Law Abiding Citizen


2010年1月23日(日)「完全なる報復」

LAW ABIDING CITIZEN・2009・米・1時間48分

日本語字幕:丸ゴシック体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(マスク、Super 35、Arricam)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米R指定、日R15+指定)

公式サイト
http://www.houfuku.com/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

フィラデルフィア。ある日クライド(ジェラルド・バトラー)の家に、ダービー(クリスチャン・ストールティ)とエイムス(ジョシュ・スチュワート)が押し入り、妻と幼い娘が惨殺され、自らは重傷を負ったもののかろうじて生き残る。2人は逮捕されたが、物的証拠がなかったため、有罪率96%を誇る敏腕検事のニック・ライス(ジェイミー・フォックス)は、裁判で負けるより有罪に持ち込むため司法取引をし、ダービーに手を下したのはエイムスだと証言させる。その結果エイムスは死刑となるが、ダービーはわずか3年で出所してしまう。実際には、手を下したのはダービーで、エイムスは早く逃げようと言っていた。クライドはそれを訴えるが聞き入れてもらえない。10年後、エイムスの死刑が執行されることになる。薬殺で苦しまずに処刑されるはずが、エイムスは「俺はやっていない」と言った後、全身の血管が浮き上がり、七転八倒して絶叫の中、息絶える。捜査の結果、何者かが薬品を入れ替えたことがわかり、ダービーの口癖の言葉「誰も運命には逆らえない」が残されているのが見つかる。

74点

1つ前へ一覧へ次へ
 「完全なる報復」ではなく「90%くらいの報復」だが、おもしろい。ショッキングなオープニングから始まって、ラストまで一気に見せる。目が離せない。強烈な悲しみと喪失感、そして司法制度や検事、判事への失望感が、観客にも良く伝わってきて、多分主人公の検察官より犯罪を犯している敵役の方を助けたくなってしまう。だから、ラスト結末はこれで良かったのか、という気になる。原題は「法に従う(善良な)市民」という意味らしい。

 ジェラルド・バトラー演じるクライドは覚悟の上での復讐であり、結末はこの男が死ぬことでしか付けられない。しかし、何か解決策はあるのではないかと、かすかな希望をいだいてしまう。もちろんニックの行為はやり過ぎで、法治国家では許されることではない。ただ、法律がシステムとしてでき上がってしまうと、その運用に隙を突くような行為が現れてくる。その1つが司法取引で、検事は裁判に持ち込んで争っても勝ち目がないと判断すると、有罪にするため犯罪者と取引を行う。刑期を短くする代わり自ら証言させるのだ。

 検事か犯人か、どちらが主人公かむずかしいところだが、ネーム・バリュー的には検事を演じるジェイミー・フォックスということになるのだろう。しかし見ているうちに心情的にはジェラルド・バトラーをメインに見てしまい、検事を悪役と見てしまう。だから、結末はいくつかあったのではないかと言う気がした。たとえば「完全なる報復」を遂げるパターン。

 なぜならこの結末はありきたりのパターン。主人公の方が犯人より頭が良く、最後には出し抜く。あまりに都合良過ぎで、伏線はあるものの、流れから行くと犯人は元国防総省の秘密工作員として仕事をしており、腕利きの職員がアイツは凄いというのだから、観客としては、こんなに簡単に裏をかかれるとは思わない。きっと最後に大どんでん返しがあるに違いないと思う。たとえば先に死んだと思われていた人が生きていて、協力していたとか。サラという新人検事なんかその第1候補だ。それまで完璧な罠を貼ってきた男が、こんなに簡単にやられてしまうなんて、納得が行かない。問題があるとすればそこだけか。

 ところどころ、あおりレンズを使った浅いフォーカスで、町がミニチュアのように見えるカットが何ヶ所かあったと思うが、どういう意図だったのか。

 復讐の鬼となるクライドはジェラルド・バトラー。この人はコメディ系よりこういうシリアスな役の方が良いと思う。「オペラ座の怪人」(The Phantom of the Opera・2004・英/米)のファントム役で知られるようになったが、ボク的にはほとんど印象に残っていない。むしろ「300〈スリーハンドレッド〉」(300・2007・米)が抜群に良かった。つい最近公開されたアクションの「GAMER」(Gamer・2009・米)は悪くなかったが、ジェニファー・アニストンとのコメディ「バウンティ・ハンター」(The Bounty Hunter・2010・米)ではラジー賞候補に挙げられている。使っていた銃はグロック、爆弾処理ロボットを改造した兵器のM2ブローニング(AT4ロケット・ランチャーも搭載)、要求するのはiPod。

 相手役の敏腕検事ニック・ライスはジェイミー・フォックス。トム・クルーズの「コラテラル」(Collateral・2004・米)でタクシー・ドライバーを演じて一気にメジャーになった人。その後レイ・チャールズを描いた「Ray/レイ」(Ray・2004・米)などメジャーな作品に出まくり、名優の域に。そのためか、この検事に事件の責任の一端がありながらも、最後は凄い敵の裏を簡単にかいてクライドをやっつけてしまう。使っていた銃はP226。

 上司の検事ジョナスはブルース・マッギル。コミカルな役から悪役まで広くこなす人。「コラテラル」ではジェイミー・フォックスと共演している。コメディの「愛しのローズマリー」(Shallow Hal・2001・米/独)にも出ていたし、シリアスな「ニューオーリンズ・トライアル」(Runaway Jury・2003・米)では判事を演じていた。最近では「バンテージ・ポイント」(Vantage Point・2008・米)に出ていた。

 実際に捜査をする刑事にコルム・ミーニー。悪役や刑事役が多い人。「ダイハード2」(Die Hard 2・1990・米)や「沈黙の戦艦」(Under Siege・1992・仏/英)、「ラスト・オブ・モヒカン」(The Last of the Mohicans・1992・米)、などにも出演。最近はTVが多いようだが、映画だとダニエル・クレイグのギャング映画「レイヤー・ケーキ」(Layer Cake・2004・)に出ていた。使っていた銃はグロック。

 判事が使っていたのはMacBook Pro。ほかに銃は、SWATがMP5、M4A1を使用。

 脚本はカート・ウィマー。アクション作品の多い人で、ちょっと前だとピアース・ブロスナンの犯罪もの「トーマス・クラウン・アフェアー」(The Thomas Crown Affair・1999・米)、監督もやったSFアクションの「リベリオン」(Equilibrium・2002・米)、スパイ・アクションの「リクルート」(The Recruit・2003・米)、残念な兼監督のSF「ウルトラヴァイオレット」(Ultraviolet・2006・米)、リアルなポリス・アクション「フェイク・シティ ある男のルール」(Street Kings・2008・米)、最近は「ソルト」(Salt・2010・米)などを手掛けている。概して脚本だけの方がいい感じ。ヒネリが効いたものが多い印象もあり、本作も途中まではいいのに、この最後のヒネリはなあ……。誰かが口を出したのか。

 監督はF・ゲイリー・グレイ。なんと傑作アクション「交渉人」(The Negotiator・1998・独/米)を監督した人。そのあとリメイク犯罪アクション「ミニミニ大作戦」(The Italian Job・2003・米/仏/英)や音楽業界仁義なき戦い「Be Cool/ビー・クール」(Be Cool・2005・米)を撮っている。どれもみな面白かった。ということは、本作ももっと面白くなっていたはずでは? プロデューサーが口を挟んだか。

 公開2日目の初回、銀座の劇場は初回のみ全席自由で、50分前くらいに到着。すでに劇場は開いていて、ロビーには待っている人が1人。35分前くらいから混み出して、30分前くらいに開場になった時点で20人くらいに。ほぼ中高年で、女性は3〜4人。じじ、ばばが目立っていた。やや若い人も増えて、10分前くらいで183席の7割りくらいの入り。最終的には9.5割りくらいの入りは立派。

 気になった予告編は……上下マスクの「ブラック・スワン」はなかなかタイトルが出ず、しかも内容も良くわからなかった。愛憎劇なのか。ダーレン・アロノフスキー監督作品だし……。

 上下マスク「英国王のスピーチ」はスピーチ下手な国王がスピーチに成功するという話なのか。現代の話かと思ったら第二次世界大戦開戦前夜の話らしい。キャストが豪華で面白そうだが、劇場がなあ……。

 大阪全停止という上下マスクの「プリンセス・トヨトミ」も面白そうな感じ。具体的な内容はさっぱりわからないが。堤真一だし。

 「SP」はパート2の予告開始。「GANTZ」は新予告に。何だ、完結じゃなくて続編があるのか。

 スクリーンが左右に広がって、ドルビーの機関車デモの後、本編へ。


1つ前へ一覧へ次へ