The Bourne Legacy


2012年10月7日(日)「ボーン・レガシー」

THE BOURNE LEGACY・2012・米/アイルランド・2時間15分

日本語字幕:手書き風書体下、戸田奈津子/ネスコ・サイズ(マスク、Arri、with Panavision、Super35)/ドルビー・デジタル、DATASAT、SDDS

(米PG-13指定)(日本語吹替版もあり)


公式サイト
http://bourne-legacy.jp/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

CAIのエージェント、アーロン・クロス(ジェレミー・レナー)は〈アウトカム計画〉に基づき、体力を維持できる薬と、思考を助ける薬を服用して、アラスカの特殊訓練施設で過酷な訓練を続けていた。しかしジェイソン・ボーンの事件により〈トレッド・ストーン計画〉、〈ブラック・ブライアー計画〉までが明るみに出たことから、〈アウトカム計画〉を密かに進めていた国家調査分析室のリック・バイヤー(エドワード・ノートン)は、計画が暴露することを防ぐため世界各地にいる〈アウトカム計画〉関係者の抹殺指令を出す。アーロンへは武装した無人機が向かうが、スナイパー・ライフルでこれを撃墜、体内から発信機をとりだすと逃亡する。一方、薬品を開発した研究所では研究員の1人が突如乱心し研究員を次々と射殺する中、マルタ・シェアリング博士(レイチェル・ワイズ)ただ1人が、辛くも生き延びる。

74点

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 凄いアクションの連続。特に後半はほとんど息つくヒマもないほど。ほぼ第1作「ボーン・アンデンティティ」(The Bourne Identity・2002・米/独/チェコ)の雰囲気のまま、ファンに期待を裏切らない展開で楽しめる。素晴らしいアクションの連続。ただ、あまりに「1」と似た展開で、「1」と同時展開の話だとしても、あえて作る必要があったのかと。そして、たっぷりアクションを楽しめるが、長い。長いのに話はわかりにくく、理解する時間もなく、前半はアクションもあるのにもたつき、退屈な感じさえしてしまう。ややカメラの不要な動きも目立つ。IMDbでは6.9点という評価。

 全体に暗く、主人公のアーロンの設定能力としては「1」のジェイソン・ボーンより上なのだろうが、ボーンより必死な感じが痛快なアクション快作とは一線を画している。ヒロインも「1」のドイツ人美女マリーと違って、かなり高学歴で頭脳明晰な最先端研究者でありながら、最初はヒステリックで泣き叫び、人の話も聞かない感じ。それなのに後半、急に冷静になり、一緒に戦ったりする。そして、もっとアーロンと接近できるのに恋愛感情はほんのちょっとしか描かれていない。ハード・アクションに徹することを選んだのだろうが、それで作品の魅力が薄れてしまった感もある。少しでいいからユーモアとか、笑顔もあって(終始しかめっ面だ)、恋愛感情というか絆を深めるエピソードもあったら、余裕が感じられて良かった気がする。ハリウッドのアクション映画のパターンにはまりたくなかったのかも知れないが、とにかく一方的に攻められて、逃げ続けている印象。

 冒頭でドローン(無人機)を撃墜するのに、ネメシス・アームズのスナイパー・ライフル、ヴァンクイッシュを使うが、ボルト・アクションなのに、なぜかボルト操作をせず連射。こけだけでもうガッカリ。他に銃は、乱心した研究員がUSPコンパクト、FBIを名乗るエージェントがグロック、P229、MP5K-PDW、マルタ博士が3インチくらいのラバー・グリップ付き6連発リボルバーを使うがアレは何だったか。マニラのSWATはもちろんM4を使用。

 ラスト、主人公たちからカメラが引いていくと、いきなり歌が流れる。雰囲気は「007」的な感じなのだろうが、今の視点からは不自然に思えた。

 アーロン・クロスを演じたのはジェレミー・レナー。たぶん格闘技の特訓を積んだのだろう、抜群の体のキレで説得力があった。銃の取り扱いも、ヴァンクイッシュ以外はリアルで良かった。「S.W.A.T.」(S.W.A.T.・2003・米)の悪役で注目され、実録ウェスタンの「ジェシー・ジェームズの暗殺」(The Assassination of Jesse Jamesby the Coward Robert Ford・2007・米/加/英)でもチンピラ役で強い印象を残す。そして爆弾処理班を描いた「ハート・ロッカー」(The Hurt Locker・2008・米)でアカデミー賞主演男優候補になり、ベン・アフレックが監督した「ザ・タウン」(The Town・2010・米)でもいい味を出していた。つい最近は残念な「アベンジャーズ」(The Avengers・2012・米)にホークアイ役で出ていたが。

 女博士マルタはレイチェル・ワイズ。本作の前半のヒステリックな感じはいただけないが、アクション作品も結構多い人。ファンタジー・アドベンチャー「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」(The Mummy・1999・米)やロシア戦線のスナイパーを描いた「スターリングラード」(Enemy at the Gates・2000・米/独ほか)は強い存在感があった。最近は史劇「アクリサンドリア」(Agora・2009・西)でしか見ていないが、暗い役が多くなってきた気がする。

 国家調査分析室のリック・バイヤーはエドワード・ノートン。今回は指揮官に徹し、ほとんど部屋から出ない。リチャード・ギアの法廷もの「真実の行方」(Primal Fear・1996・米)でスクリーン・デビューしていきなりアカデミー賞助演男優賞候補になるという実力の持ち主。「ファイト・クラブ」(Fight Club・1999・米/独)も衝撃的だったが、ラブ・ストーリーの「幻影師アイゼンハイム」(The Illusionist・2006・チェコ/米)もなかなか良かった。「インクレディブル・ハルク」(The Incredible Hulk・2008・米)の後あまり見かけなくなったなあと思ったら本作か。人を何とも思わない憎たらしさで、存在感があった。

 アメリカ海軍のお偉いさんを演じたのはベテランのステイシー・キーチ。「ドク・ホリデー」('Doc'・1971・米)でドク・ホリデーを演じ、「ロング・ライダーズ」(The Long Riders・1980・米)では製作総指揮と脚本も担当するなど西部劇が多かったのが、TVの「私立探偵マイク・ハマー」(1983・米)で主役となったものの、麻薬所持で逮捕されて降板、その後、復帰してからは悪役として活躍。最近見なくなったなあと思ったら、TVの「プリズン・ブレイク」(2005・米)で刑務所長として出ていて驚いた。脂ぎった悪役が板に付いていた。

 エドワード・ノートンの助手というか部下の女性エージェントはドナ・マーフィー。スーレット・ヨハンソンのコメディ「私がクマにキレた理由」(The Nanny Diaries・2007・米)に出ていた人。乱心する研究員ドナルドはジェリコ・イヴァネク。TV「HEROES/ヒーローズ」(2008・)の第3シーズンから執拗な追跡者を演じていた。

 脚本はトニー・ギルロイとダン・ギルロイの兄弟。ダン・ギルロイは編集のジョン・ギルロイとは双子の兄弟で、レネ・ルッソの夫でもあるのだとか。ミック・ジャガーが出たSF「フリージャック」(Freejack・1992・米)、デニス・ホッパーが監督したアクション・コメディ「逃げる天使」(Chasers・1994・米)、ターセム監督の傑作ファンタジー「落下の王国」(The Fall・2006・米/印)の脚本を書いている人。最近はロボット・アクション「リアル・スティール」(Real Steel・2011・米/印)のストーリーを手掛けている。

 監督はトニー・ギルロイ。もともと脚本家として活躍しており、臓器移植にまつわる陰謀を描いた怖い「ボディ・バンク」(Extreme Measures・1996・米)、サスペンス・ホラーの「ディアボロス/悪魔の扉」(The Devil's Advocate・1997・米/独)などのショッキング系から、ラッセル・クロウの人質奪還アクション「ブルーフ・オブ・ライフ」(Proof of Life・2000・米)のリアル・アクションになり、「ボーン・アイデンティティー」(The Borne Identity・2002・米/独/チェコ)シリーズはすべて書いている。ジョージ・クルーニーの陰謀サスペンス「フィクサー」(Michael Clayton・2007・米)から監督業にも進出、リアル・スパイ・ストーリー「デュプリシティ〜スパイは、スパイに嘘をつく〜」(Duplicity・2009・米/独)を監督して、ラッセル・クロウの陰謀ものサスペンス「消されたヘッドライン」(State of Play・2009・米/英/仏)の脚本を経て、本作に至る。ホラーやアクションなどあるが、だいたい陰謀物がメインのようだ。監督作は3本でカメラの不要な動きはしようがないのかもしれないが、これだけはやめて欲しい。

 公開10日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、10分前に開場。これも若い人からいたが、メインは中高年。女性は3割ほど。最終的には127席がほぼ満席になった。しかしまだ2週目なのにこんな小さな劇場に移されるとは。新作が多過ぎるせいだろうか。

 気になった予告編は……イランからの人質脱出を描いた実話の映画化、上下マスクの「アルゴ」はなかなか劇場が決まらなかったようだが、ようやく決まったら今度は前売り券がない。どうなっているんだろう。あまり見せたくないのか。劇場のポイントは使えるのだろうか。10/26公開。

 スクリーンの上がさがってシネスコ・サイズになってから、トム・クルーズの「アウトロー」。まだティーザーなので内容はわからないが、イギリスの人気ハードボイルド小説の主人公ジャック・リーチャーを演じるらしい。もと軍の捜査官で、流れ者という設定らしい。西部劇調なんだろうか。2/1公開。公式サイトはまだ何も情報なし。

 これも字幕のルビの位置がずれていた。チェックしていないんだろうか。


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