Buried


2010年11月6日(土)「[リミット]」

BURIED・2010・西/米/仏・1時間35分

日本語字幕:手書き風書体下、アンゼたかし/シネスコ・サイズ(マスク)/ドルビー・デジタル

(米R指定)

公式サイト
http://limit.gaga.ne.jp/
(全国の劇場案内もあり)

イラクで荷物運搬トラックの運転手をやっていたポール・コンロイ(ライアン・レイノルズ)は、気が付くとさるぐつわをはめられ手を縛られて棺の中にいた。しかも地中に埋められているようで、中にはジッポー・ライター、携帯電話、フラッシュ・ライト、大型のサイリュームが2本、アルコールの入ったスキットル、持病の薬ビン、フォールディング・ナイフ。どうにか縛めを解いて電話で助けを呼ぼうとするが、電話の文字はアラビア文字で、しかも発信者番号非通知。やがて誘拐して埋めたという男から電話がかかってきて、9時までに500万マネーを用意しないと死ぬことになると告げる。

73点

1つ前へ一覧へ次へ
 何という映画。これはアイディア勝負のみという感じ。感覚的には1/5くらいは真っ暗の画面で何も写っていない(本当はもっと短いだろうが……長く感じる)。出演者はたった1人。舞台になるのもたった1カ所。カメラはここを出ることはない。描かれているのは生きようと努力するにもかかわらず、最悪の結果を迎えてしまう男の運命。息が詰まって、打ちのめされる。安直な解決などない。悲惨な結末を予測させる多くの出来事と、希望を持たせる外の動き。そして絶望と、覚悟と、永遠の暗闇。

 映画としては良くできているが、お金を払う価値があるのか……。TVのようにタダで見られるものなら良いが、前売り1,300円か当日1,800円を払って、時間を作り、わざわざ劇場まで足を運んで、こんなものを見せられるなんて。ボクが見たいのは、希望だったり、最後まであきらめない気持ち、だ。最悪の結果でも、明るい兆し、次につながる何か。

 アメリカが間違った戦争をして、そのおかげで一般市民がこうして90分をかけてじわじわと殺されると。アメリカはその報いを受けなければならないと。そうなのだとしても、お金を払って、主人公と同じ気持ちを味わされるとは。そんなことはアメリカ人に言ってくれという感じ。

 そして恐かったのは、主人公が軍人ではないなら民間軍事会社の社員(オペレーター)ではないかと誘拐犯に疑われるシーン。2007年にブラックウォーター社が無差別発砲事件を起こしたこともあり、かなり悪いイメージがあるようだ。しつこくブラックウォーターの社員じゃないのかと聞かれる。もしそうだったら、すぐ殺されてしまうのか。恐ろしい!!

 なぜシネスコだったんだろう。閉塞感を出すならスタンダードの方がいいのに。密閉空間の中で、確かに次々とよく事件が起き、単調にならないよう配慮され良くできているが、それでもやはり眠くなった。やはり1人芝居よりは、カメラが外へ出て回りの動きも撮れば映画らしい作品にはなったと思う。ただ。そうするといわゆるハリウッド作品的になり、大予算が必要で、展開が読めるものにはなってしまうだろうが。ただ息苦しい思いをずっとして、最後に打ちのめされるようなことにはならなかったはず。それが意図するところだったかもしれないが。

 処刑シーンで使われていたのは、たしかベレッタM92だったと思う。直接発砲するシーンはなかったような気がする。たぶんかなり低予算なのだろう。おそらくほとんどの予算は主演俳優のギャラで消えたに違いない。

 ほとんど、たった1人の登場人物ポール・コンロイを演じたのはライアン・レイノルズ。アクションからコメディ、ホラー、色んなものに出ている二枚目俳優だが、主役で引っ張るという感じではない。つい最近出ていたのは、サンドラ・ブロックのコメディ「あなたは私の婿になる」(The Proposal・2009・米)の婿役。しかし今や引っ張りだこで、撮影中や企画も含めて、公開を控えている作品が7本もある。奥さんは、あの美女女優のスカーレット・ヨハンソン。この美男と美女からどんな子供が産まれるんだろう。想像もつかない。

 この作品で描かれているように、イラクではこんな一般人が犯罪者化する事件が多いのだろう。戦争のせいで仕事を失い、家族を失い、犯罪に走るしかないと。そしてまたアメリカでも働き口がなく、危険だとわかっていても、イラクへ行く仕事を取ってしまうと。しかもイラクへ社員を派遣している会社は、このようなケースでは確かに責任回避をして逃げそうな気はする。説得力がありすぎて、やるせない。冒頭、主人公が棺桶のフタの裏にヘルプと書いて、それを線で消すが、結末を象徴していたんだ……。

 確かに主人公はハミルトンのアナログ腕時計をしているが、この映画を見て欲しいと思うかなあ。多いに疑問。むしろこれをしてたら脱出できなくなるのではという気さえするが……。

 脚本はクリス・スパーリング。この前に監督・脚本・主演したコメディの長編があるようだが、そのテーマが自殺だから、まあ本作もうなずけるというもの。

 監督・製作総指揮・編集はスペイン人監督のロドリゴ・コルテス。1973年生まれというから37歳。監督よりは編集者、脚本家としての関わった作品の方が多い。監督としてはほとんど短編で、1本長編があるが、日本公開されていない模様。本作も本来は短編向きの内容、構成ではないだろうか。長いから眠くなるし落胆も大きい。短編だったら良かったかも。

 あまり内容を象徴している気はしないが、文字がフェード・インしてきて、バラバラに上へ流れていくタイトルのグラフィックは非常にセンスが良い感じ。

 公開初日の初回、渋谷の劇場は全席指定で、「森崎書店の日々」のあとの上映。30分前くらいに着くとロビーには1人。20分前くらいから増え始め、10分前に入れ替えになった時は30人くらい。メインは20〜30代くらいの男性で、女性は1割ほど。オヤジが少々。関係者らしい一団が10人以上、座席の後ろに鈴なりになっていた。多すぎるって!

 最終的には219席に4割くらいの入り。まあ最初はこんなものか。ただこの打ちのめされ感だと、これから観客が増えるとは思えない。

 半暗になって始まった予告編で気になったのは……真ん中がちょっとピンボケだったが……なかなかタイトルが出ずイライラした上下マスクの「リトル・ランボーズ」はイギリス映画で、子どもたちがランボーにあこがれて映画を作る話だとかで、予告だとちょっと(イギリスらしい)くらい感じがしたのだが、調べてみれば「銀河ヒッチハイク・ガイド」の監督作品ではないか。劇場によってはアリだなあ。

 上下マスクの「エクスペリメント」は、かつての「es[エス]」(Das Experiment・2001・独)とほとんど同じ感じ。雰囲気も、あの不快さが濃く漂っていたが……。ただ、出演者が有名なスターで、2人ともアカデミー賞受賞者だというのが違うくらい。リメイクだろうか。非常に居心地悪く、気分を害する映画だったが……。

 ロバート・ダウニー・Jrのコメディらしい2人旅の上下マスク「デュー・デート」は、どうなんだろう。ロード・ムービーのようだが、単なるドタバタでもあるような。公式サイトもないようだし。

 上下マスクの「キック・アス」は普通の人間がスーパー・ヒーローの真似をする話。予告を見た限りとても面白そう。見たい。しかし、なんと前売り券は発売しないのだという。当日券のみ。1,800円かあ……。劇場も限られているし、本編は予告ほど面白くないということか。配給はカルチュア・パブリッシャーズ……ってツタヤか。うーん。「ファン・ボーイズ」も見たかったけど、劇場が…… 劇場公開したという実績作りととられても仕方がないのでは。


1つ前へ一覧へ次へ