Jack Reacher


2013年2月3日(日)「アウトロー」

JACK REACHER・2012・米・2時間10分

日本語字幕:丸ゴシック体下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(レンズ、in Panavision)/ドルビー・デジタル、DATASAT(IMDbではSDDSも)

(米PG-13指定)

公式サイト
http://www.outlaw-movie.jp/
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

アメリカ、ピッツバーグで白昼、一般市民5人がライフルで狙撃される事件が発生。元陸軍の狙撃兵ジェームズ・バー(ジョセフ・シコラ)が逮捕される。バーは何も語らず、メモでジャック・リーチャーを呼べと言う。弁護を担当することになったヘレン・ロディン(ロザムンド・パイク)は、実は刑事のエマーソン(デヴッド・オイェロウォ)とともに事件を担当する検事アレックス・ロディン(リチャード・ジェンキンス)の娘。彼らが対立する中、渦中のジャック・リーチャー(トム・クルーズ)が現れる。彼は元陸軍の憲兵隊の少佐で、いくつもの勲章をもらっており、腕利きの憲兵。そしてバーを葬るために来たと言う。バーは以前にも狙撃事件を起こしており、逮捕したのは自分で、彼は有罪だと。しかしヘレンはジャックを説得し、先入観を持たないという条件で協力を取りつけ、2人で事件を洗い直すことにする。

77点

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 リアルで恐ろしい暴力、陰謀、地道な調査と謎解き、シャレたセリフ、強い正義感、ちょっとしたユーモアと笑い……実にバランスよく、荒唐無稽にならないようにまとめられた、素晴らしいアクション映画。好みはあるだろうが、ボクはハマった。カッコいい。ハードボイルド。悪がビビるほど悪を徹底的に追いつめていく。手加減しないところが良い。ジャック・リーチャー。新シリーズと謳っているが、これは確かに続編も見たくなる。問題はこのレベルが維持できるかどうかだが、たぶん無理だろうなあ……。

 狙撃の被害者のかわいそうな状況は涙を誘いそうになるものの、鵜呑みにせず、ちょっと踏み込んでみると実は別な状況が見えてくる(と、リーチャーが語っている)。その中に真実が……というところが面白い。具体的な事実をリーチャーが語るのでは無く、弁護士のヘレンをうまく誘導して自ら発見させるところが見事。

 同様に狙撃の状況も不審な点が見えてくる。川を挟んだ対岸とは言え、なぜ逆光となる駐車場を選んだのか。なぜ駐車料金を支払ったのか。なぜ薬莢を残したのか。なぜ1発はずしたのか。軍のスナイパーなら逆光とならない橋の上にバンを停め、薬莢を残さないようバンの中から撃つと。しかもそのスナイパーは軍では並みのスナイパーだったと。こういう設定も面白い。

 刑事のエマーソンが「憲兵は門限破りとケンカの取り締まりをやってるだけだろ。腕利き憲兵といっても、我々刑事と、どこが違うんだ」とちょっとバカにして言うと、「俺たちの相手は毎日殺人の訓練を受けているんだ」と返す。なるほど、そうだよなあと。TVドラマの「NCIS」も、海軍専門だが、そういう男たちを相手にする。しかもリーチャーは組織に所属せず、自宅もないようで、何をして生計を立てているのかもわからない。軍人の年金のみという設定。まさに西部劇の流れ者、風来坊のような男。ただしアウトロー(無法者)ではない。少し法律からは外れるかも知れないが、正義を追求する男だ。

 だからこそ、冒頭は下着姿の女性と一緒のところを見せておきながら、10代らしい女の子の誘いには乗らないし、金を渡して町を出ろ、男に利用されるなと諭す大人の男だったりする。さらには美人弁護士といい雰囲気になり、命をかけて助けに行きながら、最後までキスさえしない。この設定も面白い。たいていは英雄色を好むのパターンになりやすいのに。

 そして西部劇のような「じいさま」の存在。頑固者で簡単には信用してくれないが、これほど心強い味方はいない。しかもそれが射撃場のオーナーで、ライフルの名人らしい。それを演じるのが名優ロバート・デュヴァルだからなおのこと良い。

 銃は、狙撃に使うのが陸軍のM21スナイパー・ライフルのようにスコープを取り付けて迷彩したM1Aライフル。PMC(民間軍事会社)のオペレーターを狙撃するシーンではサイレンサーを取り付けている(こちらはM21か?)。それでも銃声が大きいところがリアル。だいたい、全体に銃声は大きく鋭く恐ろしい。ラストではじいさまがこれを使う。

 リーチャーを襲った男の家で、仲間のチンピラが持っているのはキンバーっぽい1911カスタム・オート。リーチャーは突きつけられるとあえて接近し、銃を払いのけた後、手首をひねって簡単に奪ってしまう。殺陣の付け方もプロっぽく見事。そしてマガジンを抜き、スライドさせてチャンバー内の1発も抜くと捨てる。

 オハイオ州の700ヤード(640メートル)レンジでリーチャーが撃たされるのはレミントンM700ライフル。4発渡され、3発を黒点に入れたら話してやるとじいさまが言う。スコープはミル・ドットで、プローンから1発目は「右15センチ」と監的スコープを見ていたじいさまが言い、練習は終わりだ撃てと。もちろん、3発を黒点に入れて見せる。カッコいい。そのうえで「バーはアベレージ・シューターだった」とじいさまに言う。

 採掘場で待ち受ける敵が使うのは、マグプルのアングルド・フォア・グリップのついたHK417っぽいカービンと、SIG SG552(imfdbによると556)。それを奪って使うのだが、トム・クルーズはロウ・レディからの構えや、構えたまま移動するさまが本当にうまい。プロの動きだ。チャンバー・チェックもやっている。刑事が持っているのはグロックとバックアップのS&Wのセンチニアル。

 普通のアクション映画のように撃つ前にだらだらと話したりはしない。いきなり撃つ。アーマラーはサミュエル・アーサーズとライダー・ウォッシュバーン。サミュエル・アーサーズはアンジェリーナ・ジョリーの「ソルト」(Salt・2010・米)や、「崖っぷちの男」(Man on a Ledge・2012・米)を手掛けている人。ライダー・ウォッシュバーンはサミュエル・アーサーズと一緒に「ソルト」や「ペントハウス」(Tower Heist・2011・米)を手掛けているほか、「ダークナイ・ライジング」(Dark Knight Rises・2012・米/英)や「ボーン・レガシー」(The Bourne Legacy・2012・米)も手掛けている。

 ファイト・コーディネーター、殺陣師はロバート・アロンゾ。フィリピン生れだそうで、スタントマン出身の43歳。トム・クルーズの「ナイト&デイ」(Knight and Day・2010・米)、「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」(Mission: Impossible - Ghost Protocol・2011・米ほか)も手掛けているから、トム・クルーズの信頼が厚いのだろう。どうやら一部のカーチェイスのシーンはトム・クルーズ自身がやっているようだ。デジタルで顔だけ貼り付けたようには見えなかった。

 トム・クルーズは、ときとぎ「トロピック・サンダー史上最低の作戦」(Tropic Thunder・2008・米/英/独)とか「ロック・オブ・エイジズ」(Rock of Ages・2012・米)のようなエキセントリックな役もやるが、やはりヒーロー的な役が似合っている。とにかく、格闘技も銃の扱いもうまい。本作ではプロデューサーも兼務。本作は真実味もあり、「ミッション・インポッシブル」シリーズより良いと思う。問題はこのクォリティが保てるかどうか。すでに次作「オブリビオン」(Oblivion・2013・米)の特報が上映されている。

 弁護士のヘレン・ロディンはロザムンド・パイク。「007/ダイ・アナザー・デイ」(Die Another Day・2002・英/米)で裏切り者のエイジェントを演じた人。美人過ぎて悪役の方が似あう感じ。SFアクション映画の「DOOMドゥーム」(Doom・2005・英ほか)や「サロゲート」(Surrogates・2009・米)に出演していた。最近は残念な「タイタンの逆襲」(Wrath of the Titans・2012・米/西)に出ていたが、本作で取り返したのでは。

 その父の検事はリチャード・ジェンキンス。悪徳議員とか、悪徳警官、悪徳経営者など悪役の多い人。本作でもそれで惑わされる。コメディの「ディック&ジェーン 復讐は最高!」(Fun with Dick and Jane・2005・米)ではだまされる会社重役を、「キングダム/見えざる敵」(The Kingdom・2007・米/独)ではFBIに長官を、リメイク・ホラーの「モールス」(Let Me In・2010・英/米)では隣に越してきた少女の父を演じていた。

 オハイオ州の射撃場のオーナーのじいさま、キャッシュはロバート・デュヴァル。1931年生れというから82歳の高齢。当然昔から活躍していて、名優との共演も多く、悪役が多かった。名わき役といったところだろうか。強烈だったのは「地獄の黙示録」(Apocalypse Now・1979・米)の「ワルキューレの騎行」をかけながらヘリで襲いかかるキルゴア中佐だろう。ちょっと前、意外で良かったのは「ウォルター少年と、夏の休日」(Secondhand Lions・2003・米)の片方のじいさま。

 悪の親玉ゼックはヴェルナー・ヘルツォーク。ドイツの映画監督で、本作では驚きの名演。なかなか怖い。やられ方も超壮絶。監督作でボクが見たのは多くないが、スペインのアマゾン侵略を描いた「アギーレ/神の怒り」(Aguirre, der Zorn Gottes・1972・独)は強烈だった。気持ち悪くなるほどの衝撃。そして吸血鬼映画「ノスフェラトゥ」(Nosferatu: Phantom der Nacht・1979・独/仏)は不思議な怖さ。ただ「神に選ばれし無敵の男」(Invincible・2001・米ほか)は不快さの方が強く、「バッド・ルーテナント」(The Bad Lieutenant: Port of Call - New Orleans・2009・米)も後味の悪いリメイク。やっぱりこんな不気味な雰囲気の人だったんだ。

 その部下のスナイパー、チャーリーはジェイ・コートニー。これまではTVで活躍していたようだが、シリーズ最新作の「ダイ・ハード/ラスト・デイ」(A Good Day to Die Hard・2012・米)でブルース・ウィリスの息子役をやっている人。これからどんどん出てくるのかも知れない。

 原作はイギリス人作家、リー・チャイルドのジャック・リーチャー・シリーズの1本、「One Shot」。シリーズは7本あるらしいが、日本では5本しか翻訳されていないのだとか。「キリング・フロアー」が1本目で、ほかに講談社文庫で「反撃」、「警鐘」、「前夜」、「アウトロー」が出ている。

 監督・脚本はクリストファー・マッカリー。あの傑作「ユージュアル・サスペクツ」(The Usual Suspects・1995・米/独)の脚本を書いた人で、ほかに監督も手掛けた痛快アクション「誘拐犯」(The Way of the Gun・2000・米)、トム・クルーズの「ワルキューレ」(Valkyrie・2008・米/独)も書いている。本作の前にはジョニー・デップの「ツーリスト」(The Tourist・2010・米/仏)を書いている。なとん近日公開の「ウルヴァリン:SAMURAI」(The Wolverine・2013・米)や「ジャックと天空の巨人」(Jack the Giant Slayer・2013・米)も書いているらしい。本作と「誘拐犯」を見る限り、アクションがわかっている人のようだ。今後も大いに期待したい。「トップガン」(Top Gun・1986・米)の続編や「ミッション:インポッシブル」(Mission: Impossible・1996・米)の最新作も手掛けるらしい。

 それにしても、本作の邦題はなぜアウトローなんだろう。次作が困るんではなかろうか。それと、字幕の解像度が低く、ややドットが目立っていた。

 公開3日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保。開場は15分前くらい。観客層はほぼ中高年で、若い人は少々。男女比は4.5対5.5くらいで、やや女性の方が多かった。さすがトム・クルーズ。下は中学生くらいからいた。最終的には301席に8〜8.5割くらいの入りはさすが。

 気になった予告編は……トミー・リー・ジョーンズがマッカーサーを演じる上下マスク「終戦のエンペラー」は、終戦直後の秘話を描くものらしい。原作は日本のもので、岡本嗣郎の「陛下をお救いなさいまし」なんだとか。「パール・ハーバー」(Pearl Harbor・2001・米)のマイケル・ベイのようなことにはならないようだ。夏公開。

 スクリーンが左右に広がって、デンゼル・ワシントンがパイロットを演じる「フライト」は新予告に。どうもパイロットがアルコール依存症だったということらしい。ヒーローか、酔っ払い運転(操縦)かということになるらしい。ただ、もう役者は使わないとか言って3D-CGまっしぐらのロバート・ゼメキスでどうなのか。改心したのだろうか。3/1公開。

 イ・ビョンホンがビデオ・メッセージで登場する「G.I.ジョー バック2リベンジ」は前作が残念だっただけにどうなのか。ほとんど忍者映画みたいになっているし。ただ映画出まくりのブルース・ウィリスが助っ人として出演するらしい。6月、3D公開。3Dということは、ほかに見どころがないのか……。

 「スタートレック イントゥ・ダークネス」は、同じバージョンでもシネスコ・サイズで予告を見るとスゴイ迫力。前作のメンバーが登場し、大変な事態になるらしい。面白そう。9月公開。


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