2012年1月29日(日)「J・エドガー」

J.EDGAR・2012・米・2時間18分

日本語字幕:手書き風書体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(マスク、with Panavision)/ドルビー・デジタル、DATASAT、SDDS

(米R指定)

公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/hoover/
(全国の劇場リストもあり)

高齢となったFBI長官ジョン・エドガー・フーバー(レオナルド・ディカプリオ)は、自伝を口述筆記するため職員を呼んでタイプライターで打たせる。彼自身の口から語られたのは……1919年、検事総長のミッチェル・パーマー(ジェフ・ピアソン)の自宅が過激派によって爆破されるが、爆発が早過ぎたため本人と家人は無事で、犯人が爆死する。そんな時、司法省の若手役人だったフーバーは科学捜査を主張し、パーマーに注目される。彼は国立図書館に採用されている検索カード・システムを考案した本人だった。そしてそれを犯罪捜査にも取り入れようとしていた。彼は秘書室から1人の女性、ヘレン・ガンディ(ナオミ・ワッツ)を選ぶと、パーマーの指示に従って共産主義者や外国人の追放を労働省と組んで始める。しかしそれがやり過ぎとされ、パーマーらは失脚してしまう。フーバーは省内のだれとも個人的に付き合っていなかったことから、罷免を免れ中心人物となっていく。そして捜査局を作り自らが長官になると、当時はまだ未知数だった指紋を中心に科学捜査を取り入れ、犯罪者の検索カード・システムを構築を進める。さらに、法科大卒のクライド・トルソン(アーミー・ハマー)を採用し副長官に据える。しかし捜査局は銃の携帯も認められておらず、逮捕権もないため、警察からも国民からも低く見られていた。ところが1935年、アメリカの英雄、リンドバーグ(ジョシュ・ルーカス)の幼い息子が誘拐される事件が起こり、これにより捜査局は全国の注目も浴びることになり、組織を一新することになる。

73点

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 実在の超有名な人物を、良い面も悪い面も同じ様にじっくりと、人間臭く描いた作品。やっばりこういう映画が作れるところにアメリカの懐の深さを感じる。死後40年たっているとは言え、アメリカの偉人の1人なわけで、普通ならほとんど良い面しか描かないし、描かせてもらえない。まあTVで暗黒面も描いたドキュメンタリーが放送されたりしていたらしいので、良い面だけでは許されないということもあったのかもしれない。遺族などの反対はなかったのだろうか。

 イーストウッドの視点は、批判的なわけではなく、ヒーローに祭り上げようともしていない。単に人間として描くというアプローチだろうか。アメリカのためにという大義のもと、次第に正義を曲げても良いという風に変化していくあたり、最後にはでっち上げまでしようとする。ホモセクシャル、マザー・コンプレックス、脅迫…… それでも、いまTVのCSIなどで描かれている指紋やDNAによって犯罪者を検索するシステム、科学的捜査はフーバーが作ったものなのだ。そもそもFBI自体がフーバーが作ったようなものだ。連邦法を成立させ、FBIの管轄を定め、その地位とあこがれの職業としてのイメージを作り上げていったと。使っていた銃は、実際に記録に基づいてだろう、たぶんコルト・ディテクティブのデホーンド・ハンマー・タイプ。

 ただ実在の人物の人生であり、創作ストーリーのように都合よくクライマックスで盛り上がって終わるわけではない。むしろ、前半から途中にクライマックスがあり、終わりは死のようにフェードアウトしていく。これは映画としてはちょっと寂しい。イーストウッドの前作「ヒアアフター」(Hereafter・2010・米)のようにちょっと盛り下がる感じも……。もうイーストウッドのような立場になると、観客の受けを狙うようなことをしなくても良いのだろう。好きなように作れる。

 ジョン・エドガー・フーバーを演じたのはレオナルド・ディカプリオ。超老けメイクのシワとシミだらけで、ぶよぶよのお腹まで付けて、でもレオナルド・ディカプリオは失っていない。実際は1974年生れだから今年38歳か。最近はプロデューサー業にも進出していて、あまり評判の良ろしくなかった「エスター」(Orphan・2009・米/加ほか)や発想は良かった「赤ずきん」(Red Riding Hood・2011・米/加)などを手掛けている。なんと実写版「AKIRA」のプロデューサーでもあるらしい。出演作はほとんど面白いんだけど……。

 秘書のヘレン・ガンディはナオミ・ワッツ。やはり老けメイクで独身の老婆まで演じている。まあ、きれいな人なので、出ているだけで嬉しい。本作の前に、CIAの女性エージェントが正体をばらされてという「フェア・ゲーム」(Fair Game・2010・米/アラブ首長国連邦)に出ていた。プリ・プロまで合わせると公開をひかえた新作が5本もある売れっ子。最近アート系が多い気がする。

 右腕クライド・トルソンを演じたのはアーミー・ハマー。ソフトな感じのなかなかの二枚目。まだ新人だそうで、TVのゲスト出演などを経て「ソーシャル・ネットワーク」(The Social Network・2010・米)で双子を1人で演じていた。本作がブレークのきっかけになったのか、新作が5本控えている。もちろん老けメイクで誰かわからないくらいまでやっている。

 フーバーの母親を演じたのはイギリスの名女優ジュディ・デンチ。「007シリーズ」の新Mが有名だが、ミュージカルの「ナイン」(Nine・2009・米/伊)では母的存在の衣装デザイナーを演じ、歌も歌っている。本作では、デジタルなのか特殊メイクなのか、他の人とは逆にかなり若返っている。これがスゴイ。

 アメリカの英雄、リンドバーグはジョシュ・ルーカス。ほとんどセリフはないが、強面なのでそれだけで存在感がある。人工知能を持った戦闘機を描いた「ステルス」(Stealth・2005・米)で主演していた人。ただ最近の作品はほとんど日本劇場未公開となっている。

 司法長官ロバート・ケネディを演じていたのはジェフリー・ドノヴァン。人気TV「バーン・ノーティス 元スパイの逆襲」(Burn Notice・2007〜・FOX TV)の主人公マイケル・ウェステンを演じている人。映画では本作の前に、同じイーストウッド監督作品の「チェンジリング」(Changeling・2008・米)で警部役を演じていた。本作ではかなりシリアスなので、「バーン・ノーティス」のイメージは全く無い。

 登場した銃器は、トンプソンM1928、たぶんコルト・オフィシャル・ポリスなど。劇中映画はジェイムズ・キャグニーの「民衆の敵」(The Public Enemy・1931・米)と、同じくジェイムズ・キャグニーが出た全く逆の映画「Gメン」("G" Men・1935・米)。

 自伝の後述という形の回想で構成された脚本はダスティテン・ランス・ブラック。なんと1974年生れの38歳。それでこんなに重厚な物語を書くとは。7本の脚本を書いているが、監督作品もTVや短編も入れると7本。メジャーな脚本ではゲイの社会活動家を描いたショーン・ペンの「ミルク」(Milk・2008・米)がある。

 監督はもちろんクリント・イーストウッド。プロデューサーと音楽も担当している。1930年生れだから今年82歳。モノクロ3D上映だった「半魚人の逆襲」(Revenge of the Creature・1954・米)でスクリーン・デビューしてから、半世紀以上、現役で活躍し続けているのだからすごい。劇場長編映画の監督デビューはかなり怖かった「恐怖のメロディ」(Play Misty for Me・1971・米)から。本当に巨匠という言葉にふさわしい人。彼が売れるきっかけとなった西部劇をまたそろそろ撮っても良いのではないだろうか。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保しておいて30分前くらいに到着。10分前くらいに会場になり場内へ。観客層のメインはやっぱり中高年。20代以下は少々。女性は3割ほど。

 気になった予告編は……スクリーンが少し上下に、そして左右に広がってシネスコ・サイズになってからの「ダークナイト ライジング」はバットマンの最新作。映像から漂うとんでもないことが起こりそうな雰囲気がたまらない。ゾクゾクするような感じ。7/28公開。

 いい気分でいたら、遅れて入って来ていきなりケータイをチェック。まぶしいっての。と思っていたら、どこかで携帯のバイブが唸っているし。場内に入る前にケータイを切れよ。

 そして時代劇の予告が始まって、見ていると、まさかの実写映画化は「るろうに剣心」。予告では本格的なチャンバラ時代劇のよう。8/25公開。


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