Midnight in Paris


2012年5月27日(日)「ミッドナイト・イン・パリ」

MIDNIGHT IN PARIS・2011・西/米・1時間34分(IMDbではアルゼンチン版100分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、石田泰子/ビスタ・サイズ(Arri、Super 35)/ドルビー・デジタル

(米PG-13指定)

公式サイト
http://www.midnightinparis.jp/
(音に注意、全国の劇場リストもあり)

映画脚本家のギル(オーウェン・ウィルソン)は婚約者のイネズ(レイチェル・マクアダムス)と共に、彼女の両親のパリ出張旅行に便乗して、パリを訪れる。両親からはろくに働きもせずにと疎まれていたが、ギルは小説に取り組み、もうかる脚本のリライトの仕事をしようとしない。パリでもギルは小説に掛かりきりで、ろくにイネズの相手もしない。そんな時、偶然、イネズの友人で、ソネボンヌ大学で教鞭を取るポール(マイケル・シーン)と再会し、イネズはポールと出かけるようになる。ある日、夕食の帰り、イネズはポールとダンスに行くというので、ギルはひとり歩いてホテル帰ることに。ところが道に迷い、0時を過ぎてもホテルにたどり着けない。そこへ1台のクラシック・カーが現れ、誘われるままに車に乗り込むと、パーティー会場にたどり着く。そこにはすでに亡くなった1920年代に活躍した有名人たちがいた。

72点

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 IMDbでは7.8点という高評価。うーん、有名スターはたくさん出ているものの、映画なのに小さな話。パリでロケしているしお金もかかっているが、ある意味、特番TVムービーのような印象も。婚前旅行でパリに行ったカップルが、本当に自分の欲していることを見つめ直し、婚約を解消すると、ただそれだけのお話。

 そのきっかけとなるのが、妻となるイネズの友人というインテリのイギリス男、ポールの登場。それにより、ギルはマジックが起きるパリの夜、不思議な体験をして自分を見直すことになる。映画の中で、ポールは立派な肩書きを持ち、知識をひけらかす嫌なヤツという設定になっているが、映画のギャグや構成こそが、1920年代にパリで活躍していた文化人を知らないと楽しめないもので、映画自体が知識をひけらかす感じになってしまっているという矛盾。知識人ウディ・アレン監督らしい作品ともいえるのだろうが、これを見て笑えるのが知識人で、笑えないのはそうじゃないみたいになっているのは残念。実際、聞こえよがしに笑っている女子がいたし……。

 見終わった後、喫茶店とかで友達と、コール・ポーターがどうとか、スコット・フィッツジェラルドがどうしたとか、ヘミングウェイがどうだったかとか知識のひけらかしがあったりすると、なお引いてしまう。

 パリは行ったことがないし、どんな雰囲気かもわからないが、きっとどんなマジックでも起きそうな雰囲気があるのだろう。特にアメリカ人にとっては。主人公が脚本家で、脚本は生活のためで、本当は小説を書きたいという設定からして、なんだか脚本も書いた監督の自伝的というか経験的物語のようで、それゆえパリでいろんな過去の文化人たちと出会うことになるわけだが、そういうマジックでなくても良かった気はする。1920年代の貧しい暮しを体験するとか、事件に巻き込まれるとか、本作のコアでもあるが有名人とではない恋をするとか。そこが引っかかった。

 たぶん、言いたいことは、今を生きろということだろう。主人公は1920年代にさかのぼって、いい時代だったと思う。しかし1920年代に生きるイネズは、2人でさらにさかのぼって1890年代に行くと、こここそが黄金期よと言う。ところが、その時代にいる人々はルネッサンスこそが黄金期だという。つまり、いつの時代だって、より昔の方がいい時代だったと。だから、昔ばっかり見ていないで、今を生きろと。

 ギル役はオーウェン・ウィルソン。ちょっと優柔不断な感じというか、ちょっと抜けているような感じが役にピッタリ。印象に残っているのは大蛇映画「アナコンダ」(Anaconda・1997・米/ブラジル/ペルー)のダメ男とか、「シャンハイ・ヌーン」(shanghai Noon・2000・米/香)のイケてない男、「エネミー・ライン」(Behind Enemy Lines・2001・米)の不運なパイロットといったところか。だいたいコメディが多いようで、最近は公開される作品が減っていた。

 婚約者のイネズはレイチェル・マクアダムス。「きみに読む物語」(Notebook・2004・米)が抜群に良かったが、清純派のイメージを覆したかったのか、「シャーロック・ホームズ」(Sherlock Holmes・2009・米/独/英)では悪い役に行き、本作は正反対の我がまま役。それでも近日公開の「君への誓い」でまた恋愛物を演じるらしい。

 知識をひけらかす、いけ好かない男ポールはマイケル・シーン。ホラー・アクションの「アンダーワールド」(Underworld・2003・英/独ほか)の悪役も良かったが、実話に基づく「クィーン」(The Queen・2006・英/仏/伊)のブレア首相役は秀逸。さらに「フロスト×ニクソン」(Frost/Nixon・2008・米/英/仏)も良かった。

 1920年代の美女アドリアナはマリオン・コティヤール。最近出まくりの感がある。注目されたのはリュック・ベッソン、プロデュースの「TAXi」(Taxi・1998・仏)から。「エディット・ピアフ〜愛の賛歌〜」(La mome・2007・仏/英/チェコ)で美しいだけではないことを証明し、アカデミー助演女優賞を獲得。以後、引っ張りだこに。「パブリック・エネミーズ」(Public Enemies・2009・米)も良かったが、「インセプション」(Inception・2010・米/英)のレオナルド・ディカプリオの亡くなった妻役も印象に残る役。

 1920年代のアメリカの作家、ガートルード・スタインを演じたのはキャシー・ベイツ。スティーヴン・キングのホラー「ミザリー」(Misery・1990・米)は強烈だったし、一転「フライド・グリーン・トマト」(Fried Green Tomatoes・1991・米)は感動の物語。さらに「悪魔のような女」(Diabolique・1996・米)では探偵を演じ、「タイタニック」(Titanic・1997・米)の主人公を助けるお金持ち役も良かったし、私生活はダメだが大統領としては優れている男を描いた「パーフェクト・カップル」(Primary Colors・1998・仏/英ほか)のスキャンダル潰しのプロ役も良かった。2000年代になってからはいまひとつの感じもあるが、さすが大女優の貫録。存在感がある。1948年生れというから70歳近い。

 スペインの画家サルバドール・ダリを演じたのはエイドリアン・ブロディ。顔見せのような役だが、雰囲気はそっくり。「戦場のピアニスト」(The Pianist・2002・仏/ポーランドほか)で注目されたと思うが、情けない男の役で印象はあまり良くなかった。「キングコング」(King Kong・2005・ニュージーランドほか)はいい役で、SFドラマ「ジャケット」(The Jacket・2005・米/独)はなかなかショッキング。さらに「ハリウッドランド」(Hollywoodland・2006・米)の探偵役は強く印象に残った。最近では、シリーズ第3作「プレデターズ」(Predators・2010・米)に出ていた。

 監督・脚本はウディ・アレン。スタンダップ・コメディアン、脚本家、俳優、監督、いろんな顔を持つが、女性関係もいろいろあった。インテリはというイメージがあるが、俳優としては「007/カジノロワイヤル」(Casino Royale・1967・英/米)が一番良かった気がする。あれは笑った。それ以後、ほとんど自作自演でボクはあまり見ていないのだが、出演していない「カイロの紫のバラ」(The Purple Rose of Cairo・1985・米)はイラコバさんに勧められて見て、感動した。多くは日本ではアート系の小劇場での公開。見ていない。アカデミー賞もいくつか獲得しているが、興味はないらしい。それにしても、1960年代から活躍しているのだから、スゴイ。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で金曜に確保。30分前くらいに着いて、15分前くらいに開場。ほとんど中高年というのは、この監督の作品だと納得だろう。しかも最終的に287席に3〜4割くらいの入りもそんなものかと。男女比は半々くらい。ハイソな感じの中でアピールするように笑うって、嫌らしい感じが。なんか変な空気になったような。

 気になった予告編は…… CMの流れの中でスペイン映画「ブラック・ブレッド」は暗い話のようだが、なんだか見たい気にさせる。ただ。劇場がなあ……。6/23公開。

 上下マスクの「エクスペンダブルズ2」は出演者を羅列するだけの予告。シュワちゃんのところで笑いが起こっていたが、大丈夫か? 10/20公開。

 ジョニー・デップの「ラム・ダイアリー」はどんな内容なのか、予告を見てもさっぱりわからない。面白いのか、つまらないのか。失敗しそうな予感はあるが……6/30公開。

 まあ、とにかく予告はた役タイトルを出して欲しい。最後の一瞬だけで、タイトルと公開日と公式サイトのURLまで覚えるなんて無理。1画面1要素でも時間を掛けないと覚えられないというのに。TVの新番組CMだったら絶対にこんな手法を取らないのに。映画だけ別でいいなんて、ないと思うけどなあ。


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