Real Steel


2010年12月11日(日)「リアル・スティール」

REAL STEEL・2011・米/印・2時間08分(IMDbでは127分)

日本語字幕:手書き風書体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(デジタル、HDCAM SR、2.35、OTTO)/ドルビー・デジタル、DATASAT、SDDS

(米PG-13指定)(デジタル上映、日本語吹替版もあり)


公式サイト
http://disney-studio.jp/movies/realsteel/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

遊園地などでロボットのボクシングを見せて生計を立てている元ボクシング選手のチャーリー・ケントン(ヒュー・ジャックマン)は、すでに3万ドルの借金があったが、これを帳消しにするため興行師のリッキー(ケヴィン・デュランド)の猛牛に、2万ドル懸けて自分のロボット、アンブッシュを挑ませる。しかし、途中まで優勢だったものの、慢心から逆転され破壊されてしまう。そこへ、別れた元妻が亡くなったため、生まれてから会っていない1人息子のマックス(ダコタ・ゴヨ)の親権をめぐる裁判に出席するようにという知らせがもたらされる。これ幸いとリッキーから逃げ出したチャーリーは、裁判所でとても裕福な義理の妹デブラ(ホープ・デイヴィス)夫婦が引き取りたがっているのを知り、夫のマーヴィン(ジェームズ・リブホーン)に10万ドルで親権を譲ると申し出る。マーヴィンはそれを妻に内緒で受け入れ、イタリア旅行から戻る8月27日までマックスを預かるよう条件を出す。前金の5万を得たチャーリーはマックスを連れて、次の格闘技用ロボット、世界戦に出場したこともあるイージー・ボーイを買い、かつて世話になったタレット・ジムで整備をする。ところが電源を入れてもイージー・ボーイは動かない。音声認識を使うのだが、以前に日本で使われていたため日本語モードになっていたのだ。それを見破ったマックスはゲームで覚えたという日本語で命令を出し、見事に動かして見せる。

85点

1つ前へ一覧へ次へ
 3D上映がなくて、ありがとう。じっくりストーリーを楽しむには2Dの方が向いている。感動した。あやうく涙が流れるところ。よくあるストーリーでー、よくある展開で、よくある結末だが、実に面白かった。映画に没頭できた。

 ほぼ生まれてから11年もあっていない父と息子、その心の隔たり、落ちぶれたチャンプ(実はそこまで行っていない。24勝19敗)、かつての師匠の娘との微妙な関係……それらを、どうやって修復していくのか、再生の物語。だからこそ、ジャンクヤードが重要な場所となる。そして、ロボットの戦いに終始しそうなところを、じっと我慢してじっくり描いていく。だからアメリカの観客にはちょっとまどろっこしいかもしれない。しかし、たぶん日本人、とくに中高年には向いている気がする。

 やはりエンターテインメントならお手の物のハリウッド作品、ボクシングの試合の盛り上げは抜群に上手い。登場人物として出てくるリング・アナウンサーもうまいし、映画としての演出も上手いので、試合の場面ではとにかく盛り上がる。血わき、肉踊る。それがCGで描かれたロボットであっても。もちろん生身の人間の方がもっと盛り上がるのだろうけれど、それだと「ロッキー」(Rocky・1976・米)になってしまう。これはそこを狙わず、ロボットにしたところが良いのだから、この土俵ではベストということになるのではないだろうか。

 日本の要素があちこちにあるところも面白い。ちょっとありすぎてこちらが恥ずかしくなるほど。ロボットのイージー・ボーイはボディに「超悪男子」と感じで書かれていたり、ジャンクヤードから掘り出されるロボットの胸にはATOM(アトム)とあり、マックスは「ロボット」と書かれたTシャツを着ているし、世界戦が行われるスタジアムの入口には、ガンダム似のロボットの像が屹立している……やはりロボットの分野では、現実世界でも、漫画やゲームの世界でも、日本が進んでいるということへのオマージュなのだろう。

 チャーリー・ケントンを演じたのはヒュー・ジャックマン。一歩間違えば嫌なヤツになるところを、この人の持ち味である貴族も演じられるノーブルでさわやかな感じが、それを止めている。そしてお金がなくて犯罪にまで手を出しかねない状況でも、リアルな生活感を感じさせずに、物語として楽しませてくれる。つまれよく考えられたキャスティングだったということだろう。オーストラリア出身で、大ヒット作「X-メン」(X-Men・2000・米)シリーズのウルヴァリン役が有名だが、「ソードフィッシュ」(Swordfish・2001・米/豪)の事件に巻き込まれるハッカー役や「ニューヨークの恋人」(Kate and Leopold・2001・米)の貴族役も良かった。

 そして、たぶん演じる子によっては生意気なガキになるところを、やはり育ちの良さが漂って(設定的には良くないのだろうが)ドロドロのうんざりするような人間ドラマにならずにすんだのは、少年を演じたのはマックスを演じたダコタ・ゴヨのおかげだろう。この子もさわやかで、どこかにノーブルな感じが漂う。カワイイ。1999年、カナダ生れの12歳。2005年からTVなどで活躍を始めたようで、大作映画では残念だった「マイティ・ソー」(Thor・2011・米)で主人公ソーの少年時代を演じている。今後が楽しみな子役。ただ、子役は成長とともに雰囲気が大きく変わるからなあ……。

 大和撫子のように陰で主人公を支えるジムの経営者ベイリーを演じたのは、エヴァンジェリン・リリー。武士は食わねど高楊枝じゃないけれど、やっぱり生活感が出ていないところが良い。TVの大人気シリーズ「LOST」(Lost・2004〜2010)で、警察に追われるケイトを演じた人。カナダ生れの美人で、アカデミー賞作品の「ハート・ロッカー」(The Hurt Locker・2008・米)では夫の帰国を待つ妻を演じていた。もっとスクリーンで見たい。

 義理の妹デブラはホープ・デイヴィス。怖いスリラー「隣人は静かに笑う」(Arlington Road・1998・米)や心温まるファンタジー「アトランティスのこころ」(Hearts in Atlanris・2001・米/豪)に出ていたアメリカ生れの金髪美女。その夫マーヴィンはジェームズ・リブホーン。1970年代から活躍している人で、医師や教授役などが多い人で、古くは「氷の微笑」(Basic Instinct・1992・米/仏)などに出ている。

 無敵の世界チャンピオン・ロボット、ゼウスの美人オーナー、ファラは、ロシア生まれのオルガ・フォンダ。これまではTVで活躍していたようで、映画のメジャー作品は初めての模様。タカビー風の演技がなかなかいい感じだったので、今後も期待だ。

 チンピラ風の興行師、リッキーはケヴィン・デュランド。悪役が多い人で、強烈アクション「スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい」(Smokin' Aces・2007・英/仏/米)や、傑作リメイク西部劇「3時10分、決断のとき」(3:10 to Yuma・2007・米)、最近では痛快B級アクション「レギオン」(Legion・2010・米)でも悪役をやっていた。「LOST」でエヴァンジェリン・リリーと共演している。

 原案はリチャード・マシスンの「Steel」という短編小説なんだとか。これをベースにダン・ギルロイとジェレミー・レヴェンがストーリーを作り、ジョン・ゲイティンズが脚本にまとめたらしい。

 リチャード・マシスンはTVの脚本家から小説も手掛けるようになったようで、「地球最後の男オメガマン」(The Omega Man・1971・米)(「アイ・アム・レジェンド」でリメイク)の原作も書いている。また個人的に好きな泣けるSFファンタジー「ある日どこかで」(Somewhere in Time・1980・米)の原作と脚本もこの人。最近はSFミステリーの「運命のボタン」(The Box・2009・米)の原作がそうだった。

 ストーリーのダン・ギルロイは女優のレネ・ルッソの旦那で、脚本ではちょっと前のSF「フリージャック」(Freejack・1992・米)、そして驚きの物語「落下の王国」(The Fall・2006・米/印)も書いている。ジェレミー・レヴェンはTV出身の人で、その後、小説や脚本を書き始めたらしい。感動ゴルフ映画「バガー・ヴァンスの伝説」(The Legend of Bagger Vance・2000・米)や感動ラブ・ストーリー「きみに読む物語」(The Note Book・2004・米)を書いている。

 脚本のジョン・ゲイティンズは、脚本より役者としての仕事の方が多い人。感動作「夢駆ける馬ドリーマー」(Dreamer: Inspired by a True Story・2005・米)で監督もやっている。役者としてはマイナーな作品に多く出ているようで、本作ではZOOでの試合相手のキングピンを演じている。脚本では、スポ根ものの「陽だまりのグラウンド」(Hard Ball・2001・米/独)や、やはりスポ根ものの「コーチ・カーター」(Coach Carter・2005・米/独)などを書いているから、本作もスポ根としてまとめられたのかもしれない。

 監督はショーン・レヴィ。カナダ生れで、TV出身の人。映画ではとても残念な「ジャスト・マリッジ」(Just Married・2003・米/独)を撮った人で、その後もっと残念な「ピンクパンサー」(The Pink Panther・2006・米/チェコ)を撮っており、この人は完全にダメだと思ったら、「ナイトミュージアム」(Night at the Museum・2006・米/英)を撮って日本でも受けるコメディを作れることを見せた。ほぼコメディを撮り続けてきた人が、本作のようなスポ根系シリアル・ドラマを撮ると上手かったとは。この方面に才能があるのでは。実際、まさかという感じ。今後、この路線で行って欲しい。

 ロボットは、実にいろいろなデザインのものが登場し、楽しませてくれる。なかでもWRBという団体の頂点に君臨するチャンピオンのロボット、ゼウスは雰囲気がK-1のボブ・サップにそっくり。参考にしているのではないだろうか。しかし、たぶんロボットだけが魅力的でも面白い作品にはならない。「トランスなんたら」の酷さは目を覆いたくなるばかり。良いストーリー、素晴らしい演出、リアルな演技があってはじめてそれらのキャラクターがいきてくるのではないだろうか。アトムは非常に地味だが、何だか思考力があるように見えてきて、魅力的に見えてくるから不思議だ。

 公開3日目の字幕版初回、下は小学生から中高年まで幅広い観客層。メインはやはり中高年。初代のアトム世代か。ただ、女性は1/2くらいと少なかった。遅れてくるヤツが多いのは相変わらずで、最終的には287席に5.5割くらいの入り。こんなものか。今後口コミで増えるかも。

 気になった予告編は……上下マスクの「私だけのハッピー・エンディング」は、またまたケイト・ハドソンのラブ・ストーリーか。ちょっと太ってきたんじゃない?

 上下マスクの「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」は新予告に。早く見たい。そしてスピルバーグ監督の新作、上下マスクの「戦火の馬」も新予告に。ファンの人には申し訳ないが、スピルバーグのメインはこちらなのではないかという印象。

 スクリーンが左右に広がってから、ピクサーの新作は日本語吹替の「メリダとおそろしの森」。ちょっと子供向けの感じがしないでもないが、期待してしまう。主人公の赤毛が燃えるように鮮やかできれい。ただ、また3D上映。うむむ。

 まあ、呆れるのは、遅れて入って来てなかなか座らないヤツ、すぐケータイを点けるヤツ、しゃべるヤツ……。迷惑!


1つ前へ一覧へ次へ