13 Assassins


2010年9月26日(日)「十三人の刺客」

2010・テレビ朝日/東宝/セディックインターナショナル/電通/小学館/Recorded Picture Company/朝日新聞社/メ〜テレ/九州朝日放送/北海道テレビ/Yahoo! JAPAN/TSUTAYAグループ/東日本放送/静岡朝日テレビ/広島ホームテレビ・2時間20分(IMDbでは141分、国際版126分)

シネスコ・サイズ(マスク、Arri、Super 35)/ドルビー・デジタル

(日PG12指定)

公式サイト
http://13assassins.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

江戸時代・弘化三年(1846)、明石藩江戸家老・間宮図書(内野聖陽)が江戸幕府家老・土井大炊頭利位(平幹二朗)家の門前で、明石藩藩主・松平左兵衛督斉韶(稲垣吾郎)の暴君ぶりを訴える訴状を提出し割腹自殺を遂げる。すでに斉韶の残虐ぶりは多くの者が知るところとなっていたが、斉韶は将軍(お上)の腹違いの弟であったため、いずれ幕府老中として就任することが決まっていた。土井はお上から穏便に処理するよう仰せつかっており、熟慮の末、独り身の御目付け役・島田新左衛門(役所広司)を呼び、尾張木曽の藩主・牧野靭負(松本幸四郎)と名もない女に会わせる。牧野は斉韶が宿泊したおり息子・采女(斉藤工)の嫁・千代(谷村美月)に手を出し、それを咎めた息子を惨殺していた。そして千代もその後自害。名もない女はやはり斉韶が手を付け、飽きて両手両足を落とした上、舌を抜き、両国に捨てたという。しかもその一家も皆殺しにされていた。島田は死に場所が見つかったと土井に答える。

77点

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 びっくりした。スゴイ映画。たっぷり140分映画を堪能し、日本映画のパワーを感じた。というかしすぎてドッと疲労感が……。エロ、グロ、暴力満載。コメディの要素も盛り込んだアクション大作といっていいだろう。ズバリ娯楽大作。ラストの決戦は圧巻だった。それでいて大味ではない。決して子供向きではないが、大人の映画として、実に良くできていると思う。血が飛び散り、首が飛び、皮膚が裂け……かなり過激なので、心臓の弱い人は用心した方が良い。血もペンキみたいな赤ではなく、いかにもリアルでどす黒い。

 オリジナルは同名の東映時代劇「十三人の刺客」(1963・日)。つまり時代劇の東映の名作を東宝がリメイクしたと。オリジナル版は見ていないのでなんともいえないが、これが時代か。しかもサムライ・ムービーの一環とか何とか。時代劇でもなく、侍映画でもなく、サムライ・ムービー。うむむ。オリジナル版を見てみたい。

 とにかく冒頭の1/3でいかに標的となる殿様が悪いヤツかをこれでもかとばかりに描く。どんなことをしてでも、こんな男だけは生かしておけないと誰もが思うほどに。そして「七人の侍」(1954・日)のように中盤の1/3でメンバーを集め、周到に仕掛けを作り、罠をはる。ラスト1/3は斬って、斬って、斬りまくる。13人対200人以上。しかし最後は目的を果たし、悪人を倒したカタルシスは少なく、皆倒れてしまう空しさが……。

 冒頭の1/3は灯を余り使わず、当時のろうそくだけで撮影しているようで、雰囲気十分。しかも撮り方がいかにも東映の時代劇っぽい感じ。女は白塗りで、既婚者は引眉、お歯黒。ただ、さすがに低照明はフィルムには厳しいようで、粒状感が際立っていたのは残念。ハイビジョン・カメラだったらもっと暗い質感が良く出た絵が撮れたのではないだろうか。両手両足を切られた女の、あえて痩せ衰えさせて色気を廃した体のSFXは衝撃的。夢に出るかも。それくらいスゴイ。

 惜しむらくは、どうしても三池崇史監督が前に撮った和製西部劇「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」(2007・日)がちらついてしまうこと。1つの宿場を舞台にして死闘が行われるのは、まったく「ジャンゴ」のまま。たしかに時代劇の作法に則り、いかにも時代劇としてカッチリ撮っているが(特に冒頭の1/3)、イメージは似ていて切り離せない。伊勢谷友介は素晴らしい演技と存在感ながら、目立つだけにがエキセントリックさがカブっている。

 配役はリーダー島田新左衛門に役所広司(「パコと魔法の絵本」(2008・日))、オリジナル版は片岡千恵蔵。その甥のギャンブル好き島田新六郎に山田孝之(「クローズZEROII」(2010・日))、オリジナル里見浩太郎。その妻・お艶に吹石一恵(「THE LAST MESSAGE海猿」(2010・日))、オリジナル丘さとみ。老中・土井大炊頭利位に平幹二朗(「相棒劇場版」(2008・日))、オリジナル丹波哲郎。御徒目付組頭・倉永左平太にちょっと大げさな感じだった松方弘樹(「TAJOMARU」(2009・日))、オリジナル嵐寛寿郎。その部下の御徒目付・大竹茂助に六角精児(「相棒劇場版II」(2010・日))オリジナル片岡栄二郎。同じく御徒目付・日置八十吉に高岡蒼甫(「クローズZEROII」)、オリジナル春日俊二。剣の達人・平山九十郎に伊原剛志(「なくもんか」(2009・日))、オリジナル西村晃。その唯一の弟子・小倉庄次郎に窪田正孝(「」(・))、オリジナル沢村精四郎。槍名人の佐原平蔵に古田新太(「踊る大捜査線THE MOVIE 3」(2010・日))、オリジナル水島道太郎。御小人目付組頭で村ごと買収に行く三橋軍次郎に沢村一樹(「山形スクリーム」(2009・日))、オリジナル阿部九州男。山の民・木賀小弥太に伊勢谷友介(「ブラインドネス」(Blindness・2008・加/ブラジル/日))、オリジナル山城新伍。

 尾張木曽の藩主・牧野靭負に松本幸四郎(「HERO」(2007・日))、オリジナル月形龍之介。その息子・牧野采女に斉藤工(「悪夢のエレベーター」(2009・日))、オリジナル河原崎長一郎。その嫁・牧野千世に谷村美月(「神さまのパズル」(2008・日))、オリジナル三島ゆり子。
 将軍の腹違いの弟・松平左兵衛督斉韶に稲垣吾郎(「催眠」(1999・日))、オリジナル菅貫太郎。その殿を守る鬼頭半兵衛に市村正親(「ホテルビーナス」(2004・日))、オリジナル内田良平。その部下・浅川十太夫に光石研(「猿ロックTHE MOVIE」(2010・日))、オリジナル原田甲子郎。落合宿の庄屋の三州屋徳兵衛に岸部一徳(「相棒劇場版II」)、オリジナル水野浩。

 みないい感じでハマっている。特にすごかったのは稲垣吾郎。ほとんど無表情で淡々とした演技が狂気の何かを感じさせる。アイドルとは思えない演技。終了後出て行く時に、女子が「カッコよかったねえ、吾郎クン」と言っていた。これはおそらく憎たらしいを超えて恐ろしいまでの悪役を演じきった男、役者としてカッコ良かったということだろう。もちろん役所広司はうまい。それはダイワハウスのCMでも良くわかる。

 原作は池宮彰一郎。同じ役所広司が主演する「最後の忠臣蔵」の原作もこの人。池上金男の名前でオリジナル版の脚本を書いている。2007年に亡くなっているが、時代劇といえばこの人か。脚本は天願大介。映画監督・今村昌平の息子で、身近にある恐ろしいホラー「オーディション」(2000・日)を書いている。

 監督は作品撮りまくりの三池崇。SFの「神さまのパズル」、不良青春物語「クローズZEROII」、コメディSF「ヤッターマン」(2008・日)、和製西部劇「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」と、なんでも撮れるところがまたスゴイ。暴力系と言うか、武闘派ということは共通しているようだ。近作「ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲」(2010・日)は?だったが、本作はいい。時代劇をちゃんと時代劇として撮れるのは素晴らしいし、スゴイことだと思う。いろいろ時代劇のルールがあり、時代劇の雰囲気を出すのは難しいはず。それが実に見事。まあ北野監督のようにそれを無視して(意識しないで?)自由に撮ると言うのもアリはアリだろうが、基本を知って崩すのと、単に崩すのとではまったく違う。それは画面に出る。外国人には受けがいいかもしれないが、日本人に受けないのはその辺かもしれない。……と話がそれた。オリジナル版は「必殺シリーズ」を多く手掛けていた工藤栄一。古くは「キーハンター」も手掛けている。

 公開2日めの初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜日に確保し30分前くらいに到着してコーヒーを飲みながら待つ。スゴイ混雑。どうやらアニメの新作「ガンダム」の観客のようだ。ちょっと平時と違った雰囲気がある。開場したら普段に戻った感じ。20分前くらいに「十三人の刺客」の初回が満席になったとのアナウンス。あらら。そして15分前くらいに開場。時代劇ということでだろう、ほとんどは中高年。男女比は5.5対4.5くらいで、やや男の方が多かった。

 半暗になってから始まった予告編で気になったのは……「雷桜」って将軍とのかなわないラブ・ストーリーを描いた時代劇なんだ。たぶん見ないけど。突然あちこちで時代劇が作られているけど、これじゃあ、すぐに飽きてしまうのでは。逆効果という気がする。やり過ぎ。

 「SP野望編」は予告の前半部分がビデオ画質で、大スクリーンで見るとちょっと残念なことに。ただあのテーマは血が騒ぐ。とても期待してしまうのだが、TV版の総監督・本広克行が「踊る大捜査線THE MOVIE 3」に行ってしまったので、関わっていないらしい。それでどうなのか。

 上下が狭まってシネスコ・サイズになってから「太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男」の予告。絵が重厚で格調高く、ちょっとハリウッド作品のような雰囲気も。唐沢寿明が撃っているトンプソンや井上真央が撃っている九六式らしい機関銃などは実銃のよう。かなり恐い。監督は「学校の怪談」(1995・日)や「OUT」(2002・日)、「魔界転生」(2003・日)の平山秀幸。期待できそう。


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