Get the Gringo


2012年10月14日(日)「キック・オーバー」

HOW I SPENT MY SUMMER VACATION・2012・米・1時間35分(IMDbでは96分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、林 かんな/シネスコ・サイズ(デジタル、Red One)/ドルビー・デジタル

(米R指定)


公式サイト
http://kickover-movie.com/
(全国の劇場リストもあり)

アメリカでピエロのマスクを被った2人の男が車で逃走。2台のパトカーが後を追っていたが、車は盛り土を利用してジャンプ、国境を越えてメキシコ側に落ちる。最初はアメリカに引き渡すつもりだったメキシコの警官は、車内に札束を発見し、こちらで処理すると金と男たちを連れ去る。ピエロの1人はすでに死亡しており、金を奪われた上ドライバー(メル・ギブソン)だけが、最悪の刑務所「エル・プエブリート」に送られる。そこは、塀に囲まれた小さな「町」で、市場があり、独房も売られていた。ドライバーはそこで10歳の少年キッド(ケヴィン・ヘルナンデス)と知り合いになり、署長よりも上に君臨し、刑務所を支配する男がハビ(ダニエル・ジメネス・チャチョ)だと聞かされる。

74点

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 とんでもないカオス、暴力、血、銃、売春、麻薬、嘘、腐敗、裏切り……考えられる限りの悪を詰め込んだ、最底辺で展開する絆のドラマ。こんなところでも生き続けられるのは、単に悪であるだけでなく、誰かのために生きられるか、誰かと心のつながりを持てるかというところに行きつくと。もちろん、それはお説教臭くなく、コミカルなヴァイオレンス・アクションで描かれる。あまりに過激な暴力で、笑って良いのか戸惑うほど。そこがスゴイ。このカオス感をまとめ、ちゃんとドラマを描くとは。この監督、実はとんでもない実力の持ち主かも。

 メキシコには申し訳ないが、本当にこんなめちゃくちゃな刑務所があるかどうかは別として、南米にならありそうな気がするから不思議。なんか、東南アジアにもありそうな気がするが。「ミッドナイト・エクスプレス」(Midnight Express・1978・英/米)や「ブロークダウン・バレス」(Brokedown Palace・1999・米)に通じる環境でもある。話そのものはピカレスクもので、超悪者をちょっと悪者がやっつけると。よくあるパターン。しかもラストは南の国のビーチでまったり、のんびり……なんてまさにハリウッドのパターン。しかし、刑務所の恐ろしさは残るが、後味はすっきり爽快。それにしても、メル・ギブソン、歳を取ったなあ。もうおじいちゃん、っていう感じ。

 そのメル・ギブソン、本作では主演のほか、製作、共同脚本もやっているらしい。まあ製作会社が彼の会社、アイコン・プロダクションなので当然といえば当然かも。2000年代に入ってからあまりスクリーンで見なくなったが、本作の前はちょっと暗い感動刑事ドラマ「復讐捜査線」(Fdge of Darkness・2010・英/米)に出ていた。私生活はともかく、いい作品に出ていると思うが、日本ではあまり評価されていない感じ。どれもB級的なためか、小劇場での公開で、かろうじてDVDスルーを免れたような……。ボクは良いと思うんだけど。使っていた銃は、ハンドガンはベレッタのM92。これは大ヒット・シリーズ「リーサル・ウェポン」(Lethal Weapon・1987・米)へのオマージュなのかも。スナイパーはSG550か551。M92を水平にして撃つシーンもあったが、それは横っ飛びになって撃つときだけなので、まあいいか。クリント・イーストウッドのモノマネには笑った。結構似ていたのではないだろうか。

 刑務所で暮らす少年は、よく見るメキシコの子供っをぽい子で、ケヴィン・ヘルナンデス。よく見るというのは気のせいらしく、この年ごろの少年は、いまむたくさんの作品に出ていないと、すぐに大きくなって感じが変わってしまう。似た感じの子が多いということか。TVでは特殊部隊の活躍を描いた「THE UNIT米軍極秘部隊」(The Unit・2006〜2009・米)に出ていたらしい。煙草を吸うシーンは、吸っても大丈夫なものを使ったのだろうか。

 その母親はドロレス・エレディア。生活に疲れた感じが良く出ていたが、実際にはかなりの美女のよう。映画も多く出ているようだが、日本公開作品はほとんどない模様。

 日本でも良くしられているのは、きっかけとなる金を奪われた組織のボスらしいのが、ちょっとだけ顔見せという感じのピーター・ストーメア。最近あまり見かけなくなったがTVの「プリズン・ブレイク」(Prison Break・2005〜2006・米)に出ていた。利用される輸入会社の重役にボブ・ガントン。最近、なかなか良かった「リンカーン弁護士」(The Lincolin Lawyer・2011・米)にファミリー弁護士役で出ていた。アメリカ側の警官にはディーン・ノリス。悪役か警官が多い人で、「CSI」とか「メンタリスト」とか、主にTVで良く見る。アメリカ領事館の男にはピーター・ゲレッティ。やはりTVに良く出ている人で、映画はギャング映画の「パブリック・エネミーズ」(Public Enemies・2009・米)に出ていたらしい。

 脚本はメル・ギブソン、監督のエイドリアン・グランバーグ、ステイシー・ペルスキーが書いている。ステイシー・ペルスキーはカメラ・オペレーターやプロダクション・アシスタントからキャリアをスタートさせ、本作で初めて劇場映画のプロデューサーも務めている。脚本も本作が初めて。期待の新人といったところだろうか。

 監督も、やはり劇場作品初監督のエイドリアン・グランバーグ。シュワルツェネッガーのアクション「コラテラル・ダメージ」(Collateral Damage・2002・米)やデンゼル・ワシントンのアクション「マイ・ボディガード」(Man on Fire・2004・米/英)など、多くのメジャーな作品で助監督を務めた人。メル・ギブソンの「アポカリプト」(Apocalypto・2006・米)で助監督、「復讐捜査線」で助監督と第2班監督を務めている。それで本作へと繋がったのだろう。次作も期待したい。

 銃器は、メキシコ系のギャングはガバメント系の、しかもめっきのものが多く、彫刻の入ったシルバーのグリップをつけた物も使われていた。主人たちは刑務所内でも銃を持っているのだから呆れる。なんという無法地帯。地獄としか言い様がない。一方、看守はM4カービンとM16ライフル。アメリカの殺し屋はたぶんP99とM92を使用。刑務所を牛耳るボスがコレクションしている銃が、バンチョ・ビラが使ったというSAA。シルバーで彫刻の入った7.5インチ・バレルで、オークションで買ったと。それをいきなり撃つ。アーマラーはラファエル・デル・トロとあったように思うが……。

 エンディング・クレジットはちょっと凝っていて、よいデザイン。担当したのはVFXも担当しているムービング・ターゲットというところらしい。アメリカでのタイトルは「Get the Gringo」。アメリカ人を連れてこいと言う意味なのか、アメリカ人奪還という意味なのか。それとも?

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保して30分ほど前に着いたら、やはり今日も大混雑。アニメの「魔法少女まどか☆マギカ」のフィルムのコマのプレゼントとかで、若い男子がわんさか。1Fの入口、エレベーター前、チケット売り場、ロビー、売店(コンセッション?)、どこも人だらけ。疲れる。

 10分ほど前に開場となり、観客層はほぼ中高年。オバサンは2〜3人。若いカップルが、間違ったのか1組。20〜30代は3〜4人。最終的には81席に8割ほど。もっと、ちゃんと広告すれば200席くらいの劇場でもいける気がするが。

 気になった予告編は……「世紀の恋」と言われたイギリスの王子が王位継承権を放棄しちゃった実話の映画化、上下マスクの「ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋」はなんとマドンナの監督作品。どうなんだろう。11/3公開。


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