Gaiji-keisatsu


2012年6月3日(日)「外事警察 その男に騙されるな」

2012・SDP/東映/木下工務店/東映ビデオ/博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ/Yahoo JAPAN/NHKエンタープライズ/ローソン/ぴあ/NHK出版/ツイン/読売新聞社・2時間08分

日本語字幕:手書き風書体/ビスタ・サイズ(Arri、ALEXA、HDデジタル)/ドルビー・デジタル


公式サイト
http://gaiji-movie.jp/
(音に注意、全国の劇場リストもあり)

5ヶ月前、朝鮮半島の南北国境付近で何者かのグループが北のウランを受け取り消える。同じ頃、3.11の震災により警備システムが崩壊した陸奥大学のレーザー研究所から、高性能パルス点火プラグの機密ファイルが入ったハードディスクが盗まれる。そして韓国ソウルで元警視庁公安部外事4課「公安の魔物」とあだ名される住本健司(渡部篤郎)は、韓国国家情報院(NIS)の尾行を振り切り、貧民街の奥に潜んでいた老人、徐昌義(田中泯)を保護、日本に連れ帰る。徐は在日2世で、日本の大学で核の研究をし、その後家族を日本に残したまま北に帰国、北の核開発の中心となっていた人物だった。そして、警視庁公安部外事4課の松沢陽菜(尾野真千子)は警察庁警備局長の倉田俊貴(遠藤憲一)から直接、再び住本の下につき、監視して報告するように特命を受ける。

76点

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 驚き圧倒される映画。ハラハラドキドキの展開と感動。スパイとスパイ、スパイとテロリストの騙し騙されの物語。悲痛な話で、ダークな設定だが、不思議とウエットになりすぎず、ちゃんと物語は進行し、それでいて心情はきっちりと描かれている。あやうく泣きそうになった。おそらく、主役の住本演じる渡部篤郎のクールさ、そして監督の堀切園健太郎の演出によるものだろう。大事なところでストーリーが滞り、登場人物がせつせつと心情を語りお涙頂戴になってしまう日本映画の変な傾向はない。そういう意味ではドライかも。しかし、ちゃんと感情は伝わってくる。うまい。ラスト、声の出ない子がひと言発するというのは、定番過ぎる設定だが、不思議と悪くなく、素直に受け入れられる。というか観客もそうあって欲しいと望む。

 実際には警視庁公安部外事には3課までしかないらしいが、日本はスパイに関する取締の法律がなく、スパイ天国といわれているそうで、その点からすると非常にリアルな話なのではないだろうか。ゾッとするような話。これは多くの人が見た方が良いと思う。たぶん世界の多くの国の裏で、こんな話が起きているのではないだろうか。

 住本のやり方は、なんだか日本版ジャック・バウアーという感じだ。目的を達成するためには手段を問わない。ギリギリの線だけは守るが、とことん突き進む。相棒までも撃ちかねないその危なさがよく出ているし、伝わってくる。北の国と、韓国、日本の3カ国が関わっているのも良い。中華な国もかかわっていても面白かったかもしれない。ちょっと「IRIS-アイリス」(Iris・2010・韓)っぽい感じも。

 絵は全体にダークで、やや片光でリドリー・スコット的な感じ。コントラストが強めでシルエットも多い。これはデジタルだから可能になったのかもしれない。

 劇中、核爆弾の点火装置や、核爆弾そのものも出てくるが、それがリアル。本物は良くわからないが、リアルな感じがした。SFや普通のエンテーテインメントに出てくるような大げさで派手なものとは違う存在感。素晴らしいデザイン。もちろん銃撃戦はリアルで、銃声も大きくまがまがしい。普通の日本映画とは違う。多くは韓国で撮影されたそうで、実銃ベースのプロップ・ガンを使っているらしい。アクション監督は「IRIS-アイリス」の人だとか。なるほど納得。出てきた銃は、外事警察官のS&Wチーフらしい2インチ・リボルバー、NISはFNのハイパワーかCz75系。ラストで使っていたのはグロック。NISのSWATはMP5とM4カービン。北の元高官はたぶんCz75系。

 もともとはNHKのTVドラマ「外事警察」(2009)。放送前から映画化に向けて動き出していたらしい。そして原案小説は麻生幾の「外事警察 CODE:ジャスミン」(NHK出版)。脚本は古沢良太。「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005・日)や、TVの「相棒」も手掛けている。最近映画では「探偵はBARにいる」(2011・日)を書いていて、素晴らしい実力の持ち主ではないかと思う。1973年生れというから、まだ40歳。今後もますます楽しみ。この人の脚本なら面白いかもしれない。

 撮影は相馬和典。NHKのカメラマンらしく、NHKの番組を担当。「ちゅらさん」、「七瀬ふたたび」などを手掛けていて、劇場用長編は初めてらしい。

 監督はTV版の「外事警察」の何本かを演出した堀切園健太郎。やはりNHKの人らしくNHKの番組を担当。「ちゅらさん」、「ハゲタカ」なども手掛けている。やはり劇場用長編は初めてらしい。今後も大いに期待したい。こういう人が日本映画を変えてくれるのかも。

 住本健司は渡部篤郎。独特の雰囲気を持った人で、NHKの大河ドラマもよく出ているが、何といっても「ケイゾク」が強烈だったのでは。その流れからか、本作でも警察官(厳密に言うと本作では内閣調査室の所属だが)。ただ最近は「外事警察」以外あまり大きな役はなかったよう。本作ではガバメントも使うが、カップ・アンド・ソーサーで構えるとは古い。劇中、流ちょうな韓国語を話している。素晴らしい。

 部下の松沢陽菜は尾野真千子。住本に反発しながらも仕事をこなしていく姿が、実にリアルで存在感がある。TVを中心に良く出ている。映画では面白かった「クライマーズ・ハイ」(2008・日)でちょっと生意気な女性記者を、やっぱりリアルに演じていた。本作と雰囲気はにているかも。こういう役が合っているのか。

 手先にされてしまう主婦、奥田果織は真木よう子。ちょっと悪い感じが抜群。NHKの「龍馬伝」でお龍を演じていたが、なによりフジテレビの「SP」が良かった。アクションもなかなかでハマっていた。

 その幼い娘、琴美は豊嶋花。なんと5歳。セリフはほぼないが、素晴らしい演技で自然だった。そしてなによりかわいい。

 日系二世の科学者、徐昌義は田中泯。山田洋次監督の時代劇シリーズ「たそがれ清兵衛」(2002・日)や「隠し剣 鬼の爪」(2004・日)に出ていた人。TVではNHKの「ハゲタカ」、「龍馬伝」にも出ていたそうで、それで本作につながったのだろう。鬼気迫る感じが素晴らしい。映画では「八日目の蝉」(2011・日)に出ていたらしいが、見ていない。

 NISエージェントのアン・チョンミルはキム・ガンウ。実話に基づいた衝撃作「シルミド/SILMIDO」(Silmido・2003・韓)にも出ていたそうで、最近では残念なリメイク「男たちの挽歌A BETTER TOMORROW」(A Better Tomorrow・2010・韓)に生き別れた弟役で出ていた。本作でのプロっぽい感じはさすが。関係ないが、ちょっと日本のお笑い「ジャルジャル」の後藤淳平に似ている気も。

 初日は舞台挨拶があるというのでパスして、公開2日目の初回、銀座の劇場は全席指定で金曜に確保。35分前くらいに付いたら窓口に20人くらいの列。ちょうど開いたくらいのタイミングだったらしい。コーヒーを飲みながら歩道で待っていると、25分前くらいに開場。ほぼ中高年で、高齢者寄り。若い男が少々。男女比は半々くらい。この客層でも場内で平気でケータイをつかっているヤツが多い。ロビーでやれ。呼び出し音が鳴るヤツまでいたのにはびっくり。

 2F席があるかは確認しなかったが、509席のうちの1F部分の6割くらいが埋まった。前に座ったヤツが若いカップルで、男が座高が高いのに帽子をずっと被っていて気になった。室内でも帽子を被るって感覚がわからない。ファッション以前の問題だと思うが……。

 前方が暗くなって始まった予告編だが、とにかくタイトルが出ない。ラストに一瞬、公開日と一緒に出たって覚えられないって!気になった予告編は……なんだかわからなかったのは「莫逆家族」。タイトルの読み方もわからないし、意味もわからない。チュートリアルの徳井義実が出ているバイオレンス映画という感じか。また漫画が原作のようで、読んでいる人にはこれでわかるのだろう。9/8公開。

 上下マスクの「アウトレイジ ビヨンド」はまた怒号が飛び交うバイオレンス映画らしい。ボクは興味は湧かないが、海外での評価は高い北野武監督作品なので、人が入るのだろう。10/6公開。

 うんざりな感じがたっぷりと漂っていたのは「苦役列車」。予告だけでも、見ているこちらが苦役な感じは凄い。これにお金を払うか? 7/14公開。

 まだ完全なティーザーで内容は全く不明の「北のカナリアたち」は東映創立60周年記念作品だそうで、北の荒れる冬の海が映る。実に暗い雰囲気。監督は阪本順治。はたして……。11/3公開。

 またTVドラマからの映画化は「臨場」。ボクは主人公のキャラがどうにもなじめない。ヒットするんだろうけど。6/30公開。


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