をやると逆にものすごく冷酷そうで恐く見える。使っていた銃はベレッタM92。

 イラクへビジネスでやって来て、PMCに守られているトッド・ニクソンはロバート・パトリック。TVの仕事が多いようだが、とにかく「ターミネーター2」(Terminator 2: Judgement Day・1991・米/仏)のT-1000は強烈だった。最近見たのは感動ファンタジー「テラビシアにかける橋」(Bridge to Terabithia・2007・米)の優しいお父さん役か。

 ちょい役だがホルツ少佐を演じたのは、グレン・モーシャワー。TVの「24」(2001〜2002)シリーズで第1作から大統領警護官アーロン・ピアースを演じている人。あの役のイメージが強くて、悪役が合わない気さえしてしまう。この前に劇場で見たのは「トランスフォーマー/リベンジ」(Transformers: Revenge of the Fallen・2007・米)の将軍役か。軍人役が多い。

 原作はイギリス生まれのジョン・ロンスンの「実録・アメリカ超能力部隊」(文春文庫)。このタイトルにすれば良かったのに。TVの脚本や監督をやっている人。脚本はピーター・ストローハン。ほかにも何本か書いているが、日本公開されていない。イギリス人らしい皮肉の利いた感じだろうか、うまいと思うが、オリジナルの脚本を見てみないことにはなんとも。

 監督はグラント・ヘスロヴ。製作や脚本もやるが、役者として関わった数の方が多い。シュワルツェネッガーの「トルゥーライズ」(True Lies・1994・米)でテロリストのボスを演じていた人。製作で関わった作品で日本公開されたのはすべてジョージ・クルーニーがらみの作品のみ。うむむ。本作を見る限り監督もいけるのでは。

 銃器はほかにベトナム時代にM16A1,M60。ベトコンはAK47。PMCはMP5,M4A1。ドラッグでトリップして全裸で暴れる兵士が使っていたのはガバメント。

 公開5週目の渋谷の劇場は初回は「キャタピラー」の後での上映。全席指定で、前日に確保しておいて、20分前くらいに到着。コーヒーを飲みながらロビーで待つと10分前くらいに入場となった。客層は20代くらいから中年層くらい。比率は半々くらいで、男女比も半々くらい。全席指定といっても、埋まっている籍の確認ができず、印刷物で場所を選ぶので人の少ない位置などが選べないのは疑問。こういうシステムをするなら座席の埋まり具合がわかる専用のコンピューターを導入すべき。最終的には219席に40人弱くらいの入り。もう1ヶ月以上経っているからこんなものか。

 気になった予告編は……スペイン作品らしい英語のスリラー「リミット」は、男が生きたまま棺桶で埋められるという話らしい。携帯の電源も切れ……面白そう。そしてまたもやスペイン製か。スペインはスゴイ。

 深田恭子の「恋愛戯曲」はTVの女性シナリオ・ライターの話らしいが、ちょっと「ラブソングができるまで」(Music and Lyrics・2007・米)のような臭いもして興味が湧いたものの、いかにもコメディというスタイルの作り方。うーん……。


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