Smuggler


2010年10月23日(日)「スマグラー おまえの未来を運べ」

2011・「スマグラーおまえの未来を運べ」製作委員会・1時間54分

日本語字幕:丸ゴシック体下/ビスタ・サイズ/ドルビー・デジタル

(日PG12指定)(デジタル上映もあり)

公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/smuggler/index.html
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

1999年、フリーターの砧(きぬた、妻夫木聡)は役者志望だったが劇団をやめ、パチスロにはまる毎日。ある日、パチスロ店の店員のもうけ話にハメられ、チャイニーズ・マフィアの張(チャン、阿部力)に300万円の借金をしてしまう。そして張の紹介でサラ金の山岡(松雪泰子)が300万を支払う代わり、裏での仕事、運び屋をやるハメになる。それは裏社会で始末された死体を運ぶ仕事だった。チームは運転手の丈(じょう、永瀬正敏)とジジイ(我修院達也)の2人。最初の仕事は、背骨(安藤政信)と内臓(テイ龍進)とあだ名されるチャイニーズ・マフィアの殺し屋に殺された田沼組の組長(島田洋八)とその部下たち。しかし張のチクリで背骨と内臓は仲間割れし、背骨は内臓を殺してしまう。そして自身も薬で動けなくなる。それを知った田沼組は背骨は内臓を組まで運ぶように依頼するが……。

75点

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 公式サイトには「ラスト38分の衝撃」とあるが、ボクには114分間ほとんどすべて衝撃だった。映画としては緊張感を切らさず最後までぐいぐいと引っ張っていくところなど、良くできていると思う。ただ、あまりにもリアルな暴力と血飛沫。登場人物全員「悪者」といった異常な雰囲気。ギャグもふんだんに盛り込まれているものの、前後の状況からとても笑えず、居心地が悪く、気持ち悪くなる。きっちり最後には落とし前をつけてくれるが、悪い夢をみていたような後味が残る。凄い映画。ちょい役でも有名な役者さんが出ているオールスター映画のような雰囲気も。

 とんでもない話だが、ありそうな話でもあり、なにしろ説得力がある。だから怖いのだ。途中ちょっとだけSFホラーの「スピーシーズ/種の起源」(Species・1995・米)みたいになるけど。

 1999年という設定なので、まだタバコを吸っている登場人物が多い。しかし、そんな中、ひとりヤクザの親分だけが異常に他人のタバコの煙が嫌いという設定。笑えそうなのだが、怖くて笑えない。

 原作は「月刊アフタヌーン」(講談社)に連載された真鍋昌平原作の漫画。原作は読んでいないのでわからないが、ギャグと暴力がミックスされた独特の雰囲気は映画だけなのか。確かに、ギャグにするとこの物語の怖さは伝わってこない。といってリアルだけではスプラッターのようになってしまう。全体としてはちょっと香港ノワールとか韓国映画のヴァイオレンス・ホラーの雰囲気もある。ただバランスとしてどうなんだろう。笑えないギャグは空しい。曲も怖いし。

 巻き込まれる主人公の砧は妻夫木聡。嫌なことは何でも押し付けられてしまうような、ちょっと気の弱そうな雰囲気が抜群。良いヤツ。観客は思わず助けて上げたくなる。これだけでもう成功だろう。「ザ・マジックアワー」(2008・日)のようなキャラ。ボク的にはやっぱり「どろろ」(2007・日)が良かったなあ。最後に使うの銃はたぶんマカロフ。

 眉を剃っていかにもという雰囲気で登場する運転手の丈は永瀬正敏。うまい。ピッタリという感じ。あまりこの人の映画を見ていないが、印象に残っているのは「隠し剣 鬼の爪」(2004・日)や「姑獲鳥の夏」(2005・日)、古いところで「誘拐」(1997・日)あたりか。雰囲気が全然違うところがまた凄い。使っていた銃はKG9サブマシンガンとガバメント。特にガバの撃ち方は上手かった。どこかで習ったのだろうか。

 一番印象に残るヤクザの河島を演じた高島政宏。見た目はパンチパーマに超ゲシゲシ眉毛で漫画のようなエキセントリックなキャラクターだが、理性のかけらもなさそうな、異常者的言動がものすごく怖い。つい最近「はやぶさ/HAYABUSA」(2011・日)で研究者を演じていたようだが、180度違う役柄。昔ロボット活劇「ガンヘッド」(1989・日)や「ZIPANGジパング」(1990・日)のカッコいい人とは思えない変貌ぶり。そう言えば「探偵はBARにいる」(2011・日)では弟の高嶋政伸が、同じ様な異常者のヤクザを演じていた。このタイミングで同じ様な役。偶然の一致なのか。恐るべし高島兄弟。

 同じく怖いのがチャイニーズ・マフィアの背骨と内臓のコンビ。まあ背骨を見事に恐ろしく演じた安藤政信には驚いた。鍛え上げられた肉体と鮮やかな身のこなし。かなり特訓を積んだのだろう。ものすごく二枚目だからこそ、こういう役をやると怖いのだろう。最近和製ウエスタンの「スキヤキ・エカスタン ジャンゴ」(2007・日)に出ていた。ちょっと伊勢谷友介と被る部分がある気もする。

 そしてお高くとまった感じが絶妙な、ヤクザの親分の若い妻ちはるを演じたのがひかり。満島ひかり。つい先日「一命」(2011・日)で見たばかりだが、あちこちで引っ張りだこなのだろう。ただ、さすがに普段言いなれていない乱暴な言葉遣いだけはセリフっぽかったけれど、ムスっとしてしゃべらないと素晴らしいマイナス・オーラ。使っていた銃はマカロフのようだったが、PPKだったかもしれない。とにかく美人がこんな役を演じると怖い。

 監督・脚本・編集・絵コンテは石井克人。バイオレンスとギャグ満載の「鮫肌男と桃尻女」(1998・日)や「PARTY7」(2000・日)を撮っている人。なるほどそうか。見ていないが、最近はバイオレンスと関係ない恋愛ものだったという「山のあなた 徳市の恋」(2008・日)を撮っている。本作はその反動だろうか。

 ほかに脚本は山口雅俊と山本健介の2人。山口雅俊はTVのプロデューサーで、映画では「カイジ 人生逆転ゲーム」(2009・日)シリーズを手掛けている。山本健介は本作が初の脚本作品ということらしい。

 アクション監督は小池達朗。金城武の「K-20 怪人20面相・伝」(2008・日)のアクション監督を横山誠と一緒にやった人。迫力があるし、リアルで、カッコいい。

 銃器特殊効果はビッグショットの納富貴久男。

 劇中、主人公が憧れる俳優として登場するのが松田優作で、TVに映っていたのは村川透監督の「野獣死すべし」(1980・日)。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で金曜に確保しておいて、30分前くらいに到着。ロビーは狭い上にイスがほとんどなく、ここで待つのはちと辛い。7〜8分ほど前に開場となった。若い人もちょっといたが、メインは中高年。これは漫画の読者層の傾向ということだろうか。22〜23人で女性は3〜4人。この過激なバイオレンスでは当然だろう。最終的にはもう少し増えて、433席に1割いたか。朝一ということもあるから少ないのだろうが、もうちょっと入っても良いのでは。

 気になった予告編は……上下マスクのアニメ「ベルセルク」はCGも使ったターク・ファンタジーという感じ。3部作になるらしい。全世界で3,000万部という原作コミックのファンはたまらないだろう。

 世界中で大ヒットした「バットマン ダークナイト」の続編、上下マスクの「ダークナイト・ライジング」が2012年の夏に公開されるらしい。まだティーザーで、ゲイリー・オールドマンが出てくるだけで、あとはビルが「インセプション」(Inception・2010・米/英)みたいに崩れるだけ。どんな内容なんだろう。

 親を殺したという「ヒミズ」は、予告だけで辛くて、ボクにはだめそうだ。とにかくタイトルが出るのが遅い。


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