Ichi-mei


2010年10月16日(日)「一命」

2011・セディックインターナショナル/電通/松竹/講談社/OLM/Recorded Picture Company/山梨日日新聞社/山梨放送/アミューズソフトエンタテインメント/Yahoo JAPAN/朝日新聞社・2時間06分

シネスコ・サイズ(デジタル、Red One)/ドルビー・デジタル

(3D上映もあり)

公式サイト
http://www.ichimei.jp/
(入ったら音に注意。全国の劇場リストもあり)

寛永11年(1634年)冬のある日、江戸、井伊家の上屋敷に1人の浪人、津雲半四郎(つくもはんしろう、市川海老蔵)が現れ、切腹のため玄関先を借りたいという。対応した家老の斎藤勘解由(さいとうかげゆ、役所広司)は、秋にもこんなことがあったと話をする…… 10月20日、千々岩求女(ちぢいわもとめ、瑛太)という浪人が現れ、切腹のため玄関先を貸して欲しいと申し出たという。斎藤は沢瀉彦九郎(おもだかひこくろう、青木崇高)らとはかり、脇差が竹光であることなどからいま流行りの「狂言切腹」と判断、今後のこともあるので、追い払わず切腹させることにした。「狂言」を悟られた千々岩は1日だけ猶予をくれと申し出るがそれを断られ、3両あれば病気の家族が救えると本音を言う。しかし武士に二言はないと、その場での竹光での切腹を強制され、何度も何度も腹を突き、沢瀉の介錯を得られないまま苦しみ抜き、見かねた斎藤によって介錯され息絶えたと。だから黙ってこのまま帰れと言う。しかし津雲の意思は固く、武士に二言はないと、介錯に沢瀉を指名する。ところが沢瀉は出仕しておらず、所在も不明。津雲は悲しい物語を話し始める。

74点

1つ前へ一覧へ/次へ
 絵もキレイだし、冒頭の切腹から緩急を織り交ぜながら緊張感を高めていく感じなど、実に良くできていると思う。しかし、ほとんど予想通りの展開で、意外性もなく、破滅へと向かう物語は、辛い。悲しすぎる。これはお金を出して見るとしたら元気な時に限る気がする。辛い時に見ると、なお一層落ち込んでしまう。少しも救いがない。暴力表現もG指定とは思えないほどかなりリアル。竹光による切腹シーンは、リアルでサディクティックで、気持ち悪くなるほど。血はまさにどす黒い。ペンキのような赤ではない。こんなにたくさんの人が惨死して、ラストはまるで「すべて世はこともなし」という雰囲気。このギャップの恐ろしさ。怖い映画。

 侍のいわば勤務先であるお城が、幕府の許可を得ずに改修したためお家取りつぶしとなり、突然浪人の身となり、唐傘貼りの内職をやっても生きていくのが精いっぱい。ついには売るものさえ無くなって……というのは、あたかも現代社会でいきなり会社が倒産となって、路頭に迷うのと一緒。雇用保険があれば3カ月、場合によっては6カ月でるが、なければ即収入ゼロ。これで家族が病気になったら、映画の登場人物でなくても「狂言切腹」を考えるだろう。サラ金に手を出せばさらに酷いことになる可能性もあるし、ギャンブルはリスクが高すぎるし、犯罪に走れば確実に家族の破滅だ。これで不景気で、就職難だったら……。

 難を言えば、どうにも瑛太が市川海老蔵の息子に見えないという点。自分の実の子ではないにしても、どう見てもせいぜい先輩後輩くらい。実際、1977年生まれと1982年生まれだから5歳しか違わない。実の娘、美穂役の満島ひかりでさえ1985年生まれ。いくら昔のこととは言え、8歳の時の子というのは無理があるのでは。つまり海老蔵がこの役を演じるのに若すぎるのだ。

 デジタルのおかげか、暗い室内の細部も良く撮れており、上屋敷内はグレーに設定されていてかなり暗く陰気で不気味。鎧が飾ってある部屋だけが赤く際立つ設計。秋の紅葉もシズル感たっぷりに美しく捉えられている。音もクリアで、サラウンド感もいい。小鳥が右後ろで鳴いたりする。

 オリジナルというか先に映画化したのは松竹の「切腹」(1962・日)。原作は滝口康彦の「異聞浪人記」。「切腹」では津雲半四郎が仲代達矢、義理の息子の千々岩求女が石濱朗、娘の美穂が岩下志麻、斎藤勘解由が三國連太郎、沢瀉彦九郎が丹波哲郎という顔合わせ。脚本=橋本忍、監督=小林正樹だ。

 主演の市川海老蔵はTVには出ていたものの映画は少なかった感じ。初めて出たのは第二次世界大戦時の人間魚雷の乗員を描いた「出口のない海」(2006・日)だったのでは。若干、目の演技で歌舞伎的表現があって、映画にはどうかと思うところもあったが、時代劇なので、まあ……。殺陣はさすがにうまく、竹光でこんなに戦えるのかわからないがスリルがあった。問題があるとすればやはり年齢か。

 千々岩求女の瑛太は、細身で、武道よりは学問という感じが良く出ていた。竹光による切腹シーンは悲惨さ満点。気持ち悪くなるほど。見事な演出と演技。硬・軟いろいろ演じられる人で、劇場で見たのは「どろろ」(2007・日)だったろうか。近日公開される「ワイルド7」(2011・日)で飛葉チャンを演じているようだが、アクションも行けるのか?

 美穂役は満島ひかり。凄く上手いし、昔の人らしく一歩下がって立つ感じなど抜群。しかもきれい。「DEATH NOTEデスノート」(2006・日)では主人公の妹を、残念だった「少林少女」(2008・日)にも出ていたようだが、あまり印象に残っていない。しかし、強く印象に残ったのは、予告編しか見ていないが「悪人」(2010・日)の男遊びをする少女の役。予告だけなのにこのイメージが強くて、本作を見ても裏があるのではと彼女をちょっと疑ってしまったほど。情けない。本作は良いイメージだが、これから公開される「スマグラー おまえの未来を運べ」(2011・日)はどうなんだろう。「悪人」のインパクトを越えて欲しい。もう結婚しているとはビックリ。

 斎藤勘解由は役所広司。この人はとにかく上手い。どんな役でも説得力を出す。本作ではあえて片足を引きずるようにしているが、1962年版はどうだったのだろうか。最近は時代劇づいているようで、同じ三池崇史監督の「十三人の刺客」(2010・日)や「最後の忠臣蔵」(2010・日)に出演。「突入せよ!「あさま山荘」事件」(2002・日)もいいが、ボク的には原田眞人監督の「復讐の天使KAMIKAZE TAXI」(1995・日)のインパクトがいまだに……。

 憎たらしい沢瀉彦九郎は青木崇高。「海猿 ウミザル」(2004・日)シリーズに出ていた人だが、NHKの大河ドラマ「龍馬伝」(2010)の後藤象二郎役がピッタリとハマっていて、一気に有名になったのではないだろうか。貫録もあって、本作のイメージにもつながる。素晴らしい。

 脚本は山岸きくみ。見ていないが、香取慎吾の「座頭市 THE LAST」(2010・日)を書いている。

 監督は三池崇史。硬・軟何でも撮れる人で、まさに職人監督という感じ。ボク的にはホラーの「オーディション」(2000・日)や、強烈なバイオレンスの「殺し屋1」(2001・日)、コミカル・ファンタジー・アクションの「ゼブラーマン」(2003・日)、SFアクションの「神さまのパズル」(2008・日)なんかが好きだなあ。

 エグゼクティブ・プロデューサーの1人がジェレミー・トーマス。「戦場のメリークリスマス」(Merry Christmas Mr. Lawrence・1983・英/日)や「ラストエンペラー」(The Last Emperor・1987・中/伊ほか)といった世界的な作品から、北野武監督のヤクザ映画「BROTHER」(Brother・2000・米/英/日)も手掛けている。三池崇史監督とは「十三人の刺客」に続いて2本目。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は2D上映で全席指定、金曜に確保しておいて、30分ほど前に着いたら予想どおりビルが開いていなかった。9時ちょっと前に開場になって、開場は12〜13分前。中高年がメインだが、やはり時代劇ということで白髪が多い。女性は30人に3〜4人くらい。まあ耳の遠い年寄りは大声で話すので困る。本人たちは迷惑だとはちっとも思っていないようす。予告が始まったら、その音に負けないように声もアップ。やれやれ。本編が始まっても少しの間話していた……注意しちゃうと、周囲も自分も白けてしまうしなあ。

 最終的には607席に2割くらいの入り。これはしようがないだろう。見て元気が出るならいいけれど、破滅の物語だ。よくできている分、悲劇がよく伝わってくる。震災からの復興という今、やはり元気がもらえる映画が良いのでは。

 気になった予告編は……まあ、なかなかタイトルが出ない予告が多く、イライラする。一向に改善されない。ほとんど邦画の予告で、特に見たいものは……。


1つ前へ一覧へ次へ