The Grey


2012年8月19日(日)「THE GREY 凍える太陽」

THE GREY・2011・米・1時間57分

日本語字幕:丸ゴシック体下、斉藤敦子/シネスコ・サイズ(一部レンズ、in Panavision、マスク、Super 35)/ドルビー・デジタル、dts

(米R指定、日PG12指定)

公式サイト
http://www.grey-kogoeru.com/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

最果ての地のような場所にある石油掘削現場。オットウェイ(リーアム・ニーソン)は現場の作業員を狼などの害獣から守るスナイパーだ。彼は最愛の女性が去ってしまったことで生きる気力を失い、死を考えるようになっていた。そんなある日、休暇で家族のもとへと帰る作業員たちとともにアンカレッジへ向かう飛行機に乗る。ところが、その機は嵐に巻き込まれ、アラスカの山中に墜落してしまう。生き残った7人は、携帯も通じず、そこが狼のテリトリーであったことから、食料などを集め、南へと歩いて下ることにする。しかし、狼たちはすぐに襲ってくる。

74点

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 ディザスター・ムービーではあるのだが、これはサバイバル・ムービーなのだろうか。ボクには運命と闘う男の物語に見えた。あるいは、それは信仰心の物語かもしれない。そちらが強く感じられたとすると、アメリカのように多くの人がキリスト教などを信仰している国では、この作品の評価は低いのではないだろうか。実際IMDbでは6.9点という評価。神の存在をも疑ってしまうようなあまりにも過酷な運命。そして、強く神に請い願っても何も起きず、自分の力で運命を切り開いていくしかないという展開は、受け入れにくいだろう。

 とにかく悲惨で、暗く、絶望に満ちている。ちっとも楽しい映画じゃないが、強い感情は気持ち悪くなる程よく伝わってくる。最後に待ち受けるのは「絶望」か「かすかな希望」か。エンド・クレジットが始まってすぐに出ると、印象はかなり違うだろう。最後の最後、場内が明るくなる寸前に1カットある。これをどうとらえるか。

 怪我で動けなくなった男が言うセリフ「無事に帰っても、昼間は穴掘り、夜は酔っぱらうだけ。今が最高なんだ」が辛い。愛する家族がいれば、また違うセリフになるのだろうが、この男は違う。ボクにはこれが効いた。「幸運なんてない。死ねば消えるだけだ」「人生の大切な思い出が生きる力になる」……グサリとくる。それぞれが事情を抱え、それぞれが悲惨な最後を迎える。

 絶望し、自殺願望のあるスナイパーは、結局生きるために戦うことになる。生き残った7人の男たち。そして群れで襲ってくる凶暴な人喰い狼たち。まるで冷血なモンスターのようで、恐ろしい。しかも、彼らでさえ1つではなく、主導権争いが起きるというのが面白い。人間側も、必ず「お前がリーダー気取りかよ」とかいうヤツが出てくる。

 そして父が書いたという「最強の敵と闘い、倒せたら、その日に死んでも良い」というような内容の4行詩。そして、財布の中に残された遺品、写真……。明らかになる女の真実。その衝撃。

 ドキュメンタリー・タッチを出したかったのか、有名俳優はリーアム・ニーソンのみ。そのニーソンも元々はB級ホラーやSFなどが多かった人。最近またB級系が増えてきた印象。メジャーになったのはスピルバーグの「シンドラーのリスト」(Schindler's List・1993・米)あたりからだろうか。「96時間」(Taken・2008・仏/米/英)や日本劇場未公開の西部劇「セラフィム・フォールズ」(Seraphim Falls・2006・米)は良かったが、最近は作品に恵まれない感じ。かろうじて「アンノウン」(Unknown・2011・英/独ほか)くらいか。本作はひさびさの骨太作品。冒頭で使っていた銃はレミントンM700。

 原作と脚本はイーアン・マッケンジー・ジェファーズ。原作は短編の「Ghost Walker」で、監督のジョー・カーナハンとともに脚本を手掛けたらしい。他に「狼の死刑宣告」(Death Sentence・2007・米)の脚本も手掛けているが、見ていない。

 脚本・監督のジョー・カーナハンは「NARCナーク」(Narc・2002・米/加)でトム・クルーズが製作総指揮を買って出て注目され、しかしトム・クルーズの大予算でオシャレな「M:i:III」(Mission: Impossible III・2006・米/独/中)を断り、低予算の泥臭い痛快アクション「スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい」(Smokin' Aces・2006・英/仏/米)を監督・脚本・製作。その後リーアム・ニーソンを主演に迎えたハリウッド作品「特攻野郎AチームTHE MOVIE」(The A-Team・2010・米)はちょっと残念だったが、本作でもどってきた感じ。次はどうか。

 製作総指揮の1人は、先頃自殺という不幸な報道があったトニー・スコットで、製作の1人は新作の「プロメテウス」(Promehteus・2012・米/英)が公開されるリドリー・スコットの兄弟。

 撮影監督は日本人のマサノブ・タカヤナギ。「バベル」(Babel・2006・仏/米/メキシコ)や「消されたヘッドライン」(State of Play・2009・米/英/仏)、「食べて、祈って、恋をして」(Eat Pray Love・2010・米)で第2班の撮影を担当し、日本劇場未公開の「Warrior」(Warrior・2011・米)での撮影監督が高く評価されたらしい。

 ラスト、エンド・クレジットの後、1秒ほどの1カットで少しの希望が描かれる。エンド・クレジットで席を立ってしまった人はそれを見ていないわけで、映画の印象は代わるのではないかと思う。すぐ席を立ったり、その場ですぐ携帯のメールをチェックしたり……最後までちゃんと見ろ! 携帯は外で使え!

 ちなみに原題のTHE GREYはGRAYではないが、GRAYの英国用法らしい。つまり灰色で、それは狼のことか。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保。15分前くらいに開場になって場内へ。この時点で20人くらい。ほぼ中高年の男性で、女性は2人。それでも最終的には157席に4割くらいの入り。ちょっと地味で、暗いからなあ。若い男性は4〜5人。

 意味不明の「ぱっぱっぱぱっぷ」の歌の後、気になった予告編は……明るいまま上下マスクの「SAFEセイフ」はジェイソン・ステイサム主演で、少女を守る話らしい。ほとんど少女版の「トランスポーター2」(Transporter 2・2005・仏/米)ではないか。どうなんだろう。面白そうだけど。10/13公開。

 場内が半暗になってから、再び「SAFEセイフ」の予告。そしてトム・クルーズのちょっとズレた感じのロッカー、上下マスクの「ロック・オブ・エイジズ」は意外なことにミュージカルなんだとか。見たい。9/21公開。そして上下マスクの仮想現実版「バイオハザードV」9/14公開。上下マスクの「プロメテウス」は何度見てもスゴイ絵。3D上映の価値がありそうだ。8/24公開。


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