Life of Pi


2013年1月27日(日)「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」

LIFE OF PI・2012・米/台・2時間6分(IMDbでは127分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、古田由紀子、一部タミール語の英語字幕/ビスタ・サイズ(シネスコに左右マスク上映、一部スタンダード・サイズ〈さらに左右マスク〉、シネスコ・サイズ〈ビスタに四角の枠〉もあり、Panavision、IMDBでは3DカメラPACE Fusion 3-D〈デジタル〉)/ドルビー・デジタル、DATASAT、SDDS(IMDbではドルビー・デジタル、DATASATのみ)

(米PG指定)(3D版、日本語吹替版、IMAX版もあり)

公式サイト
http://www.foxmovies.jp/lifeofpi/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

父が動物園を経営し、母が教師というインドのフランス領の家庭の次男として生まれた男の子は、フランス語でスイミング・プールにちなんでピシンと名付けられたが、英語のオシッコに発音が似ていたためいじめられ、11歳から自己紹介の時、自分の愛称はパイだと先に宣言するようになる。そんなある日、動物園の動物が海外では高く売れることを知った両親は、子供たちのことを考えて、カナダで動物を売り、そのお金でカナダへ移住しようと計画する。そして日本の貨物船に動物たちとともに一家4人は乗り込む。ところが、マニラを通過してマリアナ海溝に差しかかった頃嵐に襲われ、船は沈没してしまう。たまたま船室の外にいたパイ(スラージ・シャルマ)は1人救命ボートで助かるが、実はそのボートには、書類のミスでリチャード・パーカーと名付けられてしまったトラが紛れ込んでいた。

76点

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 生き残った本人によってインタビューアー(小説家)に対して語られる奇想天外な物語と、まるで「落下の王国」(Fall・2006・米/印)のターセム監督のようなおとぎ話的絵の美しさ。そして、ラストの驚きと感動。観客は主人公と一緒に漂流したような気分になる。しかも船酔い(ギリギリ、セーフ)まで。これは見ると言うより、疑似経験するような映画というべきかも。

 ただ、出演者がほとんどインド人で、インド訛りの英語は良くわからないボクでも、いやわからないからこそか、非常に聞きづらく、演技がうまいのかヘタなのか、というかウマク思えず、いまひとつのめり込めなかった。それと、漂流の前半、狙いだと思うが、ボートの揺れがカメラの揺れとなり、ちょっと船酔い気分になったこともマイナスに働いたかもしれない。同様に事故調査であらわれる2人組の日本人というのが、日本語がヘタで、日本人に見えなかったのも、ちょっと(実際には日系の人らしい。もう1人は日本人?)……。今どき英語が堪能な日本人の役者を雇うくらい、難しいことではないと思うが。ラストのラストの、調査報告書のオチは日本人に対するリスペクトだろうか。

 どうやって撮ったのか、やっぱり3D-CGを多用したのだろうが、トラは実在感があり、まるで一緒に撮影したかのよう。これはすごい。どう猛で凶暴で、かなり怖いが、それでいてどこか魅力的で、主人公が感じるように相棒のような気になってくるのだからスゴイ。最後にはあんなに痩せ衰えて……でも、トラってカッコいいなあ。

 かなり残酷な話でもあり、その割には血が飛んだり、長時間死体が映ったり、その残骸が残っていたりと言うことがないので、やっぱり(大人の)おとぎ話なんだろうなと思わせておいて、あのどんでん返しか。うまくやられてしまった。たくさんの伏線も張られていて、たぶん、見返すと、ああ、これがそうかと納得できることが多くあるのだと思う。その分、エラーも多いかもしれない。BDなどが発売された買いかもしれない。

 解せないのは、なぜシネスコでスクリーンを開いておきながら、シネスコになるシーンでビスタのまま四角いわくを使い、なぜフル・スクリーンを生かさなかったのだろうかと言うこと。ちゃんとやれば「ブレインストーム」(Brainstorm・1983・米)や「ギャラクシー・クエスト」(Galaxy Quest・1999・米)なんかのように、大きな感動が味わえたはずなのに。3D上映ではそれができなかったのだろうか。それとも、無人上映で対応できなかったとか……残念。

 3Dの効果は……漂流するまでは、まあまああったように思うが、漂流し始めてからは映画の世界に入ってしまって、ほとんど3Dを意識しなかった。それはそれでいいのかもしれないが、だったら高いお金など払わず、普通に2Dで見た方がよかった気がした。だいたい字幕があると3D効果のじゃまになるし……。

 中学から高校くらいの少年時代のパイを演じたのはスラージ・シャルマ。なんとこれまでに演技経験はないそうで、まったくの初めて。当時は17歳で、現在は18歳で大学に通っているらしい。演技がうまかったのかどうかは良くわからない。

 現在のパイを演じたのは、ぎょろ目が印象的なイルファン・カーン。今のインドを描いた強烈な「スラムドッグ$ミリオネア」(Slumdog Millionaire・2008・英)や、最近では焼き直し版「アメイジング・スパイダーマン」(The Amazing Spider-Man・2012・米)に出ている。

 ナイーブで気弱そうなカナダ人ライターはレイフ・スポール。強烈コミカル・アクション「ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!」(Hot Fuzz・2007・英/仏/米)、ショッキングSF「プロメテウス」(Prometheus・2012・米/英)などに出ている人。

 傍若無人で無礼なコックはフランスの名優ジェラール・ドパルデュー。フランス映画がアート系でしか掛からない感じなので、最近はあまり見かけないが、SFアクションの「バビロンA.D.」(Babylon A.D.・2008・米/仏/英)や、実録ギャングもの「ジャック・メスリーヌPart 1」(L'ennemi public no1・2008・仏/加)に出ていた。

 原作は、スペイン生まれで、カナダ在住の作家ヤン・マーテルの「パイの物語」(竹書房)。脚本はデヴッド・マギー。過去にピーター・パン誕生秘話を描いたジョニー・デップのの「ネバーランド」(Finding Neverland・2004・米/英)を書いている。

 美術監督(プロダクション・デザイナー)はデヴィッド・グロップマン。感動作「サイダーハウス・ルール」(The Cider House Rules・1999・米)や、ミュージカルの「ヘアスプレー」(Hairspray・2007・米/英)などを手掛けている。

 バックの絵に従って微妙に動くタイトルの文字はyU+Coのガーソン・ユー。最近では残念なSFアクション「グリーン・ランタン」(Green Lantern・2011・米)や人気シリーズ「パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉」(Pirates pf the Caribbean: On Stranger Tides・2011・米)を手掛けている。

 監督は台湾生れのアン・リー。ボク的には、タイトルが変だが、南北戦争を描いた「楽園をください」(Ride with the Devil・1999・米)が良かった。ほかにワイヤー・アクションの「グリーン・デスティニー」(Crouching Tiger Hidden Dragon・2000・台/香/米/中)、焼き直しコミックもの「ハルク」(Hulk・2003・米)、男性の同性愛を描いた「ブロークバック・マウンテン」(Brokeback Mountain・2005・米/加)、抗日戦を描いたセックス映画「ラスト、コーション」(Lust, Caution・2007・米/中/台/香)などを監督している。ジャンルも様々、描き方もそれぞれ。しかしそれぞれで見るものを惹きつける素晴らしい手腕を発揮している。天才的職人監督というところだろうか。次回作はまだ決まっていないようだが、どんな作品でも楽しみ。

 公開3日目の初回、六本木の劇場は全席指定で、金曜にムビチムで予約。45分前くらいに着いてvitでチケットを発行し、スタバへ。15分前くらいにもどると既に開場済み。持って帰れる3D眼鏡をもらって場内へ。液晶式と違ってこれは軽い。ただレンズ面がカーブしていないので、ちょっとすき間ができるが……。

 観客層は20代くらいの若い人から中高年、幼稚園くらいの子供(字幕が読めるの?)連れのファミリー、そして外人さんまで幅広かった。意外と若い人が多く、中高年と半々くらい。男女比も半々くらい。明るいままTOHOシネマズのCMが始まり、変な暗いドラマはどうでもいいとして、予告も明るいままなのは困る。よく見えない。

 で、半暗になって始まった予告編で気になったのは……スピルバーグのビデオ・メッセージ付き「リンカーン」はシネスコに四角の枠でより小さく上映。デニエル・デイ=ルイスがそっくりでビックリ。4/19公開。

 デンゼル・ワシントンの新作、四角枠の「フライト」は以前のものと同じ内容だが、旅客機を見事に不時着させたパイロットが、アルコールが検出され英雄から犯罪者に落とされるという話らしい。ちょっと間があいていた気がするが再び予告開始。3/1公開。

 四角枠「世界にひとつのプレイブック」は評判も良さそうなのに、予告では面白さが全く伝わってこない。本当に面白いんだろうか? 女優はガッカリした「ハンガー・ゲーム」(The Hunger Games・2012・米)のジェニファー・ローレンスだし、男優は不快な「ハングオーバー!!史上最悪の二日酔い、国境を越える」(The Hangover Part II・2011・米)のおバカな感じのブラッドリー・クーパーだし……。2/22公開。

 四角枠の「ゼロ・ダーク・サーティ」はビンラディン殺害計画の映画化。女性を主人公にしたところがユニーク。「ハート・ロッカー」(The Hurt Locker・2008・米)もキャスリン・ビゲロー監督の作品だが、どちらもタイトルの意味が良くわからない。でも映画は面白そう。2/15公開。

 いくらスクリーンが明るくなったとは言え、やっぱりCM・予告は暗くして見たい。CMなどはほとんど見ていなくても、見えにくいものは非常に気になり、精神衛生上よろしくない。

 とにかくこの劇場はなんでもシネスコで上映するらしい。本作は基本は左右マスク。シネスコに広がるシーンは四角の枠とスケールダウンするという逆効果。いいんだろうか? 本編中でもケータイを光らせてるヤツは多いし、終わったときも場内から出るまでの1〜2分が待てずに、わざわざ暗い中でケータイをチェックするし……。


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