The Dark Knight Rises


2012年7月29日(日)「ダークナイト・ライジング」

THE DARK KNIGHT RISES・2012・米/英・2時間44分

日本語字幕:手描き風書体下、アンゼたかし/シネスコ・サイズ(一部IMAX、マスク、by Panavision:IMAX版は1.44)/ドルビー・デジタル、DATASAT、SDDS

(米PG-13指定)(日本語吹替版、IMAX版もあり)

公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/batman3/
(全国の劇場リストもあり)

ゴッサム・シティで8年前に亡くなった地方検事ハービー・デント(アーロン・エッカート)の追悼記念式典がおこなわれていた頃、CIAが身柄を確保した核物理学者のドクター・パヴェル(アーロン・アバウトボウル)が、飛行中の機内から異様なマスクを着けた男、ベイン(トム・ハーディ)によって連れ去られる。そしてゴッサム・シティでは謎の美女セリーナ・カイル(アン・ハサウェイ)がブルース・ウェイン家のパーティに潜入し、ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール)の指紋を盗み出すと、出席していたギリー議員(ブレット・カレン)を人質に脱出する。セリーナ・カイルが指紋を依頼人のベインに引き渡した直後、警官隊が突入し、本部長のゴードン(ゲイリー・オールドマン)が撃たれて重傷を負う。この事態に、ハービー検事殺害の罪をかぶって隠遁生活を続けていたブルース・ウェインはバットマンとして復活することを決意。ところがそこへ、ブルース・ウェインが株取引で失敗、全財産を失ったという報道が流れる。取引の承認に盗まれた指紋が使われたのだ。ウェインは会社の役員の地位を追われ、自宅からも追い出される。開発中だった、装甲車両や武器も没収され、密かに開発中だった、エネルギー問題を解決するはずの核融合炉までも奪われてしまう。

88点

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 先走ってしまって申し訳ないが「アベンジャーズ」は置いといて、「これが映画だ」という感じ。圧倒された。そして2時間44分という長丁場を堪能した。力強く、驚きに満ちた映像の数々。包み込むようで、臨場感溢れる音響。完全にこの世界に取り込まれた。強烈な悪、ヒーローの存在感さえをも凌ぐ、圧倒的な悪。もはやコミックス原作という枠を超えて、現実感のあるリアルな感じがして、恐ろしかった。こんなことになったら、どうしようと。そして、復讐、怒り、愛、信頼、正義感といった強い感情に思いっ切り揺さぶられる。一体どうやったらこんな悪に勝つことができるのかという絶望感さえ芽生え、そして、最後には希望と暖かさで包まれると。

 欠けているものがあったとすれば、それは笑い、しゃれたジョークくらいだろう。それ以外は、すべて盛り込まれていたような印象がある。これは1人でも多くの人が劇場で見た方が良いのではないだろうか。そしてついでに「日本よ、これが映画だ」という映画と見比べてみた方が良いかも。IMAX版ならさらに臨場感があるだろう。IMAX版を見る価値がある映画だと思う。

 何かを足して、前後編の2部作にせず、1話完結としたのも良かったと思う。途中で切ってしまうと、この緊張感、恐ろしさはすべて伝わらない。打ちのめされたような気になるのは、この1本としてまとまっているからだろう。確かに164分は長い。寝不足だと、気を失いそうになるかも知れないが、それはこの映画が退屈だということではない。怖くて恐ろしくても、どこか居心地の良さがあるのだろう。多くの人は、エンド・クレジットが始まっても座ったままだった。そう簡単に立てないほどの衝撃。この映画に関わった人すべての人にとって、この作品は誇りとなるだろう。そしてそんな作品を作ったクリストファー・ノーラン監督は、やはりただ者ではない。本当に凄い。そして、監督を信じてやらせたプロデューサーたちも素晴らしいということになる。お金は正しく使われた。

 印象的にはクリストファー・ノーラン組俳優総出演という感じ。最後には根性を見せるが、こすい市警副本部長を演じたマシュー・モディーンと、キャット・ウーマンだろう美女セリーナを演じたアン・ハサウェイくらいが、主要キャストでクリストファー・ノーラン監督と初顔合わせというところだろう。ここの渡辺謙にもいて欲しかったが、変な怪人で死んでしまっていたからなあ……リーアム・ニーソンみたいに霊というか幻で出るという手もあったろうに。

 ブルース・ウェイン役のクリスチャン・ベイルは、もはやバットマンと一体化してしまった感じ。私生活では問題があるのかもしれないが、スクリーンではとにかく役に徹している。99%くらいは暗い表情をしているので、ラストの笑顔がとてつもなく素敵だ。

 アルフレッド役のマイケル・ケインはノーラン作品ではスパイス的な存在。本作ではタフで息詰まる展開が続く中、心安らぐシーンの中心となっている。しかし、「お約束どおり、お守りできなかった」とお墓で泣くシーンはジーンと来た。もう80歳。

 ゴードン市警本部長はケーリー・オールドマン。あまり頼りにならない存在だが、本作では出番は少なくても結構存在感があった。悪役が多い人で、本作のように良い役はやりにくいのかもしれない。

 武器係のルーシャス・フォックス役モーガン・フリーマンももはやはまり役。安心感がある。本作の前に出ていたのは、ロートル活躍アクション「RED/レッド」(Red・2010・米)。クリント・イーストウッド作品常連でもある。

 ミランダ・テイトはマリオン・コティヤール。あまりに存在感があって、前作から引き続きの出演かと思ったら、本作からのキャラクターらしい。「インセプション」(Inception・2010・米/英)も凄い存在感だったからノーラン・ワールドにはまってしまったのか。「パブリック・エルミーズ」(Public Enemies・2009・米)でクリスチャン・ベイルと共演している。

 アン・ハサウェイはたぶん本作の中で1番か2番目に得をした人ではないだろうか。とにかく輝いていた。「プラダを着た悪魔」(The Devil Wears Prada・2006・米)も良かったが、ひょっとするとこれまでの中で最も良かったのではないだろうか。ボク的には「パッセンジャーズ」(Passengers・2008・米/加)が良いと思ったが、それも軽く越えている。若干アクションにお嬢様っぽいところもあったものの、かなりがんばっていた印象。なかなかカッコいい。アイ・マスクの上からゴーグルのようなものを下げる感じもいかしていた。笑いまでは行かないものの、シャレの効いたセリフ回しがハマっていた。

 もう1人、良い役で得をした感じだったのは、ロビンとなるのだろう警官から刑事になる熱い男ジョン・ブレイクを演じたジョゼフ・ゴードン=レヴィット。「インセプション」ではレオナルド・ディカプリオの相棒でいい味を出していた人だ。他の作品では目立っていなかったが、ノーラン作品では光り輝いている。

 そしてすごかったのがベイン役のトム・ハーディ。「インセプション」ではちょっと軽めの変装名人を演じていたが、本作ではがらりと変わり、重みがあって異常者っぽい凶悪な悪役。常に薬を流し込むためのマスクを着けているので、誰だか良くわからないが、とにかくすごい存在感。怖い。この人も「Black & White/ブラック&ホワイト」(This Means War・2012・米)などではペラペラな感じだが、ノーラン作品では輝く。

 ちょい役だが、悪党たちの裁判官として登場するスケアクロウは前作から引き続きキリアン・マーフィ。つい最近SFアクション「TIME/タイム」(In Time・2011・米)に出ていた。「麦の穂をゆらす風」(The Wind That Shakes the Barley・2006・アイルランドほか)で光っていたが、ノーラン作品では出番が少なくても印象に残る。

 原案はクリストファー・ノーランとデイビッド・S・ゴイヤー。デイビッド・S・ゴイヤーは「ダークシティ」(Dark City・1998・豪/米)や「ブレイド」(Blade・1998・米)シリーズなどのSF作品が多い人。「ジャンパー」(Jumper・2008・米/加)は残念だったが、「ブレイド3」(Blade: Trinity・2004・米)では監督もやっており、悪くない。しかしノーランの「バットマン」シリーズは良い。とくに「2」と本作が良い。ノーラン監督にはそういう力を引き出す力があるのかも。

 脚本はクリストファー・ノーランとジョナサン・ノーラン。ジョナサンはクリストファーの弟で、衝撃作「メメント」(Memento・2000・米)の基になった短編を書いている。その後マジシャンの物語「プレステージ」(The Prestige・2006・米/英)、そして前作「ダークナイト」(The Dark Knight・2008・米)を書いている。アメリカのヒットTVドラマ「PERSON of INTEREST犯罪予知ユニット 」の製作総指揮と脚本もやっているらしい。

 監督・脚本のクリストファー・ノーランは、1970年のロンドン生まれ。映画「SUPER 8/スーパーエイト」(Super 8・2011・米)のように子供のころから8mm映画を撮っていたらしい。出世作「メメント」はもちろん良かったが、「ダークナイト」からが特に素晴らしい。「インセプション」、そして本作と。すべて衝撃的。いかにも映画というか、これが映画という作品ばかり。次はどんな作品を監督するのか、非常に楽しみだ。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で金曜に確保。30分前くらいに着いて、15分前くらいに開場。下は小学生くらいの子連れファミリーから、中高年まで幅広い。日本は年齢制限がないが、リアルなバイオレンスの多い大人向きの映画だと思う。男女比はほぼ半々。最終的には、時間が早いにも関わらず、607席がほぼすべて埋まった。当然の結果だろう。これは劇場で見た方が良い。大きなスクリーンと大音響で、暗くて、この世界観にどっぷり浸れる。

 気になった予告編は……上下マスクの「エクスペンダブルズ2」は新予告に。とにかくぶっ放すらしい。10/20公開。

 NYで天才少女を守ることになるジェイソン・ステイサムという、なんだか聞いたことのあるような設定、「セイフ」はやっぱり面白そう。10/13公開。

 上下マスク「ロックアウト」はリュック・ベッソンのSF作品。なんだか「ニューヨーク1997」(Escape From New York・1981・英/米)みたいだったが……。11/23公開。

 上下マスク「THE GREY凍える太陽」はアラスカで飛行機が墜落してサバイバルというお話らしい。8/18公開。

 スクリーンが左右に広がって、シネスコ・サイズになってから「るろうに剣心」は大河ドラマのような雰囲気。1878東京かあ。「龍馬伝」組再結集という感じも。期待していいかも。8/25公開。

 トム・クルーズがロック・スターを演じるミュージカル「ロック・オブ・エイジズ」は意外と面白そう。見ても良いかも。9/21公開。

 「トータル・リコール」の長めの特別予告へ。凄いアクション。どれが真実やら。ちょっと「アイ、ロボット」(I, Robot・2004・米/独)と「ブレードランナー」(Blade Runner・1982・米/香)を混ぜたような感じだが……8/10公開。

 本作公式サイトによると、スタッフ・キャストが来日して挨拶する予定だったのが、先日のコロラド州の上映館での銃乱射事件により中止になったという。


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