Agora


2010年3月5日(土)「アレクサンドリア」

AGORA・2009・西・2時間07分(カンヌ版は141分)

日本語字幕:手書き風書体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(マスク、Arri、Super 35)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米R指定)

公式サイト
http://alexandria.gaga.ne.jp/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

西暦391年、エジプト、アレクサンドリア。そこには世界の七不思議の1つといわれることになる大灯台があり、立派な図書館があった。その図書館長テオン(マイケル・ロンズデール)を父に持つ、娘の哲学者ヒュパティア(レイチェル・ワイズ)は上流階級の子息に学問を教えていた。そんなある日、古代の神々を信じる裕福な人々と、新興宗教であるキリスト教を信じる貧しい人々の間で小競り合いが起こり、日ごろの不満も重なって事態は拡大、暴動へと発展する。古代の神々を信じる裕福な人々は図書館にたてこもり、膠着状態となる。事態を重く見たクリスチャンのローマ皇帝は、図書館を開放すれば罪に問わないとする裁定を下す。そしてなだれ込んだクリスチャンたちは巻物を次々と燃やしていく。数年後、アレサンドリアではユダヤ教とキリスト教のみが認められていた。そして、今度はクリスチャンによるユダヤ教の弾圧が始まる。

75点

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 凄い映画だと思うが、同じレイチェル・ワイズが出た「ナイロビの蜂」(The Constant Gardener・2005・英/独)のように何とも重い。どうして人は違うというだけでこうも簡単に憎みあうことができるのか。どうして、すぐ暴力で解決しようとするのか。そして妄信の恐ろしさ。

 セットというか、町の景観は素晴らしい。これは大画面で見る価値がある。3D-CGなんだろうが、実に素晴らしい。まるで本当にそんな大きなセットを組んだみたいに見える。カメラが引けば、町全体が見える。さらに引いて地球全体まで行ってしまうのは、何か意図があるのだろうが、せいぜいコップの中の荒らしというか、人間は取るに足りない小さな存在ということくらいしか感じられなかった。

 観客は127分間、ずっと居心地の悪さを感じ続けることになる。閉塞感、差別、裏切り、無知、傲り、不寛容(イントレランス)……まさに映画「イントレランス」(Intlerance: Love's Struggle Throughout the Age・1916・米)と通じる部分もある。終わるとホッとする。やっとここから出られる。よくできた映画だと思うし、こういうことがあったと言うことを知っておくことも重要だろう。ただ、貴重な休日に高いお金を払って、これでいいのかという気もする。

 演出的には神の視点、俯瞰が多用されている。それも宇宙レベル。そして、人々の群れである群衆も何度も登場する。群集心理というヤツ。そして虫のアリもアップで登場し、群衆とアリの相似が示される。やや作為的というか、お説教臭いというか。

 主演のヒュパティア役のレイチェル・ワイズは、全裸になってがんばっている。あまりエロくないのは監督の意図だろう。エロにしてしまうと映画全体の調子を崩してしまう。冒険活劇「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」(The Mummy・1999・米)やスナイパー映画「スターリングラード」(Enemy at the Gate・2001・米/独ほか)、法廷サスペンス「ニューオーリンズ・トライアル」(Runamwy Jury・2003・米)なんかが良かったなあ。しかし最近はいまいちな感じも。イギリス出身で、夫は監督のダーレン・アロノフスキー。

 誤った判断を下すヒュパティアの父テオンを演じたのはパリ生まれのマイケル・ロンズデール。どちらかというと悪役が多い人。1950年代から活躍している大ベテラン。本作ではチョイ役だが、さすがに存在感がある。もっと重要な役のような気がした。古くは傑作暗殺映画「ジャッカルの日」(The Day of the Jackal・1973・英/仏)や、「007/ムーンレイカー」(Moonraker・1979・英/仏)の敵のボス、歴史ミステリー「薔薇の名前」(Der Name der Rose・1986・仏/伊/独)、ハード・アクション「RONIN」(Ronin・1998・英/米)、最近はテロ映画「ミュンヘン」(Munich・2005・米/加/仏)など。この人がチョイ役かあ。

 密かにヒュパティアに憧れる奴隷で、のちにクリスチャンとなり敵対することになるダオスは、マックス・ミンゲラ。映画監督のアンソニー・ミンゲラの息子。リアルな政治サスペンス「シリアナ」(Syriana・2005・米)や、つい最近話題になった「ソーシャル・ネットワーク」(The Social Network・2010・米)に出ていた。本作では憎たらしい感じが良く出ていた。

 キリスト教を布教し火渡りを見せる男アンモニオスは、テロリストとの戦いを描いた「キングダム/見えざる敵」(The Kinfdom・2007・米/独)で現地の警察官を演じていたアシュラフ・バルフム。つい最近、戦車の中だけで物語が進行する「レバノン」(Lebanon・2009・イスラエルほか)にファランヘ党員役で出ていた。怖い感じが凄い。

 脚本はマテオ・ヒルと監督のアレハンドロ・アメナーバル。マテオ・ヒルはずっとアレハンドロ・アメナバールと一緒にやっている人で、大学の殺人事件を描く「次に私が殺される」(Tesis・1996・西)や、ハリウッドでリメイクされた「バニラ・スカイ」(Vanilla Sky・2001・米/西)の元ネタの「オープン・ユア・アイズ」(Abre Los Ojos・1997・西/仏/伊)、小劇場で見なかった「海を飛ぶ夢」(Mar adentro・2004・西/仏/伊)などの脚本を手掛けている。監督もやっていて、日本公開されたのは「パズル」(Nadie conoce a nadie・1999・西)。これも小劇場での公開ではなかったか。なので見ていない。

 監督はアレハンドロ・アメナーバル。脚本のほか音楽も手掛ける人だが、本作はやっていない。 「次に私が殺される」、「オープン・ユア・アイズ」のほか、自らの脚本による傑作ホラー「アザーズ」(The Others・2001・米/西/仏/伊)を監督している。本作は悪くないんだけど……。

 公開初日の初回、新宿の劇場は全席指定で前日に確保、30分前ほどに着くと片方の入口が閉鎖。もう片方の入口にも長い行列が。劇場自体は開いているのに、おかしいなと思ったらガンダムの行列だとか。何か特別に販売していたらしい。さらにロビーに行くとここも大混乱。チケット売り場にも長蛇の列。さらにグッズ売り場には長、長、長蛇の列。いつもあるイスがすべて取り払われ、仕切りのテープが張られていた。並んでいるほとんどが若い男性。アニメ・ファンの方々で、異様な雰囲気。トイレに行ったらトイレの中まで行列ができていた。

 15分前くらいに開場し、場内へ。あれだけ込んでいても皆ガンダムなので、こちらは20人ほど。ほぼ中高年の男性で、どちらかというと高齢者寄り。「すいません」と言いながら堂々と割り込むオヤジがいて驚いた。女性はわずかに2〜3人。

 最終的には157席に30人くらい。関係者らしい人は3人ほど。もう少し入ってもいい気はするが、まあ、こんなものだろう。

 気になった予告編は……新しいものがなく、見飽きたようなものばかり。ソフィア・コッポラの「somewhere」はどうにもかったるい感じがするし……「ブラック・スワン」はうんざりな感じだし……。

 スクリーンの上下が狭まってシネスコ・サイズになってから「ザ・ファイター」の予告。こちらもちょっと重い感じだが、希望のお話のようでそこに期待が持てる。


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