Argo


2012年10月27日(土)「アルゴ」

ARGO・2012・米・1時間42分(IMDbでは103分)

日本語字幕:手書き風体書体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(レンズ&マスク、8,16,35mmフィルム&デジタル)/ドルビー・デジタル、DATASAT、SDDS

(米R指定)


公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/argo/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

1979年、イランでは革命が起こり、米・英の後ろ盾により権力の座に付いていたパーレビ国王は国外へ脱出、逆に国外追放となっていたシーア派のホメイニ師がもどり、最高指導者となった。パーレビ国王は癌だったため、その治療ということでアメリカが受け入れたが、イランの過激派はアメリカ大使館を占拠。大使館員を人質に、パーレビ国王の引き渡しを要求してきた。この大使館占拠の際、6名の職員が密かに脱出し、カナダ大使の私邸にかくまわれた。カナダ大使からの連絡を受けた国務省はCIAにも協力を依頼、救出の専門家トニー・メンデス(ベン・アフレック)と上司のジャック・オドネル(ブライアン・クランストン)が救出作戦会議に加わる。さまざまな案が否定される中、トニーがカナダの架空のSF映画撮影のロケハンに見せかけて脱出させるという案を出し、実行することになる。まず知り合いの特殊メークアップ・アーティスト、ジョン・チェンバース(ジョン・グッドマン)に連絡、協力を取り付けると、作戦をよりリアルに見せるため、大物プロデューサーのレスター(アラン・アーキン)を紹介してもらい、ボツ脚本の山の中からイラン・ロケにふさわしいSFの「ARGO」を選び出し、バラエティ紙独占で記者発表会を開く。

78点

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 ハラハラ、ドキドキ感が半端なかった。素晴らしい緊迫感。多少の演出は加えられているのだろうが、実話とは思えないほど盛り上がり、素晴らしいエンディングを迎える物語。笑わされて、ホッとして、感動。とりあえず映画の中ではすっきり、爽快。前売り券は発売されなかったが、見て良かった。こんな事件があったなんて。1980年、アメリカ陸軍の特殊部隊デルタ・フォースなどが中心となって実力行使したものの、砂嵐によりヘリが不時着するなどして失敗したという話は聞いたことがあるのだが。

 TVの報道映像も含めたドキュメンタリーのような革命、「アンネの日記」のような潜伏生活、嘘やはったりが横行するハリウッド映画界の裏事情、政府機関のドタバタ、スパイ映画のような作戦遂行……これらを暗くなり過ぎない適度なユーモアを交えながら、実にうまくまとめられている。バラバラの内容が見事に解けあって一体化している。

 CIAはよく悪者として描かれることが多いが、当たり前なのかもしれないが、こういう人のために命をかける人もいると。実話に基づく「フェア・ゲーム」(Fair Game・2010・米/アラブ首長国連邦)で描かれていたように、現役中にCIA局員であるとこを公表されることは無く、主人公は死を覚悟してイラクへ潜入し、作戦を成功させてCIAの最高賞であるCIAスター勲章を授与されながら、作戦事態が極秘とされ、カナダの手柄とされたため、すぐに取り上げられ、退局後の1997年になってやっと戻されたというエピソードがまたイイ。日本には、もし日本人が外国で人質となってしまった場合、救出してくれる組織とか機関があるんだろうか。「アマルフィ 女神の報酬」(2009・日)の織田裕二が演じた黒田康作のような人が所属する外務省の部署があるんだろうか。これまでは、TVドラマにもなったが、1985年のトルコ航空によるイラン在留邦人救出劇があったが……。

 登場する銃器は、イラク革命軍がワルサーP38、ガバメント、G3、ウージー、MP5など。アメリカ大使館を守る海兵隊はM16A1。あまり撃たないが、逆にリアルで怖かった。アーマラーはロケ場所ごとにいるようだが、1つ見つけた名前はトニー・ディディオ。IMDbでは見つけられなかった。

 ちなみにアルゴは「アルゴ探検隊の大冒険」(Jason and the Argonauts・1963・英/米)のアルゴと同じで、ギリシャ神話に登場する冒険者たちを乗せた巨船のことだとか。劇中、映画関係のメンバーによってかわされる合言葉のようなセリフ「アルゴ、ファック・ユアセルフ」がうまく使われていて笑わせられる。

 監督・製作・主演はベン・アフレック。お気軽ものからシリアスもの、残念な作品から素晴らしい作品まで、いろいろと出ていていながら、「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」(Good Will Hunting・1997・米)の盟友マット・デイモンとは対照的に、いまひとつ話題にならない感じがある。しかし、監督作品は素晴らしい。犯罪の町に生まれ、そこを抜け出そうとする若者の姿を描いた「ザ・タウン」(The Town・2010・米)は、感情も良く伝わってきたし、アクションもたっぷりあり、しかもハラハラドキドキ。やっぱり才能ある人なんだとあらためて思わされた。たぶん、お気軽ものなどは自分の作りたい映画を作るための資金稼ぎと割り切って出ているのではないだろうか。

 出番はないが素晴らしいのが、大物映画プロデューサー、レスターを演じたアラン・アーキン。いかにも業界人風で、傍若無人といった雰囲気。口も悪く、言いたい放題だが、芯の部分では熱くて、良い人……という感じが良く出ていた。しかも笑わせてくれる。1934年生れというから78歳だが、まだまだ元気。「クルーゾー警部」(Inspector Clouseau・1968・英/米)や「フリービーとビーン/大乱戦」(Freebie and the Bean・1974・米)、「あきれたあきれた大作戦」(The In-Law・1979・米)などでは多いに笑わせられた。

 特殊メイクのジョン・チェンバースはジョン・グッドマン。これまたちょい役だが、ゲスト出演的なものだろうか。あまり活躍しないが、悪役も人の良い隣人も、何でも演じられる名わき役。最近はTVが多かったようだが、公開を控えている映画が6本以上と売れっ子だ。

 CIAの上司ジャック・オドネルはブライアン・クランストン。部下に振り回されながらも、もっと上からの命令を無視してまで部下を助けようとする良い上司を熱演。「リトル・ミス・サンシャイン」(Little Miss Sunshine・2006・米)ではアラン・アーキンと共演している。特に「ドライヴ」(Drive・2011・米)以降良い感じで、あちこちの映画に出て、大活躍だ。

 ほかにもよく見かける人がたくさん出ている。ベン・アフレックとの役者つながりもあるのだろう。

 原作はジョシュア・ベアマンが「WIRED」誌に発表した「Escape from Tehran」という記事。これをクリス・テリオが脚本にした。クリス・テリオは1976年生れというから、おそらく事件のことはほとんど知らないだろう。しかしうまくまとめている。時代感を出したのは監督のベン・アフレックの力かもしれないけれど。長編映画のメインの脚本は初めてというから驚く。

 プロデューサーとして俳優のジョージ・クルーニーが名を連ねている。ジョージ・クルーニー自身監督をやるので、ベン・アフレックの作りたいという気持ちがよくわかるのかもしれない。まあ2000年代に入ってから製作や製作総指揮をよくやっている人ではあるが。

 ラスト、エンディング・ロールで実際の人物の写真と役者が演じたキャラクターの写真が並んで出るが、雰囲気が良く似ている。ここまで似せていたのか。長めの髪、レンズの大きな眼鏡、そしてヒゲ。当時はみなこんな感じのファッションだったのだろう。ぜひ場内が明るくなるまで座っていて、見て欲しい。くれぐれもケータイを点けるのは廊下へ出てからということで。

 古いワーナー・マークから始まるタイトルを担当したのはカイル・クーパー。ストーリーボードを使ったイランのミニ歴史もわかりやすかった。

 画質は、あえて時代感とドキュメンタリー・タッチを出したかったのか、良くない。古い映画を見ているような印象。うむむ、これはむずかしいところ。あまりに鮮明でシズル感があっても、雰囲気が出ないだろうし。ボロボロで崩れたハリウッドの看板はショッキングだった。

 字幕は斜体になるとジャギーが出る低解像度。酷い。気になる。しかも英語字幕が出ると日本語字幕は縦書きになり右に出るのだが、それが斜体になると、どうも文字の並びが変。横組みの斜体をそのまま縦に並べ替えたような感じ。文字の1文字1文字が斜体で、行としては斜体になっていないからバラバラ。読みにくかった。

 それにしても、ベン・アフレック作品は日本ではウケないのだろうか。前売り券無しなんて。地味な作品でもないのに、公開館数も少ない気がするし。アメリカとイランの話であり、実話だから、テロなどを警戒したのだろうか。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、ポイントが使えたのでポイントで金曜に予約。当日は12〜13分前に開場と、この時点では14〜15人。ほとんど中高年で、オバサンが3人ほど。若い人は数人いただろうか。関係者らしい人は3人。ぞろぞろと増えていって、最終的には157席に8割くらいの入り。9時20分からにしては上々ではないだろうか。銀座の方が広かったが、ポイントが使えない。

 下品なマナー広告に続いて始まった予告編で気になったのは……見慣れたものばかりだったが、スクリーンが左右に広がってシネスコ・サイズになってから、イーストウッドの「人生の特等席」はやっぱり面白そう。言葉遣いが乱暴で粗野なじいさんと、やり手のビジネス・ウーマンの娘とのギャップ。11/23公開。

 そして「ホビット 思いがけない冒険」は新予告に。12/14公開。


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