Splice


2010年1月13日(木)「スプライス」

SPLICE・2010・加/仏/米・1時間44分(IMDbでは2009、公式サイトでは2008)

日本語字幕:丸ゴシック体下、種市譲二/ビスタ・サイズ(by Panavision)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(加14A指定、米R指定、日R15+指定)

公式サイト
http://www.splice-movie.jp/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

ニューステッド製薬の科学者、クライヴ・ニコリ(エイドリアン・ブロディ)とエルサ・カスト(サラ・ポーリー)は一緒に暮らしており、動物の遺伝子を使って人間に使えるタンパク質を作り出す新しい生物を生み出した。オスはフレッド、メスはジンジャーと名付けられ、遺伝子異常が原因の疾患を治療できる大発明として女性社長ジョアン(シモーナ・メカネスキュ)の承認を経て発表されることになった。クライヴとエルサはさらに一歩進めて、人間のDNAとスプライス(結合)させることによって、さらに進んだ生物を作りたいと希望したが、倫理的にも法律的にも許されないとして却下される。諦めきれない2人は、研究所の倉庫の中で実験を続け、ついに人間のDNAとのスプライスを成功させる。クライヴはそれで満足だったが、エルサは卵子に挿入して生物になるかどうか確認だけしたいと実験を続け、ついに生物が誕生する……。

73点

1つ前へ一覧へ次へ
 自己中心的な女と意志の弱い男のSFホラー。かなり怖い、というか気持ち悪い。ハラハラ、ドキドキもするが、かなり不快。クリーチャーが、まさに不気味の谷に入っているのと、主人公たちにちっとも感情移入できない点からも。そして、それらはおそらく計算されたものだろう。しかも、ハリウッド作品に比べたら、低予算だろう。登場人物も少なく、場所も限定されている。それでも、ここまでのSFホラーは作れると。

 とにかく主人公の2人がどうしようもない。最初はキャラクター設定のミスかと思ったが、最後まで見ていくと、どうも計算ずくでそんな人物にしたらしいことがなんとなくわかった気がした。これは、2人がとんでもない事態に発展した事件を解決しようとする物語ではなくて、そういう事態を引き起こしてしまった狂気と恐怖を描きたかったのではないか。解決がないわけではないが、めでたしめでたしでは終わらない。

 誕生した生物が、最初は芋虫のような肉塊なのに、徐々に人間っぽくなっていく過程が見事。しかも、非人間的な逆関節の足、しっぽなども備えていて、ちょっと両目が爬虫類的に離れているあたりもリアリティがあって怖かった。何かの病気でそういう顔になってしまった人のような感じ。そして、それはメスで、エルサが自分の遺伝子を使ったことから、凶暴なクリーチャーなのにだんだん顔まで似てくるところも怖かった。CGと特殊メイクを使ったすばらしい特撮技術。

 人間的なクリーチャーに毒針と凶暴性を持たせ、それでいて感情を理解する能力やセックスまでも取り込んだところがまたすごい。それらが合わさって怖さと不快感は高まっていく。

 意志の弱い男クライヴ・ニコリにエイドリアン・ブロディ。まさにピッタリのイメージ。「戦場のピアニスト」(The Pianist・2002・仏ほか)が最たるものだったが、「ジャケット」(The Jacket・2005・米/独)や「ハリウッドランド」(Hollywoodland・2006・米)も暗い方のイメージ。ちょっとマッチョな明るい方は「キング・コング」(King Kong・2005・ニュージーランドほか)や「プレデターズ」(Predators・2010・米)あたりだろうか。やっぱり本作のような役が似合っている気がする。

 自己中の科学者エルサ・カストはサラ・ポーリー。ヒロインという感じかと思ったらちょっと違った。むしろ悪役に近い。実際のところかなり武闘派らしく、高校時代から学生活動に参加し、警官隊と衝突して歯を折っているらしい。走るのが速いゾンビが登場した「ドーン・オブ・ザ・デッド」(Dawn of the Dead・2003・米)で主人公の看護婦を演じていた人。

 大人の生命体ドレンを演じたのはデルフィーヌ・シャネアック。フランス生まれの女優さんで、主にフランスのTVで活躍してきた模様。映画ではスティーヴ・マーチンの残念なコメディ「ピンクパンサー」(The Pink Panther・2006・米伊/チェコ)などに出ていたらしい。本作では非人間的な部分と人間的な部分を巧妙に演じていた。しかも全裸での熱演。今後にも期待したい。

 監督・脚本・原作はヴィンチェンゾ・ナタリ。あの傑作「CUBEキューブ」(Cube・1997・加)を撮った人。脚本・原作ではアントワネット・テリー・ブライアントも。本作が初めての脚本らしい。もう1人、脚本ではダグ・テイラーも参加。この人は日本公開作が少なく、半分はTV。

 ヴィンチェンゾ・ナタリはカナダのTVでアニメのスーリーボードを担当していた人で、ほかに理解不能な退屈映画「NOTHING[ナッシング]」(Nothing・2003・加)や、前半が退屈だった「カンパニーマン」(Cypher・2002・米)などを撮っている。本作は前半で観客を引き寄せられていない感じがするものの、なかなか面白かったと思う。だいたい観客に嫌悪の感情を持たせる作品が多い気がする。

 公式サイトでは8人いるエグゼクティヴ・プロデューサーの1人がハリウッドの敏腕、ジョエル・シルバーとあったが、IMDbでは入っていなかった。ただ製作会社の「ダーク・キャッスル」はロバート・ゼメキスとジョエル・シルバーが作った会社だが。もう1人、ホラー系の作品が多い監督のギレルモ・デル・トロはエグゼクティヴ・プロデューサーで参加。

 また撮影監督は永田鉄男。日本映画では「大停電の夜に」(2005・日)や合作の「レオニー」(Leonie・2010・仏/日ほか)、マリオン・コティヤールがオスカーを獲得した「エディット・ピアフ〜愛の賛歌〜」(La mome・2007・仏ほか)、最近公開された頭に銃弾を受けた男の物語「ミックマック」(Micmacs tire-larigot・2009・仏)などを撮っている。

 公開6日目のマチネー、新宿の劇場は全席指定ながら平日のなので、当日30分前くらいに到着して座席を確保。コーヒーを飲みながら待って15分前くらいに上の階へ。まもなく開場となって、場内へ。客層は学生くらいと中高年が半々くらい。男女比も半々くらいだった。最終的には228席の4割りくらいが埋まった。平日の昼間でこれは入っている方だろう。驚き。

 半暗になって始まった予告編で気になったのは……ジャン・レノのアクション「バレッツ」はなかなか面白そう。ただ、また前売り券なしらしい。マチネーで見るか……。


1つ前へ一覧へ次へ