Saigo no Chushingura


2010年12月18日(土)「最後の忠臣蔵」

2010・ワーナー・ブラザース映画/電通/角川映画/日本衛星放送/レッド・エンタテインメント/角川書店/Yahoo! JAPAN/メモリーテック/読売新聞・2時間13分

ビスタ・サイズ/ドルビー・デジタル



公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/chushingura/main.html
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

赤穂浪士、吉良邸討ち入り事件から16年後のこと、討ち入りした四十七士の1人、寺坂吉右衛門(佐藤浩市)は、大石内蔵助(片岡仁左衛門)から「事件の真実を後世に伝え、浪士の遺族を援助せよ」との特命を受けて生き残り遺族を探して全国を回っていたが、ついに最後の1人の浪士の遺族に預かった小判を手渡した。そんなとき、討ち入りの前夜、逐電した家臣の1人、親友だった瀬尾孫左衛門(役所広司)の姿を見かける。瀬尾は命惜しさに逃げたと思われていたが、親友の寺坂だけはそれが信じられないでいた。一方、瀬尾もまた大石の密命を受けて生き残り、大石の愛人の娘、可音(桜庭ななみ)を密かに育てていた。そんなある日、瀬尾と可音が芝居見物に行くと、豪商「茶屋」(笈田ヨシ)の息子、修一郎(山本耕史)が見初め、瀬尾にその女性を探し出してくれと依頼する。

73点

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 武士の死の物語。「武士道というは死ぬことと見つけたり」。直接仕えている君主に命をくれと言われたら、最後には死ぬしかない。この結末は見えているわけで、どうにか予想もしない方法でこの男を生かすどんでん返しがあるのではないかと見ていたが、なかった。とても感動的な話で、たくさんの人がクシュクシュやっていたが、わかりきったラストにいたるというのは、どうだろうか。もちろん原作があってのことだから、簡単に結末を換えることはできないだろうが、あまりに結末が始まった瞬間からわかっているというのも、いかがなものかと。

 とにかく泣けるのは16年間、愛情を掛けて育てた娘が、嫁ぐシーン。父親代わりの男と、血のつながらない16歳の娘の微妙な関係。ちょうど父親を嫌っても良い年ごろだろうし、逆に反抗期をすぎると父が理想の男性像にもなるというその微妙なあたり。娘はたくさんの習い事をし、武家の娘としての素養、礼儀、心構えまでしっかりと身につけ、実にまっすぐ、気立て良く、しかも美人に育っている。だから泣ける。父親代わりの男の気持ちも伝わってくるし、嫁ぎたくない娘の気持ちも良く伝わってくる。嫁ぐ前に一生懸命、父代わりの男のために着物を仕立てる娘の姿など、ヤバイ。コテコテではあるが、やられる。いくら江戸時代とは言え、こんな理想的な父と娘の関係なんてあるんだろうか。

 嫁入りの行列に、次々と赤穂関係者が加わり、瀬尾が汚名を雪ぐシーンも感動的だった。まるで「踊る大捜査線THE MOVIE」(1998・日)で青島刑事が負傷して室井さんの車で病院に向かうシーンのよう。数人で始まった行列が大行列になる。ただ、こういう状況なら、瀬尾がずっと事情を秘匿しておく必要があったのかどうか。

 人形浄瑠璃から始まり、その後も頻々に引用されていく。しかも、皆で芝居見物に行くのが、この浄瑠璃、「曽根崎心中」だ。女郎と醤油商の手代の男の心中譚。死に至る物語。

 気になったのは、若旦那がちゃんとした男なのかどうか。映画だけではわからない。これを見ていると、たぶん多くのオヤジは自分が花嫁の父になったような気分になるのではないかと思うが、嫁いだ後うまくやっていけるのかどうか心配になってしまう。豪商の二代目だし、放蕩息子ではないのか。嫁が何でもできて、ドメスティック・バイオレンスに走ったりしないのか。妾をたくさん囲ったりはないか……。若旦那はほとんど描かれていない。

 また美しい日本らしい季節の風景がとらえられていることも見逃せない。大変な時間がかかっているはずだ。秋の紅葉、ススキ、冬の雪景色……そして多くの日本映画と違って、色が濃いめなのがいい。映像に力がある。

 とにかくかわいかったのは可音役の桜庭ななみ。庶民のようにストレートに「ありがとう」とは言わずに「ありがたく思います」というような皇族的な言葉遣いなどがまた合う。2008年のミスマガジンで、いちばんイメージが強いのはサントリー「なっちゃん」のCMだろうか。素直に育ったお嬢さんという感じが抜群。泣かせてくれる。なんと1992年生まれというから驚く。

 瀬尾孫左衛門を演じた役所広司はもうベテランで何も言うことなし。最近はCMから何から出まくりという印象。つい最近「十三人の刺客」(2010・日)に出ていたばかり。「突入せよ!「あさま山荘」事件」(2002・日)なんかも良かったが、ちょっと古くは「KAMIKAZW TAXI」(1995・日)の訛りのある日系人役が良かったなあ。

 原作は池宮彰一郎の同名小説。これを脚本にしたのは田中陽造。デビュー作は具流八郎のグループ名による「殺しの烙印」(1967・日)だそうで、谷ナオミの「花と蛇」(1974・日)なども手掛け、「肉体の門」(1977・日)、「セーラー服と機関銃」(1981・日)、「めぞん一刻」(1986・日)と実に様々な作品を書いている。最新作は「ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜」(2009・日)。

 監督は。TV「北の国から」の演出家、杉田成道。「ヴィヨンの妻……」や「誰も守ってくれない」(2008・日)では製作も担当している。やっぱり泣かせはうまいなあと。

 公開初日の初回、新宿の劇場は全席指定で、前日に確保しておいて、30分前暗くらいについてコーヒーを飲みながら待つと、12〜13分前に開場。ほぼ高齢者で、TVの「北の国から」世代か。若い人は2〜3割りいたか。男女比は6対4くらいで男性の方が多かった。最終的に157席はほぼ満席。小さい劇場なのでこんなものか。

 ほぼ暗くなって始まった予告編で気になったのは……名匠イーストウッドの最新作は上下マスクの「ヒアアフター」。予告だけでも面白そう。見たい。霊が見える男をマット・デイモンが演じるらしいが、デザスター・ムービーのような大災害スペクタクル・シーンもあるらしい。人は死んだらどうなるのか。これは見なければというか、見逃してはならない感じ。

 マット・デイモンの盟友ベン・アフレックの最新作は、上下マスクの「ザ・タウン」。どうやらクライム・ムービーらしい。FBIと凶悪犯罪者の戦いを描くらしい。これも面白そう。


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