Moss


2010年11月20日(土)「黒く濁る村」

MOSS・2010・韓・2時間41分(IMDbでは163分)

日本語字幕:手書き風書体下、根本理恵/シネスコ・サイズ(マスク)/ドルビー・デジタル

(韓18指定、日PG12指定)

公式サイト
http://kurokunigorumura.com/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

1978年頃、サムドク祈祷所に院長の要請でチョン・ヨンドク刑事(チョン・ジェヨン)がやって来る。新しくやって来たユ・モッキョン(ホ・ジュノ)のせいで、献金が減ったというのだ。ユがくすねているのではないかという。チョン刑事は強引に逮捕し、刑務所に入れ、知り合いの受刑者に命じて殺させようとするが、ことごくとユのカリスマ性に魅せられ失敗する。刑務所でユに会ったチョン刑事は、話しをする内、自分も魅せられて、ユの頼みを聞くことになってしまう。そこで、チョン刑事はユのその力を利用することを思いつき、一緒に更生を望む犯罪者のための理想の村を作らないかと提案する。そして30年後、ユが死亡し、息子のユ・ヘグク(パク・ヘイル)がやって来る。息子のユは死因に疑問を持ち、調べ始めるが……。

72点

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 悪を描いた恐ろしい映画。その悪は徹底した悪で、まさしく悪魔のような悪。絶対的悪。だから161分の間ずっと居心地が悪く不快。これだけの悪を描き切るとは。しかもちゃんと結末を付けて見せる。やりっぱなしじゃないところは見事。

 ただ、どうにも展開が納得できない。それは早口でしゃべる言葉に字幕が追いついていないからなのか、もともと脚本の設定が強引なのか。どうして、そうなるのか、よく理解できない。だから感情移入もしにくいが、悪に対する恐怖は良く伝わってきて、恐い。際どい表現ほとんどないが、エロとグロ、バイオレンスで溢れている。そして「日帝時代じゃないんだから」というセリフがあるが、日本の支配下にあったときは、すべてが裏でつながっていて、正しいことが通らないという理不尽な状況にあったんだろうということがショックでもある。それで言うことを聞かなければ暴力だ。その行き詰まった感じ、絶望感、恐怖、悔しさは良く伝わってくる。気持ちが悪くなるほどに。

 カラーの色が濃く、絵に力がある。音もクリアだ。デジタルも使っているだろうが、映画のために作られた小さな山村は見事で、いちだんと高いところにある城のような村長の家も映画的で素晴らしい。主要な登場人物たちの年月を経た老けメイクも説得力がある。ただ、どうにも説明不足というか、わかりにくい。雑貨店にいる謎の女はどういう女なのか。どこから来たのか。そしてレイプされた女はどこへ行ってしまったのか。どういう関係だったのか、よくわからない。説明不十分。だいたいどの人物も、161分も掛けながらほとんど説明不十分。だからあまりミステリーという気がしない。あまりに情報不足。推測、推理のしようがない。ただ、これで長く感じさせないのだから、その点はスゴイ。

 気になったのはラストで、監督は余計なことをしてしまったような気がする。意味あり気にその人物がニヤリとする必要はなかったのではないだろうか。表示用を変えず普通にしていれば良かったのに。ニヤリとしたので別な意味が生まれ、ブレてしまった。スッキリ終われなくなった。印象的には、ちょっとマイケル・ジャクソンのビデオ・クリップ「スリラー」みたいな感じ。

 徹底的な悪、チョン・ヨンドク刑事を演じたのはチョン・ジェヨン。驚きの血みどろコメディ?「クワイエット・ファミリー」(The Quiet Family・1998・韓)にも出ていたらしいが、どの役だったか。家族以外だったことは確か。金日成暗殺計画を描いた「シルミド/SILMIDO」(Silmido・2003・韓)にも、班長役で出ていたという。また不思議な戦争ファンタジー「トンマッコルへようこそ」(Welcom to Dongmakol・2005・韓)では北朝鮮軍の指揮官リ・スファを演じていた。本作では、本当に悪いヤツを、いかにもいそうな存在感でリアルに演じていた。

 息子の二枚目、ユ・ヘグクを演じたのはパク・ヘイル。見ていないが「殺人の追憶」(Memories of Murder・2003・韓)に容疑者役で出ていたのだとか。ボクが見たものだと怪物ミステリー「グエムル―漢江の怪物―」(The Host・2006・韓)で、ソン・ガンホの弟、一家の次男を演じていた。

 カリスマ性を持った父ユ・モッキョン役はホ・ジュノ。見たことがあるなあと思ったら、消防隊員の活躍を描いたチェ・ミンスの「リベラ・メ」(Libera Me・2000・韓)や、漫画のような暴力高校を描いた「火山高」(Volcano High・2001・韓)で数学教師、「シルミド/SILMIDO」では囚人の特殊部隊員ではなく、正規軍の空軍兵士を演じていたらしい。

 韓国人っぽい容貌で、腰ぎんちゃく的ヘタレキャラクター、キム・ドクチョンを演じたのはユ・ヘジン。チャン・ツィイーが出た時代劇「MUSA―武士―」(The Warrior・2001・韓/中)7、女形芸人の悲劇を描いた時代劇「王の男」(The King and the Crown・2006・韓)などに出ている。

 ユ・ヘグクと犬猿の仲にある検事パク・ミヌクを演じたのはユ・ジュンサン。見ていないが、ちょっと話題になったホラー「友引忌」(Nightmare・2000・韓)に出ていたほか、TVが多いようで、最近はサスペンスの「リターン」(Return・2007・韓)という作品に出ていたらしいが見ていない。見た気がするんだが……。いい味を出していて、今後期待できそう。

 グループの性の奴隷となっていた雑貨店の謎の美女、インヨンジを演じたのは、ユソン。TVの活躍がメインのようだが、見たことがあるなあと思ったら、チェ・ジヒョンのホラー「4人の食卓」(The Uninvited・2003・韓)に出ていた。見ていないが、他に日本でも映画化された日本の小説が原作の「黒い家」(Black House・2007・韓)にも出ているらしい。美人。

 原作はウェブ連載されたユン・テホの漫画作品なんだとか。それを脚本にしたのはチョン・ジウ。過去には監督もしているようだが、最近はほとんどTVの脚本の仕事。ロマンチック・コメディ系が多い気がするが、はたして本作にふさわしい人選だったのか。

 監督はカン・ウソク。「シルミド/SILMIDO」の監督だ。それ以降、日本ではパっとしない感じだったが、本作が公開されたと。「シルミド/SILMIDO」も2時間越えで、だいたいこの人の作品はみな長いようだ。

 公開初日の初回、銀座の劇場は「桜田門外ノ変」のあとでのスタート。全席指定で前日に確保しておいて、20分前くらい前に着いたらロビーには15人くらいの人。ほぼ中高年で、女性は1/3くらい。前回終了後、清掃があって、15分前くらいに入れ替え。最終的には350席に2.5割りくらいの入り。ジイさんが増えたが、これはちょっと少ないかも。関係者らしき一団が10人以上もうしろに鈴なり。多いって!

 まあ、あいかわらずマナーは悪く、あるジジイは途中でケータイを鳴らし、堂々とメールを見てまぶしいほどの液晶画面の灯を周囲にまき散らしていた。まったく年齢も関係ないなあ。バカはバカ。注意なんか全然聞いていない。

 カーテンが左右に開いてやや暗で始まった予告編で気になったのは……「LOST」のキム・ユンジン主演の実話に基づいた女子刑務所の話「ハーモニー」はなかなかタイトルが出ずイライラした。あとはアニメとヒーローもの……。うーむ。


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