Aku no Kouten


2012年11月11日(日)「悪の教典」

2012・東宝/電通/文藝春秋/OLM/A-team/日本出版販売・2時間09分

日本語字幕:手書き風、毛筆風、下/シネスコ・サイズ/ドルビー・デジタル

(日R15+指定)


公式サイト
http://www.akunokyouten.com/index.html
(全国の劇場リストもあり)

ある都内の高校の教師会議で、テスト時の携帯を使ったカンニングが議題にあげられていた。英語教師の蓮見(伊藤英明)は、妨害電波を使って携帯が使えないようにする提案をするが、電波法に触れるというので却下されるも、テスト当日、学校内の携帯が圏外となる。そんなとき蓮見が担任を務める2年4組の女子生徒、美弥(水野絵梨奈)が剣道部顧問の教師、柴原(山田孝之)にセクハラを受けているという情報を受け、万引きのお詫びをさせた上で「淫行条例」があると柴原にメールを送らせる。さらに、2年4組の清田梨奈(藤井武美)の父親(滝藤賢一)が、娘がイジメを受けていると怒鳴り込んでくる。すると猫よけのペットボルトに囲まれた清田の家が煙草の不始末で火事になる事件が発生。不審に思った物理教師の釣井(吹越満)は、蓮見の過去を調べ始める。

74点

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 前半はウンザリするような学校の教育現場の最前線を描いた学校残酷物語(今はこれが普通なんだろうけれど)で、後半は血と悲鳴がうずまくスローターハウス状態。別の話のようだがちゃんと1本につながっている。見終わると、かなり落ちる。気持ちが萎える。落ち込むのとはちょっと違う。前半の毒と、後半の狂気というより悪そのもの、悪魔の仕業を被害者側の目線で見た恐怖のようなもの。どちらも、これでもかと1時間くらい続く。すごいパワーだ。ちょっとすぐに席を立てないくらい。実際、なかなかエンド・クレジットになっても立ち上がる人がいなかった。

 後半の恐怖は、人間の悪、ヤクザ系の「黄金を抱いて翔べ」(2012・日)などとは種類が違う。だから単純にどちらが怖いかは比べられないが、ボクはよりヤクザ系の方が怖い気がした。

 こちらの悪は、純粋な悪、悪魔的な悪。怨みとか復讐とかではない。理由はあるにはあるのだろうが、とにかく屠殺するように冷静に、淡々と、無表情で殺していく。伊藤英明が端正な顔の二枚目だけに、これが怖い。また三池監督の演出だろうが、殺す前にグダグダとセリフを言うことはしない。追いつめたら、構えてすぐ撃つ。しかもためらわない。ここがリアルでい。「ナチュラル・ボーン・キラーズ」(Natural Born Killers・1994・米)や「さまよう魂たち」(The Frighteners・1996・ニュージーランド/米)の殺人犯のよう。さすがR15+。ただ、アメリカには本当にこういう殺人鬼がいて、いずれは日本にも現れるのかもしれない。尼崎事件なんかはこれに近いのかも。

 しかしリアルな高校の教育現場。ウチの田舎の人口2万ちょっとの高校でも、荒れているというのだから、これはまだましな方の高校の現状だろう。喫煙、飲酒、いじめ、セクハラ、ケンカ、カンニング(チーティングと言い直している)、不純異性交友、教師と生徒の不適切な関係、男同士もあって、モンスター・ペアレント……実際にはもっとあるだろう。教師同士のいがみ合いもあるだろうし、モンスター教師、ポイント制の評価基準とかいろいろ。自分が生徒だったときも、いまよりはずいぶんおとなしいと思うが、好きかってやっていた気がする。これでよく教師になる人がいるなあと感心するほどだ。

 銃はメインで上下二連ショットガンが使われる。銃身を折ってポーンと薬莢を飛ばしている。銃声は大きく、伊藤英明が反動もうまく表現しているし、撃たれる側もワイヤーで引っ張っているようで、吹っ飛ぶ感じが非常にリアル。徹底的に怖い。銃声で耳が聞こえなくなる感じも表現されていて、見事だ。ただ、3階からグランドにいる生徒をダブル・オー・バックで撃つのは、ちょっと遠いかもしれない。しかもダブル・オー・バックの散弾の1粒にアーチェリーの矢が当たって、アーチェリーだけが弾かれるのはどうなんだろう。ほかに、アメリカでの試し撃ちでガバメントやM92、マグナム・リボルバー、ボンプ・ショットガンなどを撃っている。ガン・エフェクトはBIG SHOT。

 気になったのは、女のエロイシーンは少なく、あっても淡泊。ところが男のシーンはねちっこく、なぜか不要と思える伊藤英明の全裸シーンがやたらに多い。

 使われている歌は、殺人の歌だそうで、「マック・ザ・ナイフ」(訳詞はこちら)。歌はエラ・フィッツ・ジェラルド。戯曲「三文オペラ」で使われたものだそうで、元は英語で、それをベルトルト・ブレヒトがドイツ語訳し、改作したらしい。ドイツ語の役名はメッキー・メッサー。冒頭流れる雑音混じりのレコードの歌はドイツ語で、メッキー・メッサーと唄っている。これを英訳してマック・ザ・ナイフなんだとか。しかも舞台はロンドン。ややこしい。

 美術教師、久米のアートとして登場するのは土屋祐介の作品。映画の世界に入ると妙にマッチして、かなり恐ろしく見える。

 英語教師の蓮見は伊藤英明。二枚目なので余計に怖さが立つが、よくこの役を受けたなあと。当たり役は「海猿ウミザル」(2004・日)だが、「ブリスター!BLISTER」(2000・日)、「修羅雪姫」(2001・日)も良かったなあ。

 物理教師の釣井し吹越満。まくあよく出ている人で、どちらかといえば本作のような役とか、悪役が多い感じ。これの前にスクリーンで見たのは「宇宙兄弟」(2012・日)だったか。

 美術教師の久米は平 岳大。リアリティがあったが、本作の前の「のぼうの城」(2011・日)が抜群に良かった気がする。

 体育教師の柴原は山田孝之。「のぼうの城」で平 岳大と共演している。最近、暗くて暴力的な役ばかりなのが気になる。最近「荒川アンダーザブリッジTHE MOVIE」(2011・日)にも出ているが、ヴァイオレンスのイメージの方が強い。

 気の弱い教頭は篠井英介。独特の雰囲気がいい。ちょっとオネエ系のような感じがするところも貴重な存在だろう。官僚役とかコミカルな役が多い。「逆転裁判」(2011・日)で三池監督と仕事をしている。

 生徒はだいたい見慣れていない人が多い。これはリアリティがあって良かった。2年4組の片桐怜花役の二階堂ふみと、2年1組の水谷圭介役の染谷将太は「ヒミズ」(2011・日)で共演し、ヴェネチア国際映画祭最優秀新人俳優賞を受賞している。2年4組の美術部の前島雅彦役の林遣都は「荒川アンダーザブリッジTHE MOVIE」で山田孝之と共演している。2年4組の不良の1人、蓼沼将大役はダルビッシュの実弟、KENTA。本作が映画デビュー作の模様。そのせいもあってか、今風若者の乱暴なセリフは超リアル。パッと見の印象が、まじめな夏越雄一郎役の浅香航大と似ていて、混乱した。

 原作は貴志祐介の同名小説。この人の原作は「黒い家」(1999・日)、「ISOLA多重人格少女」(2000・日)、など映画化され、どれも怖い。「黒い家」は韓国でも映画化されている。本作では出演もしていて、たぶんラスト近くのバス停にいる男がそうだと思う。

 監督・脚本は三池崇。もう映画職人という感じ。あるいは天才か。とにかく高いクォリティの映画を作り続けている。すべてが傑作ではないとしても、アイドルものからホラー、ヒーローもの、コメディ、時代劇、ミュージカルまで何でも手掛ける。しかしやはりヴァイオレンス系でとくにその才能を発揮する気がする。ボク的にはホラーの「オーディション」(2000・日)、馳星周原作のアクション「漂流街」(2000・日)、ヴァイオレンス「殺し屋1」(2001・日)、傑作ヒーロー活劇「ゼブラーマン」(2003・日)、ホラーの「着信アリ」(2004・日)、SFアクション「神さまのパズル」(2008・日)、SFコメディ「ヤッターマン」(2008・日)、アクション時代劇「十三人の刺客」(2010・日)……きりがないが。そして2013年には木内一裕原作のアクション「藁の楯」が公開される。期待したい。

 でも、ラストで「続く」って……。
 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保。10分ほど前に開場。高校生くらいから、中高年までわりと幅広かった。男女比は4対6で女性が多い感じ。それにしても高校生は同年代の荒れる学校の様子を見て、どう感じたのだろうか。見慣れたもので、普通という感覚だろうか。遅れてくるヤツが多くハッキリしないが、最終的には多分607席に5割ほどの入り。

 気になった予告編は……2012年の本屋大賞を受賞作が原作で、辞書を作る人たちのストーリーという「船を編む」は、まだティーサーで、内容はサッパリわからないが本屋大賞なので、何かあるんだろう。4/13公開。

 予告でもうお腹いっぱいの感じだった「きいろいゾウ」はどうなんだろう。好きな人は好きなんだろうけど、ボクはうんざりという気も。2/2公開。

 上下マスク「ストロベリーナイト」は連続殺人事件を追う女刑事の話らしいが、竹内結子が男優りな乱暴な言葉遣いをするのが妙に印象に残った。これもTVがらみだろうか。1/26公開。

 TVの映画化「妖怪人間ベム」はどうなんだろう。映画を作るほど人気があったんだろうか。でも作ったんだからあったんだろうなあ。12/15公開。

 スクリーンが左右に広がってから、左右マスクで「脳男」は、いきなりバスが爆発して、生田斗真がスズキイチローで、銃が出てきて……ティーザーだからよくわからないが、面白そう。2/9公開。

 暗くなって、やっと始まるというとき、どこかでケータイのバイブが唸りをあげる。おいおい……。


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