Nou-Otoko


2013年2月10日(日)「脳男」

2013・日本テレビ放送網/日活/ジェイ・ストーム/東宝/讀賣テレビ放送/バップ/講談社/読売新聞社/GyaO!/札幌テレビ放送/宮城テレビ放送/静岡第一テレビ/中京テレビ放送/広島テレビ放送/福岡放送・2時間05分

ビスタ・サイズ(シネスコに左右マスク、デジタル)/ドルビー・デジタル

(日PG12指定)(一部字幕上映もあり)

公式サイト
http://www.no-otoko.com/
(全国の劇場リストもあり)

白昼、駅前でバスが爆破され、多くの被害者の中に、舌を切られた女性占い師の遺体が発見される。彼女はちょっと前、無差別連続爆破事件の次の犯行を予言し、TVで挑発的な発言をしていた。ほかにもこの事件の犯人をののしったコメンテイターなども同様に舌を切断して爆殺されていた。警察の鑑識は爆弾のワイヤーから特殊な工具の痕跡を見つける。刑事の茶屋(江口洋介)と新人の広野(大和田健介)は購入者をしらみつぶしに当たり、1つの廃工場に行くと突然爆発、その中で負傷した男、自称鈴木一郎(生田斗真)を見つけ逮捕する。ところが男は留置場の隣にいた老婆殺しを自慢するヤクザにすれ違いざまに襲いかかり、片方の目玉をえぐり取ってしまう。あまりの異常さに、精神鑑定が行われることになり、精神科医の鷲谷真梨子(松雪泰子)が指名される。するとテストの結果、鈴木一郎は痛みを感じない無痛症体質で、しかも感情がまったく欠如していることが判明する。

76点

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 いやあ、怖い。気持ち悪くなるような怖さ。異常犯罪者の心理に踏み込み、信じられないような世界を描き出す。主要登場人物はすべて心に闇を抱えていて、一番まともだろうと観客が思う女医の先生も驚きの過去があり、家にはアニメ「ハウルの動く城」(2004・日)の沼の魔女の正体のような異常肥満の母がいて、我がままを叫んでいる。取り締まる側の刑事は粗暴で、ズサンで、暴力的。むしろ、痛みも感じず、感情もない「脳男」のほうがノーマルであるかのように見えてしまう。そんな世界観。これがリアルさを持って伝わってくる。圧倒される。まさに狂気。

 ただ、リアルさはありながらも、どこか作り物的な芝居がかった感じもした。若い人のセリフは今風でいかにもありそうだが、あまりにエキセントリック過ぎないか。そして、もじゃもじゃヘアーの刑事は、タバコも吸ってるし、カップ・アンド・ソーサーなんて70年代風の銃の構え方で、松田優作のイメージだろうか。

 脳男は生田斗真。この役のために数種の格闘技を習い、体を鍛え(みごとなシックス・パック!)、しかも食事制限までやったらしい。たしかに体は見事で役にピッタリのイメージ。格闘シーンでの体の切れも見事だったが、格闘技が生きていたのかはわからなかった。ボクにはTVのイケメン俳優というイメージしかないが、本作を見る限り良い感じ。今後が楽しみ。最近「僕等がいた」(2011・日)に出ていたらしい。

 本作で光っていたのは、若い女子二人だろう。主犯の緑川紀子を演じた二階堂ふみは半端ない切れぶり。「ヒミズ」(2012・日)でヴェネツィア国際映画祭最優秀新人賞を獲得しているほどだから、当然かもしれない。そのあと大きい役ではないが「悪の教典」(2012・日)でも光っていた。

 共犯者の水沢ゆのあを演じたのはモデル出身の太田梨菜。ボクは初めて見たが、「銀幕版スシ王子!ニューヨークへ行く」(2008・日)などに出ているそうで、松田龍平の奥さんなんだとか。がらりと違う役も見てみたい。

 同様に、出番は少ないながらも強烈な存在感を放っていたのは、志村役の染谷将太。「ヒミズ」(2012・日)で二階堂ふみと共にヴェネツィア国際映画祭最優秀新人賞を受賞した人。不思議な存在感。本作はかなり不気味だった。「悪の教典」にも出ている。

 原作は第46回江戸川乱歩賞を受賞した首藤瓜於の同名小説(講談社)。42万部に大ヒット作らしい。脚本は真辺克彦と成島出。真辺克彦はどれも見たことがないのでわからないが、TVがメインで映画では最近「毎日かあさん」(2011・日)を書いているらしい。成島出は映画が多くミスタリー・アクションの「ミッドナイトイーグル」(2007・日)や、傑作群像劇の「クライマーズ・ハイ」(2008・日)などを書き、最近では歴史大作「聯合艦隊司令長官山本五十六 太平洋戦争70年目の真実」(2010・日)などを監督している。

 特に犯人たちのアジトなどですばらしいセットを作ったのは、丸尾知行。痛快SFアクション「修羅雪姫」(2001・日)、SFディザスター・ムービー「ドラゴンヘッド」(2003・日)、痛快冒険活劇「どろろ」(2007・日)、傑作ロマンチック・アクション「僕の彼女はサイボーグ」(2008・日)などの美術を手掛けている。

 監督は瀧本智行。なかなか面白かったサスペンス「犯人に告ぐ」(2007・日)で注目され、以後着実にキャリアを重ね、最近では「星守る犬」(2011・日)や渡辺謙版の「はやぶさ遥かなる帰還」(2012・)を撮っている。このとき江口洋介と仕事をしている。

 登場した銃は、警官(刑事)はスナブノーズ・サイズのS&Wチーフス・スペシャルかニューナンブ。囚人移送車を襲うシーンではベレッタM92のシルバーとアーチェリーが使われている。警察の特殊部隊(SAT?)はMP5。かなり血まみれ。銃器特殊効果はBIG SHOT。

 エンド・クレジットにFuji IS-100の表記があった。これはデジタルのカラー管理に使うものらしく、iPadで操作できるらしい。今後は現場では必需品になっていくのかもしれない。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で金曜に確保。朝一はビル自体が閉まっていて、最初の上映の30分前に入口が開いた。本作は10分前に開場。したは中学生くらいから、若い人、中高年まで幅広い客層。TV局系のものはだいたいこんな感じ。男女比は4対6くらいで女性の方が多かった。最終的には157席に7割くらいの入り。かなり血まみれで、ダークな話なので、こんなものだろう。

 マナー広告で携帯は切りましょうなどといっても、暗い中で煌々と液晶画面を光らせて操作しているヤツはあちこちに。まぶしい。しかも電源は切らず、上映途中で電話がかかってきて液晶画面が光っているヤツもいた。入場の時、チケットを確認するだけじゃなく、携帯は電源を切ってくださいと言うべきなのでは? それでも切らないヤツはたくさんいるだろうけど、迷惑だと認識していないヤツも多いのでは。

 エンド・クレジットは黒バックにロールシャッハのパターンが表示されるもので怖かった。曲も、劇中でも使用されているディストーションを掛けたような耳障りなものをあえて使っているらしい。これが不安や居心地の悪さを助長する。

 スクリーンはシネスコで開いていて、左右マスクで始まった予告編で気になったのは……堤真一がこんなのをやっていいのかという気がした「俺はまだ本気出していないだけ」は、どうなんだろう。いろんな格好をした堤真一が同一画面で共演している。日本の場合はデジタルのおかげだろうが、ハリウッドでは古くからあったパターンで、マイケル・キートンの「クローンズ」(Multiplicity・1996・米)とかエディメマーフィの「ナッティ・プロフェッサー2/クランプ家の面々」(Nutty Professor II: The Klumps・2000・米)とか、どれも成功した記憶はない。それをなぜ?

 お笑いコンビの話をうっちゃんなんちゃんの内村光良が脚本と監督を担当する「ボクたちの交換日記」はどうなんだろう。アクション・コメディじゃなく感動作? お笑い芸人の話ならリアルに語れるというところだろうか。

 ジブリのアニメは宮崎駿監督の「風立ちぬ」と高畑勲監督の水彩画風「かぐや姫の物語」の2本。どちらもティーザーで、内容はほとんどわからなかった。しかし、どこか気にさせるものがあるのは不思議。「風立ちぬ」は堀越二郎と堀辰雄に敬意を表してとあった。堀越二郎といえば零式艦上戦闘機の設計を手掛けた人。堀辰雄は小説「風立ちぬ」の作者。うむむ。「風立ちぬ」は夏公開。「かぐや姫の物語」は秋公開。

 四角の枠で一段と小さい画面の「図書館戦争」は新予告に。AKやら89式小銃やら武器もたくさん出てきて、かなりのアクション作品になるらしい。4/27公開。

 シネスコ・サイズのまま左右マスクで本編へ。デジタル上映だからだろうか。ちょっと違和感がある。今後皆こういうことになるのだろうか。


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