The Fighter


2010年3月26日(土)「ザ・ファイター」

THE FIGHTER・2010・米・1時間56分(IMDbでは米版115分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、林 完治/シネスコ・サイズ(テクニスコープ、2-Perf)/ドルビー・デジタル、dts

(米R指定、日PG12指定)

公式サイト
http://thefighter.gaga.ne.jp/
(音に注意、全国の劇場リストもあり)

1993年、ディッキー・エクランド(クリスチャン・ベール)はHBO TVの取材を受けていた。1978年にボクシング・チャンピオンのシュガー・レイをダウンさせたとして地元ローウェルの誇りと呼ばれる英雄だ。しかし素行に問題があり、今は麻薬にも手を出し、家族からも疎まれる存在。ボクシングで家族を期待を担っている異父弟のミッキー(マーク・ウォールバーグ)のトレーナーをしているが、練習時間を忘れて来ないこともある始末。ある日、母親のアリス(メリッサ・レオ)が組んだ試合相手がドクター・ストップで変更となり、体重が9キロも重い相手と対戦することになり、散々な負け方で大けがを負う。そんな時、ミッキーは女性バーテンのシャーリーン(エイミー・アダムス)と出会い、恋に落ちる。ベガスからこっちに来てトレーニングしないかという声がかかる中、兄が事件を起こし警察に逮捕されてしまう。

75点

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 実話に基づいたドラマ。なりきり俳優のクリスチャン・ベールは、本作でもヤク中らしくげっそりとした感じで、ろれつも良く回らないような兄を熱演。どうも特殊メイクで頭の薄くなったさまも作っていたようだ。また子供のことを考えているようで考えていない身勝手な母を演じたメリッサ・レイも実にリアリティがあって、素晴らしい。2人ともアカデミー助演男優賞と女優賞をそれぞれ獲得している。ノミネートは他に5部門でも。

 試合の場面だけビデオ画質になるとか、インタビュー形式を最初と最後だけ使うとか、色彩や空気感に田舎町の1993年をよく出している感じとか、いいところがたくさんあるものの、ドラッグなどのネガティブな問題が大きく(アメリカでは対して大きくないのかもしれないが)、重い映画になっている。大逆転ボクシングもそれをはね飛ばすほどには高揚できない。アメリカ人なら楽しめるのかもしれないが、日本人的にはちょっと辛い方が大きい。スポ根として楽しめないというか。

 チャンピオンになるミッキーを演じたマーク・ウォールバーグはプロデューサーもやっている。作りたかった映画なのだろう。筋肉もりもりで、しかもパンチング・ボールがうまい。ハリウッドでは常識だろうが、かなりボクシングの特訓を積んだんではないだろうか。最近は日本でも専門家の訓練を受けるようになってきという話を聞くが、昔はどうだったんだろうか。本人はドラマで行きたいと思っているのかもしれないが、演技の上手い下手ではなく、やっぱりアクションの方が光っている気がする(本作もアクションといえばアクションだが)。このところ「ラブリーボーン」(The Lovely Bones・2009・米/英/ニュージーランド)や「ハプニング」(The Happening・2008・米/印/仏)などパッとしない感じ。やっぱり良かったのは「ザ・シューター/極大射程」(Shooter・2007・米)だなあ。

 兄のディッキーを演じてアカデミー助演男優賞に輝いたのはクリスチャン・ベール。特に最近良い作品に出続けている。「ダークナイト」(The Dark Knight・2008・米/英)、「パブリック・エネミーズ」(Public Enemies・2009・米)、「ミネーター4」(Terminator Salvation・2009・米/独ほか)、「3時10分、決断のとき」(3:10 to Yuma・2007・米)など。「マシニスト」(The Machinist・2004・西)や「アメリカン・サイコ」(American Psycho・2000・米)はショッキングだったが、「リベリオン」(Equilibrium・2002・米)や「サラマンダー」(Reign of Fire・2002・英/アイルランド/米)などハード・アクションも充分にいける人。まあ、それにしても「太陽の帝国」(Empire of the Sun・1987・米)の天才子役の人だから、俳優生活が長い。ちょっとはおかしくなっても不思議はない。

 母親のアリスを演じてアカデミー助演女優賞に輝いたのはメリッサ・レオ。本当にいそうな人で説得力があった。化粧をした普通の感じだと、もっとずっと若い感じだが、本作ではやり手ババアみたいな感じ。このギャップに驚く。実際は1960年生まれというから50歳。30歳くらいの息子がいてもおかしくはない。あまり見た記憶がない。映画ではロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが共演した「ボーダー」(Righthouse Kill・2008・米)や、トミー・リー・ジョーンズが監督した「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」(The Three Burials of Melquiades Estrada・2005・米/仏)、ダコタ・ファニングのホラー「ハイド・アンド・シーク/暗闇のかくれんぼ」(Hide and Seek・2005・米/独)に出ていたらしいが、TVでの活躍が多かったようだ。

 ミッキーの恋人シャーリーンを演じたのはエイミー・アダムス。やっぱりTVで活躍していた人で、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(Catch Me If You Can・2002・米/加)や「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」(Charlie Wilson's War・2007・米/独)に出ていたが、注目されるのは「魔法にかけられて」(Enchanted・2007・米)から。その後はちょっとドラマというかアート系になってパッとしない。キャラクターとしてはファンタジーが向いている気がする。

 脚本はスコット・シルヴァー、ポール・タマシー、エリック・ジョンソンの3人。スコット・シルヴァーは監督もやっているようだが、エミネムのヒット映画「8 Mile」(8 Mile・2002・米/独)を書いた人。ポール・タマシーは日本公開作品はないようだ。エリック・ジョンソンはストーリーと製作総指揮も兼ねていて、脚本は初めてのよう。

 製作総指揮の1人に映画監督のダーレン・アロノフスキーがいる。「π」(Pi・1998・米)や「レクイエム・フォー・ドリーム」(Requiem foe a Dream・2000・米)の人だ。作風は徹底的に暗い。「レスラー」(The Wrestler・2008・米/仏)は見ていないが、最も後味の悪い映画の1本に上げられている。

 監督はデヴッド・O・ラッセル。「スリー・キングス」(Three Kings・1999・米/豪)で脚本と監督をやり、マーク・ウォールバーグと仕事をしている。ただジョージ・クルーニーとはうまくいかなかったようだが。「ハッカビーズ」(I Heart Huckabees・2004・米/独)は日本公開されたようだが、ダスティン・ホフマンやジュード・ロウ、ナオミ・ワッツらが出ているのに全く記憶にない。これでもマーク・ウォールバーグを使っている。コメディ系が多い人なのだろうか。なぜ本作に監督に起用されたのか……マーク・ウォールバーグがプロデューサーだからか。

 公開初日の初回、新宿の劇場は全席指定で、前日に確保しておいて、30分前くらいに到着。15分くらい前に開場になり、場内へ。アカデミー賞を取ったからだろう、若い人から中高年まで幅広い客層だったが。やはりメインは中高年。男女比はさすがにボクシングということで、8対2で圧倒的に男性が多かった。最終的には301席の5.5割りくらいが埋まった。まあこんな感じだろう。

 気になった予告編は……香取慎吾の主演で「こち亀THE MOVIE勝鬨(かちどき)橋を封鎖せよ!」映画化されるらしい。うーむ、「座頭市」や「西遊記」は受けたんだろうか。

 ビックリしたのは上下マスクの「カウボーイVSエイリアン」。マンガっぽいタイトルなのに、ハリソン・フォードと007のダニエル・クレイグが出ていて、とても本格的な作り。どうエイリアンと結びつくのか、その点で興味津々。スピルバーグ製作。ハリソン・フォードは悪役のような感じで、キャバルリーを使っている。ダニエル・クレイグのブレスレットが凄い威力の武器で……。

 スクリーンが左右に広がって明かりが消え、本編の上映。


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