The Raven


2012年10月13日(土)「推理作家ポー最期の5日間」

THE RAVEN・2012・米/ハンガリー/西・1時間50分

日本語字幕:手書き風書体下、石田泰子/シネスコ・サイズ(マスク、Arri、Super35)/ドルビー・デジタル、DATASAT、SDDS

(米R指定、日R15+指定)


公式サイト
http://www.movies.co.jp/poe5days/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

1849年、アメリカ、ボルティモア。内側から鍵がかかった密室で母と娘が惨殺される。その頃、小説家のエドガー・アラン・ポー(ジョン・キューザック)は新作が書けず、数年ぶりにボルティモアに戻り、パトリオット紙に文芸評論の記事の連載を始める。さらに大きな振り子に取り付けられた刃物で男が惨殺され、現場に駆けつけたフィールズ刑事(ルーク・エヴァンス)は2つの事件の手口から、ある小説を思いだし、参考人としてポーを呼び出す。フィールズは現場に残された痕跡とポーが一致しないことから、何者かがポーの小説を参考に犯行に及んだと判断、ポーに捜査への協力を依頼する。

72点

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 実在の小説家を描いていて、しかもファンが全世界にいることを頭に入れておけば、名前を汚すような結末にはならないことは明らか。しかし、この映画の思わせぶりな設定や、展開といった「振り」から考えると、最近の映画でありがちな「別の真犯人はおらず、実は主人公が二重人格だった」というようなものを考えてしまう展開。ついつい、ラストでも「やっぱり本人が犯人でした」と出てきそうな気がして、まったく映画の流れを楽しめなかった。きっと観客を騙すんだろうと。しかし、そんなことはなく、ちゃんと真犯人はいる。しかし、それにあまり納得できず、快刀乱麻でスッキリ爽快とはいかない。ボクだけだろうか。

 まったく新作が書けないというスランプからなのか、主人公はアル中のアヘン中毒者(と、ののしられ、実際、酒はたかっている)であり、分けのわからないことを言うヒステリックで不快な男。そういう設定で、そう演じられている。ヒゲも良く知られている実際の写真ような鼻の下ではなく、あごひげで、魔術師か何かのよう。雰囲気は怪しい人物を演じたときのニコラス・ケイジみたい。だから信用できない。脳がいってしまっているのではないかと。であれば、自分の小説の設定どおり、猟奇殺人を繰り返してもおかしくはない。手口は本人が一番よく知っているはずだし、無理がない。強烈なマニアの方が作家より詳しいということはあるにしても、この映画ではそんな感じがせず、作家本人が犯人の方が納得が行く。ここがそもそもの失敗では。

 石畳に馬車、酒場、パーカッション銃、絶対的権力を振るう警察、娼婦、上流階級、仮面舞踏会……など1849年という時代感はよく出ていたのではないだろうか。タイムスリップしたような気になる。銃はコルトM1849ネービー風のものがメインで、だいたいOK。ただ一部SAA(1873年から)も混じっていたし、レミントンのダブル・バレル・デリンジャーは、エミリーの父のハミルトン大尉が使っているが、厳密には発売は1866年といわれているのでNGだ。そして、体から弾丸を摘出するのに磁石を使うとは。鉛じゃなくて鉄の弾丸なんて使われていたのだろうか。髪の毛が磁石にくっつくのも「本当?」と思ってしまう。

 飛び散る血糊や弾丸は3D-CGが使われているようで、説得力はイマイチ。血糊はともかく、弾丸なんて描かなくても飛んでいるような演出をした方がよっぽど怖く感じられると思うが。

 ただ、エドガー・アラン・ポー・ファンにとっては、たくさんの作品が使われていて嬉しいのではないかと思う。知らない人にとっては、ちょっと爪弾きにされたような気もする。そして、これを見て小説を読みたくなるかどうか。ボクは「モルグ街の殺人」などの短編集1冊しか読んだことがないが、この映画で読んでみたい気にはならなかった。ちなみに原題の「THE RAVEN」はポーの詩の「大鴉」のことらしい。

 一文無しのアル中のアヘン中毒者、スランプで小説が書けなくなったエドカー・アラン・ポーを嫌らしく演じたのは、ジョン・キューザック。アート系というか、B級などメジャーでない作品への出演が多い人。メジャーなものでは、最近は残念なホラー「1408号室」(1408・2007・米)や世界の終わりを描いたSF「2012」(2012・2009・米)、渡辺謙と共演したミステリー「シャンハイ」(Shanghai・2010・米/中)に出ている。ボク的に好きなのはケイト・ベッキンセールとのライブ・ストーリー「セレンディピティ」(Serendipity・2001・米)、心理ミステリーの「“アイデンティティ”」(Identity・2003・米)、法廷物の「ニューオーリンズ・トライアル」(Runaway Jury・2003・米)などかなあ。結構、当たり外れがある感じ。

 たぶん当時としてはまともな刑事、フィールズはルーク・エヴァンス。残念な「三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」(The Three Musketeers・2011・独/仏ほか)では三銃士の1人アラミスを、絵は良かった「インモータルズ神々の戦い」(Immortals・2011・米)ではゼウスを演じていた人。本作はいい雰囲気。

 婚約者エミリーを演じた美女はアリス・イヴ。ハリソン・フォードの移民問題を描いた「正義のゆくえI.C.E.特別捜査官」(Crossing Over・2009・米)で、仕事をもらえそうなのにビザが取れないオーストラリア人女優を演じていた。実はつい最近「メン・イン・ブラック3」(Men in Black 3・2012・米ほか)では、エージェントOのエマ・トンプソンの若き日を演じていたらしい。新作が4本ほど控えているということで、期待かもしれない。

 その父、元軍人のハミルトン大尉はブレンダン・グリーソン。「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」(Harry Potter and the Goblet of Fire・2005・英/米)以降、マッドアイ・ムーディ先生を演じていた人。つい最近デンゼル・ワシントンのアクション「デンジャラス・ラン」(Safe House・2012・米/南ア)でCIAの上司を演じていた人。確かマット・デイモンの戦争映画「グリーン・ゾーン」(Green Zone・2010・仏/米ほか)でも似たようなCIAの役をやっていたっけ。

 新聞社の編集長マドックスはケヴィン・マクナリー。大人気シリーズ「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」(Pirates of the Caribean: The Curse of the Black Pearl・2003・米)で海賊の1人を演じいた人。ヒトラー暗殺事件を描いたトム・クルーズの「ワルキューレ」(Valkyrie・2008・米/独)では、たぶん嫌らしい医師を演じていた。

 脚本はハンナ・シェイクスピアとベン・リヴィングストンの2人。ハンナ・シェイクスピアは2本ほど映画の脚本を書いた後、ずっとTVの脚本をやっていて、本作は久々の劇場映画。ベン・リヴィングストンは1990年代から役者をやっている人で、脚本は本作が初めて。映画では学園サスペンス・ホラーの「デッドマンズ・カーブ」(Dead Man's Curve・1998・米)に出ている。はたして、この2人は本格推理物にあっていたのだろうか。

 監督はジェームズ・マクティーグ。オーストラリア出身で、多くのメジャー作品で第2班監督や助監督を経て監督になった人。監督デビューはSFアクションの「Vフォー・ヴェンデッタ」(V for Vendetta・2005・米/英/独)で、これの評価がアメリカでは高かったことから本作に繋がったらしい。しかしその前に日本では限定公開された「ニンジャ・アサシン」(Ninja Assassin・2009・米/独)を撮っている。たぶんアクションはうまい人なのだろう。本作はアクションもあるが、推理がメインでその部分はイマイチかも。殺害シーンはかなり残酷。

 エンディングはCGを使ったカラスや物へのモーフィングなどで、なかなかカッコよかったものの、1849年という時代にはそぐわない感じ。ひょっとしたらオプニング・タイトル用に作ってもらって、合わないからエンディングに回したとか。担当したのはスカーレット・レター。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保して、30分ほど前に付いたら大混雑。アニメの「魔法少女まどか☆マギカ」の公開で、いわゆるアニメ系の若い男子であふれ返っていた。女の子向けの作品かと思ったら……。この劇場はB級とアニメというイメージが強くなってきた感じ。

 10分ほど前に開場して場内へ。観客層は若い人から中高年まで幅広かったが、女性は1/4いたかどうか。最終的には253席に3.5割ほど。関係者らしき人が3人ほどいたが、予告編が始まる前とは言え、場内で携帯を使うとは(それも3人とも)いかんなあ。マナーでやってるのに。業界人からしてこうなのだから、一般人は使ってしまうよなあ。

 やや暗で始まった予告編で気になったのは……アニメの「009 RE: CYBORG」新予告に。見たい気もするが、混むんだろうなあ。10/27公開。

 ディズニー・アニメ「シュガー・ラッシュ」はいきなりTVゲームから始まったので驚いたが、ゲームのキャラクターが主人公で、悪役はもう嫌だと。日本のゲームだったので日本映画かと。3月公開。

 モノクロのスタンダード画面から始まって、ファンタジーの世界に到着するとスクリーン(トリミングが)がシネスコ・サイズに広がってカラーになるという上下マスク「オズ 始まりの戦い」は、絵もキレイで面白そう。3/8公開。

 モノクロ「フランケンウィニー」は1984年版があるから、3Dの長編で、同じ監督によるセルフ・リメイクになるらしい。日本語吹替での予告。絵のクォリティは高いが、子供向けか。12/15公開。

 ちょっと話がそれるが「007スカイフォール」の予告編で、ボンドがPPKを横に歩きながら撃っているシーンでPせのは作動しているんだろうか。薬莢も見えないし、スライドも動いていない気がするんだけど。マズル・フラッシュだけが出ている感じ。


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