Drive


2012年4月1日(日)「ドライヴ」

DRIVE・2011・米・1時間40分

日本語字幕:丸ゴシック体下、岡田壮平/シネスコ・サイズ(デジタル、Arri)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米R指定、日R15+指定)

公式サイト
http://drive-movie.jp/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

町の自動車修理工場で働きながら、映画のカー・スタントマンをやっているキッド(ライアン・ゴズリング)は、裏の世界では強盗を車で現場から逃がすドライバーだった。彼は誰とも人付き合いをせず、部屋にほとんど家具もない孤独で味気ない生活を送っていた。そんなある日、キッドはエレベーターで同じフロアに住む子連れの美しい女性アイリーン(キャリー・マリガン)と知り合う。子供の父親は今刑務所にいるという。やがて2人は魅かれあい、子供もキッドになつくが、その男、スタンダード(オスカー・アイザック)が出所してきてパーティーを開くことになり招待される。キッドはスタンダードと話し、悪いヤツではないと判断、見守って行くことにする。ところが、スタンダードが子供の見ているところで2人組の男に襲われる。刑務所で借りを作り、返せないなら強盗をやれと言われたという。同情したキッドは車の運転を買って出るが、思わぬ展開となる。

77点

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 泣かせる話で感動的。そして驚くほどヴァイオレンス満載で血まみれ。繊細で優しいのに、残酷で容赦ない。このアンバランスというか、組み合せの妙。雰囲気、空気感というのがうまく描き出されている。

 前半はラブ・ストーリーのように幸せな雰囲気で、見つめあえばつい笑顔になってしまうような空気が流れている。ところが後半、それが一転。血を血で洗う、恐ろしいまでのギャング映画に。とても同じ映画とは思えないほどの転換ぶり。それがちゃんと1本にまとまっているのだから、またスゴイ。役者の演技はもちろんだが、とんでもない演出力ではないだろうか。この監督、恐るべし。

 設定としてはマイケル・マン監督、ジェームズ・カーン主演の「ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー」(Thief・1981・米)のような感じもあるが、そこからラブ・ストーリーになり、さらにヴァイオレンスいっぱいのギャング映画になる。銃撃戦は非常に恐ろしい。頭が飛んだり、血が飛び散るのはもちろん、銃声が大きくリアルだからだ。この銃撃戦の雰囲気はハリウッド映画というよりイギリス映画のようだ。ハンマーを使うのは韓国映画、チェ・ミンシクの「オールド・ボーイ」(Oldboy・2003・韓)の影響ではないだろうか。

 構成は西部劇に近い。原作通りなのだろうか。主人公は先に町に住んでおり、スゴイ技術を持っていながら誰とも没交渉でほとんど他所者のようだ。そして美しい女性に出会い、その一家を町を牛耳る悪人たちの手から守ってやり(旦那は守りきれないが)、去って行く。「シェーン」(Shane・1953・米)的な映画でもある。だいたい、西部劇は非常にたくさん作られていて、物語のパターンのほとんどが描かれたと言われているのだから、似て当然ということもある。あるいはハードボイルドのパターンとも言える。

 冒頭のシーンで主人公のキッドは爪楊枝をくわえているが、これは黒澤明の「用心棒」(1961・日)で三船敏郎がやっていたからではないか。これでニヒルな主人公のハードボイルドの雰囲気が出る。

 原作はジェイムズ・サリスの同名小説。多くのミステリー賞を受賞している人らしい。本作は数多くのメディアで絶賛されたということなので、映画化されて当然ということもあったのだろう。

 脚本にしたのは、イラン生れのホセイン・アミニ。ちょっと残念なリメイク「サハラに舞う羽根」(The Four Feathers・2002・米/英)の脚本のあと、渡辺謙が出た太平洋戦争前日秘話ミステリー「シャンハイ」(Shanhai・2010・米/中)を書いている。どうやらミステリー系が向いているらしい。

 すして、素晴らしい演出力を見せつけた監督は、デンマーク生れのニコラス・ウィンディング・レフン。だから普通のハリウッド映画とはちょっと違う雰囲気だったのか。1970年生れの42歳。若い。監督よりは脚本の方が作品が多い。しかしこの演出力はただ者ではない。本作のヒットで、ライアン・ゴズリングとの新作や、キャリー・マリガンとの新作が進んでいるのだとか。楽しみだ。

 主役のキッドはライアン・ゴズリング。現在上映中の「スーパー・チューズデー 正義を売った日」(The Ides of March・2011・米)にも主演している。新作が4本も製作中。

 ヒロインのアイリーンはキャリー・マリガン。イギリス美人らしい奥ゆかしい感じが素晴らしい。キーラ・ナイトレイの「プライドと偏見」(Pride & Prejudice・2005・仏/英)で映画デビュー。「17歳の肖像」(An Education・2009・英/米)で高く評価され、ジョニー・デップとマイケル・マンのギャング映画「パブリック・エネミーズ」(Public Enemies・2009・米)でハリウッド・デビュー。つい最近「ウォール・ストリート」(Wall Street: Money Never Sleep・2010・米)に出ていたが、ドロドロのドラマの中で1人さわやかで救いだった。本作も浮気話っぽくなり、三角関係のようになるのにドロドロにならないのは、この人の雰囲気もあると思う。

 西部劇のオヤジさん的存在のシャノンはブライアン・クランストン。いい雰囲気。TVを中心に活躍していたようだが、メジャーな映画では「リトル・ミス・サンシャイン」(Little Miss Sunshine・2006・米)や感染群像劇「コンテイジョン」(Contagion・2011・米/アラブ首長国連邦)などに出ている。

 元映画プロデューサーの悪党のボス、バーニーはアルバート・ブルックス。最初はコミカルな人かなとも思ったが、これがどうしてかなり怖い。冷血。銃じゃなくカミソリを使うところがまた怖い。「サタデー・ナイト・ライブ」の脚本・演出を経て、映画デビューは「タクシードライバー」(Taxi Driver・1976・米)だそうだが、大きな役は「ブロードキャスト・ニュース」(Broadcast News・1987・米)から。監督もやっているが、そちらは今1つかも。若い頃は人の良さそうな感じだったが、歳を取って貫録が出てきたら怖い役が合うようになったのか。この前の「セイブ・ザ・ワールド」(The In-Lows・2003・米/独/加)でも、人の良さそうな役だったが。

 その下の悪党、ニーノはロン・パールマン。独特の容貌と、190cmという長身から、怪優的イメージが強い人。本作でもかなり怖い。最初に印象に残ったのはショーン・コネリーの「薔薇の名前」(Der Name der Rose・1986・西独/伊/仏)か。そのあとギレルモ・デル・トロ監督の「クロノス」(Cronos・1992・メキシコ)で衝撃を受け、ジャン=ピエール・ジュネ監督の「ロスト・チルドレン」(La cite des enfants perdus・1995・仏/独/西)もショッキングだった。どうもアメリカではなく外国で評価され、逆輸入された感じだろうか。「ヘルボーイ」(Hellboy・2004・米)シリーズもすごかったが。

 キャリー・マリガンの夫のスタンダードはオスカー・アイザック。中東系の人かと思ったら、グアテマラ生れなんだとか。レオナルド・ディスプリオのアクション「ワールド・オブ・ライズ」(Body of Lies・2008・米)で相棒役を演じていた人。つい最近「エンジェル・ウォーズ」(Sucker Punch・2011・米/加)で嫌らしい看守役をやっていた。イメージが全く違うのが、またスゴイ。

 一緒に仕事をすることになる情婦のようなブランチはクリスティナ・ヘンドリックス。ショットガンで頭がぶっ飛ばされる。驚いた。まさかの展開。TVがメインだったが、「レオニー」(Leonie・2010・仏/英ほか)などに出ている。本作の成功で出演が増えるかも。

 登場した銃は、スタンダードが強盗で使うのがS&Wオート、襲ってきたギャングの銃を奪ってキッドが使うのがポンプ・ショットガン(これがブランチの頭をぶっ飛ばす)、キッドを殺しにエレベーターに乗って来るギャングはP226。

 こんな血まみれなのに、クレジットの文字は黒地にピンク。そして、クレジットで出てくるドライバーの数が半端ではない。

 公開2日目は1日なので、東京は当日券1,000円の日。なんと、もう前売り券を買っているから関係ない。クソ。しかも小さめの劇場だから…… 新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保しておいて、30分前くらいに着いたが、ビルの入り口に長蛇の列。なんと並ばないで入れるはずのKINEZOに並ぶ人たち。横を通り抜けて中に入ると、今度はエレベーターに載るために長蛇の列。設計が悪く、小さなエレベーターが3台しかなく、しかも映画館直行は1台のみ。やれやれ。こけでロビーに着くと、そこでもまたKINEZOに長蛇の列。当日券売り場でも列で、ドリンク&フードも列。やれやれ。

 10分前くらいに開場してエレベーターで上がると、すでにCM予告を上映中。どうなっているんだろう。もっと早く入れろよ。最終的には253席ほぼ満席。若い人から中高年まで幅広く、男女比は半々くらい。映画の日だったので、普段映画を見ない人も来ていたのかも。

 気になった予告編は…… 途中からだったが、アニメ「009 RE:CYBORG」は面白そう。ただ、かなり「攻殼」っぽい雰囲気。その辺がちょっと気になった。秋公開。

 上下マスクの国歌斉唱からはじまる「ダークナイト ライジング」は何度みてもカッコいい。期待できそう。7/28公開。

 「メン・イン・ブラック3」は新予告。面白そう。ただ、気になったのは、すでに前売りは買ったのだが、今売っているものはオマケでミニ・ガンが付くと言うこと。ニューラライザーよりこっちの方が良かったなあ。5/25公開。

 暗くなってからも続々と人が入って来て、ケータイをいじっているヤツはいるし、座高の高いヤツが前に座って、スタジアム形式なのに頭が邪魔で字幕が読みにくくなるし。なんてついてないんだろう。


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