Akumareul boatda


2010年2月26日(土)「悪魔を見た」

I SAW THE DEVIL・2010・韓・2時間24分(IMDbでは141分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、大家毅彦/ビスタ・サイズ(Arri、IMDbではシネスコ)/ドルビー・デジタル

(韓18指定、日R18+指定)

公式サイト
http://isawthedevil.jp/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

人通りのない雪の夜道で若い女性が連れ去られる。数日後、河原で子供が耳を発見し、警察が捜索のすると頭部も発見されジュヨン(オ・サナ)であることが判明する。婚約者の国家情報局の捜査官スヒョン(イ・ビョンホン)は知らせを聞きぼう然とする。そして上司から休みを取れと言い渡されると、独自に捜査を始める。ジュヨンの父チャン(チョン・グクァン)は引退した重犯罪課の刑事で、警察の資料を入手することができた。そこには4人の容疑者がリストされていた。スヒョンは1人1人追いつめていき、拷問で自供を取り犯人がギョンチョル(チェ・ミンシク)であることをつきとめる。

75点

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 エロ、グロ、暴力、血飛沫満載。人間性のかけらもない悪魔のような異常犯罪者と、それを追い復讐の鬼となった男の血みどろの戦い。映画としては大変良くできているが、かなり気持ち悪い。まさにその殺戮の現場に立ち会ったかのような不快さ。それが実に良く伝わってくる。恐ろしい。とにかく半端ない。これでもからと被せてくる暴力。日本人的な想像を絶する。これがリアルな犯罪の現場だろう。

 とんでもない犯人だが、その犯人に対して「目には目を、歯には歯を」で復讐しようとするのは韓国的なものか。そしてものすごい暴力表現。「親切なクムジャさん」(Sympathy for Lady Vengeance・2005・韓)や日本原作の「オールド・ボーイ」(Oldboy・2003・韓)、「チェイサー」(The Chaser・2008・韓)などと共通するものがある。日本の場合は暴力というより「告白」(2010・日)系の精神的に追いつめていくパターンか。欧米だと恐ろしい殺戮者は場所を移動する点では「ファニー・ゲームU.S.A.」(Funny Games U.S.A.・2007・米)系で、復讐は「完全なる報復」(Law Abiding Citizen・2009・米)あたりか。「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」(Sweeney Todd: The demon Barber of Fleet Street・2007・米/英)や「ラブリーボーン」(The Lovely Bones・2009・豪/米ほか)もあるが……この違い。

 通常、映画的な表現として、振り降ろされる刃物が写って、次のカットで転がる頭や手などが写されるが、韓国のこの種の映画は刃物やハンマーが食い込むまで描く。日本のように血がドバっと飛び出るのと違って、顔や壁にちょっと血飛沫が飛ぶくらい。その後、下水からどっと血が流れてきたりして、派手さはない分リアルに怖い。この表現。

 少年が河原で耳を発見するのはデヴィッド・リンチの恐ろしい傑作「ブルーベルベット」(Blue Velvet・1986・米)へのオマージュだろうか。

 主演のイ・ビョンホンは、彼らしくクールな諜報員という役だが、職務上得たであろう格闘技や追跡術、ハイテク機器を駆使して犯人を追いつめる。復讐の鬼となって、自らが悪魔になっていく感じや、非情さがハンパなく、かなり怖い。TVドラマから劇場作品も作られた「アイリス -THE LAST-」(Iris: the Movie・2010・韓)と被る部分も少しある。残念なハリウッド作品もあったが、ボク的には「グッド・バッド・ウィアード」(The Good, the Bad, the Weird・2008・韓)や「甘い人生」(A Bitter Sweet Life・2005・韓)、「JSA」(JSA: Joint Security Area・2000・韓)などが良かったなあ。

 とにかく凄いのは異常犯罪者を演じたチェ・ミンシク。凄いことを無表情で淡々とやる。決して感情的な爆発とかがあるわけではない。それなのに恐ろしい。そしてリアリティがある。恐ろしいコメディ「クワイエット・ファミリー」(The Quiet Family・1998・韓)でいんちき臭いおじさんをいやらしく演じていた。また暴力に満ちた「オールド・ボーイ」(Oldboy・2004・韓)では監禁されハンマー1本で復讐に向かう姿が鬼気迫ってすごかった。「親切なクムジャさん」ではやはり異常犯罪を演じ、無残に殺される役で、命ごいしないあたりもすごかった。それが本作にも通じているかなと。この人はすごい。ホントに異常者に見える。ウンコの中からGPSのカプセルを取り出すし、それがまた超リアルで……。臭ってきそう!

 ギョンチョルの異常者仲間テジュはチェ・ムソン。「セブンデイズ」(Seven Days・2007・韓)や「ベストセラー」(Best Seller・2010・韓)に出ているらしいが見たことがない。この人もちょっと見にはコミカルな感じだが、かなり怖かった。

 銃は、金持ちの別荘のような家に水平二連ショットガンがあり、これをぶっ放す。なかなかの迫力。そしてギョンチョルが運転する車のルーム・ミラーに光る天使の羽が付けてあるのが怖かった。

 脚本は、公式サイトには表記がないが、IMDbによるとパーク・フンジュン。劇場作品の脚本は初めてのようだ。これだけ壮絶な物語を書けるのだから、次回作にも期待できそう。次も凄かったら本物だ。

 監督はキム・ジウン。1964年生まれの47歳。素晴らしい才能の持ち主だと思う。なんと「クワイエット・ファミリー」で劇場映画の監督デビュー。話題になったソン・ガンホのコメディ「反則王」(The Foul King・2000・韓)、一時ブームになった韓国ホラーの中でもかなり怖かった血まみれの「箪笥〈たんす〉」(薔花、紅蓮・2003・韓)、ヤクザ・アクション「甘い人生」、韓国版西部劇「グッド・バッド・ウィアード」などを脚本・監督している。この人が監督すれば、どんなジャンルであろうと、多分はずれはない。

 公開初日の初回、新宿の劇場は全席自由で、大丈夫だろうと高をくくって35分前くらいに着いたら、まさかの長蛇の列。たぶん80〜90人くらい。95%はオバサン。韓流ファンというヤツだろう。これはビックリ。30分前くらいに4列に整列させられ、まもなくたぶん100人越え。25分前くらいに開場した。

 初日プレゼントがあり、クリア・ファイルをもらった。

 最終的に1,064席に6〜6.5割りほどの入り。あれだけ並んでいた割に少ないのは、ほとんど韓流ファンのみということだろう。あちこちでケータイを使っているし、ぺちゃくちゃ大声で話してうるさいし、オバサンはなあ……。

 終わった直後、あるグループのリーダーらしいオバサンがすぐにひと言。「いい映画ねえ」とにかくファンは誉める。誰かが最初に褒めると、あとはけなしにくくなる。ただし、さすがに楽しい映画ではないので誉める箇所がなかったらしく「音楽が「甘い生活」みたいに素敵ねえ」と、音楽を誉めたか。たぶん韓流ファンが見たくなる映画ではないと思う。一般の人も元気な時でないと辛いと思う。

 気になった予告編は……明るいまま上映されたので、どれも見難いって! 上下マスク、ドニーイェンの「孫文の義士団」はなかなか面白そう。見たいが、上映劇場がなあ……。

 上下マスクの「ツーリスト」は新予告に。面白そう。ただ暗いシーンが良く見えない。どうにもくだらない感じがしたのは上下マスクの「ジャッカス3D」くだらないと宣伝していてくだらないからラジー賞候補にならなかったのか。でも3Dの必要なんてないのでは。

 そして、またまたマーベル・コミックのヒーローもの、上下マスクの「マイティ・ソー」は「アイアンマン」にも出ていたシールドのエイジェントがいて、ナタリー・ポートマンが出ている。そしてやっぱり3Dなんだと。それにしてもタイトルを出すのが遅い。最後に一瞬だけだからメモを取らないと覚えられない。何のための予告なのか。

 日本語吹替の3D-CGアニメ「少年マイロの火星冒険記」はなかなか面白そうだったが、どうも子供向けの作品らしい。ちょっとロバート・ゼメキスの匂いが……。


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