日本語字幕:丸ゴシック体下/シネスコ・サイズ/ドルビー・デジタル(IMDbではドルビー・デジタルEX)
(一部字幕上映もあり)
1944年7月、サイパン。すでにアメリカ軍は上陸し、島のほとんどを占領していた。無益な万歳突撃を繰り返し、陸軍と海軍陸戦隊のわずかな生き残りと、収容所に入れられたら拷問され惨殺されると教えられていた民間人、200数十名はタッポーチョ山のジャングルに逃れた。アメリカ海兵隊は完全占領を果たすため、タッポーチョ山の一掃作戦を実行に移す。ところが大場大尉(竹野内豊)を指揮官とした日本軍はゲリラ戦により徹底抗戦。神出鬼没でなかなか捕らえることができない。やがてアメリカ軍は大場大尉をフォックスと呼ぶようになる。
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うーん、残念な映画。実話の映画化だが、日本映画なのに英語のナレーションというのもピンと来なかったし、これだけのお金を掛けて、これだけの俳優さんをキャスティングして、これだけの悲惨な戦いを描いた戦争映画で、悲しさも恐怖も、ほとんど何も伝わってこないというのが残念でたまらない。長い、退屈。のっけのタイトルも3D-CGで、ゲームのタイトルのようで違和感があった。しかも日本映画なのに、英語で字幕付きのナレーションから始まるし。最後に1人残った木谷曹長(山田孝之)はどうなったんだよう? 冒頭、当時の実写記録映像を見せた後の「プライベート・ライアン」(Saving Private Ryan・1998・米)を思わせるような戦闘シーンがまったく怖くない。ほかの必要ないと思われるシーンで手持ちカメラを使っているのに、この戦闘場面ではほとんどそれが印象に残らず、真横などから捉えられているため非常に客観的。ところどころトレーサーのような銃弾が見える効果も使っているのに、ちっとも戦闘の恐怖感が伝わってこない。かえって後から足したような「うぉー」とか「突撃」とかのセリフがわざとらしく浮いてしまって、まったく現実感がない。もっと「プライベート・ライアン」を研究して、あの弾丸が本当に飛んで来そうな戦場の怖さを出して欲しかった。サラウンドもセリフだけという感じだし……。 ほかのシーンでも恐怖感や緊張感が伝わってこない。客観的で一歩引いたところから見ている感じ。小さなエピソードが全くかみ合わず、バラバラに点在するだけで、各登場人物も描写が薄くて群像まで行かず、しかも主人公との絡みが希薄でバラバラ。おかげでどんなベテラン俳優、名優といわれる人もみんな演技が下手に見える。 累々と横たわる死体の山も怖さは全くなく、死体を演じているといった人たちといった感じ。血溜まりがあったり、ちぎれた手足があっても良い場面。悲惨さが全くないなんて……。もっとイーストウッドの「父親たちの星条旗」(Flags of Our Fathers・2006・米)や「硫黄島からの手紙」(Letters from Iwo Jima・2006・米)も参考にすべきだったのでは。良い手本はいっぱいあるのに。阿部サダヲ演じる英語が話せる民間人の元木が撃たれて倒れると、胸の辺りに穴があって、傷口の回りにちょっと血が染みた感じで、地面にちょっと血溜まり……撃たれた直後なら血があふれ出ていてもいいのでは。心臓が止まれば血が流れなくなるにしても、これではまるで死という記号だ。ほかでも、発砲側はあるのに、弾着表現が少なかったから、弾丸が飛び交っている感じがしなかったのだろうか。弾着は基本だと思うけど。 主役の大場栄大尉を演じたのは竹野内豊。「ロングバケーション」(1996)とか「ビーチボーイズ」(1997)などTVで活躍してきた人で、映画では最近「さまよう刃」(2009・日)に出ていたらしい。本作はキャリアにプラスとなるかどうか。使っていた武器は軍刀と、電着ぽかったがFNプローニング。 くりからもんもんの一等兵、堀内はスキンヘッドで登場の唐沢寿明。唯一存在感があったが、それでもかみ合っていない感じはあった。もともとうまい人なのに……最近は残念だった「20世紀少年」(2008・日)に主役のケンヂ役で出ていた。三谷幸喜作品が多い気がする。使っていたのはトンプソン。どうも実銃ベースのブロップ・ガンらしく、毎回指をトリガー・ガードの外に出していた。当時こんなことはやっていたのかわからないが、リアルではあった。バースト射撃やマガジン・チェンジもやって見せる。これらもほかの役者には見られず、好印象。撃ち方もうまかった。 男まさりの看護婦、青野を演じたのは井上真央。かろうじてキャラが立っていたものの、後半は尻切れトンボ。九六式か九九式軽機関銃を手にするが、撃たない。唐沢のトンプソンを持って暴発させるが。TVドラマの「花より男子」(2005)が有名だが、映画では「怪談」(2007・日)が良かった。 アメリカ軍の最初の指揮官、強硬派のポラード大佐はダニエル・ボールドウィン。俳優一家の次男で、B級が多い人。最近見たのは「パパラッチ」(Paparazzi・2004・米)だったか。若干安っぽい感じはするが、嫌らしい感じは良く出ていた。 その後任の指揮官はトリート・ウィリアムズ。この人もB級臭ぷんぷんで、アクションSFホラー「ザ・グリード」(Deep Rising・1998・米)では主演を張っていたが、60歳でさすがにもう歳か。ほとんどは日本劇場未公開。最近でメジャーなのは残念な続編「デンジャラス・ビューティー2」(Miss Congeniality 2: Armed & Fabulous・2005・米/豪)くらい。 日本を知る若き将校、ルイス大尉はショーン・マクゴーウァン。ほとんどTVで活躍する人で、「24」(2006)や「ボーンズ」(2006)、「CSI」(2011)などメジャー作品にゲスト出演している。アメリカ軍の登場人物でメインになる役柄の人だろうが、あまり印象に残らない。 原作はドン・ジョーンズの「タッポーチョ「敵ながら天晴」大場隊の勇戦512日」(中村定訳・祥伝社)。元アメリカ兵で、この戦いで実際に現場にいたらしい。 脚本は西岡琢也とグレゴリー・マルケット、チェリン・グラック。西岡琢也は、最近はTVムービーが多いようだが、古くは「ガキ帝国」(1981・日)とか「TATOO[刺青]あり」(1982・日)の脚本を手掛けた人。最近だとアニメの「火垂るの墓」(2008・日)や巨大航空会社「沈まぬ太陽」(2009・日)を書いている。グレゴリー・マルケットは監督、脚本、撮影もやる人で、最も多いのが脚本。本作が一番規模が大きいのでは。チェリン・グラックは本作のUS版の監督でもある。助監督をやっていた人で、日系人の血を持つ、和歌山生まれ。古くは「ブラック・レイン」(Black Rain・1989・米)や「ミスター・ベースボール」(Mt. Baseball・1992・米/日)など日本絡みのものが多い。最近は「トランスフォーマー」(Transformers・2007・米)や「20世紀少年」(2008・日)などで第2班の監督をやっている。監督デビュー作はアメリカ映画の日本リメイク「サイドウェイズ」(2009・日/米)。 監督は平山秀幸。「マリアの胃袋」(1990・日)で西岡琢也と仕事をしている。面白いホラー・コメディ「学校の怪談」(1995・日)、桐野夏生の傑作ミステリーの映画化「OUT」(2002・日)、時代劇ファンタジーの「魔界転生」(2003・日)、高村薫の傑作ミステリー「レディ・ジョーカー」(2004・日)なども手がけている。最新作は時代劇の「必死剣 鳥刺し」(2010・日)。いろんなジャンルがとれるようだが、本作は向いていなかったのかも。 ほかに出ていた銃器は、たぶん日本兵は三八式歩兵銃。ダスト・カバーが付いていた。ただマズル・フラッシュが赤っぽかったので、電着かもしれない。撃たなかったようだが、山田孝之演じる木谷曹長が南部十四年式を持っていた。ほかに九四式自動拳銃もあったかもしれない。アメリカ軍(USMCとあったので海兵隊)はM1ガーランド、バイオネット・ラグの付いたM1カービン、トンプソンM1とM1A1、ブローニングM1919マシンガンなど。ただアメリカ軍のものはどれもきれいすぎて、戦場で使ったというより手入れの行き届いたミュージアム・スタッフといった感じがした。ミリタリー・アドバイザーがついていたようなので、服装や所作などはリアルだったのではないだろうか。こういう予算をとれる映画は少ない。それなのに、なぜ……。 公開2日目の初回、新宿の劇場は前席指定で、前日に確保しておいて、30分前くらいに付いたら劇場自体が開いていなかった。並んで待つと25分前くらいに入口が開いた。コーヒーを飲みながら待つと15分前くらいに開場。下は大学生くらいから、中高年まで、割りと幅広く万遍なくいた感じ。男女比も半々くらい。女性が多かったのは竹野内豊のおかげだろうか。最終的には127席がほぼすべて埋まった。満席とはいえ127席だからなあ。 気になった予告編は……「星守る犬」は犬がかわいかった。内容は良くわからない。驚いたのはAKB48の前田敦子主演で「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」が映画化されるという。6月公開なんだとか。「SP」は銃の構え方がカップ&ソーサーで、スライドもスリング・ショットで引くし、残念な感じが……。大阪全停止という「プリンセストヨトミ」は内容はわからないが、気になる。 |