Sakurada-mon Gai no Hen


2010年10月24日(日)「桜田門外ノ変」

2010・一般社団法人いばらき映像文化振興協会/映画「桜田門外ノ変」製作組合/ユニークブレインズ・2時間17分

ビスタ・サイズ/ドルビー・デジタル


公式サイト
http://www.sakuradamon.com/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

水戸藩士の関鉄之介(大沢たかお)は蟄居を命じられていたが、手紙が届くと内縁の妻ふさ(長谷川京子)と息子の誠一郎(加藤清史郎)に別れを告げ出奔。江戸で脱藩した同志たちと落ち合うと、1860年3月3日の井伊大老(伊武雅刀)襲撃の指揮を任される。実行部隊は水戸脱藩藩士17名に薩摩藩藩士、有村次左衛門(坂東巳之助)を加えた18名。襲撃は成功するが、幕府は井伊大老の死を重傷と発表、薩摩藩が挙兵するはずだったのが見送られ、協力してくれるはずの鳥取藩でも事件直後に家老が引退、態度を変える。水戸藩主、徳川斉昭は事件にかかわったもの全員を逮捕するように命令、幕府からも追われ、行き場を失う。同志は次々と自刃、または逮捕されて斬首されていく。

72点

1つ前へ一覧へ次へ
 結末がわかっていて。しかもハッピー・エンドでない物語をどう映画化するか。いろいろと手法はあるだろうが、悲劇を悲劇のまま描く場合と、悲劇だが未来への希望として描く場合があるとすると、本作は前者の方。見終わると落ち込む。その死が倒幕、そして維新へとつながったというより、当座は何も起こらず孤立して、最後には身内によって捕らえられ斬首されてしまったという無念の方が印象に残る。セリフでは悔いはないといっているが、現代の我々から見ればそれが未来を動かしたことになるが、そのときは何も変わらなかったという思いがあったのではないか。セリフにもあるように「たった1人の首を取るためために、一体どれだけの人の命が失われたのか」。これがメインになっている。だから辛いし、落ち込む。ちょっと関係があっただけの一般女までが拷問に掛けられ、獄死している……。これは元気な時に見た方が良いと思う。

 しかも、現代もちょっと入れながら、事件「桜田門外の変」を最初に持ってきて、その後の逃走劇をメインに描いている。事件がタイトルなのにそれがクライマックスではないのだ。つまり「その後=後日談」に近い。さらに、事件が最初にあるため、回想が多く、時間軸がバラバラ。わかりにくい。物事の因果関係が非常に理解しにくい。

 血の表現はリアルで、透明感もあって赤黒い。いかにもペンキのような作り物の血とは違う。襲撃シーンはかなりの迫力とリアルさ。恐い。観客は目撃者になったような気分に。行列の先頭で最初に斬られる1人だけが、斬られると同時に血が(たぶんCGで)飛ぶが、あとは雪の積もって真っ白な地面に飛び散っているだけで、飛び散る瞬間はない。CGが高価でたくさん使えなかったということだろうか。

 後半で、鳥取藩の剣術師範と主人公の一気打ちでは、おそらく実際に仕込んだ血のりを吹き出させていると思うが、カメラも引きで、全身が写っているのにネタバレしておらず、刀の動きをなぞるCGのようにリアルではないのかもしれないが、非常に見事。銃はコルトM1851ネービのコピーらしいが、5挺用意され、1挺が1発だけ標的に向けて発砲されたと。

 それにしても時代劇は大変だと思う。セリフ回しから衣装、所作まで時代劇としておかしくないようにしなければならない。専門家に考証してもらう必要がある。役者はもちろんのこと、演出も大変だと思う。

 主演は大沢たかお。まあ、とにかく良く映画に出ている。最近でいうと残念だった「BALLAD名もなき恋のうた」(2009・日)も「ICHI」(2008・日)も時代劇だった。「GOEMON」(2008・日)も、まあ時代劇といえば時代劇か。「ミッドナイトイーグル」(2007・日)のほうがピッタリの感じだったが。

 井伊大老は伊武雅刀。貫録があって、死にっぷりも見事だった。クリスチャン・ベイルが子役だった「太陽の帝国」(Empire of the Sun・1987・米)以降ちょっと重くなってきた? ボク的には「突入せよ!「あさま山荘」事件」(2002・日)の本部長役が抜群に良かった。

 水戸藩藩主、徳川斉昭を演じたのは、白戸家のパパこと北大路欣也。この人も貫録があって良かった。どうにも頼りない感じなのに、説得力があるのでなんとなく受け入れてしまうというか、納得させられてしまった。存在感が素晴らしい。つい最近「インシテミル7日間のデス・ゲーム」(2010・日)にも出ていたが、やっぱり時代劇の方がはまるようだ。

 襲撃隊中ただ1人の薩摩藩士、有村を演じた坂東巳之助も印象に残る。さすが歌舞伎役者、時代劇はピタッとはまるようだ。なんと映画は初出演なんだとか。時代劇以外はどうなのか、気になる。

 原作は吉村昭の同名小説。ちょっと読んでみたくなった。新潮文庫から上下巻で出ていて、それぞれ580円と620円。こんなに気分が落ちる内容なのだろうか。

 脚本は江良至と監督の佐藤純彌。江良はVシネの「ミナミの帝王」を書いてきた人で、最近は見ていないが「必殺剣 鳥刺し」(2010・日)を書いている。

 監督は佐藤純彌。最近話題になった「男たちの大和/YAMATO」(2005・日)を手掛けている。その前には信じがたい驚異の「北京原人Who are you?」(1997・日)を撮っている。ボク的には「人間の証明」(1977・日)と「野生の証明」(1978・日)かなあ。さらに前の「ゴルゴ13」(1973・日)は?だなあ。高倉健との仕事が多いよう。

 主題歌「悲しみは雪に眠る」を歌うのはalan。「BALLAD名もなき恋のうた」の主題歌も歌っているらしい。なかなかいい感じ。

 公開8日目の初回、銀座の劇場は全席指定で、金曜に確保しておいて25分前くらいに着いたらちょうど開いたところ。小学生くらいが2人ほどいたが、この自害もたくさんある殺戮劇がG指定というのは解せない。小さい子に見せるのはどうかと思う。かなり大人でも気分が悪くなるほど過激だ。ただ観客のほとんどは中高年、それも高齢者が多かったが。男女比はほぼ半々。若い人は1割いたかどうか。最終的には509席のうち1Fのみ使用し、7.5割くらいの入り。さすがNHKで「龍馬伝」をやっているだけあって、関連する幕末物は人気があるようだ。

 気になった予告編は……上下マスクの韓国映画「黒く濁る村」はなかなか面白そうなミステリー。予告だけで興味津々。手塚治虫の「ブッダ」がアニメ化されるらしいが、絵の雰囲気がどうにも違う感じで気になった。原作だけで手塚アニメではないということだろうが……。

 チームバチスタ・シリーズの第3弾?「ジーン・ワルツ」は菅野美穂の女医らしい。はたして? 1992年の「このミス」第1位「行きずりの街」の映画化。予告では内容がさっぱりわからず、普通の恋愛物のような感じだったが……。


1つ前へ一覧へ次へ