Brooklyn Finest


2010年10月30日(土)「クロッシング」

BROOKLYN'S FINEST・2009・米・2時間12分

日本語字幕:手書き風書体下、川又勝利/シネスコ・サイズ(マスク、Super 35)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米R指定、日R15+指定)
公式サイト
http://www.cross-ing.jp/
(入ったら音に注意。全国の劇場案内もあり)

ニューヨーク、ブルックリンの犯罪多発地域、低所得者用「BK公営住宅」がある地区を管轄する65分署の麻薬捜査課の刑事、サル(イーサン・ホーク)は、信心深く家族思いだったが、病弱な妻アンジェラ(リリ・テイラー)のため新居を手に入れる頭金が必要となり、犯罪者の金に手を付けてしまう。同じ頃「BK公営住宅」で犯罪を犯そうとした警察官によって黒人少年が射殺され、警察官に対する不信感が噴出していた。そんな中、潜入捜査官のタンゴ(ドン・チードル)は長年の潜入で妻と離婚し、自らも道を踏み外しそうになり辞めようとしていたが、かつてその地域の麻薬を取り仕切っていたボスのキャズ(ウェズリー・スナイプス)が出所して来る。彼はタンゴの命の恩人でもあった。さらに、やっかいなことには首を突っ込まないことが心情の勤続20年の制服警官エディ(リチャード・ギア)は、退職を7日後に控えて、新人警官の教育係を命じられる。

74点

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 うーむ、沈んだ……。やるせない、ため息が出た。ダークで、暴力、汚い言葉、エロ、グロがたっぷり。つねに何か悪いことが起きそうな雰囲気がみなぎっていて、見ている間中居心地が悪かった。無意識のうちに力が入って、見終わったあと肩が凝ってしまって……。

 リアルな設定と描写だが、事件の進展はあえて3つのそれぞれの物語を1カ所で終わらせるために不自然に進展していく。矛盾は感じさせないが、どこかに意図を感じさせる。それでドキュメンタリー的なところよりは物語的な側面が立っている。そうでないと、この世で生きているのが嫌になるくらい、人生には良いことがないってことになりそう。けっして出来は悪くないが、それだけに映画の雰囲気が伝染して気分が落ち込む。お金を払ってこんな気分になるって、どうよ。たまには良いとしても、落ち込んでいる時には見ない方がいい。

 だいたい日本もそうだが、アメリカも現場の警察官、刑事の収入は高くないという。命を張っているのに、金目当てで仕事にしてはいけないということか。そして、ニューヨークの、中でも65分署が管轄する地区は犯罪多発地域。登場人物たちは悪いことをしようとして事件に巻き込まれていくわけではなく、避けることができずしようがなく巻き込まれていく。犯罪者と取り締まる側の堺はあいまいになっていき、その違いは、冒頭に語られるように「より良い方か、より悪い方か」くらい。それだから観客も感情移入して見てしまい、一緒に絶望し、一緒に落ちる……。警官とはこんなにも辛い職業なんだ……。

 良くできた話だが、3つのエピソードはどれもどこかで聞いた話。空疎な人生を送ってきた男が引退間近で最後に命を張って人助けをするとか、潜入捜査官が次第に境界線を越えてしまいそうになるとか、家族を守るために必要な金を犯罪に使われた金から猫ばばしようとする話。特にリチャード・ギアのエピソードは同じニューヨークを舞台にした「タクシー・ドライバー」(Taxi Driver・1976・米)に似ている。本作はそれがポール・ハギスの「クラッシュ」(Crash・2004・米/独)のように同時進行で起こり、そして最後に交錯する。

 すべてがバッド・エンディングだったら絶望になってしまうが、そうはなっていない。ホントは別エンディングがあったのでは?

 銃声はすべて突然で、割りと大きめ。なかなかリアルで、まがまがしい。

 麻薬捜査課の刑事サルを演じたのはイーサン・ホーク。ボクにはどうしても「エクスプローラーズ」(Explorers・1985・米)のイメージが強いが、あの無垢な少年がこんな役を演じるなんて。デンゼル・ワシントンが悪徳刑事を演じたダークな映画「トレーニング・デイ」(Training Day・2001・米/豪)でアントワン・フークワ監督と仕事をしている。ちょっと前では悪役が多く、ここのところパッとしなかった印象があるが、「痛いほどきみが好きなのに」(The Hottest State・2006・米)では監督・原作・脚本・出演と八面六臂の活躍。見ていないけど。使っていた銃はグロック。

 制服警官エディを演じたのはリチャード・ギア。まあ、よく映画に出ている。強烈な印象だったのは「アメリカン・ジゴロ」(American Gigolo・1980・米)や「愛と青春の旅立ち」(An Officer and a Gentleman・1982・米)だが、日本とも縁が深く、黒澤明監督の「八月の狂詩曲(ラプソディ)」(1991・日)や原作が日本の「HACHI約束の犬」(Hachiko: A Dog's Story・2009・米/英)に出ている。活躍し続けているのがスゴイ。使っていた銃はミリタリー&ポリスの4インチ・ヘビー・バレル。

 潜入捜査官タンゴを演じたのはドン・チードル。悲惨なベトナム戦争映画「ハンバーガー・ヒル」(Hamburger Hill・1987・米)など古くから活躍しているが、デンゼル・ワシントンと共演した「青いドレスの女」(Devil in a Blue Dress・1995・米)あたりから存在感を出し始め、アート系で一部で話題になった「ホテル・ルワンダ」(Hotel Rwanda・2004・英/米ほか)や「クラッシュ」(Crash・2004・米/独)で実力派としての地位を固めた。それでも「アイアンマン2」(Iron Man 2・2010・米)などの娯楽作品にも出ているのだから(単にお金のため?)、偉い。銃は普段使っているのがP220か226、引き出しに入れているのがシルバーのジェリコ。

 麻薬組織のボス、キャズを演じたのはウェズリー・スナイプス。プライベートで民間軍事組織のようなものを作って話題になったこともあるが、その線でか最近はB級アクションに主演することが多い。しかしそれらでは、まるでスティーヴン・セガールのようでステレオタイプ。ちっとも良くないが、こういう映画に出るとこの人は光る。人気シリーズ「ブレイド」(Blade・1998・米)はそれなりに面白かったが、「追跡者」(U.S. Marshals・1998・米)なんかは抜群に良かった。かつては「3人のエンジェル」(To Wong Foo Thanks for Everything, Julie Newmar・1995・米)で女装してドラッグ・クイーンなんかも演じていた。今じゃ考えられない。もっと色んな役をやればいいのに。

 驚いたのは、FBIの偉そうな女性捜査官を演じていたエレン・バーキン。クライム・サスペンス「シー・オブ・ラブ」(Sea of Love・1989・米)でアル・パチーノの相手役をやっていた人。2000年くらいまでいろいろ出ていた印象があるが、その後は余り見かけない。最近見たのは「オーシャンズ13」(Oceans Thirteen・2007・米)か。それでドン・チードルと共演している。まあ、とにかく男まさりのやり手オバサンという感じがものすごい。嫌らしい感じが良く出ていた。

 美人の娼婦を演じていたのはシャノン・ケイン。劇場映画は初めてのようだが、役柄から全裸でかなり際どい演技も……。あまりエロさを出さないようにしていたが、それでも美人だし……。今後に期待。

 脚本はマイケル・C・マーティン。本作は初の劇場作品なんだとか。交通事故で背中を負傷し、時間的な余裕ができたので本作を書き上げたらしい。次にどんなものを書くのか。

 監督・製作はアントワン・フークア。劇場デビュー作「リプレイスメント・キラー」(The Replacement Killers・1998・米)でチョウ・ユンファをハリウッド・デビューさせた。「トレーニング・デイ」や「キング・アーサー」(King Arthur・2004・米/英ほか)はどうかと思うが、「ティアーズ・オブ・ザ・サン」(Tears of the Sun・2003・米)や「ザ・シューター/極大射程」(Shooter・2007・米)はとても良かった。1作置きか?! だとしたら次は面白いだろう。この人はアクションの方が向いているのではないだろうか。

 台風が接近していた公開初日の初回、銀座の劇場は初回のみ全席自由で、40分前くらい前に着いたらまだエレベーターが動いていなかった。10分ほどして開場。中年層がメインという感じで、女性の方がやや若く1/4から1/3くらい。最終的に224席に8.5割くらいの入り。こんなにうんざりする話にこんなに入るとは。

 持ち込みはお断りしますとかアナウンスが流れていたが、ハンバーガーのセットなどを持ち込んでいる人はちらほら。やや暗くなって始まった予告編で気になったのは……世界初の大西洋横断飛行を達成したアメリカの女性パイロット、アメリア・イヤハートを描いた上下マスク「アメリア永遠の翼」は、リチャード・ギアとヒラリー・スワンクの顔合わせで、絵がとてもキレイ。どうだろう。


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