The Artist


2012年4月7日(土)「アーティスト」

THE ARTIST・2011・仏/ベルギー・1時間40分

日本語字幕:手書き風書体下、寺尾次郎/ビスタ・サイズ(左右マスク、IMDbではSuper 35、1.37)/ドルビー・デジタル、dts(IMDbではSDDSも)

(米PG-13指定)

公式サイト
http://artist.gaga.ne.jp/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

1927年、ハリウッド。新作映画が好評で、共演した愛犬と共に舞台挨拶で大喝采で迎えられたキノグラフ社の大スター、ジョージ・ヴァレンティン(ジャン・デュジャルダン)は、絶頂期にあった。そして、劇場前、ふとしたことで女優をめざすペピー・ミラー(ベレニス・ペジョ)と顔見知りになる。間もなくペピーはエキストラのオーディションでジョージの映画のダンサーの役を得ると、ジョージのリードで長く写ることに。撮影後、お礼を言うために楽屋を訪れたペピーに、ジョージは「女優をめざすなら、目立つ特徴がないと」とホクロを描いてくれる。ペピーはホクロをトレードマークに、次第に売れて行く。1929年、キノグラフ社の社長アル・ジマー(ジョン・グッドマン)に呼び出されたジョージはトーキーの試作を見せられる。そんなものに将来はないと一蹴したジョージは会社側と決裂、独立し私財を投じてサイレント映画を作るのだが、大コケしてしまう。一方、ペピーはトーキーの波に乗り、スターへの階段を上って行く。

78点

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 この時代に、あえてモノクロ、サイレント、スタンダード・サイズ(トーキー、1.37)と来たか。ただし、ちょっと作為というか、あざとい感じもしないではないが、内容がストレートで、真摯、かつ一生懸命作っている感じが伝わってくるので悪い印象はない。

 たぶん「用意、スタート!」のセリフで終わる映画を作りたくて、この作品を作ったのではないだろうかと思えるのが1つ。そして、サイレントの世界で音が聞こえるようになる方が異常で悪夢というパラドックスのような世界を撮りたくて、この作品を作ったのではないだろうかと思えるのが1つ。さらに、ずっとサイレントで来て、ラストの数分だけトーキーにして、当時の観客が得たような驚き、世界が広がった時の感動を表したくて、この作品を作ったのではないだろうかと思えるのが1つ。

 これは映像表現で言うと、黒澤明が撮った「天国と地獄」(1963・日)の、モノクロの中での色の付いた煙というのに似ているかもしれない。その対比と衝撃。そして、印象に残ったカットは映画会社の3つのフロアを真横から捉えたカット。それぞれに人が動いていて、主要人物だけが上下動する。

 とにかくジャック・ラッセル・テリアのアギーが素晴らしい。かわいいし、賢くて芸達者だし、本当に彼(彼女?)にアカデミー助演賞を出しても良いのでは。トレイナーはサラ・クリフォードという人。TVの仕事が多いようだが、劇場映画ではジェイソン・ステイサムの「アドレナリン」(Crank・2006・米)で動物を提供している。本作の成功で今後仕事が激増するのではないだろうか。

 フランス映画なのに、舞台はハリウッドだし、出演者はアメリカ人という設定で、主演のジャン・デュジャルダンはフランス人ながら、ヒロインのベレニス・ペジョはアルゼンチン生れのフランス在住であるものの、他の多くはハリウッドの俳優たちという異色作品。だからアカデミー賞10部門ノミネート、作品賞を含む5部門で受賞という快挙をなしえたのかもしれない。

 ジョージ・ヴァレンティン役のジャン・デュジャルダンは日本ではあまりなじみのない人フランス生れの40歳。ヒゲのおかげで、まるるでクラーク・ゲーブルのような印象で、笑顔が特に素晴らしい。三船敏郎が持っていたような貫録のようなものを持っている感じも。「OSS117私を愛したカフェオーレ(未)」(OSS 117: Rio ne repond・2009・仏)で、ミッシェル・アザナヴィシウス監督と組んでいるらしい。本作はミッシェル監督との2作目。そして本作でアカデミー主演男優賞を受賞した。使った銃は、西部劇でスペンサー・カービン、自作の映画で細かくわからなかったがボルト・アクション・ライフルとリボルバー、焼け跡で箱から取り出すリボルバーはS&Wのミリタリー&ポリスの2インチのようだった。

 ペピー・ミラーはベレニス・ペジョ。アルゼンチン出身でフランス在住。監督のミッシェル・アザナヴィシウスの妻で、2人の子供がいるんだとか。ヒース・レジャーの痛快作「ROCK YOU![ロック・ユー]」(A Knight's Tale・2001・米)で、貴族の娘の侍女を演じていた人。もちろん「OSS117私を愛したカフェオーレ(未)」にも出ているらしい。ただ、本作の場合、ちょっと尖った印象もあるので気が強そうに見えて、もう少し丸い印象の人のほうが良かったような気はする。とは言え、ジョージの上着の袖に自分の手を通して演じる1人芝居のパントマイムは秀逸。タップもうまかった。

 ジョージの運転手クリフトンはジェームズ・クロムウェル。「ベイブ」(Babe・1995・豪/米)のご主人とか、ミステリーの「将軍の娘/エリザベス・キャンベル」(The General's Daughter・1999・独/米)の将軍なんかをやっている人。有名な作品にもたくさん出ている。最近はSF「サロゲート」(Surrogates・2009・米)に出ていた。

 ペピーの運転手はエド・ローター。悪役が多い人で、古くは「ダラスの熱い日」(Executive Action・1973・米)や「ロンゲスト・ヤード」(The Longest Yard・1974・米)に出ていて、最近だと未公開だが面白い西部劇「セラフィム・フォールズ(未)」(Seraphim Falls・2006・米)や、ダークなSF「ナンバー23」(The Number 23・2007・米/独)に出ていた。

 キノグラフ社の社長アル・ジマーはジョン・グッドマン。悪党役もやるが、基本的には人の良い役が多い。「赤ちゃん泥棒」(Raising Arizona・1987・米)、「バートン・フィンク」(Barton Fink・1991・米/英)などのコーエン兄弟作品から、スピルバーグの「オールウェイズ」(Always・1989・米)やコメディの「ラルフ一世はアメリカン」(King Ralph・1991・米)などにも出ている。最近だと「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」(Extremely Loud & Incredibly Close・2011・米)に出ている。

 公式サイトによると、犬のアギーは、2002年のフロリダ生れらしい。最初の飼い主から動物トレーナーに引き取られて、1歳半で映画デビューしたのだとか。そして本作でカンヌ映画祭のパルム・ドッグ賞を受賞したと。すごい。

 脚本・監督はミシェル・ザナヴィシウス。フランス生れの45歳。TVからキャリアをスタートさせ、劇場長編映画の監督デビューは「マイ・フレンズ(未)」(Mes amis・1999・仏)。役者もやっているようだが、「OSS117私を愛したカフェオーレ(未)」でブレイク。続編を撮った後本作に至るらしい。本作の演出では、昔ながらのアイリスやワイプを多用、雰囲気を盛り上げている。

 公開初日の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保して30分前くらいに到着。ロビー下のエスカレーターのところに「飲食物の持ち込みは固くお断りします」の表示が。これまでは予告編を上映しているモニターの下に流れていたり、場内へ移動するときに注意されたりくらいだったのが、だんだん大きく広く表示されるようになってきた。そこまでして飲食物の売り上げを守りたいのだろうか。だいたい、劇場で売っている飲食物が適正な価格で、おいしければ、誰もあえて持ち込みなんてしないのに、と思うが(少なくともボクは)。

 10分前くらいに入場。ほぼ中高年で、どちらかというと高寄り。モノクロ、サイレントだからだろうか。男女比は4.5対5.5くらいで、やや女性の方が多かった。まあ、いつもどおり遅れてくる人が多く、最終的には607席に4.5割くらいの入り。話題の作品の割には少ないかも。

 少し暗くなって、下品なマナー啓蒙と分けのわからないマヨネーズCMのあとで始まった予告編で気になったのは……ジョニー・デップの新作はコメディらしい「ラム・ダイアリー」。公式サイトにはラブ・ロマンスとあるが……。6/30公開。

 サム・ワーシントンとキーラ・ナイトレイのラブ・ストーリー、上下マスクの「恋と愛の測り方」は女子向けか。まったく興味が湧かなかった。5/12公開。

 珍しく最初にタイトルが出てわかりやすかった予告はウディ・アレンの「ミッドナイト・イン・パリ」。1920年代のパリにタイムトラベルしてしまうアメリカ人の話らしいが、アカデミー脚本賞を受賞しているので面白いかも。予告も、最初の方は普通のドラマっぽくいまひとつの感じだったのが、タイムトラベルしたら突如面白そうな感じに。はたして……5/26公開。

 上下マスクの「ミッシングID」は、なかなかタイトルが出ずイライラしたが、残念なあのヴァンパイア映画のテイラー・ロートナーの主演なのでこりゃダメだろうなと思ったら、シガニー・ウィーバーが出て入るではないか。しかも、児童誘拐のサイトに自分の名前を発見する主人公という話で、CIAやらFBIが出てきて、撃ち合いがあって……意外にも面白そう。6/1公開。


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