Ougon wo Daite Tobe


2012年11月10日(土)「黄金を抱いて翔べ」

2012・エイベックス・エンタテインメント/rktエンターテイメント/ハピネット/衛星劇場/メモリーテック/電通/・2時間09分

日本語字幕:丸ゴシック体下/シネスコ・サイズ(レンズ、in Panavision)/ドルビー・デジタル



公式サイト
http://www.ougon-movie.jp/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

幸田(妻夫木聡)は、学生時代の友人、北川(浅野忠信)に呼ばれて久しぶりに大阪に帰って来る。大手銀行本店の地下にある6,000枚の金の延べ棒、240億円相当を強奪しようというのだった。すでに仲間にはその銀行のコンピューターのメンテナンスを手掛ける野田(桐谷健太)がおり、さらに元エレベータ技師のじいちゃん(西田敏行)を仲間にするという。そして爆弾魔を知らないかと聞かれ、かつて関わったことがある北の「脱藩」工作員「モモ」(チャンミン)を紹介する。こうして計画は動き始めるが、北川の弟、春樹(溝端淳平)に漏れ、仲間に入れることになる。しかし、春樹はヤクザとトラブルを起こしており、モモは北の暗殺者に狙われていた。

73点

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 暴力満載で、ちっとも楽しくなる映画ではないが、のめり込んでハラハラドキドキしながら見られる作品。結局のところ悪人たちの映画で、悪事は割に合わないと。それにふさわしい悲劇が待ちかまえていると。かなり衝撃的で、リアルな暴力に言葉を失う。エロも強烈。うむむ。この緊張感は半端ない。見事としか言い様がない。演出の妙だろう。

 ただ、ほぼ前編がチンピラ的な暴力が満載のため、緩急が無く、すべて急。展開が早いという意味では無く、常に緊張を強いられると。みなケンカっ早く、不良というかチンピラっぽい。普通の人間はいない。これは構成としてどうなんだろう。原作がこうなのかもしれないが、そのために良い人というか、普通の人がキレてここまでやってしまったという、ある意味受け入れられる余地が、この映画にはない。みんな悪いヤツなら、こうなってもしようがないかと。応援しにくい。誰かが主人公に「あんたは世界が違う」というが、ピンとこなかった。ボクに言わせれば、登場人物すべて「世界が違う」。ひょっとすると監督の世界はこれが普通なのかもしれない。井筒作品は暴力まみれの作品が多いし……。

 たぶん金塊の強奪はメインじゃない。計画の立案と準備があまりにもズサン。細部も描かれていない。いざ実行となって、プラスチック爆弾がいきなり出てきたり、練習もしていないシロートがエレベーターの操作ボタンのパネルを外して接続を変えて動かすし……。この計画に伴うそれぞれのキャラクターのドラマを描くことの方が主眼だったのだろう。日本映画っぽいというか、普通のピカレスクものとはちょっと違う。比率が逆だったら抜群に良かったような気がするのはボクだけか。

 関西はこういった暴力がわりとよくあるのだろうか。この映画を見ているとそんな気がしてくる。それと、チョイ役まで有名俳優を使い過ぎでは? なんか意味があるのかと思ってしまう。有名俳優は強奪メンバーだけで良かったのでは? 無名でもうまくて、役がつくのを待っている埋もれた人や新人がたくさんいるだろうに。彼らにチャンスをあげても良かったのでは。むしろあまり見ていない人のほうがリアリティがあったりするのではないだろうか。その意味で銀行内の国際部のメンバーは、ボクが知らないだけかもしれないが、普通で良かった。まあ、井筒監督作品なら出たいという人が多いのかもしれないが。

 銃は北の工作員が使うものと、日本の警官のものだけ。北の銃はM84のサイレンサー付きと、M92シルバー、MP5のサイレンサー付き、あとハイパワーのサイレンサー付きもあったろうか。暗いシーンが多くてよくわからなかった。日本の警官はニューナンブかチーフスペシャルの3インチ。銃器特殊効果はパイロテック。

 全体に画調が古い映画を見ているような、やや黄ばんだ感じだったのはわざとだろうか。暗いシーンではかなり粒状感が目だっていた。回想シーンはわざとだろうけど。

 主演とナレーションは妻夫木聡。どうも過激派上がりのカギ開けが専門という感じ。公式サイトでは過激派や犯罪者相手の調達屋とある。「スマグラー おまえの未来を運べ」(2011・日)でもバイオレンスたっぷりだった。「マイ・バック・ページ」(2011・日)では学生運動がらみをやっているし。ボク的には「どろろ」(2007・日)が良かったなあ。

 グループのリーダーで幸田の学生時代の友人、北川は浅野忠信。力みのないナチュラルな演技がこの人の持ち味なんだろう。リアリティがある。最近は海外作品への出演が増えてきたようで、「モンゴル」(Mongol・2007・露/独/カザフスタン)やハリウッド作品の「マイティ・ソー」(Thor・2011・米)、「バトルシップ」(Battleship・2012・米)などにも出ている。ハリウッド作品では特に存在感があったようには見えなかったが、まあ作品が作品なので……。「鮫肌男と桃尻女」(1998・日)とか「殺し屋1」(2001・日)なんかは、作品自体もそうだが、強烈だったなあ。

 システム・エンジニアの野田は桐谷健太。この人はいい味を持っていて、存在感がある。ただ、関西弁だと、ネイティヴなのにそれがちょっと薄まる気がする。「ゲロッパ!」(2003・日)から井筒監督と仕事をしている。バイオレンス系が多い気がするが、特に良く印象に残ったのは「僕の彼女はサイボーグ」(2008・日)だった。面白かった。コメディ系が向いているのでは。最近では「アウトレイジ ビヨンド」(2012・日)に出ていたばかり。

 元北の工作員モモは、東方神起のチャンミン。実に良い役。初め残酷な殺し屋で、ラストは人を助けて静かに消える。アイドルにピッタリの役。韓国のラブ・アクションTVドラマ「ATHENAアテナ」(Athena・2010〜2011・韓)にもエージェント役で出ていた。

 じいちゃんは西田敏行。これまた重要な役で、初めは人間の屑のようで、ラストは人を助けて静かに消える。「釣りバカ日誌」(1988・日)シリーズが有名だが、三谷幸喜三品にも良く出ている。ボク的にはTVの「西遊記」(1978・日)の猪八戒や「池中玄太80キロ」(1980・日)あたり。「ゲロッパ!」では主演を務め、つい最近「アウトレイジ ビヨンド」に出ていた。

 チョイ役だが北川の弟は溝端淳平。ワルを演じていたが、二枚目の甘いマスクと品の良さそうな感じは隠せない。この人もお得な役で、初めどうしようもないただのチンピラで、ラストは人のために静かに消える。映画では本作の前に「麒麟の翼 劇場版・新参者」(2011・日)に出ている。

 主要キャストのほかで良かったのは、チンピラを演じた青木崇高。女性の股間をまさぐりまくっていたが、本当にヤクザに見えた。危ない感じがヤバイ。やっぱり良かったのはNHKのTV大河ドラマ「龍馬伝」(2010・日)。「マイ・バック・ページ」で妻夫木聡と共演している。「切腹」(1962・日)のリメイク「一命」(2011・日)も良かったが、つい最近「るろうに剣心」(2012・日)に出ていた。

 原作は直木賞作家、高村薫の同名小説。「マークスの山」(1995・日)も「レディ・ジョーカー」(2004・日)も映画化されている。どれも相当にショッキングな内容で、打ちのめされる。大阪出身だそうで、大阪の裏の顔も良く知っているということか。大阪怖い。アーケード街を車が走り抜けた事件も大阪だったし……。

 脚本は井筒監督と吉田康宏。吉田も大阪生れで、井筒監督の教え子なんだとか。「ゲロッパ!」から助監として付いているらしい。「キトキト!」(2005・日)で初監督・脚本。

 監督は井筒和幸。奈良県出身だそうで、ヴァイオレンスたっぷりの作品が多い。青春ドラマ「パッチギ」(2005・日)は衝撃的だった。意外に歌系も多く「のど自慢」(1999・日)、「ビッグショー!ハワイに唄えば」(1999・日)、「ゲロッパ!」などを撮っている。お笑い芸人も好きなようで、ナインティナインの「岸和田少年愚連隊」(1996・日)やジャルジャルの「ヒーローショー」(2010・日)がある。

 公開8日目の初回、新宿の劇場は全席指定で金曜に確保。当日はアニメの「狙われた学園」の初日で、舞台挨拶があるとかで、大混雑。いわゆるアニメ層がわんさか。10分くらい前に開場し、場内へ。2/3は若い女性。男性はほぼ中高年。遅れてくるヤツが多く、ハッキリとはわかなかったが、最終的には287席に3.5割くらいの入り。いくら妻夫木聡とはいえ、このヴァイオレンスで女性客が増えるとは思えないが……。

 下品なマナー広告に次いで、CM。本作の前日談になるスペシャル・ドラマがケータイで見られるらしいが、どうにも小さな画面で高い通信費を払って見る気になれない。携帯の動画配信って、レイティングはあるのだろうか。やっぱりヴァイオレンスまみれか。

 気になった予告編は……「大奥〜永遠〜」は新予告に。TVでも連続ドラマが始まるらしい。12/22公開。

 トラブルかと思うほど長い黒画面の後、すもうの映画「渾身KON-SHIN」は1/12公開。「シコふんじゃった」(1991・日)? 遷宮すもう?

 山田洋次監督の上下マスク「東京家族」は、「母さん死んだぞ」のCMのやつ。うむむむ。1/19公開。

 そしてまた犬映画「ひまわりと子犬の7日間」。実話だとか。3/16公開。

 日本映画はそそられる感じが少ない気がする。そして、予告の最後の最後のタイトルと公開日が一瞬出るだけで……覚えられるか!

 スクリーンが左右に広がり、暗くなって本編へ。


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