Coriolanus


2012年2月25日(土)「英雄の証明」

CORIOLANUS・2011・英・2時間03分(IMDbではUS版122分)

日本語字幕:細丸ゴシック体下、岡田理枝/シネスコ・サイズ(テクニスコープ)/ドルビー・デジタル

(英15指定、米R指定)

公式サイト
http://gacchi.jp/movies/eiyu-shoumei/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

ローマでは深刻な食料不足から市民がデモを決行、政府は非常事態宣言をし、治安維持のためマーシアス将軍(レイフ・ファインズ)を派遣する。マーシアスは市民を罵倒し、解散させが、この機に乗じて隣国のヴァルサイが攻め込んで来る。軍の先頭に立って最前線で戦うマーシアスは、敵の将軍、宿敵オーフィディアス(ジェラルド・バトラー)と遭遇し、1対1の決闘を挑む。しかし戦いの途中で近くに爆弾が落ち、決着は付かないが、ヴァルサイ軍を追い払うことに成功する。市民はマーシアスを誉め称え、議員のメニーニアス(ブライアン・コックス)の口添えもあり、国のトップに指名される。しかし、自分たちを下に見て、言葉遣いも乱暴な軍人がトップに立つことを快く思わない護民官は、民衆を扇動し、指名を覆させ、逆に追放させてしまう。

73点

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 シェイクスピアの悲劇「コリオレイナス」を現代劇に置き換えた、レイフ・ファインズ渾身の監督・主演作品。まったく気ままで移ろいやすい民衆というか、大衆に翻弄される、1本スジの通った軍人の生きざま、人生。それがまさに悲劇。

 見ていると、いとも簡単に護民官に扇動されてしまう民衆に腹が立つ。と同時に、軍人としての名声を得るためなら命もかけろと息子を育てながら、民衆に取り入るためには嘘も付けとそそのかす母親の姿にもゾっとする。そして、自分たちの個人的な野望をうまく言い換えて民衆を操る政治家たちの利己主義とおぞましさに呆れ、あれほど憎んでいた敵であるはずのコリオレイナス・マーシアスをいともたやすく盟友として受け入れたかと思うと、戦績から自国の民衆の人気を得ると危険だからと命を奪おうとするオーフィディアスに狂気を感じる。まさに、感情揺さぶられ放題。

 まあ、見事に手の平返し、ブレまくりの人々のオンパレード。マーシアスにとっては悲劇だが、観客にとっては理解を越えた展開。時代設定が違えばこういうこともありだろうが、現代においてしまうと、どうしてもリアリティがない。1つ1つは現代でも良くあることだろうが、いくらなんでも、それが全部起こってしまうのはどうもありえない。物語のための展開という感じ。

 戦闘シーンはリアルで、血まみれ。ローマ軍はアメリカ軍系の装備で、エイムポイントの載ったM4カービンだったり、SIGのSG552だったりし、ヴァルサイ軍はロシア系装備で、AKMSやPKMマシンガンだったりする。ボディーアーマーやチェスト・リグなども身に付けている。銃の構え方、建物のサーチの仕方なども現代戦そのもの。しかし、現代戦で総司令官の将軍が最前線で銃を持って戦うなんてありえないだろう。まして、司令官同士のナイフによるタイマン、1対1の戦いなんて。

 製作・監督・主演のレイフ・ファインズは、もともと王立演劇学校からロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに入ったというから、シェイクスピアは原点というわけ。監督で脚本家で俳優のケネス・ブラナーと一緒だ。彼もロイヤル・シェイクスピア・カンパニー出身で、レイフ・ファインズの2年先輩。シェイクスピアの「恋の骨折り損」(Lover's Labour's Lost・2000・英/仏/米)をミュージカルにしたり、モーツァルトの「魔笛」(The Magic Flute・2006・仏/英)を第一次世界大戦を舞台に描いたりしている。しかも2人とも「ハリー・ポッター」シリーズに出ている(出演作がずれていて共演はしていないが)。レイフ・ファインズが強烈だったのはもやっぱり「シンドラーのリスト」(Shindler's List・1993・米)のドイツ軍将校役だろう。最近では「ハート・ロッカー」(The Hurt Locker・2008・米)に民間軍事会社のオペレーターで出ていた。

 宿敵オーフィディアスはジェラルド・バトラー。本作では理解しがたい手の平返しのキャラクターだが、イメージとしては「300〈スリーハンドレッド〉」(300・2007・米)があるのだろう。確かにこれが最も良かった気がする。アクションの「GAMER ゲーマー」(Gamer・2009・米)や「完全なる報復」(Law Abiding Citizen・2009・米)は良かったが、コメディの「バウンティー・ハンター」(The Bounty Hunter・2010・米)は残念だった。どうも戦う男が向いているのかも。

 議員のメニーニアスはブライアン・コックス。悪役の多い人で、アクションの「ロング・キス・グッドナイト」(The Long Kiss Goodnight・1996・米)や「ボーン・アイデンティティー」(Rhe Bourne Identity・2002・米/独/チェコ)や日本製ホラーのリメイク「リング」(The Ring・2002・米/日)、大ヒット・シリーズ「X-MEN2」(X2・2003・加/米)、オールド・パワー炸裂アクション「RED/レッド」(Red・2010・米)など、大作に欠かせない人。

 名声最優先の厳格な母ヴォルニウムはヴァネッサ・レッドグレイヴ。1950年代からTVで活躍している人で、オスカー受賞作のドラマ「ジュリア」(Julia・1977・米)は有名。「オリエント急行殺人事件」(Muder on the Orient Express・1974・英)からミステリー作品に多数出演している。最近では死の床を描いた「いつか眠りにつく前に」(Evening・2007・米/独)や、見ていないが「ジュリエットからの手紙」(Letters to Juliet・2010・米)などに出ている。

 マーシアスの控えめな妻ヴァージリアはジェシカ・チャスティン。TVで活躍していたが2008年から劇場作品にも出るようになり、2011年は本作のほか「ツリー・オブ・ライフ」(The Tree of Life・2011・米)や「テイク・シェルター」(Take Shelter・2011・米)が公開されるなどブレイクの兆し。

 民衆を扇動する男性リーダーはアシュラフ・バルフム。イスラエル生れで、「キングダム/見えざる敵」(The Kingdom・2007・米/独)の現地軍将校や、史劇の「アレクサンドリア」(Agora・2009・西)に出ている。

 シェイクスピアの原作を脚本にしたのはジョン・ローガン。史劇の「グラディエーター」(Gladiator・2000・米/英)、感動作「ラストサムライ」(The Last Samurai・2003・米)、最近だと話題作「ヒューゴの不思議な発明」(Hugo・2011・米)を書いている。なるほど、なかなかスゴイ人なんだ。

 公開初日の初回、銀座の劇場は初回のみ全席自由で、30分前くらいに着いたらまだエレベーターが動いておらず、一体いつ動き出したのかが全くわからない。せめて係員が降りてきてどうぞと言うとか、必要なんじゃないだろうか。25分前くらいに動き出したようで、誰かが試してみて、止まる階にランプが点くということで皆乗り込む。

 初めはほとんどジジ、ババが17〜18人で、男女比は4対6くらいで女性の方が多かった。最終的には469席に6.5割くらいの入り。若い人3割、中年3割、高齢者3割と言う感じ。外人さんが2組いた。気になったのは関係者で、最初7〜8人だったのが、場内が暗くなるころには20人くらいになって、後ろに鈴なり。こんなに必要か?

 暗くなって始まった予告編で気になったのは……スクリーンが左右に広がってシネスコ・サイズになってから、「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」は新予告に。あまりにアクション満載で、どこがシャーロック・ホームズだ、という気もするが、映画としては面白そうで、楽しみ。


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