Wall Street: Money Never Sleep


2010年2月5日(土)「ウォール・ストリート」

WALL STREET: MONEY NEVER SLEEP・2010・米・2時間08分

日本語字幕:丸ゴシック体下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(マスク、Super 35、Arri)/ドルビー・デジタル、dts

(米PG-13指定)

公式サイト
http://movies.foxjapan.com/wallstreet/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

2001年、ゴードン・ゲッコー(マイケル・ダグラス)が出所した。7年後の2008年、ニューヨークの投資銀行ケラー・ゼイベルに勤めるジェイコブ・ムーア(シャイア・ラブーフ)は、IT会社に務めるゲッコーの娘ウィニー(キャリー・マリガン)と交際し、結婚を考えていた。ジェイコブのもっかの関心は次世代クリーン・エネルギーの開発で、顧客にも投資を勧めていた。ある日、社長のルイス・ゼイベル(フランク・ランジェラ)から呼び出しを受け、特別ボーナスをもらう。指輪を買ってウィニーに結婚を申し込めというのだ。そして誰かがウチの会社を陥れようとしているという話も聞く。そんなときリーマン・ショックが発生、ケラー・ゼイベル社はネガティブな噂から株価が暴落、金融界の大物ブレトン・ジェームズ(ジョシュ・ブローリン)に会社を乗っ取られてしまう。仕掛け人がブレトンと確信したジェイコブは、復讐するため自著のサイン会に出席していたゴードンのもとを訪れ、絶縁中の娘との間を取り持つ代わり、協力を要請するのだが……。

73点

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 うーん、ウォール・ストリートの証券マンの話というより、詐欺師の話のよう。まあ、敢えて言えばマネー・ゲームということにはなるだろう。実際の出来事を下敷きに、その舞台裏がこうだったのではないかという感じで語られる。劇中ゲッコーもこれはマネー・ゲームだと言っているし。

 それはあまりにもえげつないし、エゴむき出しで、倫理観のかけらも感じられない。復讐のような形で主人公は同じくマネー・ゲームを仕掛けるが、同じ手法では結局自分も憎むべき相手と同じではないか。しかも、リアルに描けばこんな終わり方はないだろう。エンターテインメントの結末としては多いにありだと思うが、現実的には起こらないと言わざるを得ない。製作サイドも葛藤があったのではないだろうか。リアルだったらうんざりする話になっていただろう。たっぷり人間の嫌な面を128分間も見せ続けられることになってしまう。

 そこに少しのファンタジーをプラスしたと。あるいはスニーク・プレビューで酷すぎるというので後味だけを改善させたとか。DVD化する時は別エンディングが収録されるとか……。

 ジェイコブ・ムーアを演じるシャイア・ラブーフが、やり手の証券マンには見えない。優柔不断で、頼りにならず、行動力を持つ人に振り回される感じが実に良くでている。ダメ男の感じ。だから当然の結果のように見える。だいたい前からそんな役が多い印象で、なんでこんなにもてはやされるのか理解に苦しむ。主役クラスをやるようになったのは、雰囲気重視の監督マイケル・ベイの「トランスフォーマー」(Transfoormers・2007・米)あたりから。スピルバーグがねえ……。その後も裏窓みたいな覗き男の「ディスタービア」(Disturbia・2007・米)、「イーグル・アイ 」(Eagle Eye・2008・米/独)、「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」(Indiane Jones and the Kingdom of the Crystal Skull・2008・米)と大した作品には出ていない。アメリカ受けする人なのか。ダメな男を演じさせたらピカイチということか。日本ではむずかしいと思うのだが。

 ゴードン・ゲッコー役はマイケル・ダグラス。前作を見ていないのだが、とにかくゼニゲバのような守銭奴ぶりがすごくて、逆に気持ち良いくらい。前作の「ウォール街」(Wall Street・1987・米)でアカデミー主演男優賞を受賞。歳とともに悪役が多くなってきたようだが、「ロマンシング・ストーン/秘宝の谷」(Romancing the Stone・1984・メキシコ/米)のころはヒーローだった。そしてプロデューサーとしても面白い作品をたくさん作っていた。どうも最近は今ひとつ。まあ67歳くらいになるとこんなものなのか。つい最近、喉頭がんを克服したばかりだとかいう話もあり、今後の活躍に期待したい。

 物語に爽やかさをそえてドロドロ感から救っているのが、ウィニーを演じたキャリー・マリガン。イギリス出身で、キーラ・ナイトレイの「プライドと偏見」(Pride & Prejudice ・2005・仏/英)や「17歳の肖像」(An Education・2009・英/米)のアート系に出演し、ジョン・デリンジャーを描いたギャング映画「パブリック・エネミーズ」(Public Enemies・2009・米)からハリウッドへ進出。「マイ・ブラザー」(Brothers・2009・米)にも出ている。かわいいし、独特の雰囲気がある人なので、これからが楽しみ。

 悪役ではあるが、やはりどこかに爽やかさがあって全体をうんざりするような雰囲気から救っているのはブレトンを演じたジョシュ・ブローリン。古くは少年冒険活劇「グーニーズ」(The Goonies・1985・)に子供の1人として出演していた人。その後TVを経て、「ミミック」(・1997)やハリウッド・リメイクの「ナイトウォッチ」(Nightwatch・1997・米)に出演。ホラーSF「インビジブル」(Hollow Man・2000・米/独)で強い印象を残し、「ノーカントリー」(No Country for Old Men・2007・米)ではもうベテランの演技。

 ブレトンの後ろ盾らしい老獪な老人ジュリー・スタインハルトを演じたのは、往年の名優イーライ・ウォラック。見るからに高齢という感じだが、まだ現役でがんばっている。最近ではイーストウッド監督の「ミスティック・リバー」(・2003・)くらいしか印象にないが、かつては「荒野の七人」(The Magnificent Seven・1960・米)の敵のボス、イーストウッドの「続・夕陽のガンマン」(Il buono, il bruto, il cattivo・1966・伊/西/独)、グレゴリー・ペックの「マッケンナの黄金」(Mackenna's Gold・1969・米)などの悪役として活躍。そしてスティーヴ・マックィーンの「ハンター」(The Hunter・1980・米)などにも出演。

 シャイア・ラブーフの上司、ルイス・ゼイベルを演じたのはフランク・ランジェラ。つい最近「運命のボタン」(The Box・2009・米)で謎の紳士を演じていたし、「フロスト×ニクソン」(Frost/Nixon・2008・米/英/仏)のリチャード・ニクソン役はまるで本人のようで抜群だった。古くはジョン・バダムの「ドラキュラ」(Dracula・1979・米/英)でセクシーなドラキュラを演じているベテラン。

 シャイア・ラブーフのの母親を演じたのは名優スーザン・サランドン。誰かに依存して生きている感じ、普通の勤めができないのにあちこち手を出して自滅してしまう感じが実に良く出ていた。タバコの吸い方もどこか娼婦っぽく嫌な雰囲気。古くは「華麗なるヒコーキ野郎」(The Great Waldo Pepper・1975・米)に女性パイロット役で出ていた。その後アカデミー主演女優賞候補となった「アトランティック・シティ」(Atlantic Cuty・1980・加/仏)を経て、「イーストウィックの魔女たち」(The Witches of Eastwoick・1987・米)や、ボクは好きではないがリドリー・スコットの犯罪ドラマ「テルマ&ルイーズ」(Terma & Louise・1991・米/仏)に出演、評価を上げていった。最近では傑作ロマンチック・コメディ「魔法にかけられて」(Enchanted・2007・米)の魔女役や、残念だった「ラブリーボーン」(The Lovely Bones・2009・米/英/ニュージーランド)に出演している。

 脚本はアラン・ローブとスティーヴン・シフ。アラン・ローブは数学でギャンブルに挑む「ラスベガスをぶっつぶせ」(21・2008・米)の脚本を手掛けた人。ほかに「僕が結婚を決めたワケ」(The Dilemma・2010・米)も手掛けている。どちらもそれほど評価が高いわけではないようだが……。スティーヴン・シフは、フランク・ランジェラも出たエイドリアン・ラインの「ロリータ」(Lolita・1997・米/仏)、イーストウッドの「トルゥー・クライム」(True Crime・1999・米)などの脚本を手掛けている。この作品にこの人選で良かったのだろうか。

 監督はオリヴァー・ストーン。恐ろしい実話にもとづく「ミッドナイト・エクスプレス」(Midhight Express・1978・英/米)の脚本でアカデミー脚本賞受賞。自らの実体験を元にしたベトナム戦争映画「プラトーン」(Platoon・1986・米)でアカデミー監督賞を受賞。このころ盛んにたくさんの作品が作られた。その中の1本が「ウォール街」だ。その時は脚本も手掛けている。本作では手掛けていない。最近は残念な古代スペクタクル「アレキサンダー(Alexander・2004・独/米ほか)や9.11事件を描いた「ワールド・トレード・センター」(World Trade Center・2006・米)などちょっとパッとしない感じ。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、前日に確保しておいて、30分くらい前に到着。17〜18分前くらいに開場し、場内へ。ほぼ中高年がメインで、女性は1/4〜1/3くらい。最終的には157席に8割りくらいの入り。話題作の割りには少ないなあ。だいたい小屋が小さいし。

 気になった予告編は……上下マスクの「ヒアアフター」は新予告に。とにかく面白そうで興味が湧く。早く見たい。画面が上下に狭まってシネスコ・サイズになってからの「ブラック・スワン」はいかにもアート系といった感じで、あまり食指が動かなかった。愛憎劇か……。

 「ガリバー旅行記」は日本語吹替の新バージョン。予告は面白そうだが、2010年のラジー賞最悪男優賞にこの作品でジャック・ブラックがノミネートされているからなあ。


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