Wu xia


2012年4月22日(日)「捜査官X」

武侠 WU XIA・2011・香/中・1時間55分

日本語字幕:丸ゴシック体下、伊東武司/シネスコ・サイズ(マスク、Super 35 + デジタル)/ドルビー・デジタル(IMDbではドルビーデジタルEX、dts-ES)

(米R指定、日PG12指定)

公式サイト
http://www.sousakan-x.com/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

1917年、中国・雲南省の山奥の小さな農村に怪しい風体の男2人が現れ、両替商の老夫婦の店に入ると、金を出せと要求した。そして老夫婦が抵抗すると、殴る蹴るの果てに大きな剣を抜き殺そうとする。たまたまその店に障子の張り替えのために来ていた紙職人のリウ・ジンシー(ドニー・イェン)は無我夢中で飛び出し、犯人にしがみついて乱闘となる。そして運良く2人の悪党を倒して、店と老夫婦も守ることに。やがて警察がやって来て検視を始め、捜査官としてシュウ・バイジュウ(金城 武)がやって来る。シュウは殺された男たちが指名手配されている凶悪犯で、かなりの武術の使い手であることをつきとめると、死体の目が充血していたことに気付く。あの男たちを倒したなら、リウは相当の武術の達人でなければならないはずだった。

74点

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 ある意味、香港映画らしい香港映画。驚くほど緻密かと思えば、あっけないほどズサンで、ただ感情は良く伝わってくるし、悲惨な映画。そして絵が美しく、色も濃く力強い。音響はクリアで、良く周り、非常に立体的。カンフー・アクションも満載ながら、過激な表現も多々あり、喉を掻き切り、耳が飛び、腕が飛び、リアルな死体が大写しになる。音声はクリアーで、良く回っていた。

 例によって日本語タイトルは意味不明。捜査官が出てくるんだけど、Xって何なんだろう。しかも捜査官が主人公なのではなくて、Na(ナレーション)で、事件のすべての元で、元凶。純粋無垢ゆえ諸悪の根源みたいな存在。この男が出てこなければ事件は起きなかったし、多くの人が死なずにすんだ。運命のように避けられなかったというなら、まだ許せるが、こいつが正義というか法にこだわったために、悲劇が起こった。そこが、もう少しうまく作られていたら、もっと納得できる良い話になっていたのではないだろうか。

 とは言え、このお話はデヴィッド・クローネンバーグ監督の「ヒストリー・オブ・バイオレンス」(A History of Violence・2005・米/独)じゃないの? つきまとってくるのは片目をえぐられた男ではなく、事件の捜査官だけれど。「ヒストリー……」の方は、相手が凶悪な男だから納得してみることができたのだが、こちらは、過去に温情を掛けたがために自らも後遺症を負ってしまった正義感の強い男になっている点がひねられてはいる。しかし、そのために色々と無理が生じてしまってもいるし納得できない。

 なぜXなのかわからないが、捜査官Xことシュウ・バイジュウは金城 武。シュウがXuだから? このキャラクターは余計なことばかりやって、しかもしつこく、以下の事件のすべての責任はこの男1人のせい。過去に、恩情から見逃してやったら殺人を働かれて自分も被害を受けたというが、それでも納得はできない。お前のせいだ! というわけで損な役。台湾出身で、日本映画にも良く出ているが、最近は「レッドクリフ Part I」(Red Cliff・2008・中)シリーズで諸葛孔明を演じていた。本作の監督ピーター・チャンとはミュージカル・ラブ・ストーリーの「ウィンター・ソング」(如果・愛・2005・香)と実話に基づいた血みどろの戦い「ウォー・ロード/男たちの誓い」(投名状・2007・中/加)についで3本目なんだとか。ボク的にはウォン・カーウァイ監督の「恋する惑星」(重慶森林・1994・香)も良かったが、やっぱりチャン・イーモウ監督の「LOVERS」(House of Flying Daggers・2004・中/香)だろうか。

 紙職人のリウ・ジンシー役のドニー・イェンはどんどんスターらしくなってきている。ホント良い人という感じなんだけれど、演技もうまくなってきている感じで、本作でも田舎の人らしい朴訥な感じの前半と、正体がバレてからのカミソリのような感じが抜群。うまい。本作ではアクション監督もやっている。もちろん格闘技も抜群。「ドニー・イェン/COOL」(Ballistic Kiss・1998・香)のころは自主映画みたいな雰囲気だったのにも今ではすっかり一流だ。日本映画「修羅雪姫」(2001・日)はアクション監督のドニー・イェンのおかげで良くなった気がする。チャン・イーモー監督の「HERO」(英雄・2002・香/中)も良かった。すでにスターの雰囲気。

 紙職人のリウの妻、アユーはタン・ウェイ。あの話題になったSEX映画「ラスト、コーション」(色│戒・2007・米/中ほか)で過激なシーンを体当たり演技で演じていた美女。そのあと韓国映画に出たらしいが、あまり話題にならず、久々の新作という感じ。小さな農村の奥さんという感じが良く出ていたが、あまり存在感がなかったのは残念。

 悪党集団のボス、マスターはジミー・ウォング。監督・脚本・主演を務めた「片腕ドラゴン」(獨臂拳王・1972・香)などで知られるようになった人。特にテーマ・ソングで知られるようになった「スカイ・ハイ」(The Man from Hong Kong・1975・香/豪)もこの人の主演。日本ではジャッキー・チェンの「炎の大捜査線」(火焼島・1990・台)や役所広司の「極東黒社会」(1993・日)以降、映画に出ず引退状態。本作が久々の復帰作らしい。昔はスリムだったんだなあ。怖さにくわえて憎たらしさ抜群。

 脚本はオーブリー・ラム。ピーター・チャン監督の製作会社UFO専属の脚本家だそうで、「ウィンター・ソング」や「ウォー・ロード/男たちの誓い」も書いている女性。だから金城 武ともよく仕事をしている。バイオレンス溢れる感じはまったく女性を感じさせない。

 監督はピーター・チャン。驚きの感動ファンタジー「月夜の願い/新難兄難弟」(新難兄難弟・1994・香)、ラブ・ストーリーの「君さえいれば/金枝玉葉」(金枝玉葉・1994・香)、香港アカデミー賞9部門受賞した「ラブソング」(甜蜜蜜・1996・香)を監督するなど、ラブ・ストーリー系の作品が多い人。最近はドニー・イェンの「孫文の義士団」(十月圍城・2009・中/香)を製作している。監督よりはプロデュースの方が2倍以上多い。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保。10分くらい前に開場となって場内へ。メインは中高というより高寄り。女性は30人に7〜8人。最終的には232席に4割くらいの入り。ちょっと少ない気がする。

 キューピーのCM同様、意味不明な「ごはんかいじゅう」のCMだか歌だかに続いて半暗になってはじまった予告編で気になったのは……なんだか香港映画か、韓国映画のような印象のラブ・ストーリー、上下マスクの「君への誓い」は、自己で記憶喪失になった新婚の妻と夫の実話だとか。6/1公開。

 ジョニー・デップの「ラム・ダイアリー」は予告を見ても内容がサッパリわからなかった。ティーザーだからだろうか。これで前売りを買う判断はできないなあ。言えるのは「早くタイルを出せ」ということ。6/30公開。

 その点ウッディ・アレンの「ミッドナイト・イン・パリ」は、最初にタイトルが出て覚えやすい、理解しやすい。昔の予告はこういう形式が多かった気がする。最近のものは制作者の自己満足としか思えないものが多い。

 上下マスクの「恋と愛の測り方」は気取ったラブ・ストーリーのようだが、要するに不倫映画じゃないの? うーむ。5/12公開。

 スクリーンが左右に広がってシネスコ・サイズになって本編へ。


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