Sutekina Kanashibari


2010年10月30日(日)「ステキな金縛り」

ONCE IN A BLUE MOON・2010・フジテレビ/東宝・2時間22分

シネスコ・サイズ(レンズ、in Panavision、IMDbではArriも)/ドルビー・デジタル


公式サイト
http://www.sutekina-eiga.com/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

敏腕弁護士だった宝生の娘、エミ(深津絵里)も弁護士になったが、寝坊して法廷に遅れ、証人にトンチンカンな質問をして依頼人からクビにされるていたらく。ボスの速水悠(阿部寛)は、最後のチャンスとして妻殺しの容疑者、矢部五郎(KAN)の弁護を任せる。矢部の唯一のアリバイは、事件当夜、奥多摩の落ち武者の里で「しかばね荘」に泊まり、落ち武者の霊(西田敏行)に一晩中金縛りにあっていたというものだった。エミも幽霊は信じていなかったが、相手の検事は、科学で説明できないものはないと豪語する理論派敏腕検事の小佐野徹(中井貴一)。裁判で勝つには落ち武者の霊でも連れて来るしかないなと言われ、エミは「しかばね荘」に調査に向かう。

75点

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 久々にちゃんと笑える映画。しかもしっかり最後には感動させて、ホロリとさせるなど抜かりはない。三谷映画としてはこの前の「ザ・マジックアワー」(2008・日)よりかなり良いと思う。

 最初から“喜劇”という記号を入れてきているので、笑って良いのか戸惑うということはない。しかも、ちゃんと笑えるネタだから、堂々と笑える。それでいて、ミュージカルのように設定というか状況は現実世界だったらかなり厳しいもの。

 仕事もうまくいかず、恋人とは別居の危機、後がないというのが主人公の状況。容疑者、矢部五郎は金縛りのことなど言い出すから、誰からも信じてもらえないし、現場にボタンが落ちていたなどせっぱつまっている。落ち武者の霊にしても、内通者の裏切り者として打ち首になったという怨みで現世に残っている。弁護士のボスの速水も、甘いものが好きで、入院・加療が必要という状況。リアルに描いたら、暗い物語になるところ、暗いキャラが1人もいない。それは落ち込むこともあるけれど、皆前向きで明るい。その明るさは死をも越えてしまう。

 また、いつもの三谷映画らしくオールスター状態。ちょい役でも有名俳優がやっている。まあほとんどいなくてもいいキャラ、修験道なのか陰陽師なのか、安倍つくつくはどうなんだろう。そして事件の重要人物、山本耕史演じる日野勉がリアリティなさ過ぎ。1人、ギャグ漫画のキャラクターみたい。竹内結子も紙一重。

 佐藤浩市が「ザ・マシジックアワー」(2008・日)と同じ役名、村田大樹で役者として出てくるのには笑った。草なぎ剛の父親役は、若すぎてピッタリ来なかったし、ありえない落ち武者のようなタクシー運転手の生瀬勝久もどうかと思うが、笑ってしまったのも事実。すべてがリアルだから良いというわけでもない。もともとコメディですよとして物語をスタートさせているので、許される(受け入れられる)部分なのかも。

 事件は最初に殺人シーンを見せるため、特に謎解きに重きを置いていない。「刑事コロンボ」のようにいかに真犯人をあぶり出すかが見どころ。仕掛け(トリック)もかつて「古畑任三郎」で使った双子もの。いかに裁判官や検事、そして裁判員、そして観客に霊を信じさせるか。その過程を楽しむ映画で、実際なかなか見事。

 映画としては、映画の中でフランク・キャプラが好き、「スミス都へ行く」(Mr. Smith Goes to Washington・1939・米)や「素晴らしき哉、人生!」(It's a Wonderful Life・1946・米)が良いと霊界の検事に言わせているが、「天国は待ってくれる」(Heaven Can Wait・1943・米)やそのリメイク「天国から来たチャンピオン」(Heaven Can Wait・1978・米)に、そして「三十四丁目の奇蹟」(Miracle on 34th Street・1947・米)やそのリメイク「34丁目の奇跡」(Miracle on 34th Street ・1994・米)にも似ている。

 脚本・監督は三谷幸喜。特に有名なのはTVの「古畑任三郎」シリーズの脚本と、前半凄く面白かったのに後半から普通になったNHK大河ドラマ「新撰組!」(2004)の脚本だろうか。ボク的には舞台の「巌流島」(1996、TVで見たのだが)が最も面白かった。涙が出るほど、腹が痛くなるほど笑った。NHKの「連続人形劇 新・三銃士」(2009〜2010)も面白かったが。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で金曜に確保。10分前くらいに開場になって場内へ。下は幼稚園くらいから、上は中高年まで幅広い。ハイティーンが少ないものの、20代くらいも多く、さすが三谷作品。男女比はほぼ半々くらい。最終的には607席に7割ほどの入り。初回でこれはさすが。

 気になった予告編は……TV回も映画界も、みな東野圭吾が好きなようでまた映画化されるらしい。「麒麟の翼」は、もちろん殺人事件の謎解きということらしいが、まだティーザーなので、良くわからない。1/28公開。

 上下マスク「源氏物語」は生田斗真、真木よう子、東山紀之、田中麗奈……ミーハーな恋愛ものかと思ったら、現実世界と小説の世界が交錯し、なんだか怨霊のようなものも出てくるような……そうなら見ても良いかも。


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