Skyfall


2012年12月2日(日)「007スカイフォール」

SKYFALL・2012・英/米・2時間23分

日本語字幕:丸ゴシック体下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(デジタル、IMDbでは1.90対1、Arri、Red)/ドルビー・デジタル、DATASAT、SDDS(IMDbではSonics-DDPも)

(英12A指定、米PG-13指定)(日本語吹替版、IMAX版もあり)


公式サイト
http://www.skyfall.jp/
(入ったら音に注意、全国の劇場リストもあり)

イギリスMI6のスパイ・リストのデータを奪った男を追っていたジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は、作戦に失敗。任務中に殉職したと判断され、死亡報告書が作られる。そのころ、M(ジュディ・デンチ)は新しく情報国防委員会のチーフとなったマロリー(レイフ・ファインズ)から、引退してはどうかと勧められていた。それを断ったMだったが、MI6本部が何者かにハッキングされ、爆破される事態に陥る。九死に一生を得て助かったボンドはそれをニュースで見てMのもとに出頭し、復帰を申し出るが、そのために復帰テストを受けるように命じられる。かろうじてテストに合格したボンドは現場に復帰し、手がかりを追って香港に向かう。

76点

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 実に正統派の007映画。ちょっと心配したが、しっかり007映画になっていた。大冒険ながらリアルさを取り入れ、荒唐無稽のSFチックなアクションにもなっていない。原点に戻ったかのような、手がかりをたどって世界中を飛び回り、徐々にボスに近づいていき、そして対決に至る。ボンドのテーマが流れると、思わず拍手をしたくなる見事さ。カッコいい!! これだよなあ!

 ボンドは前2作のように女の虜になったり、泣き言を行ったり、暗いままだったりはしない。敵の女にも憐憫の情を見せつつも情に流されず、イギリス人的なシニカルなジョークを飛ばし、非情な命令を下した上司にも、それを実行した同僚にも、ちょっと皮肉をいうくらいで、うらんだりしない。そういう役は一手に敵役が引き受けている。これでこそボンドだろう。感情を秘めたというか、表にほとんど出さないところが男らしい。わずかに「酒と薬に逃げている」とほのめかされる程度。逆に敵はもの凄く怖いが、男らしくない。007の太ももをさすってきたりする。この対比の見事さ。

 面白いのは、世代交代、引退といったリアルな問題が取り入れられていること。これが007にはふさわしくないという人もいるかもしれない。これはボンド1人の問題ではなく、Mもそうだし、Qはすでに若いパソコンおたくのような男に代わっている。さらには、政府からもスパイは前時代的で、不要ではないかと審問会で「事業仕分け」の対象になっている。テロは対テロ部隊がいる。人手で情報を集めるなんて古いと。これに対してMは、恐ろしい敵は個人で、彼らはシャドーに被われている。だから我々が必要だと。

 たから、スケールの大きな秘密兵器や秘密基地は出てこない。そのスケールという点で、ちょっと不満が残るかも。TVドラマの「24」のように、監視カメラやコンピューターを駆使し、無線でエージェントをバックアップする。秘密兵器はない。掌紋で持ち主を判断する装置の付いたワルサーPPK/Sと、小型発信機のみ。あとは必要ないのだ。映画の中でもそれをQに説明させていて、現場でトリガーを引く役がいるのだと。それが007だと。あと敵の1人が、たぶん特注だろう、秘密兵器的な組立式の四角いサイレンサーが付いたスナイパー・ライフルを使っている。ボルト・アクションに見えたがオート並に連射。

 ボンド映画ファンの期待を裏切らない要素もあちことにちりばめられている。素晴らしい脚本。銃は最初からワルサーPPK/Sのみ。アストンマーチンもちゃんと出てきて、しかも仕込まれたマシンガンが火を吹く。タキシードを着て、カジノに乗り込む。そして美女たちを次々と虜にする。

 映像も美しい。シネスコを活かした絵作りと、色の使い方。赤と黄系の暖色と、ブルーの寒色が巧みに使い分けられている。印象的なシーンが随所にある。ラストのスコットランドの風景も素晴らしい。

 こうして、イギリス人監督のサム・メンデスは、みごとに007映画をリセットして見せた。Mは男性に、オフィスの前室には帽子とコート掛けがあって、女性のマニーペニーも戻した。見事。素晴らしい才能が結集され、それが相乗効果を上げた感じ。

 ほかの銃は…… 007は敵の銃も奪って使うが、PPK/Sのハンマーがいちいち起きていたのがいい。マガジン・チェンジもやる。冒頭の列車の敵はグロック18。しかもダブル・ドラム・マガジン(Cドラム)を装着して撃ちまくる。エヴァが007を狙撃するとき使うのはM4ショーティ。そのエヴァはPPK/Sも使う。

 MI6の移転先のガードはM4カービン、ボンドが追う狙撃者が持っているハンドガンはサイレンサー付きのグロックで、軍艦島(エンド・クレジットではちゃんと漢字で表記)で敵のガードが持っているのはMP7。イギリスの警官が使っていたのはG36C。敵のボス、シルヴァはなんとシュタイアのM-A1。審問会のガードはグロックで、情報国防委員会チーフのマロリーもグロックを使う。

 スカイフォールでは、水平二連のライフルと、有鶏頭の水平二連ショットガンが登場。ほとんど西部劇状態。襲ってくる奴らはHK416を装備。

 武器係は、IMDbによるとロブ・パートリッジ、デイヴ・エヴァンス、ジョス・スコットウの3人。デイブがリードで、ジョスがスーパーバイザーらしい。ロブ・パートリッジはTVが多いようだが「テイラー・オブ・パナマ」(The Tailor of Panama・2001・米/アイルランド)や「アイ・スパイ」(I Spy・2002・米)を手掛けている。

 デイヴ・エヴァンスは「ホット・ファズ」(Hot Fuzz・2007・)、「ワールド・オブ・ライズ」(Body of Lies・2008・米/英)、「007/慰めの報酬」(Quantum of Solace・2008・英/米)、「インセプション」(Inception・2010・米/英)、「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」(X-Men: First Class・2011・米)、つい最近「デンジャラス・ラン」(Safe House・2012・米/南ア)を手掛けている。

 ジョス・スコットウは「トゥーム・レイダース」(Lara Croft: Tomb Raider・2001・米/英ほか)や「サハラ 死の砂漠を脱出せよ」(Sahara・2005・英/西ほか)、「インセプション」、「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」、「デンジャラス・ラン」(Safe House・2012・米/南ア)と、デイヴ・エヴァンスとの仕事が多い。

 ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグはほかにもいろいろ出ているので、これまでのボンドと違って、あまりボンド俳優という感じはしない。最近でいうと「カウボーイ&エイリアン」(Cowboys & Aliens・2011・米)や「ドラゴン・タトゥーの女」(The Girl with the Dragon Tatoo・2011・米ほか)か。ホラーの「ドリームハウス」(Dream House・2011・米)は小劇場での公開で見ていない。「ボンド24」と「ボンド25」でも続投予定。

 ジュディ・デンチは「007/ゴールデンアイ」(Goldeneye・1995・英/米)からのM役で、もう80歳を超えている。

 敵役のシルヴァはハビエル・バルデム。「ノーカントリー」(No Country for Old Men・2007・米)同様怖い。とくに入れ歯を抜くシーンはトリハダものだ。素晴らしい演技。さすがとしか言いようがない。恋愛ものが多かったようだが、「ノーカントリー」イメージからアクションがいいような気がする。それだけ「ノーカントリー」は強烈だった。

 情報国防委員会のチーフ、マロリーはレイフ・ファインズ。ちょっとしか出てこないが印象に残る役。どうしてこの人かと思ったら、ラストで納得。「ハリー・ポッター」シリーズが有名だが、シェイクスピア原作の現代翻案「英雄の証明」(Coriolanus・2011・英)を演出するなど多才な名優。今後が楽しみだ。

 007を撃つイヴはナオミ・ハリス。「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」(Pirates of Caribbean: Dead Man's Chest・2006・米)で怪しい占い師みたいな役をやっていた人。「マイアミ・バイス」(Miami Vice・2006・米/独ほか)や「フェイクシティ ある男のルール」(Street Kings・2008・米)にも出ていたくらいだからアクションも行けるというわけか。でも今後は007ではデスクワークになるのかも。

 かわいそうな敵の手先の美女セヴリンはベレニス・マーロウ。最初キツいメイクをしていたときはタカビーで悪そうな感じだったが、あとでスッピンに近くなるととても魅力的。メイクの力はスゴイ。フランス出身で、モデルからTVに出るようになり、たぶん劇場大作は初めて。ボンド・ガールからどう羽ばたくのか。

 スカイフォールのじい様、キンケイドはアルバート・フィニー。1950年代から活躍している人で、「トム・ジョーンズの華麗な冒険」(Tom Jones・1963・英)や「アニー」(Annie・1982・米)など多くの作品に出ている。最近では「ボーン・レガシー」(The Bourne Legacy・2012・米)に出ていた。80歳近い年齢でここまでやるとは。

 イギリス的ジョークをうまく配した脚本は3人。ニール・パーヴィスとロバート・ウェイドの2人は面白かった「プランケット&マクレーン」(Plunkett & Macleane・1999・英)を書いていて、007は「007/ワールド・イズ・ノット・イナフ」(The World Is Not Enough・1999・英/米)以降、ボクはビンと来なかったが前前作、前作も書いている。あの2本は同じ人の本とは思えないが……ほかに参加した人の色か。

 もう1人の脚本、ジョン・ローガンは「グラディエーター」(Gladiator・2000・米/英)や「ラスト・サムライ」(The Last Samurai・2003・米)、「ヒューゴの不思議な発明」(Hugo・2011・米)を手掛けている人。「英雄の証明」でレイフ・ファインズと仕事をしている。どちらかといえばシリアスものが多い感じ。とすればユーモアは前の2人か。「ボンド24」と「ボンド25」でも続投予定。

 監督はサム・メンデス。シェイクスピア劇の舞台監督から「アメリカン・ビューティー」(American Beauty・1999・米)で映画監督デビュー。アカデミー監督賞を受賞すると、以来アカデミー賞常連という感じに。「ロード・トゥ・バーディション」(Road to Perdition・2002・米)や「ジャーヘッド」(Jarhead・2005・独/米)などを暗い感じのものを手掛けていて、アクションとは縁のない人かと。ここまでアクション・エンターテインメントがいけるとは意外。

 いつも凝ったタイトルだが、今回はデボラ・ロス。「ジャーヘッド」でサム・メンデス監督と仕事をしている。「13ウォリアーズ」(The 13th Worrior・1999・米)や「エニイ・ギブン・サンデイ」(any Given Sunday・1999・米)も手掛けているが、クレジットされないことも多いよう。「コールド・マウンテン」(Cold Mountain・2003・米/英ほか)もクレジットなしだとか。エンド・クレジットでは、細かくサンキュー・オール・クルーとあったのが新鮮だった。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、10分前に開場。アナウンスがある前に入口付近に人だかりができていた。やっぱり、ほぼ中高年で、男女比は5.5対4.5でやや男性が多い印象。5分前くらいで607席の5割ほどが埋まった。予告が始まっても続々と入って来て、本作ではだいたい若い人が遅かった感じ。最終的には9割ほどが埋まった。すごい。

 気になった予告編は……ロビー階では「ダイハード ラスト・デイ」の予告をやっていた。スゴイ迫力のアクション。面白そう。2/14公開。

 場内はこれまでと変わらないものばかりで……上下マスクの「アウトロー」は新予告に。ジャツク・リーチャー、トム・クルーズ、かっけー。2/1公開。見たい。

 スクリーンが左右に広がってから、なんとあの「キャリー」リメイクの予告。カメラが夜の街の上を飛んでいて、どんどん進んでいくと町中が火事で、一番燃え盛る中に血だらけの少女がいて「キャリー」と出るというスゴイ演出。怖そう。主演はクロエ・グレース・モレッツ。4月公開。

 「ジャンゴ」はもうアクション満載で、悪党だらけで、悪役のレオナルド・ディカプリオが気持ち良さそう。3/1公開。


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