Kick-Ass


2010年12月22日(水)「キック・アス」

KICK-ASS・2010・英/米・1時間57分

日本語字幕:手書き書体下、表記なし/シネスコ・サイズ(マスク、Super 35、Panavision G-Series)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(英15指定、米R指定、日R15+指定)

公式サイト
http://www.kick-ass.jp/
(音に注意。入ると画面極大化。全国の劇場案内もあり)

同級生のケイティ(リンジー・フォンセカ)に思いを寄せるコミック・オタクのさえない高校生デイヴ・リゼウスキ(アーロン・ジョンソン)は、母(エリザベス・マクガヴァン)を病気で亡くし、父(ギャレット・M・ブラウン)と2人でニューヨークで暮らしている。あるとき、コミック・ヒーローに憧れ、インターネットでコスチュームを注文すると、「キック・アス」と名乗って町の悪党を退治するヒーローになりきり、パトロールを開始する。そのころ、コスチュームを身に付けたヒーロー・スタイルの自警団を名乗るビッグ・ダディ(ニコラス・ケイジ)とヒット・ガール(クロエ・グレース・モレッツ)の親子コンビは、犯罪組織と戦うため、あらゆる武器や防具を揃え訓練を積んでいた。そして何ら格闘技もできず、防具も身に付けていないキック・アス/デイヴは町のちんぴらと闘い、重傷を負うが、その治療のため全身に金属を入れられ、多少痛みに強い体質になる。全快したキック・アス/デイヴは再びパトロールを始め、今度は2人を相手に戦う。全く強くないのだが、多くの目撃者が携帯ムービーを撮影し、YouTubeにアップしたことから人気が急上昇、TVでも取り上げられる。そして、彼をゲイと勘違いしたケイティが友達になって欲しいと近づいてきて、さらにビッグ・ダディとヒット・ガールからも連絡が入る。

84点

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 面白かった。リアル路線をメインに、凄絶な復讐劇と青春ロマンチック・コメディを見事に合体させたとんでもない映画。卑近な話から始まり、徐々にエスカレートしていって、最後にはちゃんとヒーローが登場し大活躍するファンタジーに仕上げている。それがすごい。

 普通だったら、ヒーローにあこがれる少年が厳しい現実に打ちのめされる暗い話になるか、単なる復讐劇で人を呪わば穴二つ的な悲惨な話になるか、あるいは勧善懲悪の現実感のないスーパー・ヒーローものになるか、「僕らのミライへ逆回転」(Be Kind Rewind・2008・英/米)的なオタク夢物語になるか、ただの恋人獲得青春グラフィティになるか、というところ、それらを全部合わせて、しかも映画的な大活劇に仕上げているのだ。これはビックリ。

 だから暴力は、普通のコミック・ヒーローものとは違ってかなりリアルで、ナイフは腹に刺さり、どす黒い血が流れるし、殴られれば痣ができ醜いほどに顔は腫れ上がる。腕も飛べば、生きたまま火をつけられたり、全身が破裂したりもする。だからせめて防刃スーツとか防弾チョッキを着ろと(ヒット・ガールとビッグ・ダディは身に付けている)。気持ち悪いほどの暴力表現。子供に見せるヒーローものじゃない。これが受け入れられないと、この作品は楽しめないかもしれない。

 オタクの高校生がチンピラ相手に叫ぶ。「僕は、みんなが暴力や悪事を黙っているのが許せない、みんな見ていて助けない」というのがグサリとくる。そして、観客はこのオタッキーなやつが単なるコスプレやコミック・オタクではないことに気付いてハッとする。このへんで、この映画はただモノではないなと。

 原作は、マーク・ミラー作、ジョン・ロミータ・Jr.画のコミック。読んだことはないが、こちらもかなりの暴力表現らしいから、けっこう原作に近いのかも。いやはや、秀逸な設定、ストーリーだと思う。すばらしい。

 ヒット・ガールを演じたのはクロエ・グレース・モレッツ。大人相手に壮絶な戦いを繰り広げているが、実際には1997年生まれの13歳。日本で言えば中学1年生だ。撮影時は小学生だったのかもしれない。それでこの暴力表現を演じきるとは。バタフライ・ナイフの扱いもうまいし。芸能界デビューは5歳の時だそうで、TVに出ていたらしい。劇場長編映画デビューはあのマイケル・ベイの残念なリメイク・ホラー「悪魔の棲む家」(The Amityville Horror・2005・米)で、末娘を演じたらしい。その後香港の名作をリメイクして残念に仕上がった「アイズ」(The Eye・2008・米/加)にも出ていたらしい。注目されたのは、アート系で公開され見ていないが「(500)日のサマー」((500)Days of Summer・2009・米)らしい。今後も期待の女優だ。ただ多くの子役のように芸能界に潰されなければいいが……。リンジー・ローハンとか、マコーレー・カルキンとか、エドワード・ファーロングとか、数え上げたらきりがない。

 ビッグ・ダディはニコラス・ケイジ。風采の上がらない感じが抜群。このところ良く出ているB級系の中では最も良かった作品ではないだろうか。最近だと良かったのは「NEXT−ネクスト−」(Next・2007・米)とか「ロード・オブ・ウォー」(Lord of War・2005・仏/米/独)、「ナショナル・トレジャー」(National Treasure・2004・米)あたりだろうか。

 さえない高校生のキック・アスを演じたのはアーロン・ジョンソン。1990年、イギリス生まれ。やはり10代から子役として活躍を始めたそうで、ジャッキー・チェンの残念なアクション「シャンハイ・ヌーン」(Shanghai Knights・2003・米/香)に若き日のチャップリン役で出ていたらしい。その後「幻影師アイゼンハイム」(The Illusionist・2006・チェコ/米)ではアイゼンハイムの子供時代を演じ、つい最近「ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ」(Nowhere Boy・2009・英/加)で主役のジョン・レノンを演じた。

 憎たらしいマフィアのボス、フランク・ダミコをクールに演じたのはマーク・ストロング。悪役の多い人で、最近も「シャーロック・ホームズ」(Sherlock Holmes・2009・米/独)や「ロビン・フッド」(Robin Hood・2010・米/英)で悪役を演じていた。この人が出るだけで怖いからすごい。

 その息子で、レッド・ミストを演じたのはクリストファー・ミンツ=プラッセ。いかにも少年らしい感じの人だが、実際には1989年生まれだからアーロン・ジョンソンと変わらない。2007年から毎年映画に出ているが、日本劇場公開作品はない。3Dアニメの「ヒックとドラゴン」(How to Train Your Dragon・2010・米)で声優にもチャレンジしているらしい。ヒネクレた感じがうまかった。

 マフィアの片腕、ビッグ・ジョーを演じたのは、マイケル・リスポリ。トミー・リー・ジョーンズの残念な火山映画「ボルケーノ」(Volcano・1997・米)や、ブライアン・デ・パルマ監督の「スネーク・アイズ」(Snake Eyes・1998・米)ではニコラス・ケイジと共演し、最近は「サブウェイ123激突」(Tha Taking of Pelham 123・2009・米/英)に出ていた。人の良い相棒か、下っ端のヤクザというイメージが多いか。

 キック・アスをゲイと勘違いする憧れのケイティはリンジー・フォンセカ。見た気がするのは多くの人気TVドラマに出ているかららしく、とうやら劇場作品で日本公開されるのは本作が初めてのよう。今後期待かも。

 悪徳刑事は「ターミネーター2」(Terminator 2: Judgement Day・1991・米/仏)で義理の親を演じたザンダー・バークレイ。最近は「96時間」(Taken・2008・仏/米/英)に出ていた。

 ホテルのドア・マンはちょい役なのにジェイソン・フレミング。「URAMI〜怨み〜」(Bruiser・2000・仏/加/米)や「ザ・グリード」(Deep Rising・1998・米)では悪役ではなかったが、「ボビーZ」(The Death and Life of Bobby Z・2007・米/独)や「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」(The Curious Case of Benjamin Button・2008・米)では悪役。コミカルな役も多く、いろんな役ができる人。

 脚本はイギリス生まれのジェーン・ゴールドマン。劇場長編映画のデビューはジェイソン・フレミングも出たファンタジーの「スターダスト」(Stardust・2007・英/米)。本作のヒットのおかげか、新作が3本控えている。どれもちょっとコミカルなものという感じだ。期待したい。

 監督および脚本は、製作も兼ねるイギリス生まれのマシュー・ヴォーン。初めはガイ・リッチーの「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(Lock, Stock and Two Smoking Barrels・1998・英)や「スナッチ」(Snatch.・2000・英/米)の製作を手掛け、自分の製作会社マーヴ・フィルムを作ってダニエル・クレイグのギャング映画「レイヤー・ケーキ」(Layer Cake・2004・英)から監督業にも進出。暴力系作品の後ファンタジーの「スターダスト」を手掛けて本作へ。「スナッチ」にはピラッド・ピットが出演していて、本作の製作会社がピラッド・ピットの「プランB」社で、ピラッド・ピット自身も製作の1人。

 公開5日目の渋谷の劇場は全席指定で、5日前に確保しておいて、30分前くらいに着いたら15人くらいの行列。水曜は一律1,000円のサービス・デイなので平日でも混むようだ。当日券はその場で席を選ぶので時間がかかる。結果列が長くなる。

 2/3は若い人で、時間が自由になる大学生か。1/3は中高年。1/3は女性でほとんどオバサン。やっぱり時間が自由になる人たち。最終的に219席ほぼすべて埋まった。なんとその次の回は平日だというのに立ち見だとか。こんなに人気のある作品をなぜこんな小さい劇場で掛けるのか。配給会社の問題か。

 ほぼ明るいままで、暗い場面は良く見えないまま上映された予告編で気になったのは……なかった。どれも敢えてみなくても良いか、レンタルで充分という感じ。うむむ。


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