Fair Game


2010年10月29日(土)「フェア・ゲーム」

FAIR GAME・2010・米/アラブ首長国連邦・1時間46分(IMDbでは108分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(Red Oneデジタル)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米PG-13指定)

公式サイト
http://www.fairgame.jp/
(音に注意。入ると画面極大化。全国の劇場リストもあり)

2001年、9.11事件の後、CIA局員のヴァレリー・プレイム(ナオミ・ワッツ)は、マレーシアである会社が武器製造の材料をテロ組織と取引しているという情報を得て、民間人に化けて調査に行く。協力者を得て捜査を進めるとイラクにたどり着くが、核兵器開発の能力はないことが判明する。2002年2月19日、イラクがニジェールからイエロー・ケーキと呼ばれる濃縮ウランを買い付けているという情報を得、国務省はヴァレリーの夫で、元ニジェール大使のジョー・ウィルソン(ショーン・ペン)をニジェールに派遣する。ジョーはアルミ・パイプの取引はあるもののイエロー・ケーキの取引はないと報告。ところが、8月になって副大統領補佐官の“スクーター”・リビー(デヴィッド・アンドリュース)がCIAに現れ、アルミ・チューブの取引を確認すると、アルミ・チューブはウラン濃縮に使われると指摘、CIAの分析を無視し、核兵器開発を報告する。ブッシュは2003年1月イラクの空爆を開始。それを知った夫のジョー・ウィルソンは、核兵器開発の事実がないことをマスコミで暴露、リビーは反撃として妻のヴァレリーがCIA局員であることをリークする。

74点

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 実話の映画化。それだけに恐ろしい。後味が悪くて落ち込むような映画ではないが、重い。スパイ映画ではありそうな設定だが、実話だということが重くのしかかってくる。こんな個人的なメンツだのなんだので、国家権力を使って個人を葬ろうとするなんて、小説や作り話でならよく聞くが、まさか本当とは。

 権力の座に付くということは、ついそれが自分個人の力だと錯覚してしまい、時に暴走するものなのか。そして、いつの時代でも通じる定番「権力は腐敗する」ということ。これはアメリカ以外でも、特に独裁国家では、あって当たり前のことだろう。戦争という最後の手段を仕掛けておきながら、それがごくあやふやな情報に基づく少数意見であったにも関わらず「信じるにたる証拠があった」と言い切る傲慢。国家ぐるみの犯罪。「彼らは戦争がしたかったんだ」。

 そしてすごいのは、アメリカはこういうことを、実際の事件からそれほど経っていないのに、映画に出来るというところ。いくら実話でも、ほかの国でこんなことが出来るだろうか。さすがにブッシュ大統領の責任にまで迫ってはいないが(実際にニュース映像で、何度もほのめかされるが)、権力を乱用した副大統領補佐官、途中で投げ出してしまうCIAはしっかりと描いている。

 1つの国の根幹をも揺るがしかねないところにまで干渉しておきながら、それは一職員の作戦レベルで、上が中止と判断すれば、人命が掛かっていても簡単に中止されてしまう恐ろしさ。そうなったとき、その国ではどんな悲惨な問題が持ち上がることか。「チャーリ・ウィルソンズ・ウォー」(Charlie Willson's War・2007・米/独)でも描かれていたことだ。

 ラスト、証言シーンが実写になるのが衝撃的。しかもリビーは有罪になるのに、ブッシュが減刑したというテロップが流れる。銃は葬儀のシーンで儀仗兵がM16A2をもっており、パレードではM14が登場。TVのニュース映像でMP5やG36C、ニジェールの兵士はAK47を装備。CIAのPCはDELLだった。

 ヴァレリー・プレイムを演じたナオミ・ワッツは最近エンターテインメント大作に出なくなった気がする。「キング・コング」(King Kong・2005・ニュージーランド/米/独)が最後か。あれも良かったけどなあ。最近はアート系か。ボク的にはIMDbでは散々な評価の「タンク・ガール」(Tank Girl・1995・米)やデヴィッド・リンチ監督の「マルホランド・ドライブ」(Mulholand Dr.・2001・仏/米)が良かった。最近見たのは意外とアクションが多かった「ザ・バンク 落ちた巨像」(The International・2009・米/独/英)。

 徹底的に戦おうとする夫のジョー・ウィルソンを演じたのはショーン・ペン。私生活はいろいろとあるようだが、まあ、さすがにうまい。このひともメジャーなエンターテインメントにはほとんど出ず、アート系が多い感じ。トム・クルーズも出ていた「タップス」(Taps・1981・米)に出ていた、「ミスティック・リバー」(・2003・)でアカデミー主演男優賞を獲得し、「21グラム」(・2003・)ではナオミ・ワッツと共演している。ダコタ・ファニングがブレイクした「I am Samアイ・アム・サム」(I am Sam・2001・米)や最近作はうーむな「ツリー・オブ・ライフ」(The Tree of Life・2011・米)。

 ほかにヴァレリーの父親役で「ブラックホーク・ダウン」(Black Hawk Down・2001・米)の将軍を演じたサム・シェバード、ヴァレリーの上司ジャック役で「アジャストメント」(The Adjustment Bureau・2011・米)の選挙参謀を演じたマイケル・ケリー、さらにCIAの上司で「SUPER 8/スーパーエイト」(Super 8・2011・米)の軍の将校を演じたノア・エメリッヒ、「完全なる報復」(Law Abiding Citizen・2009・米)の検事役を演じたブルース・マッギル、副大統領補佐官役で「ターミネーター3」(Terninator 3: Rise of the Machines・2003・米/独/英)でスカイネットの軍の責任者を演じたデヴィッド・アンドリュースらが出ている。

 脚本はジェズ・バターワーズと弟のジョン・ヘンリー・バターワーズ。ジェズ・バターワーズはニコール・キッドマンのなかなか恐ろしい「バースデイ・ガール」(Birthday Girl・2001・英/米)の脚本・監督を務めた人。ジョン・ヘンリー・バターワーズはこれが初の脚本作品らしい。物語の前半がスパイもので、後半が一転して強大な権力と市民のとの戦いになるのが見事。

 監督・製作・撮影はダグ・リーマン。痛快アクションの「ボーン・アイデンティティー」(The Bourne Identity・2002・米/独/チェコ)、「Mr. & Mrs.スミス」(Mr. & Mrs. Smith・2005・米)の監督。SFアクション「ジャンパー」(Jumper・2008・米/加)は残念だったが、本作で新境地開拓といったところだろうか。ボクとしては「ボーン・アイデンティティー」系を期待したいところだが。本作では撮影も担当している。ちょっと手持ちカメラが多すぎた気はするけど。

 公開初日の2回目、六本木の劇場は全席指定で金曜に確保。15分前くらいに開場になって場内へ。ほぼ中高年で、男女比は4.5対5.5くらいでやや女性の方が多い感じ。関係者らしい7〜8人のグループがいて気になった。多すぎるって。2人もいれば十分でしょ。最終的には164席の9割くらいが埋まった。決して楽しい映画ではないので、上々の入りではないだろうか。

 それにしても、ケータイをあちこちで点けやがって。じゃまだっつうの。まぶしい。ロビーで切って、ロビーでオンにしろ。

 気になった予告編は……なんだかゾンビ映画「28週後...」(28 Weeks Later・2007・米/西)か「ブラインドネス」(Blindness・2008・加/ブラジル/日)のような雰囲気の「コンデイジョン」予告。豪華キャストだがどうなんだろう。監督はスティーヴン・ソダーバーグ。有名は有名だけど……。


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