SP Yabou-hen


2010年10月31日(日)「SP 野望篇」

2010・フジテレビ/ジェイ・ストーム/東宝/FILM/FNS27社・1時間38分

ビスタ・サイズ/ドルビー・デジタルEX


公式サイト
http://sp-movie.com/index.html
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

警視庁警備部警護課第四係の要人警護官(SP)の井上薫(岡田准一)は、国土交通省の大臣が出席するイベントでの任務中、傘爆弾を仕掛けようとした男を追い、逮捕する。その模様はテレビのニュースで大々的に報道されてしまう。若き与党幹事長の伊達國雄(香川照之)は、密かに革命を起こそうとする若手官僚グループを支援しており、そのグループに井上の上司、尾形総一郎(堤真一)が加わっていた。第四係のメンバーは「大義」のために尾形が選んだのだった。伊達は井上が目立ちすぎるので排除しろと命令する。そんな折り、北朝鮮が日本海に向けて弾道弾ミサイルを発射。第四係は急きょ官房長官の田辺(螢雪次郎)を官邸まで送り届ける任務に付くが、謎の襲撃犯が次々と襲いかかってくる。石井(神尾佑)、山本(松尾諭)が負傷し、ついには笹本(真木よう子)まで倒れ、井上1人で警護することに。ところが、襲撃犯は田辺というより井上を倒そうとしているようだった……。

72点

1つ前へ一覧へ次へ
 二部作の前編。とはいえ、TV版からの続きで、見ていない人にはちょっと事情がわかりにくいかもしれない。見ている人にはまさに続きという感じだろう。劇場版になって深夜ドラマとはケタ違いの予算で、高価な3D-CGもふんだんに使われている。撮影上の制約、安全対策などいろいろとあるのだろうが、もう少し実写のアクション=爆発が見たかった。国会近くの車道で爆破なんて不可能だろうし、しかも深夜の設定。3D-CGしかありえないが、つまりはちょっとやり過ぎで実写に見えない印象が強いということか。

 映画としてはなかなか楽しめた。おなじみのキャラクターが登場し、緊張感のあるドラマの中にちゃんと笑いも入れている。それぞれいい味を出している。ただメインの話は「大義のため、ボクたちの革命」であり、それを起こそうとする上司の尾形と、うすうす感づき始めている井上の表面下の対立があらわになってくるので、ちょっと居心地が悪いというか、陰湿になりつつあり、そこが気になった。かも自分で選んでおいて、今度は排除しようとするわけで、どうにもつじつまが合わないと言うか、納得できない。そして、2部作の前編、しかもTV版あっての展開なので、どうしてもファイナル版へのつなぎの感は拭えない。ちゃんと官房長官を官邸まで届けるという小さなクエストは完了しているが。

 格闘技などのアクションはとてもがんばっている。主演の岡田准一はフィリピン武術の「カリ」、「修斗」、「ジークンドー」そしてTVのインタビューでは確かイスラエルの護身術「クラブ・マガ」(「レイン・フォール 雨の牙」(2009・日)で椎名桔平が習ったヤツ)も3年、習ったと言っていた。しかもプロダクション・ノートによると「カリ」と「ジークンドー」はインストラクター免許を取得したらしい。だから体のきれが良いし、アクションに説得力がある。仕事でこういうことを取得できるのだから、役者はお得だ(嫌いでやっている人もいるだろうが)。ただ、トラックの荷台での格闘は、合成が今ひとつで、ちょっと残念だった。せっかくの緊張感が……。交差点でのクラッシュも、トレーラーが何だかCGっぽいというか、現実味がなかったと言うか。

 群衆シーンも多い。映画ならではか。ちょっともったいない気もした。ほかでお金を使った方が良かったのではないかと。それと岡田准一の銃、P230JPの構え方はさまになっていたが、ダブル・ハンドがちょっとカップ・アンド・ソーサー気味だった。もう1つ。真木よう子の肩を貫いたボウガンの矢が胸と背中側で曲がっていたのも気になった。いかにも前後で付けたみたい。残念。

 画質としてはビデオっぽかったものの、驚いたのは、TV版の映像が挿入されているのだが、走査線も目立たず、画質が一緒だったこと。これは……どちらもハイビジョン撮影だったのか……。

 主演の岡田准一はV6のメンバーで、アニメの「ゲド戦記」(2006・日)では主役の声を当て、青春コメディの「木更津キャッツアイ」(2002・日)シリーズや、時代劇の「花よりもなほ」(2006・日)、「東京タワー」(2004・日)でも主演を務めた。ボクはTVの「SP」のおかげで岡田准一のドラマを初めて見た。

 上司の尾形は堤真一。まあこの人はすべて自然体という感じでうまい。ボクが最初にスゴなあと思ったのはサブ監督のアクション「MONDAYマンデイ」(1999・日)。「ALWAYS三丁目の夕日」(2005・日)の鈴木オートも良かったし、「姑獲鳥の夏」(2005・日)の京極堂も、「クライマーズ・ハイ」の(2008・日)全権デスクも良かった。「SP」でもいい感じだったのに、革命の黒幕の1人? それはどうかなあ。

 SPの同僚、笹本は真木よう子。NHKの大河ドラマ「龍馬伝」でお龍を演じている。古くは「修羅雪姫」(2001・日)から出ていたようだが、ボクは「SP」で初めて知った。男まさりな感じが実に良いが、さすがにアクションは難しいようで、岡田准一が良いだけにそれが目立ってしまう。

 先輩格の石井役は神尾佑。空手の有段者で、まさにピッタリの感じ。「クライマーズ・ハイ」で堤真一と共演している。ほかに映画では残念なカンフー・コメディ「少林少女」(2008・日)や古い感じの新しい空手映画「黒帯KURO-OBI」(2006・日)……この時は鈴木ゆうじの芸名……で技を披露している。

 同僚で勝手にライバル視している山本役は松尾諭。ほとんどTVの人で、映画では「のりちゃんのり弁」(2009・日)というのに出ているらしい。役柄にピッタリの感じ。

 第四係の庶務係のおデブな原川役は平田敦子。実にいい味を出していて、コミカル担当。インパクトがあって忘れられなくなる。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属で、主にTVと舞台で活躍。もっとTVや映画に出ても良いのではないだろうか。グリコのパピコのCMには笑った。

 公安の役でハマってしまったのは田中一郎役の野間口徹。ちょっと陰険な感じもうまい。「容疑者 室井慎次」(2005・日)にも出ていて、最近では見ていないが「お墓に泊まろう!」(2010・日)だろうか。この人ももっと出ていいのではないだろうか。

 原案・脚本は直木賞作家の金城一紀。岡田准一と堤真一が共演した「フライ、ダディ、フライ」(2005・日)の原作もこの人。本作はSPにスポットを当てたこと自体スゴイと思う。しかも主人公に特殊能力があるところが面白い。ほどよくコメディの要素も取り入れ、ガヂガチの警察ドラマになっていないところも良い。

 監督は波多野貴文。「踊る大捜査線」の本広克行監督の元で助監督をやっていたらしく、作風が似ている。TV版「SP」で演出を手掛け、本作で監督デビュー。1973年生まれというから37歳。次も期待が持てそうだ。

 アクション監督は大内貴仁。公式HPのACT-ZEROによると単身香港に渡り香港アクションを身に付けたらしい。Vシネの「新・闇武者 魔道封印」(2010・日)に続く2作目。特殊警棒って、もっと有効な武器のような気がするが、わりとあっさりだったのが残念。徒手も良いが、特殊警棒技ももっと見たかった。

 曲も良い。担当したのは菅野祐悟。カッコいいし、これを聞くと上がる。他に使われていた銃は、襲撃犯がP226、謎のスナイパーがPSG1(ちょっとゴミが目立っていた)。SPの腕時計はカオのGショック。ちょっと普通かなあ。本当にそうなのかもしれないが、ちょっと……。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保しておいて、30分前くらいに着いたら劇場自体がまだ開場しておらず、何と入口前に100人前後に長蛇の列。ほとんど若い男性で、どうやらアニメ系の何かがあるらしい。2〜3分して入口が開き館内へ。半分くらいがチケット売り場、半分くらいがグッズ売り場に列を作っていた。アニメは凄いなあ。ただ、あれだとプログラムとか前売り券を買うにも30分は並ばなければならないだろう。

 コーヒーを飲みながら待っていると、12〜13分前に開場。観客層は下は小学生くらいから中高年まで幅広く、男女比は4対6くらいでちょっと女性の方が多かった。V6ファンか。メインは高校生くらいから20代くらいの若い人たち。最終的には607席に5割くらいの入り。朝一にしてはなかなかの入り。さすがTVの人気作の映画化。

 東野圭吾の「白夜行」は予告を見る限りかなり暗い映画のようで、ちょっとうんざりな感じが……。タイトルもなかなか出ないし。

 人気漫画の実写映画化「GANZ」は、ついに絵付きの予告に。なかなかアクション満載で面白そう。

 上下マスクの「ノルウェイの森」はどうなんだろうか。小説としては面白かったが、あれを映像化してうんざりする感じばかりにならなければいいが……。


1つ前へ一覧へ次へ