Shanghai


2010年8月21日(日)「シャンハイ」

SHANGHAI・2010・米/中・1時間45分

日本語字幕:丸ゴシック体下、栗原とみ子/シネスコ・サイズ(マスク、with Panavision、IMDbではレンズと)/ドルビー・デジタル

(米R指定、日PG12指定)

公式サイト
http://shanghai.gaga.ne.jp/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

1941年、日本軍による真珠湾攻撃を数ヶ月後に控えた緊張感溢れる上海の町。そこは各国列強が租界を築き、国籍ごとに棲み分けていた。アメリカ人の新聞記者ポール・ソームズ(ジョン・キューザック)はドイツから上海に赴任してくるが、実は友人でもある諜報員のコナー(ジェフリー・ディーン・モーガン)と会うためだったが、コナーは現れず、上海三合会のボス、アンソニー・ラティン(チョウ・ユンファ)の妻アンナ(コン・リー)とポーカーで勝負し、大敗する。そしてホテルに戻るとアメリカ大使館の海軍情報部のリチャート・アスター大佐(デヴィッド・モース)からの呼び出しで、コナーが殺されたことを知らされる。ポールは捜査を始め、コナーがラティンを追っていて、日本人の情報屋キタ(ベネディクト・ウォン)から情報を得ていたことを知る。さらに、ドイツ大使のミューラー夫人(フランカ・ポテンテ)のコネでドイツ大使館のーティテーに出世すると、アンナが夫のアンソニーと来ており、さらに日本海軍の諜報機関のタナカ大佐(渡辺謙)に紹介される。

74点

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 ドラマチックな時代を背景とした、豪華俳優陣による愛をめぐるミステリー。1941年という時、上海という場所、利害が入り乱れる様々な国の人々。そしてスパイ、軍隊。実に映画向きな内容。時代感も良く出ているし、お金もかかっていて豪華だし、配役も魅力的だし、実にいい雰囲気。ただ、肝心なミステリーの部分は、本当の動機はともかく、すぐに犯人の想像がつくので弱い感じがする。それ以外は良く出来ていると思う。

 1時間45分はちょうど良い感じで、その間、当時の雰囲気の世界に浸ることができる。アメリカ、ドイツ、日本、中国……退廃、贅沢、貧困、傍若無人な日本の軍隊と中国人レジスタンス、スパイ、どろどろの愛憎劇……。すごい。圧倒される。銃声は鋭く恐ろしい。血が飛ぶ。

 当時の上海を再現するため、室内シーンはほとんどロンドンで撮影されたらしいが、街はタイに巨大なオープン・セットを組んだという。列車はもちろん大型客船まで作られたのだとか。しかも登場する戦車(九七式?)は世界に2両しか現存しない動く本物らしい。銃器はニュージーランドから取り寄せたと公式サイトにあった。

 主演のジョン・キューザックはちょっと気弱な二枚目インテリに見えて、冷酷なスパイには見えないところがこの物語にはぴったり。スパイというより良い人そう。1980年代からずっと活躍を続けているが、まだ45歳。本作の前にディザスター・ムービーの「2012」(2012・2009・米)やホラーの「1408号室」(1408・2007・米)に出ていたがどちらも今ひとつ。ちょっと前の「“アイデンティティ”」(Identity・2003・米)や「ニューオリンズ・トライアル」(Runaway Jury・2003・米)は良かったんだけど。本作でちょっと挽回か。使っていた小型カメラはスパイの定番、ミノックス。I型が1937年に発売されたというからつじつまは合う。

 キューザックの上司に当たる海軍情報部のリチャート・アスター大佐はデヴィッド・モース。悪役の多い人だが、とにかくいろんな映画に出ている。台湾映画の「ダブル・ビジョン」(Double Vision・2002・台/香)にも出ているところがスゴイ。最近はアカデミー賞受賞作品「ハート・ロッカー」(The Hurt Locker・2008・米)に出ていた。

 タナカ大佐は渡辺謙。なかなか切れ者そうなところ、そして怖そうなところが実にグッド。「ラストサムライ」(The Last Samurai・2003・米)以降、「バットマン ビギンズ」(Batman Begins・2005・米/英)や「ダレン・シャン」(Cirque du Freak: The Vamoire's Assistant・2009・米)みたいな残念な作品もあるが、「SAYURI」(Memories of a Geisha・2005・米)や「硫黄島からの手紙」(Letters from Iwo Jima・2006・米)は素晴らしかった。もはや日本人俳優というよりハリウッド・スターという感じ。この先。どんな役を演じてくれるのか楽しみ。

 上海三合会のボスはチョウ・ユンファ。この人はあまり歳を取った感じがしない。独特のいい味を持っている。やはりハリウッド進出してから「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド」(Pirates of the Caribbean: At World's End・2007・米)や「DRAGONBALL EVOLUTION」(Dragonball Evolution・2009・米/香/英)みたいに残念な作品にも出ているが、評価の高い「アンナと王様」(Anna and the King・1999・米)や「グリーン・デスティニー」(Crouching Tiger Hidden Dragon・2000・台/香/米/中)にも出ている。ただちょっと作品に恵まれていない気はする。本作で使っていたのはガバメントのパール・グリップ付き。やっぱり撃ち方が上手い。この人はアクション系が良いのでは。もっとがんばって欲しい。

 その妻がコン・リー。色っぽいし、ファム・ファタールっぽい雰囲気が抜群。チェン・カイコーの「始皇帝暗殺」(The Emperor and the Assassin・1998・中/日/仏)は抜群に良かった。ハリウッド進出してからは「SAYURI」や「マイアミ・バイス」(Miami Vice・2006・米/独/パラグアイ/ウルグアイ)、「ハンニバル・ライジング」(Hannibal Rising・2007・英/チェコ/仏/伊)で悪女系として活躍。チャン・イーモウの血まみれ史劇「王家の紋章」(Curse of the Golden Flower・2006・香/中)でチョウ・ユンファと共演している。

 ドイツ大使夫人はフランカ・ポテンテ。世界的ヒット作「ボーン・アイデンティティー」(The Bourne Identity・2002・米/独/チェコ)のあとは、ホラーの「0:34レイジ34フン」(0:34・2004・英/独)に出て、それからTVが続いていた。久々のハリウッド大作。もっと出演して欲しい。

 ほとんどセリフもないジャンキーの女、スミコ役は「バベル」(Babel・2006・仏/米/メキシコ)の菊地凛子。そして諜報員コナーはTV「スーパーナチュラル」(Supernatural・2006〜・米)の兄弟の父ジェフリー・ディーン・モーガン。

 銃は、長い銃剣付きで怖さ倍増の三八式歩兵銃、M1917風大型リボルバー、.38口径リボルバー、モーゼルM96、水平二連のオート・バグラー、ステンSMG、ハイパワーもあったような。

 脚本はイラン生まれでイギリス在住のホセイン・アミニ。日本で劇場公開されたものだと過去に、すっきりしない憶病者の話「サハラに舞う羽根」(The Four Feathers・2002・米/英)を書いている。それ以降久しぶりの日本公開。戦争にからむドラマが上手いということか。新作はキアヌ・リーヴス主演で日本の赤穂浪士を描くらしい「47 Ronin」がポスプロ中。

 監督はミカエル・ハフストローム。スウェーデン出身で、映画評論家からTVを経て映画へ。日本公開作品では敷居を高くして怖くなくなってしまったスティーヴン・キング原作のホラー「1408号室」(1408・2007・米)でジョン・キューザックと仕事をしている。そしてアンソニー・ホプキンスのホラー「ザ・ライト[エクソシストの真実]」(The Rite・2011・米)。それでいきなりドラマ……でも良く出来ていたのではないだろうか。問題はこの後か。新作がプリプロ中。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保しておいて、30分前くらいに着くと20分ほど前に開場。中高年がメインで、しかも高齢者が多い。第二次世界大戦ものはいつもこんな感じ。男女比は半々くらい。最終的には232席に8.5割くらいの入り。

 気になった予告編は……上下マスクの美少女アクション「ハンナ」は新予告に。どうもCIAの殺人兵器にされた男によって殺人者として育てられた少女という話らしい。おもしろそう。

 スクリーンが左右に広がって、大迫力の「ライフ いのちをつなぐ物語」、そして派手な冒険活劇「三銃士 王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」。


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